突然ですが、最終号です。
ありがとうございました。
『さぶ』
虚空遍歴
金でも物でも、使えば減るか無くなってしまう、形のある物はいつか必ず無くなってしまうのだ。大切なのは減りもせず無くすこともできないものだ。人によってそれぞれ違うけれど、みつけようとすれば誰にでも、一つだけはそういうものがある筈だ。
『虚空遍歴』山本周五郎
蟹工船
俺達には、俺達しか、味方が無えんだな。始めて分った
『蟹工船』小林多喜二
風立ちぬ
幸福の思い出ほど幸福を妨げるものはない
『風立ちぬ』堀辰雄
青梅雨(あおつゆ)
この姿と気勢は今夜のこの家にとって、一番ふさわしくないものであった。
『青梅雨』永井龍男
桜の森の満開の下
桜の森の満開の下の秘密は誰にも今も分りません。あるいは「孤独」というものであったかも知れません。なぜなら、男はもはや孤独を怖れる必要がなかったのです。彼自らが孤独自体でありました。
『桜の森の満開の下』坂口安吾
堕落論
堕ちたな(確信)
『堕落論』
本覺坊遺文(ほんがくぼういぶん)
無ではなくならん。死ではなくなる!
『本覺坊遺文』井上靖
満願(まんがん)
ふと顔をあげると、すぐ眼のまえの小道を、簡単服を着た清潔な姿が、さっさっと飛ぶようにして歩いていった。白いパラソルをくるくるっとまわした。
『満願』太宰治
駆込み訴え
いずれは殺されるお方にちがいない。またあの人だって、無理に自分を殺させるように仕向けているみたいな様子が、ちらちら見える。私の手で殺してあげる。他人の手で殺させたくはない。あの人を殺して私も死ぬ。
『駆込み訴え』太宰治
走れメロス
私を殴れ。ちから一杯に頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。
『走れメロス』太宰治
きりぎりす
私は、あなたを、この世で立身なさるおかたとは思わなかったのです。死ぬまで貧乏で、わがまま勝手な画ばかり描いて、世の中の人みんなに嘲笑せられて、けれども平気で誰にも頭を下げず、たまには好きなお酒を飲んで一生、俗世間に汚されずに過して行くお方だとばかり思って居りました。
『きりぎりす』太宰治
散華(さんげ)
人間は真面目でなければいけないが、しかし、にやにや笑っているからといってその人を不真面目ときめてしまうのも間違いだ。
『散華』太宰治
人間失格
恥の多い生涯を送って来ました。
『人間失格』太宰治
山月記(さんげつき)
時に、残月、光冷ややかに、白露は地に滋げく、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖を嘆じた。
『山月記』中島敦
弟子
濁世のあらゆる侵害からこの人を守る楯となること。精神的には導かれ守られる代りに、世俗的な煩労汚辱を一切己が身に引受けること。
『弟子』中島敦
恋する乙女とほもの楯 〜薔薇の聖父〜
一夜、「いい世!来い世!」と独言に田所が呟くのを聞いた時、遠野は思わず涙の溢れて来るのを禁じ得なかった。田所が嘆じたのは天下蒼生のためだったが、遠野の泣いたのは天下のためではなく田所一人のためである。
『恋する乙女とほもの楯 〜薔薇の聖父〜』
俘虜記(ふりょき)
私はここに、人類愛のごとき観念的愛情を仮定する必要を感じない。その広さにくらべて私の精神は狭すぎ、その薄さからみれば私の心臓は温かすぎるのを私は知っている。
『俘虜記』大岡昇平
夫婦善哉(めおとぜんざい)
自由軒のラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょうま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい
『夫婦善哉』織田作之助
子午線の祀り
天と地のあいだにはな、民部よ、われら人間の頭では計り切れぬ多くのことがあるらしいぞ。
『子午線の祀り』木下順二
甲賀忍法帖(こうがにんぽうちょう)
かつて恋しあったというこのふたりの老忍者の魂は、鎌のような弦月のうかんだ夜空で、いまそのからだとおなじように抱きあっているのか。いいや、おそらくは現世のみならず、魔天にあっても永劫の修羅の争いをつづけているであろう。
『甲賀忍法帖』山田風太郎
竜馬がゆく
洪水を一人でせきとめて別の方向に流してしまうことが、人間、できるものかどうか
『竜馬がゆく』司馬遼太郎
燃えよ剣
時勢などは問題ではない。勝敗も論外である。男は、自分が考えている美しさのために殉ずべきだ
『燃えよ剣』司馬遼太郎
坂の上の雲
男子は生涯一事をなせば足る
『坂の上の雲』司馬遼太郎
世に棲む日日
この若者は、つねに失敗をするために懸命の努力をしている。
が、ときに小さな幸運もおとずれる。
『世に棲む日日』司馬遼太郎
花神(かしん)
一世をうごかすには、人気が必要であるであろう。が、同時に一世をうごかすには、まったくひとから黙殺されているという在り方も必要であるかもしれない。
『花神』司馬遼太郎
仮面の告白
彼は雪に濡れた革手袋をいきなり私のほてっている頬に押しあてた。私は身をよけた。頬になまなましい肉感が燃え上がり、烙印のように残った。私は自分が非常に澄んだ目をして彼を見つめていると感じた。
『仮面の告白』三島由紀夫
潮騒(しおさい)
二人は永く祈った、そして一度も神々を疑わなかったことに、神々の加護を感じた
『潮騒』三島由紀夫
金閣寺
私は金閣がその美をいつはつて、何か別のものに化けてゐるのではないかと思つた。美が自分を護るために、人の目をたぶらかすといふことはありうることである。
『金閣寺』三島由紀夫