見知らぬ女
大学で実際にあった洒落にならない話。
俺の通っている大学は、山のてっぺんにある。
町から相当隔離された場所にあり、
最寄のコンビニですら、ジグザグの山道を通って車で片道10分は掛かってしまう。
そんな環境であるため、サークル活動や研究室などの特殊な用事でもない限り、
遅くまで大学に居残る学生はほとんどいない。
しかし、10棟程度に分かれている大学校舎の中の一つに、『音楽棟』という建物があり、
そこでは夜遅くまで学生(大半は音楽関係の学科生かサークルの人間)が、
ヴァイオリンやピアノ等の楽器を練習している。
音楽棟には、50以上の個室の全てにピアノが一台ずつ入っているのだが、
学生はそれぞれ自分なりにお気に入りの個室があるようで、
例えば練習室の24番には○○専攻のA子がいるから、23番の練習室をお気に入りに使っているアホな輩もいる、
といった具合だ。
その日の夜、俺は音楽棟で楽器の練習をしていた。時刻は9時半頃だった。
終バスが10時なので、そのくらいの時間になると学生の数はかなり減っている。
山中であるため、終バスに乗り遅れると下山は困難を極めるのだ。
俺もそろそろ帰るかと思ったその時。
やや離れた場所から「ドカッ!!」と、何かがぶつかるような音がした。
誰かが楽器でも落としたのだろうかと思ったが、あまり気にせず個室を出ようとすると、
またもや「ドカンッ!!」という音がした。
さてはアレだなと思った。音楽棟はだいぶ老朽化しているため、壊れているドアがいくつかある。
ある程度ちゃんとした校舎をもつ学校に通う学生には、信じ難いかもしれないが、
この大学では運が悪いと、自力で個室の中から出られなくなることもしばしば起こるのだ。
部屋の中からドアを開けようとしている音に違いない・・・。
前にも閉じ込められた友人を救出した経験があったからこそ、確信があった。
すぐさま音のした個室の方へ行って、個室にある窓から中を覗いてみると、
案の定、ドアを何とか開けようとしている、学生らしき姿があった。
「今開けますよ」と一声掛けてから、ドアノブをやや強引に捻って開けた。
「ありがとうございます、出ようとしたらドアが開かなくなっちゃって・・・」初めて見る顔だった。
音楽棟に夜遅くまで残って練習している人間は、大体把握できているつもりだったが、
目の前にいるのは全く知らない女の子だった。
他大生だろうか・・・?
原則として学外の人間は、個室を使っていけない事になっているが、
まぁいいかと思い、「練習お疲れ様です」と言った。
その時。本当に、本当に一瞬の事だった。
その女の子の表情が歪み、恐ろしい顔つきになったのだ。
そして、嘘だったように一瞬で元の表情に戻った。
「ここ、私のお気に入りの部屋なんです」
「え、そうなんですか」
俺は喋りながら、変な違和感と緊張を感じていた。
何かこの女、おかしい。今の顔は何だったんだ?いや、それ以前にもっとおかしな事がある。
「ずっと使っていたんですけど、いきなり開かなくなったからびっくりして・・・」
んな事聞いてない。お気に入り?誰の・・・?
「ほんとうにありがとうございました」
そう言ってその女は、スタスタと歩いていってしまった。俺は結局、何も聞けなかった。
この個室の番号は31。俺のよく知る先輩がいつも練習している部屋だった。
いつも夜遅くまで練習している、努力家で熱心な先輩。その先輩がいなくて、知らない女がいた。
俺はどうしても気になって、すぐに携帯電話で先輩に聞いてみることにした。意外にもすぐに繋がった。
どうやら、今までずっと学外で過ごしていたとの事だった。
授業は1コマから入っていたそうだが、どうも気が進まなくて・・・と曖昧な返事だった。
そこで練習室の女のことを言ってみた。
先輩はしばらく絶句していたが、重い口調で話してくれた。
「誰にも言うなよ・・・昨日、脅迫を受けたんだ」
話によると、昨日の夜、アパートで一人暮らしの先輩が家に帰宅すると、郵便受けに大量の紙が詰まっていた。
何十枚もの紙の全てに、『学校に来るな』と一言、印刷されていた。
気味が悪くなって学校には行かず、一日中、町に下りて過ごしていたそうだ。
警察に届けようと思ったが、思いとどまっていたらしい。
「その女って、誰なんですか?心当たりなどは・・・?」
「いや、あるわけない。ないけど、お前の話を聞いて余計に怖くなった。とりあえず、何とかしようと思う」その会話を最後に、俺は今に至るまで先輩と会っていない。
アパートは空っぽ、実家への連絡すら1年以上もない状態らしい。完全に失踪してしまった。
勿論、あの女ともあれ以来、会っていない。
見知らぬ女 : 怖い話らぼ −怪談・都市伝説まとめ−
人肉館
「なぁ、人肉館に行かないか?」
夏休み。私は休みを利用して久しぶりに実家のある長野県へと帰ってきた。
普段は東京で働いているのだが、実家は山あいの町。
気温は高いが湿度は低く蒸し暑くない。
左右にはアルプスが走り、絶景を作り出している。都会に比べとても快適な気候と、久しぶりの故郷に嬉しさを感じながら、 私は実家へ向かった。
どうやら家には誰もいないようだ。
自営業を営んでいる父と母は今働きに出ている。
兄弟も何処かに遊びに行っているようだ。私は居間に腰を下ろし一息付こうと考えたが、
先日までの仕事の疲れと朝早く家を出たことが重なってか、
私は極度の疲れを覚え家族の帰りまで少しの間眠ることにした。
ピピピピピ。
ピピピピピ。電話の着信音で私は目を覚ました。
どうやら私の帰郷を知っている友人からのようだ。
用件は晩御飯の誘いだった。久しぶりに実家に帰ってきたこともあり、 家族と食事を取りたいと思っていたが、やはり友人と会えるのは嬉しい。
私は二つ返事で誘いに乗った。電話を切り時計を見る。
時間はもう18時を回っている。
大分寝てしまったようだ。
夕日が部屋の中をオレンジ色に染めている。
眩しくて目がうまく開かない。
相変わらずまだ誰も帰って来ていないようだ。
顔を洗って母に食事に出ることをメールで伝えた。
身支度を整え、私は車で友人の家に向かった。
友人の家に着き、呼び鈴を鳴らすとドアから懐かしい顔が覗いた。
久しぶりに会った友人とたわいのない会話をし、
その後近所にある食堂に行くことになった。昔の思い出話や、最近の状況をお互い話ながら食事を済ませ、
そろそろ店を出ようとしたとき、友人が顔をわくわくさせながら言った。
「なぁ、人肉館に行かないか?」
人肉館とは地元にある心霊スポットの内の一つだ。
それは町外れにある温泉街から少し山を上ったところにある廃墟で、
噂では昔焼肉屋だったが経営難で資金繰りが上手くいかず、
店主が殺人を犯し人肉を商品として出していたという場所だ。
地元では割と知られている話だが、私の周りでそこを訪れている人は居なかった。
始めは乗り気ではなかったが、友人のしつこい誘いと、
オカルトが満更嫌いでもないこともあって行ってみることとなった。
時間は21時を回っていた。
私たちはネットで人肉館の場所を調べ、私の車で早速向かった。
車を走らせること30分。
人肉館がある山の麓までたどり着いた。
山の入口には何故か鳥居があり、その奥に道が延びている。
車のヘッドライトをハイビームにしても、鳥居から少し先は全く見ることが出来ない漆黒の闇だ。
地図では人肉館はここから少し進んだところにあると示されている。
幸いにも車は通れそうで歩いて登る心配はないようだ。
私は慎重に車を進めた。先が全く見えない恐怖と、
これから行く場所への恐怖がアクセルを緩める。
道はとても狭く再び下って来るには奥にあるスペースでUターンをするしかない。
この視界だ、バックで下ることは朝を待たない限り到底無理だろう。
曲がりくねった坂道を登っていくと、 左側に今まで生い茂っていた木がなくなり、建物が見えてきた。
建物の横で私は車を停車し、助手席に居る友人が懐中電灯で建物を照らす。
かなり大きい建物だ。
一面白い壁だがコケが至る所に付いている。
そして以前は看板が付いていたのだろうか、金属のフックが錆だらけになっている。
目の前にはロビーのような広いスペースが広がり、ガラスが所々に散らばっている。
以前は一面ガラス張りで中の様子が外からでも分かるような作りだったのだろと想像する。
そして、奥には机や椅子が目茶苦茶に壊され散らかっているのが見える。
恐らくここが人肉館だと確信する。
私は車のエンジンを切った。
エンジンを切ると静寂が更に強くなる。
虫の泣き声すら聞こえない静まり返った森。
車のヘッドライトを消すのが怖い。
真っ暗な森の中にたった二人。
言いようの無い恐怖に包まれる。
私はヘッドライトを消した。
ここから頼りになるのは二人が持っている懐中電灯だけだ。
私は腕時計を照らして時間を確認する。
時間は22時を回っていた。人肉館に入る方法は、 入口らしきドアもあるが、ガラスが割れているため正面ならば何処からでも入れそうだ。
しかし建物の左右は木が生い茂るように生えており、 とても建物の横を通って奥に行くことは出来ない。
友人が先頭をきって中に入っていく。
床一面にゴミが散らかり、壁には以前訪れた人が書いたのであろう落書きが至る所に書かれている。
それにしても怖い。
懐中電灯しか頼れる明かりが無く、懐中電灯を次の場所に移したとき、
そこに何か居るんじゃないかと考えてしまう。
入口から入り少し奥に進むと、厨房に入った。
調理台は錆に覆われ、天井は蜘蛛の巣に覆われている。
包丁などの調理器具は何も置かれていない。
ここも入口と同様にカップ麺等のゴミが散乱している。
奥にいる友人が私に懐中電灯を向け、こっちに来いと合図をしている。
どうやら、更に奥に続く道を見つけたらしい。
ヒンジ一つで繋がっていて、
今にも取れそうなドアを開けた私たちは奥に続く廊下に出た。
5m程先だろうか、頑丈なドアが行く先を阻んでいるのが見える。
しかもその扉は南京錠で固く閉ざされているようだ。腕時計を見る。
時間はもうすぐ23時を回るところだ。
南京錠も付いており、時間も深夜。
私はもうこの辺で引き上げたいと考えていた。
しかし友人は何処で拾ってきたのか、
鉄で出来た棒を南京錠に挟み込み梃子の原理で南京錠を壊そうとしている。
やめろと言いかけた時だった。
金属が壊れるパキンという音が辺りに響いた。
私は無意識に周りを見渡す。
今の音で誰かがやって来るのではないかとは思ってしまう。
友人はしてやったりとした顔を見せ、再び私にこちらへ来いと合図をしている。
私は溜め息をつきながら友人の元へ向かった。頑丈な扉の先には更に奥に進む廊下と、上の階へと続く階段があった。
今まで施錠されていたためだろうか、これまで散乱していたゴミは無く、物も壊されていない。
まさか焼肉屋の奥がこんなに広いと思っていなかった我々は若干戸惑いを覚えたが、友人は先に進もうと促してくる。
だがもう夜も遅い。
私は友人にここからは二手に別れようと提案した。
友人も今の時間を知ってか、私の提案に渋々賛同した。
それぞれ一通り見て周った後、またこの場所に集合することとし、
友人はこのまま奥の扉の先へ進み、私は二階を見ることとなった。
暗闇の中から階段を見上げる。
階段は5段程登ったところで右に折れている。
その先はどうなっているのだろうか。
誰か立っているのではないだろうか。
そういった思いが一歩を遅らせる。
ガタン!
思わず叫び声をあげそうになった。
どうやら友人が先に進んだようだ。
私も意を決し、階段に足を運んだ。
幸いにも階段を曲がった先には誰も居なかった。
階段を登ったところにはドアがあり、私はそのドアを開けた。
懐中電灯で周りを照らしてみる。
事務机が幾つか並んでおり、黒板やホワイトボードが壁に取り付けられている。どうやら何かの事務所のようだ。
更に奥の壁は一面ガラス張りになっている。
私はガラスに近づき下を覗いてみた。
どうやらここから一階が見渡せるようだ。
一階はとても広い部屋で、天井はガラス張りになっている。
ガラス張りのおかげで月明かりが差し込んでおり、広い部屋をなんとか見渡せることができる。
それにしてもかなり広い。
学校の体育館程ありそうだ。
目につくものといえば、巨大な機械が数台と、藁のような草が沢山落ちている。
また中央には円形のスペースがあり、それを中心に柵で作られた囲いが何個も作られている。
よく目を凝らして見ると中央の円形のスペースに何か四角い巨大な箱のような物が置かれている。
ここからではそれ以上見ることが出来ない。
私は暫く考え、この部屋が何を目的として使われていたのか分かった。
恐らく食肉の加工でもしていたのだろう。
柵で作られた囲いに牛や豚を入れ育て、
真ん中のスペースで解体していたに違いない。
そしてさばかれた肉の一部が料理として出されていた。
噂があっていれば、きっと人もここで解体されていたのだろう。。。そう考えると、不気味さが一層強くなった。
そんなことを考えながら下を見ていると、
明かりがチラホラと動いているのが見えた。
下の階を見回っている友人だ。友人は大型機械の付近を歩いている。
しかし暫く見ていると機械の影に入ってしまい、見え無くなってしまった。
その後、私は今居る部屋を一通り見て周り、元来た階段を降りて友人の帰りを廊下で待った。
どのぐらいの時間が経ったのだろうか、友人はまだ戻って来ない。
いくら広い部屋でも、そろそろ戻ってきても良い時間である。
友人の身に何か良からぬことが起きたのだろうか。
私は懐中電灯を再び構え友人が入って行ったドアを開けた。
先ほど上から見ていたので大体どのような構造になっているのかは分かるが、
実際に床に足をつけて見るととても広い。
入ってきたドアから通路が奥まで続き、その行き先に上から見た円形のスペースがあるはずだ。
その途中、通路を挟むように大型の機械が置かれている。
大きな声を出し友人を呼べば直ぐに見つかるかもしれないが、
周りは静まり返っており、何故か声をあげることができなかった。
仕方なく周りを注意しながら足を進める。もしかしたら友人が何処かの影から私を脅かしに飛び出て来るかもしれない。
歩く度に足元にある藁が擦れて、ザザッ ザザッと音がなる。
入口から延びている通路を少し歩いた。
もうすぐ二階から見えた円形のスペースが見えてくるはずだ。
思惑通り少し歩くと円形のスペースが見えてきた。
そして二階からはよく分からなかった、四角い物体も徐々にその姿を現した。
歩く度に鮮明になっていく四角い物体。
それの正体に気がつくまでさほど時間はかからなかった。
四角い物体は巨大な冷蔵庫だった。
家庭用の冷蔵庫ではなく、業務用の大きい冷蔵庫がポツンと置いてある。
何故こんな場所に。。
余りに不自然である。
このような場所では不自然に感じるものほど恐怖を覚えるものは無い。
私は冷蔵庫に近づいてみた。
冷蔵庫は錆だらけで、とても動きそうだとは思えない。
取っ手に手を掛け手前に引いてみる。ガタッ。
ガタッ。鍵がかかっているのだろうか。扉は開かない。
暫く押したり引いたりを繰り返してみたが扉が開くことはなかった。
私は友人を再び探そうと、先ほど二階で友人を見失った大型機械の方へ向かう為、
冷蔵庫へ背を向け数本歩いた。
その刹那。
ブォォォォォン。
突然の轟音に体が硬直する。
何処から聞こえてきているのかは直ぐに察しがついた。
真後ろにある、冷蔵庫だ。もう壊れているだろうと思い込んでいた冷蔵庫が凄まじいファンの音を響かせながら動き始めたのだ。
私は意を決し振り向いた。
足は余りの恐怖で震えが止まらない。
もう何がなんだか分からなくなってきた。
何故急に冷蔵庫が動き始めるんだ。。数十秒、轟音を発する冷蔵庫をただ呆然と眺めていると、やがて音は止んだ。
そして、、、
ギィィィ。
冷蔵庫のドアが開いた。
重く、鈍い音が部屋に響き渡る。
ドアはこれでもかというほど遅く、遅くその奥に隠されていた物をさらけ出していく。
見慣れた目、
見慣れた鼻、
見慣れた口、
見慣れた顔だ、
友人の首がそこにはあった。
友人とは中学生からの付き合いである。中学生時代は殆ど毎日登下校を共にし、沢山遊んだ。
高校、大学はそれぞれ別の学校へ進学し、その後友人は地元企業へ就職。
私は東京の企業に就職した。お互い違う県に住んでいても、帰郷したときには必ず一緒に酒を飲みに行く。
何でも話し合える大切な友人だ。
そんな友人の首が開かれた扉の奥に置いてある。
両目から血が流れ、黒目は左右別の方向を向いている。
そして口からは蛇のように長い舌が飛び出ている。
恐らく、切り取られて口にくわえさせられているのだろう。
私は失禁した。
そして、震えが絶頂に達した足は私の体重を支える力を失い、私はその場に座り込んだ。
ただ、ただ、悲しみに暮れ、呆然とすることしかできなかった。
そして、、、、
カシャー。
カシャー。
どこからともなく、金属の擦れる音が聞こえて来る。どうやらその音は冷蔵庫の奥、 月明かりが届かない闇の中から聞こえてくる。
私は懐中電灯をその音に向けた。
光の中から徐々に何かが現れてくる。ゆっくり、ゆっくりと、、、、
それは、とてつもなく長い包丁を両手に持ち、血だらけのエプロンと手袋を着けた男と、
真っ赤な血に染まった友人の服を着た女だった。
女の手には人の腕が握られている。
男が両手に持っているのは牛の首を斬首するための包丁なのだろうか。
刃は錆びきっており、血がこびりついている。
男は笑顔で、その両手に持った包丁をしきりに擦り合わせている。
女が持っている腕には友人がしていた腕時計が巻かれている。
女はその腕時計を狂ったように外そうとしている。
私はその腕時計が何を意味しているのか考えたくもなかった。彼等は私に、友人を失ったことに対して悲しんでいる時間を与えてはくれなかった。
男が両手の包丁を振り上げながらこちらに向かって走って来る。
殺される。
私は立ち上がり、全力疾走で今来た道を走った。
一度も振り返ることをせず、 ただ、ただ、出口に向かって走った。
後ろからはガシャンガシャンと物が壊される音と、叫び声が聞こえてくる。
走りながら私が聞いた言葉は、 「いただきます」という言葉だ。
男はその他にも意味不明なことを叫んでいる。出口から飛び出し、車に飛び込んだ。
震える手を押さえながらイグニッションを回す。
直ぐにエンジンが掛かり、私は車を走らせた
山の麓にはどこかで転回しないと戻れない。
私は山を登った。
曲がりくねった山を登っていくと、やがて霧が辺りを覆ってきた。
霧のせいで殆ど視界はゼロに近い。
やもえず速度を落とし転回できるスペースが無いか辺りを良く見回す。
見回しながら車を進めていくと、この道の終了を意味する、鉄製の丈夫な門が現れた。
門には鎖が何重にも巻かれており、例え車で突っ込もうとも開くことはないだろう。
それを見て私は車を止めた。
そして友人のことを考え泣いた。
泣きながら窓の外を見る。
そして私は携帯電話を取り出した。
TO:お母さん
件名:ごめんね。
本文:
お母さんごめん。
やっぱり東京に戻るよ。
ちょっとやぼ用が出来ちゃってさ。
お母さんの作ったご飯、久しぶりに食べたかったけど残念だな。
また来るからね。
本当にごめん。
送信を終え、私は携帯電話を閉じる。
そして、、先程から私の横に立っていた男は、
私が携帯電話を閉じるのを見て、
車の窓ガラスを叩き割った。
人肉館
あの・・・だいじょうぶですか?」
「あぅあぅ・・・なんとか・・・ええ・・・ってよりさぁ!顔見た?」
「見ちゃいましたあああああああああああ(泣」
「ケバかった?」
「あいあい!あい!!(大泣」
「私とどっちがケバかった?」
「あああ・あ・・・あ(汗、大汗」
サイドミラーに写ってたあの女に間違いないと、確信した次第である。もう二度とあの道は通らないとは思うが、なぜに三度も襲われたのか謎である。
ざっと調べてみたが、あの付近で死亡事故やら殺人事件やら、幽霊の発生源になるような件は見当たらなかった。
人知れず、あのケバイ女はあの山付近に埋められているのだろうか。
ケバイつながりで、私についてきてしまったのだろうか。
そしてあいつは、投げ飛ばされたコンビニの駐車場に今もいるのだろうか。
あのコンビニにも二度と行かないつもりではある。
ケバい幽霊 : 怖い話らぼ −怪談・都市伝説まとめ−
温泉
母と娘が旅行に行った。
娘はもうすぐ嫁ぐ身、最後の母子水入らず。
ありきたりの温泉宿で、特徴は海に面した・・・それだけ。部屋に通されるとやる事がない。
駅から続く温泉街の土産物屋はだいたい覗いて来たし、夕食までにはまだ時間があった。
そこで二人はお風呂に行く事にした。
「この先の廊下を行くとあります。今でしたら丁度、夕日が綺麗ですよ」
女中さんはそう言って、忙しそうに戻って行った。言われた通りに進むと、一本の長い廊下に出た。左右にはバーや土産物屋が並んでいた。
そこを通り過ぎて行くと、廊下は右に曲がっていた。
その正面には『男湯』『女湯』の暖簾が。
中から音は聞こえない。ふたりで満喫出来そうだ。
支度を済ませ浴場に入ってみると、案の定誰もいない。
「うわー、素敵ねぇ」
娘は感嘆の声を挙げた。
正面は全面開口の窓、窓に沿って長方形の湯船。
その窓の外には夕日に光る一面の海。
二人は早速湯船に入った。娘は湯船の右奥が仕切られているのに気付いた。1メートル四方程の小さなもの。
手を入れてみると、飛び上がるほどの熱い湯だった。
「きっと足し湯ようなのね」
母の言葉で、娘は途端に興味を失った。風呂は全く素晴らしいモノだった。
湯加減、見晴らし、なにより二人きりの解放感。
窓と浴槽の境目には、ちょうど肘を掛けるくらいの幅があった。
母は右に、娘は左に、二人並んでたわいもない話をしていた。
ゆっくりと優しい時間が過ぎて行く。
その時、母は突然悪寒を感じた。
自分の右の方から、冷たいモノが流れて来るのを感じたのだ。
普通ではない、なぜかそう直感した。
あの熱い湯船の方から、冷たい水が流れてくる等ありえない。
それに視線の端に、何かがチラついている気がしてならない。
急に恐怖感が涌いて来た。
それとなく娘の方を見てみる。
母は血の気が引く思いがした。
娘の表情。これまでに見た事のない表情。
しかも視線は自分の隣を見ている。
口はなにかを言おうとパクパク動いてるが、声は出ない様子。
母は意を決して振り返って見た。
確かに誰もいなかったはず。また、後から誰も入って来てはいないはず。
が、自分の右隣には見知らぬ女がいた。
しかも、自分達と同じ姿勢で、肘をついて外を見ている。
長い髪が邪魔して表情まではわからない。
しかし、なにか鼻歌のようなものを呟きながら外を見ている。
「おか、あさん、その人・・・」
娘はようやく声を絞り出した。
「ダメ!」
母は自分にも言い聞かすように声をあげた。
母の声に娘はハッとして、口を押さえた。
そう、別の客かも知れない。そうだとしたら、あんな事を言うのはとても失礼な事だ。
けど、誰かが入って来たなら気付くはず。ましてや、自分達のすぐ近くに来たなら尚更だ。
やっぱりおかしい。
そう思って母の方を見ると、さっきの女はいなくなっていた。
しかし母に視線を合わすと、今度は洗い場の方を指指している。
そこには、出入口に一番近い所で、勢いよく水をかぶるあの女。
何杯も、何杯も、何杯も、水をかぶっている。
娘は鳥肌が立った。
正に鬼気迫る光景だった。
母の顔色も真っ青になっている。
「もう出ようよ」小さな声で母に呟いた。
「けど、もしあれなら、失礼になるんじゃ」
母も気が動転しているようだった。
「それに」
母が続ける。
「私、あの人の後ろ恐くて通れない」
そう言う母は恐怖からなのか、少し笑みを浮かべていた。
母のその一言で、娘は気を失いそうになった。
自分も同じ。恐くて通れない!
「じゃ、どうするの?助け呼ぶ?」
「だから、普通のお客さんだったら・・・」
そう答える母にもわかっていた。あの女は異常だ。
第一あれだけ勢い良く水をかぶってるのに、水の音が聞こえてこない。
「こわいよ、どーするの、ねぇお母さん」
娘は半泣きになっていた。
「とりあえず、ここで知らんぷりしときましょ」
母はそう言い、また外を見た。
私が動揺してたんじゃ・・・自分に言い聞かせながら。不思議だ、さっきは水の音なんて何一つ聞こえやしなかったのに、背後からはザバーッザバーッと聞こえてくる。
娘は気付いてるのだろうか?
問うてみるのも恐ろしく、身を強ばらせるばかり。
その時。突然水をかぶる音が止んだ。
娘にも聞こえていたようだ。止んだ瞬間に、顔をこちらに向けて自分を呼んでいる。
娘は泣いていた。
けどお互いに顔を見合わせるばかりで、振り返る勇気がない。
ただただ出て行く事を望むばかり。
そのまましばらく時間が過ぎた。「出て行ったみたい」
母は娘の方に視線をうつした。
娘は静かに下を向いていた。ただたまに、しゃくりかげるのが聞こえる。
「ほら、もう大丈夫だから、ね、もう出よう」
母の優しい声に諭され、娘はゆっくり顔を上げた。
よかった、心の底からそう思い母の方を見た。
母の後ろ。熱い湯の入った小さな湯船。
そこにいた。
髪の長いあの女。
熱くて入れるはずなんかない湯船の中に。
湯船一杯に自分の髪を浮かべて。顔を鼻から上だけ出して。
娘を見て、ただじーっと見つめて。
そしてニヤリと笑った。
「ギャー!」
娘は絶叫して母にすがりついた。
母は娘が何を見てしまったのか知りたくなかった。
寄り添う娘の肌は冷えきってしまっている。
「出よう、おかしいもの。歩けるでしょ」そう言いながら娘を立たせた。
早く、早く。もどかしくなる。
水の中がこんなに歩き辛いなんて。
それでもなんとか湯船をまたいで洗い場に出た。
娘は顔を覆ったままだから足元もおぼつかない。
出てしまえばもう大丈夫、突然安心感が涌いて来た。
母は最後に湯船を返り見てしまった。
そこには。あの女が立っていた。
長い髪から水をポタポタ垂らしていた。
下を向いたまま立っていた。窓一杯のとこに立っていた。
ここで母はまた背筋を寒くする。
立てるはずなんてない。
窓と湯船の境には、肘をつくのがようやくのスペースしか無いのだから。
浮いてる?
そう言えば女の体は微かに揺れている気がする。
湯煙でよくわからない。
母も叫び声を挙げてしまった。
二人は駆け出した。
体なんか拭いてられない。
急いで浴衣を身に付けると、自分の持ち物もそのままに廊下に飛び出し、一番手前にあった寿司バーに駆け込んだ。
「なんかいる!なんかいるよ、お風呂に!」
娘は大声で板前さんに叫んだ。
最初は怪訝そうな顔で二人の話を聞いていた板前さんも、次第に顔が青冷めていった。
「その話、本当なんですよね」
「こんな嘘付いたとこでどうにもなんないでしょ」
娘はバカにされた様な気がして、思わず怒鳴りつけてしまった。
それに母も続けた。
「私も確かに見てしまいました。本当です」
母のその一言を聞いた板前は、どこかに電話を掛けた。しばらくすると、ここの女将さんらしき女性がやって来た。
すこし落ち着きを取り戻した母子は、なにか嫌な事があったのだな、と直感した。
女将さんは軽く挨拶をすると、ゆっくり話しはじめた。
5年程前、一人の女がこの旅館にやって来た。
髪の長い女だった。
なんでも、ここで働きたいという。
女将は深刻な人手不足からか、すぐに承諾した。
しかし、女には一つだけ難点があった。
左目から頬にかけて、ひどい痣があったのだ。
「失礼だが接客はして貰えない。それでも良い?」
女将は聞く。
「構いません」
女はそう答えて、この旅館の従業員となった。女はよく働いた。
それに、顔の印象からは想像出来ない明るい性格であった。
ある時、女将は女に痣の事を聞いてみた。
嫌がるかと思ったが、女はハキハキと教えてくれた。
ここに来る前に交際していた男が大酒飲みだった事。
その男が悪い仲間と付き合っていた事。
ひどい暴力を振るわれていた事。
「その時に付けられた痣なんです」
女は明るく答えてくれた。
「そんな生活が嫌になって、逃げて来たんです」
そう言う女の顔は、痣さえなければかなりの美人だったらしい。それからしばらくして、この旅館に三人のお供を引き連れた男がやって来た。
そして、ある従業員に写真を突き付けた。
「こいつを探している」
あの女だった。
もちろん「知らない」と答えて追い返した。
しかし、ここは小さな温泉街。きっとわかってしまうに違いない。
そう考えた女将は、方々に手を尽くして女を守った。
しかし女は恐怖で精神が参ってしまった。
あんなに明るかったのに、ほとんど口を聞こうとしない。
女将は心配したが、女は大丈夫と言うばかり。ある日、定時になっても女が出勤して来ない。
電話にも出ないし、部屋にもいない。
結局どうにもならないので、無断欠勤という事にしてしまった。ところが。
「大変。女将さん大変よ!」
何事か。従業員に連れられて向かったとこは、風呂場だった。
そこに彼女はいた。
窓の外、向かって右に立つ大きな松の枝に首を吊っていた。
急いで降ろしてやったがすでに死んでいた。
悲しい事に、おそらく女は死ぬ前に髪を洗っていたようだ。
自慢のタネだったのだろう。
まだシャンプーの匂いが漂っていた。不吉だという事でその松は切り倒された。
髪の巻き付いた長いロープと一緒に寺で燃やして貰った。「・・・それで、彼女がぶら下がっていた場所というのが、
お客さんが、その『何か』をご覧になった場所だったんです」
女将さんはそう言いながら、母の目をみつめていた。
『温泉』 – 怖い話まとめブログ
逆ギレ
学生の頃、安アパートに住んでいたんだけど、そこは俺の大学の
学生が住人の全部を占めていた。寮ってわけじゃないけど1階に5部屋
2階に5部屋、全員が学生。入学して暫くは親戚の伯父さんのとこから通っていたんだけど、友達から
そのアパートを聞いて引っ越したんだよね。
夏休みに引っ越したから、殆どの奴らは田舎に帰っているらしくアパート
は静かだった。引っ越して翌日の夜に電話がかかってきた。その頃は携帯は出始めで
俺はせいぜいがポケベル持っていただけだ。実はそのアパートには電話が
部屋に有った。古臭い電話なんだけど、何でも各部屋に1個有るん
だって。留守録も付いていないダサいタイプなんだけどね。
で、かかってきたのは無言電話だった。
次の日も、その次の日もかかってきた。毎日夜の10時になると電話が
かかってくる。1週間たった日曜日についにブチ切れた俺は
『っざっけんなよ、てめえ!ぶっ殺すぞ!』って思いきり怒鳴った。
電話が切れた。その瞬間、俺の部屋の真上に当たる2階でモノすげえ
足音と、ドアがバタンと閉る音がする。
(え?)と思っていると、鉄の階段を駆け下りてくるカン、カン、カン
って音が聞こえてすぐに俺の部屋の玄関のブザーが鳴った。何が何やら理解出来ずに、ドアののぞき窓から外を見ると金属バットを
持ったジャージ姿の男が立っていた。
そいつが携帯を耳に当てているのに気づいたのと、部屋の電話が再び
しつこく鳴ったのでやっと分かった。無言電話の相手がそいつだったんだ。そいつは一晩中、玄関の外で電話し続けてきたよ。もう最高に怖かった。
逆ギレ – 死ぬほど洒落にならない怖い話
ケバい幽霊
仕事場から自宅まで車で一時間半。
途中ショートカットで山道を通れば20分早く帰宅できるので、毎日そのルートで帰っていたが、
今はその道は通らないようにしている。三ヶ月ぐらい前、深夜1時ごろ。
帰宅を急ぎその山道を走っていた時だ。ふいにチリーンと鈴の音がした。
「ああ、キーホルダーの鈴かぁ」
何気にそう思って気がついた。私のキーホルダーには鈴はない。
車のキーは単独であるので、ほかのキーと擦り合って音がでることもない。
それでもチリンチリーンと音が続くので、神経をとがらせて音をたどると、
誰も乗っていない助手席あたりから聞こえているようだ。
「音がでるようなもん、なんかのっけてたっけ?」
そう考えてるうち、急に車内が酒臭くなった。
日本酒を飲んで酔っ払ったオヤジが発する、あのくっさーい匂いだ。
私は下戸なので、酔っ払いの匂いがとにかく苦手なのだ。
「うっ・・・くっさ・・・」と思わずつぶやいたら、だれもいないはずの助手席から、
なんと衣擦れの音とともに豪快なゲップが聞こえた。
目のすみに、助手席に座る陰のような輪郭が見える。
横を見ないように、ただひたすら前だけ見て山道をつっきって、
国道にでたところのすぐにあるコンビニに飛び込んだ。
30分ほど立ち読みして時間をつぶし気分をおちつかせ、車の中の嫌な気配が消えたことを確認して、
缶コーヒーを買って無事に帰宅した。それから一週間ほどたった頃、また仕事で遅くなった。
ずっとあの山道は避けていたのだが、ぼーっとしてて気がつくと、山道に向かう道を走ってた。
「うわっやっべー」と思ったが、引き返すのもめんどくさいし、
そう何度も立て続けに怖い思いもしないだろうと、たかをくくって山道を通ることにした。
ゲップがもし聞こえても聞こえないように、音楽をがんがんにかけた。
鼻歌歌いながら山道を走っていて、ふとサイドミラーを見た。
サイドミラーの内側の端っこから、そろりそろりとなにかがスライドしてくる。
「ん?」とチラチラ見てたら、ケバイ化粧した女の顔がどアップで出てきた。
「なーんだ、私の顔じゃん♪」
瞬間安心したが、いや、まて。サイドミラーに運転してる自分の顔なんて写るわけない。
もう一度サイドミラーを見直してみる。
やっぱりケバイ化粧の女の顔が写ってて、こっち見てる。
よく見れば全然別人。別人というより私より美人じゃん。
いやまてまて。問題はそういうことじゃなくて、なんで走る車のサイドミラーに、人の顔が大写しで写ってんの?
一通り混乱した後、恐怖がどわっと押し寄せた。
またあのコンビニに飛び込んだ。「またですか?」っていわれた。
絶対もう二度と通らん!と決意しなおし、缶コーヒーを買って帰宅した。そして一昨日。
あれだけ気をつけてたのに、またも山道へ車を向けてしまった。
ぼーっと走ってると、ついつい今までの習慣に従ってその道を選んでしまうらしい。
賢明な人間なら引き返すのだろうが、能天気のうえにずぼらな私は、引き返すのがめんどくさい。
人並みの恐怖心は持ち合わせているので、一応迷ってみた。
出た結論は、私だけを狙ってるわけもないだろーと、そのまま突破することに。
でもやっぱり狙われていたのかもしれない。さすがに二度も怖い思いをしたので、腰のあたりがぞわぞわする。
びくびくしてたのが、余計呼び寄せるきっかけになったのかもしれない
突然、ゴトンとなにかに乗り上げたような衝撃がした。
注意深く運転していたはずだ(サイドミラーは見てないが)。道に何も落ちてはいなかった。
でも、もし見落として、人なんかを轢いちゃってたとしたら?
そう思って確認することにした。
見たところで何もないという、怖い予感はしてた。
でも万が一のことを考え、意を決してこわごわ車から降り、周囲を確認する。
やっぱりなにもない。
あんまり考え込まないようにして、再び車を走らせた。
車を走らせてるうちは無事なんだ、おばけなんかに捕まんないぜ・・・そう自分に言い聞かせた。
私の心の中を読んだのだろうか。
敵は思わぬ攻撃をしかけてきたのだ。
金縛り攻撃。
きゅーんっと体の自由を奪われていくあの感覚に襲われ、ものすごくあせった。
「私起きてるよな?な?寝てんの?もしかして居眠り?」
車を止めようか迷ってる時、背後から嫌な気配がしてきた。
肩からハンドルを握っている腕に沿って、白いものが伸びてきた。
細い女の手だった。
幽霊の手は当然冷たいんだろうと今まで想像していたが、全然冷たくなかった。
私の腕の上に白い腕が乗っかって、手首を掴んでいるわけだが、
冷たいどころか、捕まれている感触も重みも何も感じない。
ただ見えてるだけ。
きゅんきゅんと金縛りは強くなってきて、ハンドルを切るにも脂汗がでるような状態だったが、
冷たくもなんともない、ただ見えてるだけの邪魔な腕に、瞬間的にぶち切れた。
同時に金縛りも解除。
思いつく限りの罵詈雑言を腕に浴びせ、怒鳴る勢いで車を走らせ、またあのコンビニへ飛び込んだ。
店員がこっちを向くなり、「ひっ」と抜けた悲鳴をあげ凍りつく。
「うぞっっ!?」と思い自分の肩を見た。
振り切ったと思ってた白い手が、ブラーンと肩から垂れ下がっている。
「ついてきちゃった・・・どーしよ・・・」
しかし、混乱する頭より早く、極度の緊張を生き延びてきた自分の体が勝手に、
しかも、本来の自分では考えられないほど俊敏に行動を起した。
私は颯爽とドアを開けて店の外に出ると、
肩に張り付いている白い手をむんずと掴み、そのまま背負い投げ(っていうのか?)をかました。
無我夢中。背負い投げ(もどきかもしれん)なんて生まれてはじめてだ。
が、いままでなんの感触もなかった白い手だったのに、
投げる瞬間に掴んだ腕のぶよっとした感触、背中にかかる人としか思えん体重を感じてしまい、
その気持ち悪さと、緊張の糸が切れて、その場に座り込んでしまった。
店員がおそるおそる出てきて、声をかけてくれる。
京都長岡ワラビ取り殺人事件
2日後の25日、山頂付近で遺体となって発見された。
直接の死因は主婦A(当時43歳)が絞殺、主婦B(当時32歳)が刺殺。
二人のリュックには、それぞれ空の弁当箱、採ったワラビ、財布が入ったままであった。検死の結果、死亡時刻はどちらも正午過ぎから二時半までと判明。
どちらも金を奪われた形跡はなかったが、主婦Aの衣服のポケットから“ オワレている たすけて下さい この男の人わるい人
と鉛筆で走り書きをした、勤務先のスーパーのレシート(日付は事件当日より2日前)が発見される。
だが、どちらの荷物にも衣服のポケットにも、この鉛筆がなかった。後日の捜索で、殺害現場から少し離れたところに芯の先端だけが見つかっているが、鉛筆そのものは見つからなかった。
主婦Aは全身30箇所以上も殴打され、肋骨が折れて、肝臓が破裂しており、主婦Bは全身50箇所以上も殴打され、包丁が体に突き刺さったままだった。
警視庁の鑑定結果によると、犯人の血液型はO型と判明している。
犯行現場は、殺された主婦たちのように、ピクニックがてら山菜採りに地元の人が訪れているようなところだったが、犯行発生前から木や竹が生い茂り、昼間でも薄暗いところが多く、レイプ事件も発生していた。
遺留品は主婦Bの遺体に突き刺さっていた包丁一本のみで指紋は検出されず、販売ルートも解明されずじまいだった。
有力な手がかりのないまま、1994年5月24日に公訴時効が成立した。
容疑者〉
長岡京市内に住む少年Aが、犯行時間内に駆け足で下山するところを目撃されていて、重要参考人となるも、実は犯行当日、一日中、別の場所にいたことが判明した。
彼が空手を習っていて、よく山にサイクリングにきていることを周知している人物からの目撃情報だった。
主婦らが山に入った10分後、25歳から30歳の男性二人組が目撃されるも、身元判明できず。
主婦たちが殺害される1週間前に、入山していた主婦に声をかけた中年男性も似顔絵を製作したが身元判明できず。〈もう一つの事件〉
事件から約5年後の1984年5月16日、同市で主婦Cが首や背中をメッタ刺しにされ、布団にくるまれ、家ごと燃やされるという残忍な事件が発生した。警察がこの事件と長岡京殺人事件の関連性を調べていたことが判明して、次のような噂が出現した。
主婦Cはかつて最初の事件当日、主婦AやBとワラビ採りに出かけたが、先に一人で下山したので殺害から免れた。マスコミと警察は報道協定を結んで、主婦Cの安全のため彼女の存在を公表しなかった。
後日、主婦Cは何らかのトラブルでワラビ採り殺人の真犯人に殺されたところが第二の殺人事件の警察記者会見では、最初の殺人事件と主婦Cとの関係はまったく言及されず、マスコミ関係の人物から報道協定についての証言は一切得られず都市伝説のレベルである。
この事件も同様に未解決となっている。
