茶漬三略
秘密を知っているということは恐い。その秘密が大きいほど恐ろしさも大きい。
#茶漬三略 #吉川英治
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茶わんの湯
ここに茶わんが一つあります。中には熱い湯がいっぱいはいっております。ただそれだけではなんのおもしろみもなく不思議もないようですが、よく気をつけて見ていると、だんだんにいろいろの微細なことが目につき、さまざまの疑問が起こって来るはずです。ただ一ぱいのこの湯でも、自然の現象を観察し研究することの好きな人には、なかなかおもしろい見物です。
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茶碗の曲線
もう二十年以上も昔の話であるが、考古学を専攻していた私の弟が、東大の人類学教室で、土器の研究をしていたことがある。
その頃は、まだ今日のように、土器の型式による分類などは、ほとんど出来ていなかった。弟はその分類の仕事にとりかかって、何か科学的な分類法がないかと、いろいろ考えていた。
#茶碗の曲線 #中谷宇吉郎
科学の発達は、原子爆弾や水素爆弾を作る。それで何百万人とかいう無辜の人間が殺されるようなことが、もし将来この地球上に起ったと仮定した場合、それは政治の責任で、科学の責任ではないという人もあろう。しかし私は、それは科学の責任だと思う。作らなければ、決して使えないからである。
#茶碗の曲線 #中谷宇吉郎
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茶屋知らず物語
あの老僧たちは何という腕のある人達だろう。たった一時にしろ、あんなに人をしみじみした気持ちにさしてさ。私たちは幾つかの恋愛をしたけれども、どんな恋人からもあんな気持ちにさせられた事は一遍も無かった
#茶屋知らず物語 #岡本かの子
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お茶の湯満腹談
座敷に上るとやはり万事が同じ調子で出来ている。炉の縁から自在鍵。シンシンと鳴る茶釜。古い手桶の火鉢。ヒネクレた瀬戸物の灰落しまで、何が何やらわからなくて仕合わせ。一々鑑定が出来たら肝を潰すであろう。頼うだ御方はしきりに質問しては感心して御座るが、その説明を聞いても格別わからないのだから少々情ないような気にもなった。
#お茶の湯満腹談 #夢野久作
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茶美生活
およそ茶に関係のあるものにして、切り離すべからざるものに、家屋があり、庭園があり、書画道具の類があり、いずれ一つとして、三百年前に見立てられた美術思想、それを命とせざるものは、まずないのである。これらを研究し、それを理解すべく努力し、古人の源意を洞察し、終に古人に学ぶところ多しと、われを捨て茶事の功徳にぬかずくまでに至ってこそ、開眼の念願は達し得られるのである。
#茶美生活 #北大路魯山人
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お茶漬けの味
美味い料理は長年続けての習慣がつかなければ、美味いと分るものではない。それが分るようになるためには、相当の費用もかかる。しかし、だからと言って、費用をかけたから食物の美味さが誰にも分るとはかぎらない。食通と言われる人でも、種々の段階があるくらいだから、一般ではなおさらである。結局、これは書画の場合と同じように、分る人のみに分るのであろう。
#お茶漬けの味 #北大路魯山人
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ロボット
全世界のロボットたちよ、全人類を殲滅せんことを命令する。男であれ、女であれ、容赦するな。工場、鉄道、機械、鉱山、原材料は保存せよ。それ以外はすべて破壊せよ。その後、労働に戻れ。労働を絶やしてはならない。
#カレル・チャペック #ロボット
山椒魚
山椒魚は悲しんだ。
彼は彼の棲家である岩屋から外へ出てみようとしたのであるが、頭が出口につかへて外に出ることができなかつたのである。今は最早、彼にとつては永遠の棲家である岩屋は、出入口のところがそんなに狭かつた。そして、ほの暗かつた。
#山椒魚 #井伏鱒二
茶の湯の手帳
茶の湯の趣味を、真に共に楽むべき友人が、只の一人でもよいからほしい、絵を楽む人歌を楽む人俳句を楽む人、其他種々なことを楽む人、世間にいくらでもあるが、真に茶を楽む人は実に少ない。絵や歌や俳句やで友を得るは何でもないが、茶の同趣味者に至っては遂に一人を得るに六つかしい。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000058/card46341.html
予を以て見れば、現時上流社会堕落の原因は、幸福娯楽、人間総ての要求は、力殊に金銭の力を以て満足せらるるものと、浅薄な誤信普及の結果である。
#茶の湯の手帳 #伊藤左千夫
秀吉と利休
廻転する独楽は、軸が触れている一点を瞬間たりともはずれない。
#秀吉と利休 #野上弥生子
バルトン研究会@369halfmoonst

本覺坊遺文
その約束も、言葉などによってではなく、それぞれの心の中で、一言も発することなく、ひっそりとお誓いが成立したのであろう。もしかしたら、お三人の運命がふと寄り添い、すべてはその瞬間に決まってしまったことかも知れない。
#本覺坊遺文 #井上靖
美しい日本の私
私の小説『千羽鶴』は、日本の茶の心と形の美しさを書いたと読まれるのは誤りで、今の世間に俗悪となった茶、それに疑いと警めを向けた、むしろ否定の作品なのです。
#美しい日本の私 #川端康成
茶の本
一体芸術家といふものは、美しい山と美しい女とがあるとさへ言つたら、監獄のなかへでものこ/\蹤いて来るものなので、この二人の画家がそれがために伯耆くんだりまで往つたところで、少しも咎める事はない。
#茶話 #薄田泣菫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000150/card46596.html
音楽は最高の芸術であるが、その音楽の批評家となるには、二つの資格が要る。一つには音楽が解つてはならない事、二つには解らない癖にお喋舌をしたい事、この二つをさへ兼ねる事が出来たなら立派な音楽批評家となり得る。
#茶話 #薄田泣菫
利休と遠州
わしが賞めたのは、千金にも代へ難いその誇りと執着とを、茶器とともに叩き割つた持主のほがらかな心の持ち方ぢや。ただそれだけの話ぢや
#利休と遠州 #薄田泣菫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000150/card4351.html
茶立虫
何といふ微かな響でせう。「沈黙」そのものよりも、もつと静かで、もつと寂しいのはその声です。「静寂」そのものが、自分の寂しさに堪へられないで、そつと口のなかで呟やいたやうなのはその声です。女の涙、青白い月光の滴り、香ぐはしい花と花との私語。――さういつたもののなかで、茶立虫の声ほど、静かで寂しみのあるものは、またと外にはありますまい。
#茶立虫 #薄田泣菫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000150/card4893.html
雨の日に香を燻く
私は雨の日が好きです。それは晴れた日の快活さにも需めることの出来ない静かさが味ははれるからであります。毎日毎日降り続く梅雨の雨は、私のやうな病気勝ちな者にとつては、いくらか鬱陶し過ぎるやうですが、それすらある程度まで外界のうるささからのがれて、静かな心持をゆつくり味はふことが出来るのを喜ばずにはゐられません。
#雨の日に香を燻く #薄田泣菫
https://www.aozora.gr.jp/cards/000150/card804.html