【裁判傍聴記】心に響く刑事裁判①過失運転致傷

fukatsuchiaki

はじめに

刑事事件であれ、民事訴訟、行政訴訟、労働、知的財産…法分野は異なれど、基本的には対立軸。刑事事件の場合 検察官 対 被告人 。検察官は「犯行の悪質性や、より重い刑罰を」、被告人は「そもそも無実、事実だが諸事情がある、より軽い刑罰を」求めるのが多数だが、中には同じ方向を向いている裁判があります。

同じ方向を向いている刑事事件には、以下2種類に大別できます。

①薬物累犯や常習窃盗に多いのですが、被告人が事実を認めていて裁判や警察に慣れている。検察官も裁判官も含めルーティンとして行っているように見受けられるもの。

②相当な事情があり、検察官の追及が厳しくないもの。(被告人に有利な事情を汲もうとの心がうかがえるもの)

私は、後者の裁判は心に沁みます。

1.事件の概要

介護施設に勤務の女性が、足が不自由な認知症の利用者を自宅に車で送る最中に、
助手席に座っていた利用者がダッシュボードを蹴りだしたためそれを止めようと対応。
若干前方不注意になってしまい、前方に歩行者(車道を横切っていた)に気づき急ブレーキをかけたが間に合わず跳ねてしまった裁判。

介護施設に勤務の女性が、足が不自由な認知症の利用者を自宅に車で送る最中に、
助手席に座っていた利用者がダッシュボードを蹴りだしたためそれを止めようと対応。
若干前方不注意になってしまい、前方に歩行者(車道を横切っていた)に気づき急ブレーキをかけたが間に合わず跳ねてしまった裁判。

検察官の冒頭陳述で気になった点がいくつか。

①ディテールを述べられなかったこと

この事件では、被害者の氏名こそ述べられていたものの、原因の一つとなった利用者の氏名や当該介護施設の名称までも明言されず。
懲役刑・禁固刑という身体・自由を国家権力が奪う刑罰を科す手続きなので、5W1Hは相当明確にしないといけないと思われるのだが…
よって、性犯罪・ストーカー以外では基本詳細に述べられます。

余談ですが、ストーカーで「男性加害者・女性被害者」の場合は、被告人に対して「被害者の氏名、勤務先名、住所その他プライバシーに関すること」は絶対述べないようにと念押しされることもあります。逆に「女性加害者・男性被害者」の場合はバリバリ明言されてましたが…
出会いが「デリヘル」なんて男性被害者にとっては決して名誉にはならない…

他の裁判例①:自動車事故を装い、保険金を詐取しようとした事件の裁判
被告人らは、自動車事故を装い、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社から保険金を詐取しようと企て…損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社××営業所営業部長●●に対し申請し…損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社××センター審査課■■に見破られ…

「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険株式会社、以下『損保ジャパン』といいます」でいいような。

他の裁判例②:他人に譲渡する目的で銀行口座を開いた事件の裁判
被告人は、××銀行■■支店パート行員●●に対し、申込用紙を提出し…
14:20頃 パート行員●●から通帳とキャッシュカードの交付を受け…
14:40頃 正規男性行員▲▲からダイレクトバンキングのカードの交付を受け…

裁判官が検察官に「これは2つに分けたのは敢えてですか?2つの罪ということですか?一連の1つの犯罪だと思うのですが」と突っ込み
検察官が「いえ、より詳しく述べただけだと思料します。1つの罪です」
(注・捜査と公判は別の検察官が担当する)

くらいに詳しいケースもあり。

②被告人は、平成21年に準中型免許を交付され9年近い運転経験を有するが

あれ、準中型って2年くらい前に新設されたのでは??
その当時の「普通免許」所持者は準中型(5t限定)に見なされるから間違ってはいないのでしょうけど。でも、それなら「5トン限定」は省略してはならないと思います。単に「準中型」だと、現有の「普通免許」より運転できる車両の範囲が広がってしまいます。

昭和時代に普通免許を取った方のことを、「昭和●●年に中型免許を交付され」と言うと、ものすごく違和感を感じますが…

「平成21年に普通免許、平成29年改正法で限定付きの準中型とみなされたもの」がより正確かと。

2.情状証人

情状証人として母親が証言台に。それ自体はよくあることですが。

母親も介護職(ベテラン)当該女性とは別法人で勤務。

まず、弁護人が「娘さんが介護職を志した背景」を質問。

母親「①私が認知症の方々と関わっているのを小さい頃から傍で見ていたこと
②(女性からみて)祖父を自宅で看取ったことが決め手になったと思う」

次に弁護人が「それでは、今回の女性の対応について、一般的に『利用者を助手席に乗せる』のでしょうか?」

ここで裁判官

彼女(母親)は彼女の経験でしか答えられないから質問を変えてください。

彼女ならどう対応したか/彼女の勤務先ならどのような運用なのか

弁護人:それでは、あなたなら、利用者の方を助手席に座らせたか?あなたの勤務先ではどうか?

母親 :今回の利用者は要介護5の最重度であり、後部座席に座らせる。余程軽度でない限り助手席には座らせない。

弁護人:今回、娘さんは一人で対応されているが、それについては?

母親 :基本的には複数人で対応する。少なくとも私の勤務先ならそうする。

お母様…娘さんにとって不利な証言になっていません???ちょっと心配です。

そもそも母親は情状証人として来ているので、介護の「あるべき論」は関係省庁の役人とか福祉系大学の先生等を呼んで聞くべきでは。

次に検察官が母親に質問。
同じ状況に置かれた場合、あなたならどうしたか?

母親 :私なら、まず車を停車させた。

そう、この対応を取らなかったことが「過失」となってしまった。

3.本人尋問

①助手席に乗せた理由:
利用者は、車いす利用者であり回転座席になっているのは助手席のみであった。
力のある男性スタッフなら抱えて後部座席に乗せるのだが、私にはそこまでの力はなかったから。

②複数人で対応しなかった理由:
施設に人的余裕が無い為、複数人で対応できなかった。

私は、女性の置かれた状態に同情します。
人手不足の介護の世界で懸命に職務を遂行しようとした結果だと思う。

ただし、
①助手席は確かにギアやサイドブレーキにいたずらする恐れもあるから、後部座席が望ましいとは思うが、後部座席からもサイドブレーキ等にいたずらしたり、運転者の首絞めたり目隠ししたりの可能性はゼロではないので、やはり
②パトカーみたいに複数で対応する他ないと思います。
単独で送迎し、後部座席の利用者の異変に気付くのが遅れて云々責められる可能性があるのは理不尽すぎる。運転については相当な注意義務を課され、同時に同乗者の動向に注意義務を課されるなんてことはプロドライバーのバス、タクシーでもありえない。
運転者は運転に集中できるよう人員を確保するのが、事業主の責任かと。

この点、弁護人も検察官も「雇われの身である女性が勤務先に進言するのは難しい面もあった」と理解を示していました。

4.被害者への対応

女性と母親は、勤務先や保険会社の反対を振り切って被害者のもとに2回お見舞いに行ったとのこと。母親曰く「加害者の母親ということで、被害者から怒られたりあしらわれたりしてもおかしくないのに、被害者は認知症の影響もあり『あなたが来てくれてうれしい、今日は天気がいい、花がきれい、また来てね』と言ってくれたのがつらかった」とのこと。

この姿勢、素晴らしいし中々できる事ではありません。

方やサッカークラブで選手に一方的に怒り、重たい物品を投げつけ全治不能の重傷を負わせた(金づちが入っていたことも当初隠蔽)監督は、当初被害者側弁護士からの損害賠償の交渉のテーブルにつこうともしなかったとか…

5.まとめ

真面目な人間が損をする世の中ではあってはならないと思います。

この裁判、勤務先の上司や施設長、経営層は来ていないんですよ。
時間的に厳しいなら、書面で「自分らの対応に問題があったので、女性には寛大な処分をしてほしい、被害者には全面的にフォローしていくから」くらいの陳述があってしかるべきだと思うのですが。

母親は証人尋問の最後に「娘には、会社を辞めてほしい」と言っておられました。
(「介護職を」ではなく「当該勤務先を」という意味)

https://matome.naver.jp/odai/2155671689483112901
2019年05月01日