<閲覧注意>本当にあった怖い話「勧誘」「非常階段」「民宿のトイレ」

kent303
<閲覧注意>本当にあった怖い話「勧誘」「非常階段」「民宿のトイレ」についてまとめました。

勧誘

えーと、初めて書かせてもらいます。

自己紹介から始めると、30代前半の未来に絶望している派遣社員です。
東京にずっと住んでます。独身で、両親は死んでだいぶたちます。
妹と弟がいますが、もう既に離れて暮らしてます。

奇妙なのか分からないですが、僕の知り合いにお祓いの仕事をしている人がいる。
知り合いというか、最寄り駅の近くの立ち飲みで出会ったおばさん。
それが今から数えて7年前ぐらいかなと思う。

引越し立ての頃で、仕事帰りに一緒に飲む友達がいなくて、
気軽に入れそうな立ち飲み屋で飲むようになったのがきっかけ。
で、そのおばさん、俺を見るなり「ギャーッ」って叫び始めた。
実を言うと、結構慣れっこで、よく知らない人から叫ばれます。

叫ぶならいいんだけど、「あの人、怖いんです。捕まえてください」って通報されたこともあった。
なんで、またかよ…みたいな気持ちで無視してた。
けど、そのおばさんは今までの人と違って話しかけてきた。

「どこからきた?」「仕事はなにしてる?」「両親はなにしている?」
なんて、まるで尋問のように矢継ぎ早に質問された。
まぁ、こんなおばさんの友達も良いかと思って、質問に答えていた。

それからしばらくして、そのおばさんが「今度、あたしの店に来い!」って言いながら、
お店のカード?みたいなものを渡された。
まぁ、興味ないし、凄い上から目線で話されてムカツイていたから、直ぐ様そのカードは捨てた。

ところが、その後日、その立ち飲み屋でまた会ってしまい、その時は無理やり店に連れてかれた。
というのも、おばさん以外に痩せたおじさんと若い女がいて、ちょっと逃げれなかった。
ちなみに、おばさんはトキコさん、若い女はケイちゃん、おじさんはヤスオさんていう。

絶対、宗教の勧誘だよなぁ…そう思いながら、その3人の後ろに付いていった。
店に行くまで誰も喋らないもんだから、ケイちゃんに話しかけてみたら、
「ヒィぃいー」とかいって、会話ができなかった。
それからヤスオさんに、「ごめんな、君が怖いんだ」なんて言われたから、
なんか凄い悲しかったの覚えている。

で、店に着いた訳だが、だたの占いの館だった。
宗教の勧誘じゃなさそうだなと思い、「占いでもしてくれんのかな」と期待していた。
で、店に着くなりトキコさんが、
「あんた、私たちと仕事しないか?」って言われた。

「はぁ?」と言いながら聞いていたら、
なんでもその3人はお祓いを仕事にしているらしく、僕に付いてきて欲しいと言われた。
その当時は一応ある会社の社員だったので、「仕事あるんで、無理ですよ。」と断った。

でもそのおばさんは引き下がらず、
「土日のバイトだと思ってやってくれないか?」と頼まれた。
まぁ幽霊とか神様とかまるで信じないので、まぁいいかなぐらいでOKした。

早速、次の週末にお呼びがかかり、○○区のある一軒家に連れてかれた。
家からそう遠くは無いので自転車で待ち合わせ場所に行ったら、「徒歩で来い、アホ」と怒られた。
渋々、近くに自転車を止めて、その一軒家に入っていった。

入った途端、トキコさんと連れにケイちゃん(おじさんは都合が悪くて来なかった)が、
「あぁ、いますね、いますね」とか言い始めて、しかめっ面になった。
ただ、僕には何がいるかも分からなかった。普通の一軒家だと思った。
居間には中年夫婦がいて、僕らにお茶やらお菓子を出してくれた。
笑ってたけど、かなり引き攣ってたの覚えている。

しばらくするとトキコさんが、
「早速、始めましょう。その部屋に案内してください」といって立ち上がった。
何が始まるのかよく分からないまま、二階に案内された。

階段上がると左右に二部屋あって、その右側の部屋の扉の前で止まった。
扉にはアルファベットで『TAKAO』って書いてあった。
「ここです」
そう中年夫婦に言われた。

トキコさんとケイちゃんは、背負っていたリュックサックの中から塩を出して、
ペットボトルの水と振りかけ、両手にまぶした。
何が始まるんだろう?とか思いながら、俺も両手に塩まぶした方が良いのか聞いてみると、
「お前には必要ない。ただ言われたとおりにしろ」と言われた。
中年夫婦には、何があっても絶対に取り乱すなと注意をしたトキコさんは、扉を開け中に入った。

僕も後ろに続こうとした時、中から黒い影がトキコさんに覆いかぶさってきた。
TAKAOという中学生ぐらいの少年だったが、
異様に眼がギラギラして歯をむき出しにして、「ガジャガジャ、ガジャー!」みたいな事を叫んでた。

トキコさんの首に噛み付こうとしていたので、流石に僕もこりゃイカンと思い、
少年を引き剥がそうと彼に近寄った。
TAKAOくんは僕の顔を見るなり震え始め、ベッドの隅っこに逃げて身を丸めた。
「体のどこでもいいから、引っ叩け!」

トキコさんにそう怒鳴られた。
なので、悪いなぁとは思いながら、丸まってる背中を引っ叩いた。
そんなに強く叩いた覚えは無かったが、「うぎゃー!」とか言って、TAKAOくんは泡吹いて倒れた。

倒れているTAKAOくんを介抱しようと両親が近寄る。
そんな強く叩いてないよな、とか思いながら横目でトキコさんを見ていると、
「これでお祓いは終りました、もう大丈夫」
そう言った。たしかそう言ったと思う。

それから、TAKAO君をベッドに寝かして、中年夫婦にお礼を言われながら帰った。
なんでも、TAKAO君が大人しく寝たのは半年振りだったそうだ。
ちなみに、TAKAOくんの部屋は物凄い事になっていた。
物は多分危ないから片付けたのだと思うけど、壁という壁に切り傷や穴があった。

帰り道、あまりに意味がわからなかったので、
トキコさんに「意味がわかりません」と素直に言って、色々聞いてみた。
可哀想に、一緒に来ていたケイちゃんは、帰り道の途中でゲロを吐いていた。

「あんたは相当なモノをもってるね」
トキコさんにそう言われた。
初めはちんちんの事かと思ったが、そうではないらしい。
どうやら、言い方は宗教やお祓いの流派によって変わるらしいが、
『守護霊』や『気』なんて言われてるものらしい。

そんなに凄いのかと思って、「そんなに良いんですか?」と尋ね返すと、
「いや、逆だ。最悪なんだよ、あんたの持ってるもの」
そう言われた。
最悪じゃダメじゃないか、と思ってたので、
「最悪って、それじゃ駄目じゃないですか」と言うと、

「普通はな。だけどお前は普通じゃない。なんでそれで生きてられるのかおかしい」
トキコさんに言わせると、俺のもってる『モノ』ってのが、相当ひどいらしい。

実はケイちゃんがゲロを吐いたのも、俺がTAKAO君を叩いたときに祟られたらしい。
まぁ色々聞きたかったのだが、あまりにケイちゃんが気分が悪くなってしまったので、
トキコさんとケイちゃんは、先にタクシーで帰った。
僕は止めておいた自転車で帰った。

トキコさんのお店で、なんと10万円ももらえた。
本当はいくらもらってんだろう?そう思ったけど、
中学生の背中引っ叩いて10万円ならいいや、と思って喜んでた。

実を言うと、それから少しして僕は留学した。
その当時の仕事よりも、やりたい事があったのが理由だ。
まぁ結局3年前に戻ってきたものの、仕事がなくキャリアも無く、派遣をやりながら生活している。

3年前に帰国した後に、トキコさんにあった時に言われたのが、
「あんたのそれ、かなり逞しくなってるよ」
そう言われニヤっと笑われた。
なんでも、僕の『モノ』は異国の地でセイリョク
(精力、生力?どちらかわかりません)を養ったらしく、以前よりパワーアップしているらしい。
一応真面目に勉強してただけなんですけどね。

それから3年、お祓いのバイトをしている。
ただ、トキコさんやケイちゃん、ヤスオさんは、いわゆる霊感的なものがあるらしく、色々見えるらしい。
ところが、僕は本当に何も見えない。
なので、今でも引っ叩いたり話しかけたりするだけである。

残念なのは、今でもケイちゃんは仕事が終わるとゲロを吐く。
僕のせいなので、いつも申し訳ない気持ちで一杯になる。

で、明日も実は一個仕事が入り、終わったら風俗行こうと考えてます。あ、ちなみにドMです。
勧誘

非常階段

数年前、職場で体験した出来事です。
そのころ、ぼくの職場はトラブルつづきで、大変に荒れた雰囲気でした。
普通では考えられない発注ミスや、工場での人身事故があいつぎ、クレーム処理に追われていました。

朝出社して、夜中に退社するまで、電話に向かって頭を下げつづける日々です。
当然、ぼくだけでなく、他の同僚のストレスも溜まりまくっていました。

その日も、事務所のカギを閉めて、廊下に出たときには午前三時を回っていました。
O所長とN係長、二人の同僚とぼくをあわせて五人です。
みな疲労で青ざめた顔をして、黙りこくっていました。

ところが、その日は、さらに気を滅入らせるような出来事が待っていました。
廊下のエレベーターのボタンをいくら押しても、エレベーターが上がってこないのです。
なんでも、その夜だけエレベーターのメンテナンスのために、通電が止められたらしく、
ビル管理会社の手違いで、その通知がうちの事務所にだけ来ていなかったのでした。

これには、ぼくも含めて、全員が切れました。
ドアを叩く、蹴る、怒鳴り声をあげる。
まったく大人らしからぬ狼藉のあとで、みんなさらに疲弊してしまい、同僚のSなど、床に座りこむ始末でした。

「しょうがない、非常階段から、おりよう」
O所長が、やがて意を決したように口を開きました。
うちのビルは、基本的にエレベーター以外の移動手段がありません。
防災の目的でつくられた外付けの非常階段があるにはあるのですが、
浮浪者が侵入するのを防ぐため、内部から厳重にカギがかけられ、
滅多なことでは開けられることはありません。
ぼくもそのとき、はじめて階段につづく扉を開けることになったのです。

廊下のつきあたり、蛍光灯の明かりも届かない、薄暗さの極まった
あたりに、その扉はありました。非常口を表す緑の明かりが、ぼうっと輝いています。
オフィス街で働いたことのある方ならおわかりだと思いますが、
どんなに雑居ビルが密集して立っているような場所でも、
表路地からは見えない、「死角」のような空間があるものです。

街灯の明かりも届かず、鳩と鴉のねどこになっていました。
うちの事務所は、ビルの7Fにあります。
気乗りしない気分で、ぼくがまず、扉を開きました。

重い扉が開いたとたん、なんともいえない異臭が鼻をつき、ぼくは思わず咳き込みました。
階段の手すりや、スチールの踊り場が、まるで溶けた蝋のようなもので覆われていました。
そしてそこから凄まじくイヤな匂いが立ち上っているのです。

「鳩の糞だよ、これ……」
N女史が泣きそうな声でいいました。
ビルの裏側は、鳩の糞で覆い尽くされていました。
まともに鼻で呼吸をしていると、肺がつぶされそうです。
もはや、暗闇への恐怖も後回しで、ぼくはスチールの階段を降り始めました。

すぐ数メートル向こうには隣のビルの壁がある、まさに「谷間」のような場所です。
足元が暗いのももちろんですが、手すりが腰のあたりまでの高さしかなく、ものすごく危ない。
足を踏み外したら、落ちるならまだしも、壁にはさまって、宙吊りになるかもしれない……。

振り返って同僚たちをみると、みんな一様に暗い顔をしていました。
こんなついていないときに、微笑んでいられるヤツなんていないでしょう。
自分も同じ顔をしているのかと思うと、悲しくなりました。

かん、かん、かん……。
靴底が金属に当たる、乾いた靴音を響かせながら、ぼくたちは階段を下り始めました。

ぼくが先頭になって階段をおりました。
すぐ後ろにN女史、S、O所長、N係長の順番です。
足元にまったく光がないだけに、ゆっくりした足取りになります。
みんな疲れきって言葉もないまま、六階の踊り場を過ぎたあたりでした。

突然、背後からささやき声が聞こえたのです。
唸り声とか、うめき声とか、そんなものではありません。
よく、映画館なんかで隣の席の知り合いに話し掛けるときに、話しかけるときのような、
押し殺した小声で、ぼそぼそと誰かが喋っている。

そのときは、後ろの誰か――所長と係長あたり――が会話しているのかと思いました。
ですが、どうも様子がへんなのです。
ささやき声は一方的につづき、ぼくらが階段を降りているあいだもやむことがありません。
ところが、その呟きに対して、誰も返事をかえす様子がないのです。
そして……その声に耳を傾けているうちに、ぼくはだんだん背筋が寒くなるような感じになりました。

この声をぼくは知っている。係長や所長やSの声ではない。
でも、それが誰の声か思い出せないのです。
その声の、まるで念仏をとなえているかのような一定のリズム。
ぼそぼそとした陰気な中年男の声。確かに、よく知っている相手のような気がする。

でも……それは決して、夜の三時に暗い非常階段で会って楽しい人物でないことは確かです。
ぼくの心臓の鼓動はだんだん早くなってきました。
いちどだけ、足を止めて、うしろを振り返りました。
すぐ後ろにいるN女史が、きょとんとした顔をしています。
そのすぐ後ろにS。所長と係長の姿は、暗闇にまぎれて見えません。

ふたたび、階段を下りはじめたぼくは、知らないうちに足をはやめていました。
何度か、鳩の糞で足をすべらせ、あわてて手すりにしがみつくという危うい場面もありました。
が、とてもあの状況で、のんびり落ち着いていられるものではありません……。

五階を過ぎ、四階を過ぎました。そのあたりで……
背後から、信じられない物音が聞こえてきたのです。

笑い声。

さっきの人物の声ではありません。
さっきまで一緒にいた、N係長の声なのです。
超常現象とか、そういったものではありません。
なのに、その笑い声を聞いたとたん、
まるでバケツで水をかぶったように、どっと背中に汗が吹き出るのを感じました。

N係長は、こわもてで鳴る人物です。
すごく弁がたつし、切れ者の営業マンでなる人物なのですが、
事務所ではいつもぶすっとしていて、笑った顔なんて見たことがありません。

その係長が笑っている。それも……すごくニュアンスが伝えにくいのですが……
子供が笑っているような無邪気な笑い声なのです。
その合間に、さきほどの中年男が、ぼそぼそと語りかける声が聞こえました。

中年男の声はほそぼそとして、陰気で、とても楽しいことを喋っている雰囲気ではありません。
なのに、それに答える係長の声は、とても楽しそうなのです。
係長の笑い声と、中年男の囁き声がそのとき不意に途切れ、ぼくは思わず足を止めました。
笑いを含んだN係長の声が、暗闇の中で異様なほどはっきり聞こえました。
「所長……」

「何?……さっきから、誰と話してるんだ?」
所長の声が答えます。

その呑気な声に、ぼくは歯噛みしたいほど悔しい思いをしました。
所長は状況をわかっていない。答えてはいけない。振り返ってもいけない。強く、そう思ったのです。
所長と、N係長はなにごとかぼそぼそと話し合いはじめました。

すぐうしろで、N女史がいらだって手すりをカンカンと叩くのが、やけにはっきりと聞こえました。
彼女もいらだっているのでしょう、ですが、ぼくと同じような恐怖を感じている雰囲気はありませんでした。

しばらく、ぼくらは階段の真ん中で、立ち止まっていました。
そして、震えながらわずかな時間を過ごしたあと、
ぼくはいちばん聞きたくない物音を耳にすることになったのです。
所長の笑い声。

なにか、楽しくて楽しくて仕方のないものを必死でこらえている、子供のような華やいだ笑い声。
「なぁ、Sくん……」
所長の明るい声が響きます。
「Nさんも、Tくんも、ちょっと……」
Tくんというのはぼくのことです。背後で、N女史が躊躇する気配がしました。
振り返ってはいけない。

警告の言葉は、乾いた喉の奥からどうしてもでてきません。
(振り返っちゃいけない、振り返っちゃいけない……)
胸の中でくりかえしながら、ぼくはゆっくりと足を踏み出しました。
甲高く響く靴音を、これほど恨めしく思ったことはありません。
背後で、N女史とSが何か相談しあっている気配があります。
もはやそちらに耳を傾ける余裕もなく、ぼくは階段をおりることに意識を集中しました。

ぼくの身体は隠しようがないほど震えていました。
同僚たちの……そして得体の知れない中年男のささやく声は背後に遠ざかっていきます。
四階を通り過ぎました……三階へ……足のすすみは劇的に遅い。
もはや、笑う膝をごまかしながら前へすすむことすら、やっとです。

三階を通り過ぎ、眼下に、真っ暗な闇の底……地面の気配がありました。
ほっとしたぼくは、さらに足をはやめました。
同僚たちを気遣う気持ちよりも、恐怖の方が先でした。

背後から近づいてくる気配に気づいたのはそのときでした。
複数の足音が……四人、五人?……足早に階段を降りてくる。
彼らは無口でした。何も言わず、ぼくの背中めがけて、一直線に階段をおりてくる。

ぼくは、悲鳴をあげるのをこらえながら、あわてて階段をおりました。
階段のつきあたりには、鉄柵で囲われたゴミの持ち出し口があり、
そこには簡単なナンバー鍵がかかっています。
気配は、すぐ真後ろにありました。振り返るのを必死でこらえながら、
ぼくは暗闇の中、わずかな指先の気配を頼りに、鍵をあけようとしました。

そのときです。
背後で、かすかな空気を流れを感じました。
すぅぅ……。
(何の音だろう?)

必死で、指先だけで鍵をあけようとしながら、ぼくは音の正体を頭の中でさぐりました
(とても背後を振り返る度胸はありませんでした)。

空気が、かすかに流れる音。
呼吸。
背後で、何人かの人間が、いっせいに、息を吸い込んだ。
そして……。

次の瞬間、ぼくのすぐ耳のうしろで、同僚たちが一斉に息を吐き出しました……
思いっきり明るい声とともに!
「なぁ、T、こっちむけよ! いいもんあるから」
「楽しいわよ、ね、Tくん、これがね……」
「Tくん、Tくん、Tくん、Tくん……」
「なぁ、悪いこといわんて、こっち向いてみ。楽しい」
「ふふふ……ねぇ、これ、これ、ほら」
悲鳴をこらえるのがやっとでした。

声は、どれもこれも、耳たぶのうしろ数センチのところから聞こえてきます。
なのに、誰もぼくの身体には触ろうとしないのです!
ただ言葉だけで……圧倒的に明るい、楽しそうな声だけで、必死でぼくを振り向かせようとするのです。

悲鳴が聞こえました。
誰が叫んでいるのかとよく耳をすませば、ぼくが叫んでいるのです。
背後の声は、だんだんと狂躁的になってきて、ほとんど意味のない、笑い声だけです。

そのときてのひらに、がちゃんと何かが落ちてきました。
重くて、冷たいものでした。
鍵です。ぼくは、知らないうちに鍵をあけていたのでした。

うれしいよりも先に、鳥肌のたつような気分でした。
やっと出られる。闇の中に手を伸ばし、鉄格子を押します。
ここをくぐれば、本の数メートル歩くだけで、表の道に出られる……。

一歩、足を踏み出した、そのとき。
背後の笑い声がぴたりと止まりました。
そして……最初に聞こえた中年男の声が、低い、はっきり通る
声で、ただ一声。

「 お  い 」
非常階段

民宿のトイレ

大学の友人と4人で海へ旅行へ行ったときの話。

いつも仲良かった4人で旅行ってことで、ずっと前から楽しみにしてた。
実際、行きの車中とかでもいつも通りの雑談が普段より楽しかったりして、
何かわけのわからない看板とか建物とか見るたびに笑い話にしたり。

んでそんなテンションだったから、着いた民宿がすげーオンボロだったときも逆に盛り上がったりした。
やべ、費用おさえすぎた!wwwみたいな感じで。女将さんらしきお婆ちゃんに案内されるときも
他の客や従業員は全然見なくて、こんなボロい民宿だからシーズンでも客いないんかなーと思った。

板張りの床はでかい音でギシギシなるし、部屋にトイレは無くて、廊下の共同便所だった。しかも和式。
上から釣り下がった裸電球は盛大に埃をかぶっていて、ちゃんと掃除しろよと毒づきたくなった。
まあトイレから少し離れた俺らの部屋は案外と小奇麗にしてあったし(当たり前のはずだけど)、
メインは昼間の海遊びだからまあいいか、みたいなノリになった。

んでとりあえず部屋に荷物置いて、早速、泳ぎに出た。
日が暮れるまで何だかんだと遊びまくって、素泊まりだったので外で飯を食って、
民宿に帰ったのは夜の9時頃だったと思う。

酒を飲みながらだらだらと話していたけど、昼間に泳ぎまくってたし移動の疲れもあって、
日付が変わる頃になるともう眠くてダウン。適当に雑魚寝になって寝た。

ふと深夜に目が覚めたのは何時ごろだったかな、たぶんそんなに長く眠った感じはしなかったので、
2時とか3時くらいだったと思う。友人の大きなイビキが聞こえる。俺以外は爆睡してるぽい。
んで自分がすごくウンコに行きたいことに気付いて、ああこれで目が覚めたんだと思った。

そういや民宿に帰ってきてからまだオシッコすらしていない。
うげーこんな夜中にあの便所かよー、なんか出るぜーとかぼーっとした頭で思いながら

友人を踏まないように気をつけて便所に行くためにそろそろと部屋を出た。

床をギシギシ鳴らしながら真っ暗な廊下を半分手探りで進む。
明かりのスイッチは便所の外側にあった。
あの裸電球の有様を思い出して、もし点かなかったらどうしようかと思ったが、
スイッチを押すとパチンと音がして便所に無事明かりがついた。

予想通りというかなんというか凄く弱弱しい明かりだったが、ともかく用は足せる。
俺は盛大にパンツを降ろして、きばり始めた。
シーンと耳が痛いくらいの静けさっつーか寂しさっつーか。
俺の排泄音と息遣いの他には何の音もしない。
ウンコ出にくい。フン詰まりみたいだ。和式だから足が痛ぇ。あの子かわいかったな。

とかなんとか、真夜中のこんなホラーな便所にしゃがんでる怖さっていうか寂しさで
頭の中でいろいろ無関係なことも考えたりしながら、とにかく早く部屋に戻りたかった。

まあ母艦らしきメインなブツは出しちまって、あとは残りを、ってなとこだった。

最初にそれが聞こえたとき、一瞬、んん?と思った。
俺の勘違い?ではないっぽい。また聞こえた。
外の廊下がギシギシ鳴ってる。どうもこちらに向かって歩いている。
この奥に客室だとかは無かったと思うから、この便所が目的地なんだろう。

手前の客室とかも、俺らの部屋以外に客は居ないようだった。
ってことは、友人の誰かが目を覚ましてトイレに立ったのだろうか?
俺が部屋に居ないんだし、便所に明かりが点ってるんだから、
空いてないってことくらい分からねぇかと思ったが、ひょっとしたら漏れそうだとか、
腹をくだしたとか、その誰かさんも切羽詰った感じなのかもしれない。

それを裏付けるかのように、相変わらずギシギシと音を立てて誰だかは止まることなく近づいてくる。
俺は便所の内鍵が閉まっていることを確認し、早く出てやらんとな、とまた下半身に力を込め始めた。

ついに誰だかが便所の前に到着した。もしノックをされても、体勢的にノックを返すことは難しい。
なので、先に入ってること、もうすぐ終わることを知らせるべく、ドアの向こうに立っている誰だかに声をかけた。
「誰だ?○○か?入ってんのは俺だよ。わりぃな、もう済むから。それとも民宿の人??」
返事はなかった。

パチンと音がして、便所の明かりが消えた。
「はぁ?! おい何だよ!つまらねーイタズラやめろよな」
自分の手も見えないような完全な真っ暗闇にパニック気味になりながら叫んだ。
「お前らマジしゃれになんねーって。このトイレ超こえーんだから」
返事はなかった。

ドアの向こうに突っ立ったまま動かないようだ。
くそ、出たらぶん殴ってやると思いながら急いで残りのウンコを済まし、
紙の場所を思い出して手探りで巻き取っていると、
ドアの向こうで何かぼそぼそと呟いているのが聞こえた。
声が小さすぎて何を喋っているのかも分からないどころか、友人のうちの誰なのかも見当がつかなかった。
ケツを拭いている間もずっとぼそぼそ呟いていて、イタズラにしては度が過ぎていると思った。

あまりの演出っぷりにもう怒りはおさまっていて、むしろ苦笑っつーか、よくやるわと笑えてきた。
またもや手探りで水を流し、俺は立ち上がった。
真っ暗闇で壁に手をつきながら内鍵を探す。かんぬきが手に触れた。

ところがその段になっても、水の流れる音で少し聞こえにくかったが相変わらずぼそぼそと呟いている。
「おい、もう出るぞ。お疲れさん。マジびびったわ。ドア開けるからちょっと離れてろ。」
ドアノブに手をかける。
開かない。意味が分からなかった。

ノブが回らない。便所に外鍵などあるはずも無いし、なんで??
壊れたのかと思いながら両手でおもいっきりやっても回らない。
んでようやく理由が分かって嫌な汗が出てきた。

ドアの外に立っている誰かが、ものすごい力でドアノブを掴んで回させないようにしているのだ。
「へへ、まいった、もう降参だわ。勘弁してくれ。」
俺はおどけて言いつつも、たぶん顔は笑ってなかったと思う。

水の流れる音が完全に終わり、また真っ暗闇とぼそぼそ呟く声だけに戻ったとき、
俺はさらに汗が噴き出すのが自分で分かった。
明らかに、呟く声が大きくなっている。

内容までは聞き取れないのは同じだが、水の流れる前は消えいりそうな囁きだったのが、
水の音が消えた後では確かに肉声がちゃんと聞こえる。低く、男か女かも分からないような声。
その声を聞いたとき、俺はまたもやパニックに陥った。

だって、明らかに友人の誰かではない。聞いたことのない声。
かと言って友人でなければ、こんなことをする理由が無い。
こいつ誰なんだ?なんでこんなことする?さっきから何をぼそぼそ言ってる?
突然、声が止んだ。強烈に嫌な予感がして、俺は内鍵を閉めた。

そのとたん、ガツっとノブから音がした。俺が鍵を閉めたから回せなかったのだ。
何度かガンガンとやっていたが、俺はそれを聞きながら、
ドアの向こうに居るのは人間じゃないのかもしれないと思い始めた。
その何かはまたぼそぼそと呟きはじめた。またさっきよりも声が大きくなっている。
思い出したようにガンガンとドアを叩いたりもする。

んで俺は突然分かったというかなぜか確信したんだけど、このぼそぼそ呟いている声は、
何か尋常じゃないくらい恐ろしいことを言っていると思った。そして、何が何でも聞いちゃいけないと思った。

正確に言うと、何を言っているか理解してはいけない、と自分が知ってるような感じだった。
根拠は無かったが、不思議に当たり前のように確信した。
例えば、高いところから飛び降りちゃいけないのと同じくらいはっきりと、
致命的な結果になることが分かった。

しかしそれが分かったところでどうしようもない。むしろ声はだんだん大きくなってくる。
このままでは、聞きたくなくとも聞いてしまうし、それが日本語なら理解したくなくとも理解してしまう。
いつのまにか俺は泣いていた。

大声で友人の名前を呼んだり、助けて助けてとか、ナンマイダとか、
とにかく泣きながら必死になって叫びまくった。
自分が叫ぶことで、ドアの向こうからの声を打ち消したいってのもあった。

それにしてもおかしい。深夜にこれだけ大声を出しているのだから、
友人や民宿の人や他の客(いるなら)が起きてきてもいいはずなのに。
そうこうしている間にも声はどんどん大きくなり続けてる。

もう自分で叫び続けていないと、はっきりと何を言っているのか分かってしまうくらい。
この声を聞いてはいけないと、何かとんでもなく恐ろしいことを言ってると、なぜか知ってる自分自身を恨んだ。

俺は叫びながら、鍵だけでは不安なのかこちらのドアノブを必死で押さえつけてたんだけど、
もう駄目だと思った。叫びすぎて喉がやばかった。
きっとドアの向こうの声はもっと大きくなっていくだろう。
なんでこんなことにとか、俺はどうなってしまうんだろうって、
もう泣いて泣いて何がなんだか分からなくなった。

俺は中指を耳の中に突っ込んで、さらに手のひらで耳を覆い、
便所の隅に頭を向けて背中を丸めてうずくまった。
真っ暗闇なので便所のどの辺りに顔を突っ伏しているか分からないが、
もう汚いだとか言ってられる状況じゃない。

叫ぶ力も無くて、でも何か喋ってないと、
耳をふさいでももうあの声が理解できてしまいそうなくらい声は大きくなってた。
俺がそのときパニックの中で何を言ってたか覚えちゃいないが、
たぶん「神様、神様、助けてください」とかだったと思う。

トイレの神様に祈るなんて今考えたら例のヒット曲もあいまって
お笑いなんだが、もうそのときは必死だった。
そのとき、頭を誰かに触られた。びくっとなって俺は顔を上げた。

ついに奴が入ってきたのかと思ったが、ドアの向こうでまだ呟いている。
いやもう呟くなんてもんじゃない。大声だ。
一瞬、何を言ってるか理解しそうになって慌てて俺も叫んだ。
1単語すら聞かない間だったが、奴の発音は間違いなく日本語だった。

どうすれば良いのかまるで分からず、もう疲れてどうでも良くなった。
何を言ってるか理解したときどうなるかはしらないが、
もう好きにしてくださいと投げやりになっていた。

俺は塞いでいた耳から手を離した。その瞬間、真っ暗闇の中で手を強く握られ、引っ張られた。
え?っとか思ってるうちに、俺は壁があるはずのところを抜けた。
っていうかその間に俺はもうドアの向こうからの声を聞いてしまっているんだが、
聞こえてるのに頭に入ってこない。意識は全て、俺を引く手のほうに吸い寄せられてる。

前後左右も上も下もない真っ暗闇の中を、何だかよく分からないが引っ張られるままにどこまでも走れた。
だんだん、あの恐ろしい声が遠くなっていき、ついには聞こえなくなった。
走り疲れて、よろめいた。派手に倒れて尻餅をついた。身体以上に、精神的に相当に疲労してる。
とにかく助かったんだ、とはっきり分かったとき、俺は気を失った。

意識を取り戻したとき、俺は便所にいた。ドアを誰かがどんどんと叩いている。
俺はまたもやパニックになりかけたが、俺の名を呼ぶ声と「大丈夫か?!」という声が友人たちのものだった。

何より便所は今、明るい。ちゃんと明かりが点いてる。
鍵をあけた瞬間、勢いよくドアが開いた。俺以外の3人の友人たちの顔が並んでた。
友人たちは心配そうな顔で俺を見ていたものの、大丈夫そうだと安心したのか、
「お前何してんの夜中に大声出して。巨大トカゲでも出たのかw」とか冗談を言い始めた。

俺は友人たちの顔を見たときの半端ない嬉しさは途端に忘れて何だか無性に腹が立って、
「何だよ今頃!っていうかあれ本当にお前らじゃねーのかよ!!」と怒鳴った。
友人たちは不思議そうな顔をして、
「今頃って。お前が廊下だか便所だかで助けてとか叫ぶもんだから俺ら飛び起きて、すぐ来たぞ。
したらお前便所にいるっぽいけど呼んでも返事ないし、騒ぎで民宿の人も今きたとこ。」

見ると、ここに着いたときに部屋を案内してくれたお婆ちゃんが少し離れたところに立ってた。
少し困ったようなような顔で、「お客様、何かありましたんか?」などと言う。
でも何かを隠しているというわけじゃなく、自分らの管理不足で
虫だか爬虫類だかが出たかもしれないことを心配しているような感じだ。

まさか友人の冗談を真に受けているわけでもないだろうけど。
俺は「いや何でもないです。すみません」と取り繕って、とにかく友人たちと部屋に戻った。
んでまあごちゃごちゃと質問されたり何かとうっとうしいことがあったのだがそれは割愛します。
それからは特に何もない。これで終わりだ。

あの便所での体験を思い出すときに、ドアの向こうの何かや、俺を助け引っ張った何かは
いったい何だったんだろうと考えることもあるけど、
その土地や民宿での因縁話やら思い当たるものも何も知らない。まあ調べてもいないけれど。

だいいち、俺が便所で寝てしまって悪夢を見てただけって可能性もある。
あとやはり友人のイタズラだったとか。
でも、何かに手を引っ張られて走った感触は絶対に本物だった。

壁はないのに床はどこまでも便所の床で、普通に考えりゃありえないんだが。
んでそれと同じくらい、あの恐ろしい声をもしも聞いてたらやばかったって確信も本物だ。
あのとき助けてくれた何かにはまだ礼も言ってない。この話を書いたついでに、ここで言っとく。
まあ今更こんなとこで言ったって、届くっつーか伝わるわけはないけど。ありがとうございました。
民宿のトイレ

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2019年03月19日