<閲覧注意>本当にあった怖い話「耳をなくした話」「蛇神さまの神社」「塞がれた部屋」

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<閲覧注意>本当にあった怖い話「耳をなくした話」「蛇神さまの神社」「塞がれた部屋」についてまとめました。

耳をなくした話

どうやら自分はやたら耳が良いらしい。コウモリの鳴声なんかフツーに聞こえてたんだけど、
そんな耳、なくしちゃった話。やたら長くてすいません

仕事帰り、深夜の峠をレンタカーで走っていた
除雪はされているが根雪で辺り一面真っ白。天気は荒れ模様で、断続的に降っている雪が、
時折すごい勢いで吹き付けてくることもあった
対向車もほとんどなく、そのときは前にも後にも車は見えなかった

車に乗ってる間中、ずっとFMかけてたんだが、
山ん中なもんでときどき電波が弱くなったりして、雑音にパーソナリティの声が途切れがちだった
で、そのラジオの電波が悪くなる合間に、なんだか違和感を感じた
聞いているラジオ局のものではない音が混じっている気がする
はじめは混線しているのだと思ってたんだが、どうもおかしい

他局の放送がまぎれているなら、声や別の音楽の断片も聞こえていいはずなのに、
いつまでたっても、同じ調子の音しか聞こえない
15秒くらいのワンフレーズを延々繰り返しているようだ
なんだかイラっときて、ラジオのスイッチを切った

とたんに、ワイパーとタイヤがガタガタいう音が大きくなり、それに混じって、
少しはっきりとそのメロディーが・・・
ラジオの音じゃないのか?
知らない曲。サビの部分だけ? 携帯の着メロ?ってのが真っ先に頭に浮かんだけど、
和音なんか使ってない、やけに薄っぺらい電子音だった

雪がちょうど小降りになったとき、ちょい先の道脇に車が停められるくらいのスペースをみつけた
チェーンの着脱場かもしれない。そこに車を停めると、ハザード出してエンジンを切った
車内になにか落ちているに違いない。自分が借りる直前に使った人のだろう。レンタ会社の人が見逃したんだ

ちゃんと掃除しろよな、とか思いながら、助手席のシートの下や、ダッシュボードの中、ドアポケットを探した
目覚まし時計のアラームと同じで、単調な電子音って、結構耳について気になるんだ。
できれば見つけだして止めたかった
運転席側も確かめた。フロアマットをめくって見たが、そこにも見つからない

後部座席の方を覗いてみたけど、見渡す限り何もなかったし、
それに後の方に身を乗り出したら音が少し遠くなった
やっぱり前の方か。今度は利き耳(自分は左)を近づけてダッシュボードの方から順繰りチェック
と、シートではなく、カーステレオ付近に向かって音が大きくなる
すぐ下の灰皿の中も確認。シガーソケットも抜いてみたが、異常なし

何度か繰り返してみたが、やっぱりカーステレオの付近から聞こえる。電源切ったのに、なんなんだ?
しばし考えて、ふと思いついた
カーステレオのすぐ上、エアコンの吹き出し口に耳をつけてみた
自分、エアコンの乾いた空気が直接当たるのが嫌いで、
車に乗るときはいつも羽をめいっぱい下向きに下げとくんだが、
その羽越しが、今までで一番大きく聞こえた

ここだ。なーんだ。前のやつがダッシュボードの上にブツを置いて運転
振動でフロントガラス側のエアコン吹き出し口に落ちたんだ
不注意なやつ。でもフロント側のエアコンの吹き出し口、そんなに大きかったっけ?

細いキーホルダーかなんかだろう
車の傍らで談笑中、保険屋がボールペンのキャップだか、クリップだかを
うっかり吸気口に落としてくれて、後でエンジンをかけたら、ブロアのファンがボロボロになってしまったと
ぼやいていた友人を思い出した
故障を自分のせいにされたらかなわん。吹き出し口はフィルターあるから大丈夫だったけ。
とにかく車返却するまでもってくれよ

取り出すのは諦めて、急いで帰ろうとキーを差し込んだとき、それまで鳴り続いていた音がピタっとやんだ
車内は乾いた雪が降り積もるサーって音とハザードのカッチカッチいう音だけ
音源探してたのはほんの10分もかかってないはずなのに、フロントガラスは雪で真っ白に覆われて車内は薄暗く、
そこにハザードランプの黄色い点滅が反射して不気味に思えた。急に空恐ろしくなった

最初からかなり小さい音だったし、電池切れかけてたんだ
そうに違いない。音が止んでくれたじゃないか。そう望んでたんだろ
自分を無理矢理納得させて、エンジンをかけた

ブワッと、いきなりひどく冷たい空気が顔に吹き付け、その冷たさに顔をしかめた
さっきまで、送風はフロントガラスと足元側にしかしてなかったはず
変だな、と吹き出し口を見た
吹き出し口の羽のつけ根にある隙間から、なにか白いものが動いたように見えた

いつのまにかあのメロディがしていた。が、今度は1回でブツッと途切れた
そしてエアコンの音じゃない、ボソボソ、ボソボソッとくぐもった音がし始めた
人の呟きに聞こえる。だれかが電話で話している
話しの内容までは聞き取れない。低い声だが、なにかをまくし立てているようだ

自分の体は固まったように動かない
見てちゃいけない、そこを見てちゃいけない。自分ではそう思っているのに、なぜか瞬きもできず、目が離せない
吹き出し口の黒い羽がゆっくり動いている。
閉じた羽が開かれ、向こう側から羽の間には、黄緑に変色した爪が覗いた
開ききった羽は、今度は上に向きはじめた。

青みがかった白い指先が自分の顔を指すような角度に持ち上がり、
全開の吹き出し口は真っ黒く、奥底まで見えそうだ
やばい。やばい。理由もなく本能が危険信号を出すってあるんだな。
自分が本当にガタガタ震えはじめるのがわかった。

突然耳元に生臭い息がかかった
「聞いてたんだろぉ゙ぉ゙お゙あ゙あ゛あ゛」しゃがれた男とも女ともつかぬ声
途端に吹き出し口の中、真っ黒の中に閉じた目蓋が開いたように、黄色く濁った目がぎょろっと剥いた
憎悪に満ちたその目と目があったとき、もう訳もわからず、
自分も狂ったように叫び声をあげて発車させてた目の前は真っ白。

ボンネットに積もった雪がフロントガラスに巻き上がったんだと思う
それがなくとも周りなんか見ている余裕はなかった。目をつぶっていたのかもしれない。
良く人や車にぶつからなかったものだ
左耳いっぱいに「ぎぃぃいいいい」という大音量。音の圧力で鼓膜が痛いほど押されている
それがどんどんひどくなって、ついに太い針を耳から突き入れられるような痛みを感じて、
目の前が真黄色なった。あとは憶えてない

気がついたら病院だった。
車は道路脇にあった雪の吹きだまりに突っ込んで止まったらしい
運がいいことに、突っ込んだ吹きだまりもふかふかの新雪だった
そしてその吹きだまりに突っ込まなかったら、崖にダイブするところだったと、あとから人に聞いた

自分は車外に放り出されていたのか、無意識に自分で車の外に出たのか、
車の外に倒れていた。あの悪天候でよく凍死しなかったものだ
事故のすぐあとに来た除雪車の運転手が、車と自分とを見つけてくれたのだそうだ

だから体はちょっとした打撲程度ですんだが、左の鼓膜が破れていたそうだ
それだけで済んで良かったのだろう。いろんな人に、運が良かった、運が良かったって言われた
医者が言うには、吹きだまりに突っ込んだ衝撃で破れたんだろうというんだが、
不思議なことに首から上には打撲はない
でも衝突の前に鼓膜が破れてたなんて話を人にするつもりはない。

頭を打ったで片づけられそうだし、職は失いたくない
病院には親やら職場の上司やらが来て大変だったが、打撲だけなもんで、病院からはすぐに退院させられた。
鼓膜は破けたといっても、完全に取れちゃったわけじゃないので、放っておけばふさがってくるものらしい。

ふさがらなかったら、再生手術しなければならないが、幸い半年前の定期検診では、ほとんど鼓膜はくっついていた
聴力検査をしても、一般平均に比べても良い方だと言われた
でも、自分ではまるで左耳をふさがれているみたいな感覚が続いていて、
左側から話しかけられるとなんだか聞き取りづらい
まあ、聞き取りづらいってだけで、余計なものが聞こえないっていうのは、かえって都合がいいかもしれない
本当に、変なものはもうなんにも聞こえないんだ

職場にも復帰して、今はほ以前の生活にほとんど戻った
入院費は保険でまかなえた。レンタカー会社からの損害賠償は覚悟していた
それが待っていてもなんの音沙汰もない。車は壊れてなかったのだろうか?
壊れてないとしたら、あの車は、またレンタルされるのかな?
まあレンタカー会社だって保険に入ってるだろうし、余計なことは言わない方が
かえって良かったりするから、黙っていることにする

ただ、最近ちょっと気になったことがあった
新しい派遣の子に、書類のコピーを頼みに行ったとき、その子は妙な顔をしてきょろきょろしてる
そして自分の方を見て「○○さん(自分)の携帯鳴ってません?」
「??」
「おかしいなー。今音が近づいてきたから、てっきり携帯かと思って。いい曲ですよね」
そんなことがあるわけがない。

冷や汗がどっと出て、内耳から舌のつけ根にかけてキ-ンって痛くなった
「俺、耳悪いんだ。 なにも聞こえないよ? どんな曲?」
「ほら、あの、昔の映画の・・・」
彼女はハミングして見せたが、それはあのメロディとは似ても似つかなかった
動揺したのも安堵したのも気づかれたくなくて、なんとか早々にその場を離れた

ほっとしたのもつかの間、懇親会の2次会でカラオケに行った。彼女は超がつくほどの音痴だった。
その後は彼女にできるだけ近づかないよう気をつけている
また「あれ? 携帯鳴ってません?」「ほら、あの曲!」なんて言われようものなら、
「耳が痛い!」なんて相手にうずくまれたら、その場でパニックを起こしそうでものすごく怖い
耳をなくした話

蛇神さまの神社

お稲荷さま騒動から三年ほど経った晩秋の話。

宮大工の修行は厳しく、中々一人前まで続くヤツは居ない。
また、最近は元より、今から十年以上前の当時でも志願してくる若者は少なかった。
俺は、親方からそろそろ一本立ち出来る位の職人となったと言ってもらえたが、
まだまだ親方の足元にも及ばない事は自覚していたので
出来るだけ長く親方の下で働き、勉強させてもらうと決めていた。
ある日、俺より2年遅れて弟子入りしたが、才覚をメキメキと発揮し
一年ほど前に独立した弟弟子のJが顔を見せた。
Jは仕事の腕はずば抜けた物を持っているし、本来悪いヤツではないのだが、
実家の神社が大層なモノ持ちで恵まれている上にちょっとそれを鼻に掛ける小生意気な所があり、
他の弟子たちからは疎まれていた。しかしなぜか俺にだけは良く懐き、
「兄(あに)さん、兄さん」と慕ってくれる可愛いやつだった。

「兄さん、ご無沙汰してました」「おう、Jか!元気に仕事してるか?」
「ええ、お陰さまで。兄さんも相変わらず良い仕事してるそうで、噂は良く聞きますよ。」
「よせやい。弟弟子のおめぇの方が先に一本立ちしといて歯ぁ浮くような世辞を言うない。」
「あれ?なんでお世辞って解ったんですか?」「このヤロウ!そういう事言いやがるのはその口かぁ!」
久しぶりの掛け合いだ。俺もJも大笑いしながら再会を喜んだ。
「で、どうしたい?親方に用でも出来たか?」「ええ、ちょっと…兄さんと親方にご相談が…」
「俺もか?だが親方はちょっと法事で出掛けてるから、夕方くらいに出直すか、
それか上がって待ってろい。おカミさんにも挨拶してけや。」
「あ、じゃあおカミさんに挨拶してから、また出直しますわ。」
そう言ってヤツはおカミさんに土産を渡して挨拶し、一度帰っていった。

夕方過ぎに親方が帰って来るのを見計らったように一升瓶を提げてJもやってきた。
「親方、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。」
「おう、おめぇも良い面構えになったな。一本立ちしてから苦労も多かったろう?」
「はい、僕がどれほどお坊ちゃんだったか思い知らされましたよ。
あと、親方と兄さんの様な本当の意味での良い仕事が出来てなかった事も。
宮大工って仕事は、ただキッチリ美しく建てりゃ良いってモンじゃないんですね。
お客様だけじゃなく、神様仏様も満足してもらうような心掛けで仕事をしてなきゃダメなんですよね」
滔々と話すJに親方の顔も緩みっ放しだ。娘にしか恵まれなかった親方にとって、
弟子たちは息子も同然だ。その息子が立派になって顔を出せば感慨無量だろう。

「で、親方と俺に相談ってのはなんなんだい?」俺は気になっていた事を口に出した。
「はあ…それなんですが…」Jにしては妙にまだるっこしい。また、その尋常ではない雰囲気を俺も親方も感じ取った。
「言ってみねえ。黙ってちゃ解らねえだろが」親方が急かす。
「はい。実は…実は、Z神社の奥宮の修繕を引き受けてしまいまして…」
「「なにっ!」」俺と親方の声がハモッた。「おめぇ…そいつぁ…」俺は滲み出る脂汗を感じながら呻いた。
「あの、Z神社かぃ?間違げぇねえんだな…?」親方でさえ、声が上ずっている。
「一体どういうワケなんでぇ…」親方が手拭で汗を拭う。もう寒い時期だというのに、俺も上着を脱いだ。
Z神社。蛇神様を奉っている小さな神社で、現在では神主は居らず自治体の管理化に置かれている。
そして、この界隈の寺社やその関係者の間でまことしやかに噂されている強力な祟り神だ。
麓の村に先宮が有り、先宮から細い獣道を入り込んでいくと裏山の頂上付近に奥宮が存在する。
この神社には悲しい伝説が有る。

かつて平家の落ち武者がとある姫君を守りつつここまで辿り着き、Z神社に身を寄せた。
だが、当時の村人は源氏の追及を恐れて奥宮に匿った平家の武者を眠っている間に惨殺し、
また姫君を庇おうとした神主さえも殺してしまい、姫君を嬲り者にした挙句源氏に突き出そうとした。
しかし姫君は村人の目をぬい、自分を庇って殺された神主の骸を抱き抱え井戸に身を投げてしまったという。
そして、自らの代理である神主と動物好きな優しい姫を殺された事を怒った蛇神様が荒ぶる祟り神となってしまったそうだ。
その後、徳の高い神主さんが蛇神様の怒りを宥めて静まらせ、昭和中期まではその神主さんの家系が
神社を守っていたそうだが、その家系は何故か絶え、その後いつの間にか祟り神に戻ってしまったという。

それから何人かの神主さんが着任したが、恐ろしい目に遭ってほうほうの態で逃げだすか、
精神に異常を来たしてしまったものもいるらしい。また、修繕工事を行なう際にも必ず何か災厄が降り掛かり、
人死にが出てもいる。ただ現場で死ぬことは無く、仕事中に何かに噛まれてそれが直らず一月後に死んだとか、
ある朝首を縄のような物で絞められて窒息死しているのが見つかったとか、工事中に失踪してしまい
北海道で変死体となって見つかったなど、直接関係を見付け難い死に方なのでなんともしようが無い。
一時、取り壊そうという話が持ち上がったらしいが、その計画をしている時に関係者の変死・失踪が相次ぎ、
結局お流れと成ってしまった経緯が有る。偶然の一致としてしまえばそれまでだが、
仕事柄こういう事には敏感なのでここしばらくは誰も手を付けずに荒れ放題となってしまっている。

「大丈夫か、J。」真っ青な顔をしてゼーゼー言っているJに声を掛ける。
「兄さんこそ、鼻血出てますよ…」口の中も鉄の味だ。とりあえず二人して顔を洗い、おカミさんに事情を説明する。
そしておカミさんの入れてくれた茶を啜りながら話を再開した。
「断る訳にはいかないのか。」「…僕の親父も、それならワシがお払いしよう、とかいって
一緒になって受けちまって、もしこの期に及んで断ったりしたら…地元での一族の立場が…」
正直に答えるJ。ここで嘘や見栄を出さないのがコイツの良い所だ。
「しかし、なあ…」「兄さんはオオカミ様の所、最近参って無いんですか?」「いや、あれ以来三ヶ月に一遍は酒持って行ってるが…」
「それなら、守ってもらえませんかね?お稲荷様を簡単にノシてしまう方なんだから、蛇神様くらい…」

「しかしそれはあまりにも身勝手じゃないか?相手は神様だぞ。大体、あの時の事だって今じゃ自分でも信じられないんだから…」
それに、だ。確かに蛇神様はオオカミ様やお稲荷様よりも力は弱いと言われている。異論は多々有るが。
しかし、伝説によれば源平の時代から荒ぶる祟り神として恐れられてきたZ神社の蛇神様は果たしてどうなんだ?
また、蛇神様は最も執念深く、恐ろしい神様であるとも言われている。

「・・・着工は何時からの予定なんだ?」「もう今年は難しいので、来年からということで…」
「時間は有るな。とりあえず、なんとか手を考えてみよう。お前も出来る限り回避の方向で動いて見てくれ。」
「はい…それじゃあとりあえず帰ります。親方にくれぐれもよろしく伝えてください。」「ああ、解った。」
その夜、回復した親方に一発ぶん殴られてから、Jの持ってきた酒を二人で酌み交わしつつ相談した。
「あのバカが…ちっとは殊勝な事言うようになったと思った俺がバカだったぜ。ふんとに…」
「まあ、出来の悪いヤツほど可愛いって言うじゃないですか。」

「はっ!モノには限度があらあな!あれほどバカだとは…」
「親方。そういえばオオカミ様のお堂の保守を頼まれてましたね。」
「ああ、おめぇの仕事が良いんで別に傷んじゃいねぇが、もう七年近く経つからなあ。」
「それ、当然俺の仕事ですよね?」「当たり前ぇだあ。神主さんは元より、オオカミ様もきっとおめぇをご指名だろうが」
「明日から行っても良いですかね?」「おお、そりゃ構わねぇが…おめぇ、なんか企んでやがるな?」
「2~3日、お堂に泊り込んでみようかと…」
「おいおい、そんでもし出てきて下さったら蛇神様退治を頼もうってんじゃねえだろうな?」
「いやあ、万が一姿を見せて下さったら、Z神社の祟り神がどんなもんだか聞いて見ようかと…」
ふうう、と親方はため息をついた。「まあ、好きにするさ。ただ、充分用心しろよ。相手は神様なんだからな。」
「はい、肝に銘じておきます。」翌朝、俺は道具と材料と寝袋を持ち、食料を買い込んでオオカミ様のお堂へ向かった。

正直、自分でもほとんどヤケクソだった。
大体、この時代に神様だの祟りだの、普通の人なら笑い飛ばすか呆れるだけだ。
だが、俺たちのような仕事をしていれば確かに人外の力を感じることが多々有る。
祭りなどでは必ずといって良いほど、亡くなる人が出る。しかしそれで慌てる関係者は少ない。
皆、予定調和のように感じている。「死人は、贄に選ばれちまっただけだ」と。

途中、街中でデパートに寄り、アクセサリー店を覗く。
昔、巫女さんに納めた銀細工の髪飾りを買った店だ。
作業衣姿のむさ苦しい男が昼間っからこんな所に来るのは珍しいのだろう、
俺を覚えていた店員さんが声を掛けてきた。
「ご無沙汰してます。本日は何をお探しですか?」
「ああ、どうも。髪飾りの良いのが無いかと思って。」

「前回も銀の髪飾りでしたね。奥様か恋人様はよほど綺麗な御髪をしてらっしゃるのですね。」
まさか神様(に仕える巫女さん?)にプレゼントするとは言えない。
「はは。まあ。」「こちらなどは如何ですか?」24金の高そうな髪飾りを見せてくれる。
だが、神様やその眷属は金よりも、白金よりも銀を喜ぶと言われる。
それになにより、あの美しい黒髪に金細工はミスマッチだろう、と俺は思い
「いや、今回も銀細工が良いんです。それも出来れば古風なヤツが。」
「はあ…う~ん、最近はあまり古いデザインが好まれないのであまり置いてないのですが…
そうだ!ウチの本店に骨董部門が有ります。其処ならば、古いデザイン、ではなく本当に古い物がありますよ。ただ…」
「ただ、何です?」「いえ、骨董品だけにどんな謂れが有るか解らないモノも多いので…」
「う~ん、まあそういうことを気にする事は無いと思いますが…とりあえず見に行ってみますね。」
「はい、それではお客様のことを連絡しておきます。場所は…」

場所は丁度オオカミ様のお堂を管理している神社からオオカミ様のお堂に行く道筋の途中だった。
どうせ神主さんにも聞きたいことが有ったので丁度良い、と思って車を走らせた。
まずは神主さんに挨拶し、今回の一件を説明する。
「えっ!Z神社!…う~ん…」予想通り神主さんも絶句。心無しか怯えてもいる。
ここの神主さんは俺より10歳上でまだかなり若いが、とても熱心な方で既にこの周辺の神主さんの頭と成りつつある。
ちなみに、例の稲荷神社の神主さんはダメ親父で通っているが奥さんと娘さんがやり手で、
最近、娘さんが婿さんを貰い跡取りとなり、大分持ち直しつつ有るようだ。
「・・・ご存知かもしれませんが、オオカミ様の社は便宜上ウチが管理しているだけで私がアソコの神主というワケでは有りません。」
そう、この神社はこの地方では非常に珍しい犬神様を奉っている。オオカミ様ではなく、イヌガミ様だ。
オオカミ様の社はもう遥か前から正式な神主さんは存在していない。

「ですから、あのオオカミ様が何時の時代から奉られており、どう言う謂れが有るのか、ハッキリしたことは解らないのです。
それに、私もまだココの神主となってようやく八年、まだまだ自分のお社についても勉強するコトだらけで
オオカミ様のことをちゃんと調べておりません。しかし事情が事情ですから、バイトの巫女さんにも資料を探してもらって急いで調べましょう。
本日の夜までには何らかの答えを出せるようにしておくので、今晩はウチにお泊まりください。」
と言ってくれたので、今日はオオカミ様の社には荷物を置きに行くだけとした。
最近はちょくちょく来ているのでそう懐かしい感じはしないが、やはり俺にとっては特別なお社である。
長い階段を上り、鳥居の足とお堂が見えてきた所で俺の脚は止まった。

お堂の前に巨大な白犬がこちらを向いて座っている。しかし、その姿は見慣れた犬のそれではない。
あれは…まさしく…オオカミ…?「お、オオカ…ミ…様…?」体が全く動かない。俺をみつめる精悍な顔、涼しげな目元。
「あっ!」俺はそれを見つけ、思わず声を上げた。ピンと立った左の耳元に銀色の髪飾りが光っていた。
オオカミはつ、と立ち上がると「わおーーーーーーん」と澄んだ声で一声吼え、お堂の裏手へと走り去った。
俺はヘナヘナとその場に崩れ、しばらくは立ち上がることが出来なかった。
どれほどへたり込んでいただろうか、俺はようやく立ち上がると、持ってきた酒を納め、お祈りを捧げた。
時間を見るともう夕方の四時。神主さんの所を出たのが昼前だったのに、いつの間にか日が傾き始めていた。
ふら付きながら車に戻り、俺は神主さんの所へと向かった。

神主さんは、既にできる限りの情報を集めてくれていた。
それによれば、オオカミ様の社は伊勢神宮を元とする神明神社の流れを汲んでいるらしいという事。
つまり、天照大神の関係眷属である可能性が高い。そして、起源は古く、恐らくこの辺り最古の物であると。
神主さんは、「もしこれが事実ならば、Z神社の蛇神様よりも全てにおいて格上で有ると考えられます。
また、これほどの高位な神様では、あのお稲荷様はとんでもない方とコトを構えることになってしまい
びっくりどっきりオマケに真っ青だったと思いますよ。」俺は思わずプッと噴出し、Jの夢の事を話した。
神主さんは大笑いし、「あのお稲荷様も決して低位なワケでは有りません。その彼女を踏み付け、
その上に立ちニコニコしていられるとなればこれはもう相当高い位の神様でしょう。」と続けた。

また、俺は先ほど社で逢った白狼のことを話した。
「う~ん、ただのでかい山犬かなんかという可能性も有りますが、現世に姿を現したとすると何かを伝えたいのでしょう。
○○さん、やはり明日からはお堂に泊り込んでみると良いかもしれませんね。」
俺は頷き、決意を固めた。そして、用意してもらった部屋で眠りに付いた。

俺は夢を見ていた。自分でもはっきり夢と自覚している、珍しい夢もあるものだなあと思いつつ回りを見回すと、
10歳そこそこと思われる可愛らしい女の子が二人、子犬のように転げまわって遊んでいる。
その内一人が俺に気付き、もう一人と何事か相談すると二人揃ってこちらへトコトコと掛けてきた。
「おじちゃん、だあれ?」良く見ると二人とも同じ顔。双子だろうかと思いながら俺は答えた。
「おじちゃんじゃないぞ、お兄ちゃんだぞ~」「おじちゃん、○○さん?」

「だからおじちゃんじゃないって…なんでおじちゃんの名前知ってるんだい?」
「○○様だよね?」「…うん、そうだよ。」「わー!やっぱり!」「お姉ちゃんの言ってた通りだね!」「うん!」
「だーかーらー、なんでおじちゃんの名前知って・・・」「あのね、ナミお姉ちゃんが言ってたの。今日○○様が来るって。」
「そうしたら、ナミは耳飾を所望しますって伝えてねって言ってたよ!」「ナミお姉ちゃんって、誰だい?」
「とっても綺麗なのー!」「優しいのー!」「でね、○○様の事を…」「それは言っちゃダメー!」「あ、そうだっけ!」
「ちょっとキミたち…」「それじゃねーおじさん!」「さよならー!」「おーい!ちょっと待って…」

「くれえ!」・・・俺は布団の上に立ち上がり叫んでいた。時計は午前6時を指している。
「なんなんだ今の夢は…」妙に寝覚めが良いのを不思議に思いつつ、俺は寝床を後にした。
朝食を頂きながら、神主さんに夢の話をした。神主さんは味噌汁の椀を持ったまま身じろぎもせずに聞き、そして話し出した。
「ウチの神社は犬神様をお奉りしているのは昨日お話しましたが、本来の姿は二頭の異形神なのです。
あなたの夢に出てきた双子の女の子は、恐らくこの神社の神様でしょう。
そして、彼女らが話したナミお姉ちゃんとはおそらくお宮のオオカミ様、そして、イザナミ神ではないかと。」

「え、じゃあ黄泉比良坂の…?」「まあ、この辺りの古事記由来の神様は未だはっきりと解ってはいませんが、
イザナミ神は万物を生み出す創造神であり、また闘いの神でもあります。黄泉比良坂の話は
彼女の一部がクローズアップされただけですからね。しかし、イザナミ神だとすると伊勢神宮ではなく
出雲大社由来となるのだろうか…?」「ふむう、なるほど…」
・・・ぷっ!俺と神主さんは同時に噴出した。「あはははははは!」「わはははははっは!」
「いやー。神主さんも好きですねぇ。」「大学では結構オカルト博士で有名だったんですよ~」
「なかなか凝った背景で説得力有りますよー!」「あははははは!」
ひとしきり笑った後、神主さんは突然まじめな顔に戻り
「でも、この神社の奉神の話は本当です。ですから、信じなくても結構ですが、昨夜の夢に沿って行動するとよいと思います。」
「はい、解ってます。それでは、オオカミ様のお宮の保守を行ないます。」「よろしくお願いします。」

俺は途中でアクセサリー屋の本店により、骨董の展示場を見せてもらった。
そこにはいわく有りげな装飾品や刀剣、鎧兜が並んでいた。
しばらく眺めるうちに、ふと夢の事を思い出した。・・・耳飾、か。イヤリングなんてダメだろうなあ…等と考えていると
装飾品の中で鈍く光った物が目に付いた。そちらを見ると、鈍い銀色の勾玉が二つ。
手に取ると意外に軽く、純銀では有るがどう造った物か中は空洞で有るようだ。しかし、繋ぎ合わせた跡も無い。
爪の部分に穴も開いており、其処にワンタッチの銀リングを通すと洒落た耳飾となった。
結構な高値だったが縁起物を値切りたくは無かったので言い値のまま買い求め、俺はオオカミ様の社に向かった。

お宮は神主さんによって良く清掃されており、保守と言っても各板の嵌め合わせがおかしくなってないか、
どこか浮いてきている所がないかなど、殆どすることも無く基本的な点検だけで終わった。
最後に綺麗に清掃し、お堂の中に銀マットと寝袋を敷き、簡単に食事を済ませた。そして午後九時を回ったので、
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」と不謹慎な言葉を呟き、俺は耳飾の入った化粧箱を握り締めながら
寝袋に包まり投光機の電源を落とした。

・・・しかし結局何も出ず朝を向かえてしまった。
化粧箱も握り締めたまま。あれええ?と思いつつもまあ一晩目だからなあ、と思い起き上がる。
なんか頬っぺたが痛いのは床に何度か打ちつけたせいだろうか?
寝袋をたたみ、とりあえず外に出て大きく伸びをしていると神主さんが階段を上ってきた。
「おはようございます、早いですね」「おはようございます、いやあやはり気になってしまって…うわっ!なんですかその頬っぺたは!」
「え?」「こりゃすごい…呪文の準備までしてたとは思いませんでした…」「はぁ?一体何を言ってるんですか?」
「そりゃこっちのセリフです。頬っぺたに古代文字を書き込むなんて凝ってますねぇ。どうやって書いたんですか?
っていうか、そりゃもしかして血じゃないんですか!?」

俺は急いで鏡を取り出して自分の顔を映し、絶句してしまった。左右の頬っぺたに古代文字のような物が書かれている。
しかも、おそらく鋭利な物で書かれたらしく、俺の血そのもので書かれているのだ。
だが、普通なら眠っているうちに血文字など崩れそうなモノだが、はっきり文字と解る形で残っている。
とりあえず顔を洗ってみると、血は取れたが薄っすらと古代文字のカタチにキズが残っていた。
「!」俺はふと思い立ち、勾玉の耳飾が入っている化粧箱を見た。開けた形跡は無い。そっと振ってみる。何か入っているが、
明らかに勾玉とは違う物の様だ。俺は化粧箱の包装を解いて、開けてみた。
そこには勾玉の耳飾は無く、代わりに長さ五寸は有る白い牙が入っていた。

二人してしばらく絶句していたが、ふっと神主さんが微笑んだ。
「おそらく、もうこれで問題無く蛇神様の奥宮の修繕は出来るでしょう。あなたがこの牙を持って工事に当たれば。」
「・・・そうでしょうか?」「ええ、間違いないと思います。それにしても、あなたは余程オオカミ様に気に入られたようですね。
もしかすると、イザナギの尊の生まれ変わりじゃないんですか?」「そんなバカな。もしそうならオオカミ様も気を使う必要は無いでしょう。」
「そりゃそうですね。」「なんにしろ、度胸一発、年明けから工事を始めて見ますよ。」「お気をつけて」
そして俺は道具を片付け、オオカミ様のお宮を後にした。鳥居を潜り、ふと振り向くと白いオオカミがお堂の前に座っている。
その両耳に勾玉の鈍い光を見つけ、俺はふ、と笑うと小さく「ナミさま、ありがとう。あと、工事の安全よろしく!」と呟いた。
俺のちょっと前を歩く神主さんが「なにか仰いましたか?」と聞いてくると同時に「わおおおおおーーーーーーん!」と澄んだ遠吠えが聞こえ、
驚いた神主さんは階段を踏み外し数段落っこちてしまった。

翌年明けから。
犬神様の神主さん、Jの実家の親父さん、例の稲荷神社の神主さんという異例の三社合同によりZ神社の修繕工事着工祈祷が行なわれ、
ウチの職人総出で道具と材料を奥宮へと運び込み、工事が開始された。親方と俺とJはレギュラーで仕事をし、
何人かの弟子が入れ代わりでやってくるのだが、その内S村の地元職人さんが無償で手伝いに来るようになった。
また、近所の住人も差し入れを持ってきてくれたり、荷運びを手伝ってくれたりした。
「俺たちの村のお社を直すのを、アンタたちだけに苦労させるわけにはいかねえ」「昔の償いはしなきゃなぁ」
等と言う職人さん達にJが「今更何言ってんだか…」といやみを言いかけた所で親方に数メートルぶっ飛ばされるなどハプニングも有ったが、
結局怪我人は親方にぶっ飛ばされたJだけという状況で工事は無事終了。奉納と慰霊の儀も無事に終わり、打ち上げを迎えた。
S村の村長の計らいで、関係者が皆近所の温泉宿に招待され、大宴会となった。

その席で、何人もの職人さんや近所の人がが「でっけえ白犬を何度も見掛けた。」「おお、耳飾なんぞした洒落た犬だったな」
「大きな尻尾の狐もいたよな。」「子犬が二匹、コロコロウロウロしてて可愛かったなあ」等と盛り上がっているのを聞きつつ、
俺と親方と犬神様の神主さんは酒を酌み交わしていた。ふと見ると、末席にしょぼんと座っているJがいる。
こっちに呼び、酒を飲ませながら「親方に怒られたからって何時までもくよくよすんなよ。」と慰めると、

「ええ…それも有りますが、実は昨夜夢を見たんです…。」「お、またか。どんな夢だ?」
「昔話した夢で、巫女さんに踏んづけられてた切れ長の眼のおねえさんが僕に馬乗りになってビビビビと往復ビンタするんです…」
俺と親方と神主さんはブハッと酒を噴出した。「周りには小さな女の子が二人いて、僕に バーカ、とか恥かし~とか罵声を浴びせて…」
親方は相当ツボに入ったらしく、すげぇ勢いで咽ながら涙を流して笑っている。
「極めつけは、あの時の巫女さんがニコニコしながら僕の首をきゅうっと絞め、

こ ん ど ○ ○ 様 を 困 ら せ た ら と て も 良 い 所 に お 連 れ し て 差 し 上 げ ま す わ

って優しく言うんです…それで、朝起きたら…夜尿、してました…..」
「そ…そこっ!多分っ!黄泉っ!比良坂っっ!!」神主さんが痙攣しながら叫ぶ。
大笑いしている親方と神主さんを見つつ、俺はペンダントにした白い牙を撫ぜながら
「ナミ様、なんで俺の夢にはちゃんと出てこないんだよ…」と不満を漏らし、徳利に直接口を付け一気に酒を飲み干した。
蛇神様の神社

塞がれた部屋

これは2年前、当時、中学3年生だった時の出来事
父親の仕事の関係で茨城にある筑波市という所に引っ越した
正直3年生のこの時期に転校なんて最悪だと思っていたけど
仕事では仕方ないと半分気分は落ち込んでいた
そんな俺の気分を更に落としたのがボロクソな引越し先の家
初めて訪れた時は長い掃除の幕開けと覚悟をした
庭はお菓子やら何かの袋のゴミが散乱していて酷い状況だった
更に驚いたのが庭に面している家の窓ガラスが割れていたこと
おいおい、ここの管理者は何してるんだと溜め息が出た

しばらく庭を見ていると2階から父親の声がした
父親「おーい和也(俺の名前)車からゴミ袋持って2階に来てくれ」
そう言われてゴミ袋を持って玄関へと入る
入った瞬間感じたことだけど、この家・・・あまり好きになれない
もう直ぐ昼になるってのに家の中は薄暗かった
それ以前に雰囲気的に嫌な感じがしていた
玄関から正面は階段になっていた、廊下を真っ直ぐ進んだところには台所とリビング
もう一つは居間のようだ

2階では母親と父親それと弟がかたずけてるのかガサガサと音が聞こえていた
ちなみに俺の家庭は4人家族だ
2階に上げって行くと3人でかたずけをしていた
父親「よし、徹底的に綺麗にすんぞ、お前もやれよ」
嫌な顔をしながら下に落ちているゴミをかたずける、しかし本当に汚い
以前住んでたやつだろうけどよくこんなにも汚せたもんだ
冷凍食品の袋やらカビの生えたうまい棒らしきお菓子
本当に最悪だ

ゴミを拾いながら進んでいくと突き当たりに着いた
ん?左の壁に目を向けると壁の1ッ箇所に異様なまでにガムテープが貼られていた
壁は壁なのだが辺りの壁と見比べると色が白い
というか部屋なのか?
白い部分はまるで扉がそこにあったかのように形作られていた
間取りから見てもそこは部屋がある場所と一致している

何で扉の部分を埋めてしまっているのだろうか?
俺「ねえ何でここ入れないようになってんだ?」
俺が問いかけると父親が来た
父親「なんだこりゃ?まいったな~こんな話聞いてないよ」と父親はブツブツ言いながら携帯を
取り出して階段を下りていった

父親が下りていって直ぐ弟が来た
弟「どうかしたの?」
俺「ここの部屋、扉が塞がってんだよ」
弟「え?これ扉なの?すげー」
弟は珍しい物を触るかのように壁を触っている、すると弟が壁の真ん中のガムテープへと目を移す
弟「なあ兄貴、ここに貼ってあるガムテ緩くね?」

マジで?とガムテープの部分を触ると少し凹んだ
俺「もしかしてこの部分壁になってないのかもな」
弟「剥がしてみっか」
弟は壁に貼ってあるガムテープを勢い良く剥がそうとしたが滅茶苦茶に貼られてるせいか
少し剥がれて途中で切れてしまった
だけど剥がした部分に少しだけ穴が見えた、どうやら本当に壁にはなっていなくて
ガムテープで穴を塞いでるようだ

穴を見た弟はもう一息とばかりに残りのガムテープを引き剥がす
小さく露出していた穴はどんどん広がっていき全てのガムテープを剥がし終えた時には
直径50cm程の穴が姿を現していた
弟「なんだここだけ入れるようになってるじゃん、中どうなってんだろ」
穴の中を覗く弟
弟「うわ~すっげー真っ暗だ何も見えない」

俺「窓から光差し込んでないのか?」
俺は弟をどかし中を覗く、中はたしかに真っ暗だった1つの光もなくただ暗闇だけが中に広がっていた
そこへさっき下りていった父親とこの家の管理人がやってきた
父親「お前達なにしてるんだ、何だこの穴?」
弟「ガムテ付いてたから剥がしたら穴が開いてたんだよ」
父親「なんだ穴まで開いてるのか・・・柳さん(管理人の苗字)これ事前に話してくれないと
困りますよ」
柳「ほ・・本当に申し訳ないです・・・・・・・」
・・・・・・・
柳さんは謝ったあとすんなり黙ってしまった、妙なことに穴の方を見ようとしてない
表情からは怯えてるようにさえ見えた
柳「あ、ああのこの部屋の対処を考えたいので下に移ってもらってもいいですか?
詳しいことは下でお話します」
父親「そうですね、このままじゃ困りますし部屋が使えないんじゃ不便ですし」
そう言って2人は1階に下りて行った

俺は気になる事があったから1階に下り外に出た、気になるのはさっきの塞がれてた部屋の
窓側だ部屋があると思われる外側に行ってみたが不思議なことに部屋の窓のような
部分は見当たらなかった
だけど窓があったと思われる箇所はあった、あそこも塞がれてるのか周りの白黒い壁と違って
白い色がはっきりとしていた
5分くらい経って玄関から柳さんと父親、母親が出てきた
柳「本当に申し訳ありませんでした、工事はこちらで頼みますので日程が決まり次第
報告いたします、では失礼します」
父親・母親「お気をつけて」
俺「話ついたの?」
父親「ああ、とりあえずあの壁壊して部屋を普通に使えるようにしてくれるってさ
費用も向こうが負担してくれるし、まあ言うことなしだな」

弟「うわああああ!」
ドタドタドタドタ
突然弟が叫びながら階段を物凄い勢いで下りてきた
母親「ちょっとなに?大声なんか出して」
父親「おい!周りに迷惑だろ」
弟「2階の真っ暗な部屋・・・何かいる・・・」
弟は怯えた顔でそう言った
弟「中に入ろうとして顔を中に入れたんだ、そしたら奥の方からなんか這いずるような音が聞こえて
なんだろうと思ってしばらく聞いてたんだけどなんか変で・・・」
母親「ねずみか何かじゃないの?そんなに怯えるようなことじゃないでしょ」
弟「違うんだよ!ねずみとか動物とかそんなんじゃない、なんかを引きずってるような音なんだよ」
母親「大き目の動物が迷い込んだのかもね、それとあの穴塞いでおかないと、あなたお願いね」
父親「わかった、まあ気にすんな大きなねずみが住み着いてんだろ」
弟「・・・・・・」
弟はもう話しても無駄だなと言わんばかりに車の中へと閉じこもってしまった

俺は興味が沸いたので懐中電灯を持って2階へと行って穴の中を覗いて見た
一筋の光が真っ暗だった部屋の中を薄く照らす
中は荷物やダンボールの箱でいっぱいだった
耳を澄ましてみるが弟の聞いたような引きずる音は聞こえなかった
・・・・・
こうしていると不気味な気分になってくる、2階には自分しかいないことを思いだす
途端に寒気がした
階段から父親が上がってきた
父親「何してんだ?」
俺「ちょっとねずみ見てみようかと思ってね」
父親「中はどんな感じだ?」
俺「普通、物置みたいな感じだったよ」
父親「ってことは工事が来たら荷物の処分もしなきゃ駄目か、はぁ・・大変だな
しかしなんだって前の人はこんな風にしちまったのか、窓や出入り口まで
塞いじまうなんてな」

たしかな疑問だ、物置なら物置でそのままにしておけば良いのにわざわざ塞ぐ理由がわからない
部屋が1つ多いぐらいで別に困ることもないと思うんだが
そんなことを考えてる内に父親は壁の穴を布とテープで塞いでいた
塞ぎ終えると父親は1階へと下りていった
俺も1階へ行こうとした時穴の方を無意識にチラ見してしまった
あれ?・・・・なんか変だ
布の部分が膨らんでる?父親は真っ直ぐピンと張っていたはず
かすかに動いてるようにも見える・・・・
全身に鳥肌が立ち始める・・・何かが・・何かがまるで穴から出ようとしているみたいだ
俺は怖くなって急いで1階へと下りた

リビングへ向かうとだいぶかたずいていた
そこで部屋を決めることになった
話し合いの結果父親と母親が1階の居間、俺と弟が2階の部屋となった
本来なら2階に2部屋の予定で俺と弟は別々の部屋の予定だったが
もう一つの部屋があの状態なので工事が来るまでの間我慢ということになった
しかし弟が2階は絶対嫌だと言って聞かないのだ
あまりにも拒否するので仕方なく2階のもう一つの部屋が空くまでリビングが弟の仮部屋となった
俺とはそんなに嫌なのかとも思ったが聞いたところ昼の一件で2階が怖くなったとのこと
小学5年にもなって何を言ってるんだとも思ったが弟の気持ちはわからなくもない
俺も昼間のあれは流石に見間違いと思いたくなるほどだ
そう考えた途端また2階へあがるのが怖くなっていた

俺まで文句を言っていては仕方ないので部屋の荷物をかたずけるため2階へと向かう
しかし夕方になると2階がとてつもなく暗く感じる、階段の下で見上げて見るが
凄く怖い
今にも上から幽霊とかが下りてきそうだ
俺は一段ずつ階段を上っていく、しだいにあの穴が見えてきて俺は確認してみた
やはり膨らんでいない、じゃあさっき見たのは気のせいなのか?
気にしないでおこう、きっと引越しで疲れてるのかもしれない
俺は恐怖を紛らわすために無理矢理そう思い込むことにした
俺の部屋の整理が終わって俺はベッドに寝転がった
疲れていたせいもあって俺はそのまま寝てしまった
ザザザザ・・・ッゴ ザザザザ・・・・ッゴ

浅い眠りのなか廊下の方からの音に気づいた
目を覚まして時計を確認すると18時を過ぎていた、部屋が真っ暗でそれに廊下からの音にビビって
俺は急いで部屋の電気を点ける
ザザザザ・・・ッゴ
音はまだしている、廊下のドア越しに耳をつけるとやはり廊下の奥の方で音がしてるようだ
距離からすると恐らくあの穴の開いてる場所付近だ

ザザザザ・・ッゴ
引きずってる?いや、何か引っ掻いてる音な気がする
弟が言っていたのはこのことなんだろうか?
2分ぐらいして別の音が入った

キ・・キキ・・プツッ・・・
そんな感じの音が混じってきている
俺は怖かった、なんせこの音を出しているのは家族の誰でもないとなんとなく察していたから
プツプツッ・・・
もしかして!?
俺は一気に冷や汗をかいた、なんとなく音の正体がわかった気がした
テープだ、テープが壁から剥がれる音
得たいの知れない何かはテープを剥がしてる
それから恐怖の時間が始まった、俺は部屋からも出られない状況に陥っている
家族はたぶん1階にいるだろうけど恐らく上がってこないだろう
俺はとても恐怖した、どうすれば良いのかがわからない
ただじっとその音を聞くしかなかった

そして最悪な恐怖が俺を襲った
バサッ
何かが床に落ちた音それも薄く軽い物が、たぶん壁に貼ってあった布が落ちたのだろう
ギギ・・・ギィ・・
床がきしむ音とサーという這うような音が聞こえてきた
言い知れない恐怖が全身を包み込む
目には涙が溜まっていた、こんな経験は初めてだったからそれにそれが得たいの知れない何か
という現実が更に恐怖を煽っていた
そいつの這う音は着実にこちらに近づいていた
俺はある決断をする、それは大声を出すことだ、大声をだせば1階にいる家族が気づいて
2階に上げって来てくれると思ったからだ

いざ声を出そうとしたが果たして1階に家族がいるのか不安になってきた
もし出かけてていなかったら?その場合俺は今廊下にいる何かに自分の居場所を教えるような
ものではないだろうか
いやもしかしたら既に相手にはわかってるのかもしれないが・・・
もうなりふり構ってなれなかった俺は渾身の叫び声で「うおおおおおおおおおお!!!」
と叫び続けた
廊下の音も聞こえないぐらいの声が家中に響く、肺の中の酸素をこれでもかというぐらい使い切り
俺は叫んだ

息があがっていた、叫びが止んで廊下に耳を澄ますと音はしてなかった
そこへ階段を上がる音が聞こえてくる
俺はその音だけで安心していた
ガチャと扉が開きそこには怒っている父親が立っていた

父親「おまえ何時だと思ってるんだ近所に迷惑だろ」と頭をガツンと叩かれた
だがそんな父親の怒りより俺には廊下の音の方が怖かった
父親と一緒に1階へと下りる最中、ふと穴の方へと目がいった
布が取れていた、俺は父親に布が取れていることを伝えると父親は「あれ?何でだ?」と言いながら
布を貼り直した
やっぱり何かが出てきたことを俺は確信した、この家には何かいるのかもしれないと思い始めた
晩ご飯の最中俺はさっきの出来事を話してみた、だけど父親や母親は冗談だと思ってるらしく
ただ笑っているだけだった
だが唯一、弟だけは聞きたくもないかのように顔を下に向けている
俺は昼のことが気になった弟は音が聞こえただけにしては凄く怯えてるようだったからだ

晩ご飯が終わると俺は弟に昼に2階の穴で何があったのか聞いてみた
弟は嫌な顔をして話したくないの一点張りだったが俺がしつこく聞くと弟は重い口を開いて言った
弟「兄貴が1階に下りて行った後、俺さ穴の中に顔入れて中を確かめようとしたんだよ
中はもちろん真っ暗で何も見えなかったんだけどさ次第に奥から音が聞こえ初めてさ
俺も最初はネズミか何か動物かと思ったんだけど何て言うかそんな感じじゃないんだよね
それでしばらく聞いてたんだけど廊下の薄明かりで見える範囲に突然・・・・」
弟はそこで黙ってしまった、俺は突然なんだよと聞くと
弟「・・・・手らしき物が見えたんだ・・・・・それで怖くなって急いで下りてきたってわけ・・・」
俺はかける言葉もなかった、いや言葉が出てこない
そんな話を聞いてしまった俺はさすがに夜は部屋に戻る気にはなれなかった
親を説得して弟と同じリビングで寝かせてもらうことにした
正直その夜はぐっすり眠れなかった今も2階で得たいの知れない何かが潜んでると思うだけで
これからの家での生活が憂鬱になった

次の日朝ご飯を食べ終え俺は学校へ行く準備をしなければならなかった
今日は転校初日で大事な日、父親も車で一緒に行くことになってる
いざ準備をしようとして俺は気づいた制服も鞄も部屋にあることを
俺はどうしようかと迷ったが恥を承知で弟に怖いから一緒に来てくれと頼んだ
弟は仕方ないとばかりに俺の後をついてきてくれた
階段を上がり穴の方を見てみる・・・布が落ちてる
もしかしたら父親が貼り直したのが弱かったのかもしれないが俺は何かがまた出てきたんだなと思っていた
穴を見た弟は怯えていた、俺は直ぐに部屋へと入り必要な物をまとめてリビングに置くことにした

その日は無事に学校も終わり俺は地図片手に家へ帰ってきた
玄関に入ろうとしたが鍵がかかっている
もしかして誰もいないのかなと気分が暗くなった
母親はたぶん弟の向かいに行っているのかも

仕方ないと合鍵で玄関を開く、家の中は静まり返っていた
俺は急いでリビングにいき電気を点けるテレビをONにし音量をなるべく上げた
2階へはまったく行く気がしなかった、もしかして今も2階のあの穴の部屋に何かがいるのだろうか?
それで俺の帰ったのを知ってるのか
そう考え始めるとどうにも恐怖に負けてしまう、ソファーに座りテレビを見ていると
眠気が襲ってきた
俺は寝てれば時間が過ぎてそのうち親も帰ってくるだろうと寝ることにする
もちろん静かなのは嫌なのでテレビは点けっ放しだ

ガン!
その音で俺は目を覚ました
・・・・・・・
辺りは真っ暗だった点いていたテレビも何故か消えている
俺「お母さん?・・・」

一言そうつぶやいた、あまりにも小さい声で、どうやら家族はまだ帰っていないらしい
窓から入る薄明かりを頼りにテレビのリモコンを取るが電源が点かない
どうやら停電のようだ、でも妙だ、周りの家は停電してるわけではなかった
俺の家だけ?と疑問に思いながらさっきのガンと言う音はブレーカーの落ちた音だと理解した
しかしブレーカーが落ちるほどの電気は使っていないと思っていたんだが
故障かなにかだろうか
このままでも仕方ないのでとりあえず玄関にあるブレーカーを見に行くことにした
それに真っ暗なままでは怖すぎる
リビングを抜け廊下へと出る

廊下はかなり暗かった・・・・・何より怖いのが玄関に行く途中に2階への階段があること
俺は音を立てないようにゆっくりと足を踏みしめる
ゴッ

俺「!?」
俺は一瞬びくっとなった、足が廊下に置いてあった荷物に当たったのだ
・・・・・・・
嫌な静けさが俺を包む、ようやくブレーカーの所まで辿り着く
スイッチを上に上げるが・・・まったく点かない、俺は完全に混乱した
なんで点かないんだ?
ズズズ・・・
その時上の方で小さく音がした聞き覚えのある音
ギィ・・・ ギィ・・ザザザ・
何かが這う音と這いずるような音・・・
それは確実に上から聞こえる音だった、あの穴だ
俺はもう動けなかった何故か座り込んでしまってまったく動く気になれない

ぺタ・・・ぺタ・・
音が近づいてくる、なんとなくだけど階段を下りてるような気がした
・・・・・・・・
俺はただひたすら階段の方を見ていたというか見るしかできなかった
足や歯がガクガク震える
ぺタ・・・
階段の5段目ぐらいに何か黒い物体のような物が見えてきた
そいつは人なのかわからないが手のような物がたしかにあった
俺の目は焦点を合わせられなくなっていた目が回る・・・吐き気も・・・
心臓がバクバクと・・・・

そこで俺の記憶は途切れた
目が覚めたとき俺は2階の部屋で寝ていた
夢だったのか?それならそれでありがたいと思った
部屋の外ではないか機械音がしている、部屋を出ると穴のあの壁を工事業者の人達が壊していた
何か俺の中でものすごく安心したのを覚えている

家族に話を聞いたところ俺は玄関の所で倒れていたらしい
見つけたのは母親でびっくりした母親が救急車を呼んだらしいが別に俺に何の異常もなかったようだ
父親もその後急いで帰ってきてくれたらしく部屋に運んだのは父親だそうだ
その後いろいろと昨日のことを聞かれたが俺は話す気にはなれなかった

穴の部屋は壁が壊され窓の方も塞がっていた壁を取り壊し光が差し込むようになっていた
部屋の中は子供用の玩具や絵本が散乱していた
どうやら子供部屋だった感じみたいだ
部屋を改装してからは不思議とあの音は聞こえなくなっていた
弟もすっかり平気になったみたいで俺と一緒の部屋で寝るようになった
だけど改装したとはいえあの部屋を使う気にはなれなかった
俺が中学を卒業すると同時にあの家を引っ越した
けっきょくあれが何だったのかは今となってはわからない
塞がれた部屋

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2019年03月14日