<閲覧注意>本当にあった怖い話「ごぜさん」「許容範囲」「朽縄(くちなー)様」

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<閲覧注意>本当にあった怖い話「ごぜさん」「許容範囲」「朽縄(くちなー)様」についてまとめました。

ごぜさん

あたり一面山だらけ。
どこを見渡しても山ばかりという地方の出身です。

小さい頃からお世話になっていたお寺に「鐘」がありました。
「鐘」と書いたのには理由がありまして、
それは布と縄でぐるぐる巻きにされていたからです。
鐘を撞く丸太もついていません。

なのである程度の年頃になってアニメの一休さんなどを見るようになり
寺の隅の屋根つきの一角にあるべきものは鐘なんだな、ということが
わかるようになりますと、そのぐるぐる巻きの中身は
鐘なんだろう、と感じるようになるというくらいで誰も中身を
見たことはありませんでした。

小学生くらいの時には両親に「なんでぐるぐる巻きなのー」と
聞いた記憶はあるのですが、両親も由来など詳しいことを知らず、
自分たちが両親が子供のころからぐるぐる巻きであり
「ぐるぐる巻きの鐘」と呼んでいたとのことです。
当然中身も見たことがないということです。

すっかり時が経ち、私は大学進学のため実家を離れます。
夏休みに帰省をすると、田舎と言えど自分の家の周りにも
多少は開発の手が伸びていました。

昔自分の部屋であった場所、今は物置となりつつあるのですが
窓際から景色を見てみると昔とは眺めが変わっており、
自分の部屋から「鐘」のお寺を見ることができました。

お寺は山の上のほうにあるのですが、自分の部屋からは
裏の里山が邪魔をしていて昔は見えなかったことを思い出しました。
そうか、虫を取ったりアケビを食べたりしたあの山も
無くなってしまったかと寂しがりつつ、窓から寺を見ていました。

寺は遠いので自分の家からだと親指の爪程度の大きさに見えます。
夕飯時に「裏山がなくなって寺が見えるようになったんだね」
という話をしました。すると両親からは
自分が大学に入った直後くらいに無人化してしまい、法事と祭りの時だけ
別の大きなお寺から僧侶を呼んでいると教えられました。

ある夜のことです。一人暮らしに慣れてしまったせいか、
自分の部屋だというのに枕が合わないような気がして
なかなか寝付けない日がありました。そのとき

「ぐうん」

と低い低い音が聞こえました。鐘の音?と思い窓の外に目をやります。
満月に近い月の出ている夜でしたが遠く離れた寺の鐘の様子など
肉眼では見えません。10秒ほど見つめていると、ほんの一瞬だけ
人工的な光がチラッと目に入りました。気になって小学校のときから
使っていた勉強机の引き出しを開けます。母親が捨てていなければ、と
そこにあるはずの双眼鏡を探します。

双眼鏡は昔のまま、そこにありました。ほこりがついた
レンズを覗き込むと、倍率は低いのですが暗がりの中にぼんやりと
動く人のようなものが見えました。3名ほどの人間が鐘撞き小屋のところで
何かしているようです。懐中電灯を持っているようですが、
覆いをしているのか、時折周囲を照らすだけで様子がはっきりとは見えません。

見たところ、3人がかりで地面に鐘を降ろしたようです。
先ほどの音は地面に落とした時の音でしょうか。
どうやら鐘撞き小屋から鐘を出せないでいるようです。

この鐘撞き小屋には屋根と屋根を支える四方の柱があり、
壁はありません。しかし壁の代わりにその四方の柱同士が
水平の柱でつながれています。水平の柱は
四方のすべての方向につけられていますので、
それが邪魔をして鐘撞き小屋から鐘を出せないようでした。

当時は金属の盗難が流行する前でしたので何をしているかわからず、
私はただその光景を見ていました。パジャマで双眼鏡のレンズを拭き、
暗闇にも目が慣れてきました。連中は鐘に巻きつけられた縄に
木の棒を通し、2人で棒の前後を持って持ち上げるようです。
鐘撞き小屋から出たか、というところで鐘が落ちました。
2人が耳を押さえます。私がその光景を見た3秒後くらいに

「ごうん」

という音が聞こえてきました。鳥が飛び立つ音、犬が吠える声も聞こえます。
窓から見える家のいくつかに灯りがつきました。それを見て、
また双眼鏡に目を戻すと連中の姿は消えていました。

次の日の朝、といっても私は昼近くまで寝ていたのですが、
母親から「昨日の音、聞いた?」と聞かれました。
洗いざらいを説明するのが面倒だったので適当に答え、
また部屋に戻ると双眼鏡を覗きます。鐘撞き小屋のところに
何人かの人が集まっている様子だったので、何かおもしろいことはないかと
スーパーカブに乗って現場に向かいました。

境内には白い「わ」ナンバーのバンが乗り付けられていました。
そして鐘撞き小屋の一段高くなったところの下に鐘が落ちていました。
警察の検証は終わったようで、犯人は車を捨てていなくなったとのことです。
盗られたものもなく、近隣の警察と寺、自治体に連絡しておく、
とのことでした。その一方で僧侶の代わりに日ごろの運営をしている
村の消防団の人たちが鐘をどうするか、という話をしていました。

「もう1回かけるか」
「もうこのままにしておいたらどうか」

その話し合いを遠巻きに見ている人々の中に、A君のおばあさんがいました。
A君は小学生の頃に一家で村から引越していったのですが
おばあさんだけが残っていました。自分は既にA君と音信不通でしたが、
おばあさんは孫と同い年の自分に良くしてくれるので
この年になるまでときどき家に遊びにいくという関係が続いています。

俺「お久しぶりです。」
婆「俺ちゃんか。泥棒じゃないかって。嫌な世の中だね。」
俺「鐘なんて売れるんですかね。」
婆「戦後は鉄くず屋が来て自転車でも買っていったもんだけど。」
俺「なんでも鑑定団なんかに出そうとしたのかな。」
婆「ごぜさんの鐘だなんてお金もらっても欲しくないわ。」
俺「ごぜさんの鐘?」

おばあさんから教えてもらったことによると、
このあたり一帯では昔、盲目の子供が生まれると
男も女もごぜさんにもらわれていったとか。

男はまた別のグループに引き渡され、女はごぜさんとして
一生を送ったそうです。この鐘は遠い昔には普通の鐘として
使われていたものが、いつしかごぜさんを呼ぶ合図の鐘として
用いられるようになったということでした。

その日の夕食、両親との会話の中でごぜさんの鐘の話になりました。
父親は役場勤務のため嫌でも耳に入ったようです。
私が「ごぜさんの鐘」というと両親とも「え」という顔になりました。

父「ごぜさんの鐘?」
俺「そう。ごぜさんの」
母「誰から聞いたの?」
俺「A婆から」
父「嘘だ~。本当にあったんだ。あれが?ぐるぐる巻きの。」
母「ねぇ。小さい頃は聞かされたもんだけど。」

両親の話によると、ごぜさんの鐘とは確かにごぜさんを呼ぶもの。
ただし鐘が鳴るのは盲目の子供が生まれた場合に限らない。
寒村では子供を育てるのに厳しい年もあり、口減らしをしなくては
ならないこともあったとか。育てられない子供が出てしまった家では
両親が子供の目を潰し鐘を撞いたそうだ。

ごぜさんの旅は辛くとも、娯楽の少ない時代、行く先々では大切にされたそうだ。
そのうち、子供の目を潰すことができなかった両親が
鐘撞き小屋に子供を置き、ごぜさんの鐘をついて連れて行ってもらうのを
待つようになった。当然ながらほとんどの子供は凍死する。
住職は数え切れないほど多くの子供が冷たくなっているのを見つけ、
その服を鐘撞き小屋の柱に巻いて弔ってやった。

そのうち、ごぜさんの鐘の周りで子供の霊を見たとか、
遭難したごぜさんの列が歩いているのが見えるとかいう噂が広まり、
風の強い日には両手で耳を塞いでもごぜさんの鐘の音が聞こえると言って
発狂するものまで出た。これでは、ということで鐘撞き小屋に
残されていた子供の服と荒縄で鐘をぐるぐる巻きにして
二度と鐘の音が鳴らないようにしたんだそうだ。

両親とも、子供の頃からごぜさんに連れていってもらうよ!という意味の
脅し(悪いことをした子供への警鐘)として
「ごぜさんの鐘鳴らすよ!」という言葉と上のような背景は
聞いていたものの、まさかあの鐘が本当にそうだとは思っていなかったそうだ。

この一軒があってからもずいぶん経ちますが、
改めて思うことがあります。

日本から昔のままのごぜさんが廃れて久しい。
歌や風習を伝える人はいても、本物のごぜさんはもういない。
日本のどこを探しても、ごぜさんが歩く列は見られない。

しかしあの夜、ごぜさんの鐘を盗もうとした連中は鐘を鳴らしてしまった。
果たしてごぜさんは来たのだろうか。どこから?
来たとしたら、連中はどこかへ連れて行かれたのだろうか。
警察の追跡を恐れて逃げ出しただけなのか。それとも。
ごぜさん

許容範囲

2年ほど前の話し。その年の夏、俺は大小様々な不幸に見舞われていた。
仕事でありえないミスを連発させたり、交通事故を起こしたり、
隣県に遊びに行って車にイタズラされた事もあった。

原因不明の体調不良で10キロ近く痩せた。そして何より堪えたのは、父が癌で急逝したこと。
そんなこんなで、「お祓いでも受けてみようかな・・・・・」、なんて思ってもない独り言を呟くと、
彼女(現在嫁)が、「そうしようよ!」と強く勧めてきた。

本来自分は心霊番組があれば絶対見るくらいのオカルト大好き人間なんだけど、心霊現象自体には否定的
(こういう奴が一番多いんじゃないか?)で、お祓いが利くなんて全く信じちゃいなかった。
自家用車に神主が祝詞をあげるサマを想像すると、シュールすぎて噴き出してしまう。
そんなものを信用するなんて、とてもじゃないが無理だった。

彼女にしてもそれは同じ筈だった。彼女は心霊現象否定派で、なお且つオカルトそのものに興味がなかった。
だから俺が何の気なしに言った『お祓い』に食いついてくるとは予想外だった。
まぁそれは当時の俺が、いかに追い詰められていたかという事の証明で、実際今思い返してもいい気はしない。

俺は生来の電話嫌いで、連絡手段はもっぱらメールが主だった。
だから彼女に神社に連絡してもらい(ダメ社会人!)、
お祓いの予約を取ってもらった。
そこは地元の神社なんだけど、かなり離れた場所にあるから地元意識はほとんどない。
ろくに参拝した記憶もない。
死んだ親父から聞いた話しでは、やはり神格の低い?神社だとか。
しかし神社は神社。数日後、彼女と二人で神社を訪ねた。

神社には既に何人か、一見して参拝者とは違う雰囲気の人たちが来ていた。
彼女の話しでは午前の組と午後の組があって、俺たちは午後の組だった。
今集まっているのは皆、午後の組というわけだった。

合同でお祓いをするという事らしく、俺たちを含めて8人くらいが居た。
本殿ではまだ午前の組がお祓いを受けているのか、微かに祝詞のような声が漏れていた。
所在なくしていた俺たちの前に、袴姿の青年がやって来た。
「ご予約されていた○○様でしょうか」袴姿の青年は体こそ大きかったが、
まだ若く頼りなさ気に見え、(コイツが俺たちのお祓いするのかよ、大丈夫か?)、なんて思ってしまった。

「そうです、○○です」と彼女が答えると、もう暫らくお待ち下さい、と言われ、待機所のような所へ案内された。
待機所といっても屋根の下に椅子が並べてあるだけの『東屋』みたいなもので、壁がなく入り口から丸見えだった。
「スイマセン、今日はお兄さんがお祓いしてくれるんですかね?」と、気になっていた事を尋ねた。
「あぁ、いえ私じゃないです。上の者が担当しますので」
「あ、そうなんですか(ホッ)」
「私はただ段取りを手伝うだけですから」と青年が言う。

すると、待機所にいた先客らしき中年の男が青年に尋ねた。
どうやら一人でお祓いを受けに来ているようだった。
「お兄さんさぁ、神主とかしてたらさ、霊能力っていうか、幽霊とか見えたりするの?」
その時待機所に居る全員の視線が、青年に集まったのを感じた(笑)。
俺もそこんとこは知りたかった。

「いやぁ全然見えないですねぇ。まぁちょっとは、『何かいる』って感じることも、ない事はないんですけど」
皆の注目を知ってか知らずか、そう笑顔で青年は返した。
「じゃあ修行っていうか、長いことその仕事続けたら段々見えるようになるんですか?」と俺の彼女が聞く。
「ん~それは何とも。多分・・・」青年が口を開いた、その時だった。

シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、
入り口にある結構大きな木が、微かに揺れ始めたのだ。何事だと一同身を乗り出してその木を見た。
するとその入り口の側に、車椅子に乗った老婆と、その息子くらいの歳に見える男が立っていた。

老婆は葬式帰りのような黒っぽい格好で、網掛けの(アメリカの映画で埋葬の時に婦人が被っていそうな)
帽子を被り、真珠のネックレスをしているのが見えた。
息子っぽい男も葬式帰りのような礼服で、大体50歳前後に見えた。
その二人も揺れる木を見つめていた。

シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ、と音を鳴らして、一層激しく木は揺れた。
振れ幅も大きくなった。根もとから揺れているのか、
幹の半分くらいから揺れているのか不思議と分からなかった。
分からないのが怖かった。

ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
木はもう狂ったように揺れていた。老婆と男は立ち止まり、その木を困ったように見上げていた。
すると神主の青年が、サッと待機所から飛び出すと、二人に走り寄った。

「△△様でしょうか」木の揺れる音のため、自然と大きな声だった。
うなずく男。
「大変申し訳ありませんが、お引取り願いませんでしょうか。我々ではどう対処も出来ません」
こちらに背を向けていたため、青年の表情は見えなかったけれど、わりと毅然とした態度に見えた。
一方老婆と男は、お互いに顔を見合わし、うなずき合うと、青年に会釈し引き上げていった。
その背中に青年が軽く頭を下げて、小走りで戻ってきた。
いつの間にか木の揺れは収まり、葉が何枚か落ちてきていた。

「い、今の何だったの!?」と中年のおじさん。
「あの木何であんなに揺れたの?あの二人のせい?」と彼女。俺はあまりの出来事に、言葉が出なかった。
興奮する皆を、青年は落ち着いて下さい、とでも言うように手で制した。
しかし青年自体も興奮しているのは明らかだった。手が震えていた。

「僕も実際見るのは初めてなんですけど、稀に神社に入られるだけで、ああいった事が起きる事があるらしいんです」
「どういう事っすか!?」と俺。
「いや、あの僕もこういうのは初めてで。昔居た神社でお世話になった先輩の、
その先輩からの話しなんですけど・・・・」

青年神主の話しは次のようなものだった。
関東のわりと大きな神社に勤めていた頃、
かつてその神社で起きた話しとして先輩神主が、さらにその先輩神主から伝え聞いたという話し。

ある時から神主、巫女、互助会の組合員等、神社を出入りする人間が、『狐のお面』を目にするようになった。
そのお面は敷地内に何気なく落ちていたり、ゴミ集積所に埋もれていたり、
賽銭箱の上に置かれていたりと、日に日に出現回数が増えていったという。

ある時、絵馬を掛ける一角が、小型の狐のお面で埋められているのを発見され、
これはもうただ事ではないという話しになった。
するとその日の夕方、狐のお面を被った少年が、家族らしき人たちとやって来た。
間の良いことにその日、その神社に所縁のある位の高い人物が、たまたま別件で滞在していた。

その人物は家族に歩み寄ると、
「こちらでは何も処置できません。しかし○○神社なら手もあります。どうぞそちらへご足労願います」
と進言し、家族は礼を言って引き返したという。

「その先輩は、『神社ってのは聖域だから。その聖域で対処できないような、許容範囲を超えちゃってるモノが来たら、
それなりのサインが出るもんなんだなぁ』って、言ってました」
「じゃあ今のがサインって事か?」とおじさんが呟いた。
「多分・・・・まぁ間違いないでしょうね」
「でもあのまま帰しちゃって良かったんですかね?」という俺の質問に青年は、
「ええ、一応予約を受けた時の連絡先の控えがありますから。何かあればすぐに連絡はつきますから」
「いやぁでも大したもんだね、見直しちゃったよ」とおじさんが言った。俺も彼女も、他の皆もうなずいた。
「いえいえ!もう浮き足立っちゃって!手のひらとか汗が凄くて、ていうかまだ震えてますよ~」と青年は慌てた顔をした。

その後、つつがなくお祓いは済んだ。
正直さっきの出来事が忘れられず、お祓いに集中出来なかった(多分他の皆も)。
しかしエライもので、それ以後体調は良くなり、不幸に見まわれるような事もなくなった。
結婚後も彼女とよくあの時の話しをする。

あの日以来彼女も心霊番組を見たりネットで類似の話しはないかと調べたり、
どこで知ったのか洒落コワを覗いたりもしているみたい。
やっぱり気になっているのだろう。もちろん俺だってそうだ。
しかし、だからといってあの人の良い青年神主に話しを聞きに行こう、という気にはならない。

「もしもだけどさぁ、私たちが入った途端にさ、木がビュンビュンって、揺れだしたら・・・・もう堪んないよね~」
彼女が引きつった笑顔でそう言った。全くその通りだと思う。あれ以来神社や寺には、どうにも近づく気がしない
許容範囲

朽縄(くちなー)様

田舎に住む祖父は、左手小指の第一関節の骨がありません。
つまむとグニャリと潰れて、どの角度にも自由に曲がります。
小さい頃はそれが不思議で、「キャー!じいちゃんすごい!なんで?なんで?」と、無邪気にはしゃいでいました。
祖父はニコニコしながら、「ありゃー!可愛い孫に、じいちゃん骨抜きじゃー」などと冗談めかしてごまかしていましたが、
私が小学校に上がるくらいのときに、その本当の理由を教えてくれました。
以下、祖父(正夫)の語り口です。

この村の山の上に古い神社があるだろう。
あれは、いわゆる御霊神社というやつなんだ。
御霊神社とは、謀反の疑いなどをかけられ殺された、実在の人物が祀られているもので、
(太宰府天満宮などもそれにあたる)
『御霊信仰』のもとは『怨霊信仰』とも言われている。
つまり、その人物が祟り神にならないように鎮めるための神社だな。
この村で祀られている神様の名前は、○○(忘れましたが、何とか磨呂?みたいな長い名前)と言うが、
わしら年寄りの間では、『朽縄(くちなー)様』と呼ばれている。
朽縄様は、蛇や女の姿に化けて村に下りてくることもあるという。
そのためこの村では、蛇は神様の化身として畏れられ、決して殺してはいけないとされていた。
また、朽縄様は骨を司る神様として崇められており、
妊婦や小さな子連れで参拝すると、子が丈夫な体に育つと言われていた。

しかし困ったことに、朽縄様は大層荒々しい性格をしている。
昔、村でも悪評高い放蕩息子が、自分に素っ気ない態度をした娘の家に嫌がらせをした。
それが何とも質の悪い嫌がらせで、蛇を生きたまま枝に串刺しにし、娘の家の畑に並べて刺したらしい。
娘の家族は顔を真っ青にし、「なんと…罰当たりなことを…」と震えながら、
血の海で息を引き取った蛇の亡骸を、庭に手厚く葬った。
数日後、男に罰が下った。
全身の骨という骨がギシギシ痛みだし、三日三晩、寝床で悶絶した。
「痛い、痛い!骨が焼ける!」と訳の分からない言葉を叫び苦しむ男を、両親は必死に看病した。
男の体は、なるほど確かに全身の骨が溶けたかのようにぐにゃぐにゃに変形し、
頭も腕も自力で持ち上げられない状態だった。
医者も「こんな奇病は見たことがない。本当に祟りかもしれません」と頭を抱える中、4日目になって男が忽然と姿を消した。

一人で起き上がることなんて到底不可能な状態のため、両親は不思議に思いながらも近くの野山を探した。
件の娘の家の畑でソレを見つけた。息子の形をした奇妙な物体。
ぐにゃぐにゃと手足をあり得ない方向に曲げ、遠くから見ると踊っているようにも見える。
ひたすら、ぐにゃぐにゃ蠢いている息子のようなモノに、恐る恐る両親は近づいた。
息子の顔は、目鼻などのパーツが全く重力に逆らえず、しわしわになって垂れ下がっていた。
垂れた目や口のせいか、その表情は哀しげな、泣いているようなものだったという。
そしてその姿を見た両親も、ついに頭がおかしくなってしまった。
(有名な『くねくね』と似ていますが、同一かは分かりません。
ちなみに、祖父の田舎では、この現象を『蛇化(じゃんげ・俗語ではカカシ)』と言って、朽縄様の祟りとして畏れられ、
やはり見てはいけないものと教わってきたそうです)

…とまぁ、それくらい恐ろしい神様なのだが、なんとじいちゃんはその朽縄様に会ったことがあるんだ。
それは、わしが今のお前と同じくらいの歳のことだ。
その日、わしは友人の寛治と昼間2人で山に入り、蛇の脱け殻を探していた。
この地方ではたいそう縁起の良いものとして喜ばれ、大人に渡すと、たまに食べ物をくれることもあったからな。
脱け殻を探すのに夢中で、わしらは気づかぬ内に例の神社の鳥居のところまで来てしまった。
普段から『子供だけでは絶対に近寄ってはならん』と、きつく言われていたところなのに。
正「寛治ー、もう鳥居のとこまで来てしもーたぞ。これ以上はまずかろう」
寛「そうじゃのー。ぼちぼち引き返さねばのー」
そんな会話をしていた矢先のことだ。前から女が近づいてきた。
女は村の女が着ているような野良着ではなく、白っぽい浴衣のような着物を着ていた。
わしは、言い付けを破ったので怒られるのではと思って、寛治に耳打ちした。

正「やばいぞ。素直に謝るか?それとも逃げてしまうか?」
寛「…??お前、何を言うとんじゃ?誰ぞ来とるんか?」
寛治はキョロキョロしたり、目を細めて遠くを見据えるようにしているが、どうやらその女はわしにしか見えんかったらしい。
とうとう女の顔が判別できるくらいの距離に近づいてきた。
…おかしい。
そこで明らかに異形のモノだと分かった。
まず何よりおかしかったのが、女の目だ。蛇の目だった。
小さな目が左右に離れて配置され、あの爬虫類独特の、ナイフの刺し傷のような縦に細く閉じた瞳孔をしていた。
鼻は細く、口も小さい。全体的にほっそりした姿態をしている。
わしは蛇に睨まれた蛙のように、その場で固まってしまった。
寛「おい、どうしたんじゃ?はよ帰ろうな」
寛治の声が何だかえらく遠くに感じる。
女はその蛇の目をパチパチさせると、急に細長い手足を…あり得ない方向に曲げだした。
まるで糸の切れた操り人形のように、はたまたゴム人形のように、ぐにゃぐにゃと、でたらめに関節を曲げるのだ。

更に最も不気味だったのは、女が首を横に傾けたかと思うと、
そのままどんどん曲げ続けて、ついには胸の前で頭をまるっきり逆さまにしたことだ。
完全に人体の理を無視した体勢だ。
わしは悲鳴こそあげなかったものの、全身の血の気がスーッと消えて震えが止まらなかった。
女はわしのその反応を確認するかのようにニタニタ笑って、
その逆さまの顔でわしを覗き込み(手足がぐにゃぐにゃに曲がって、ちょうど顔の高さが合っていた)、
「お前、見えてるだろ?」と聞いてきた。
わしは馬鹿だったから、思いっきり首を振って「見えてない!!」と涙声で叫んだ。
すると女はますます愉快そうに目を細めて、
「なーんだ、見えてるじゃないか。生意気なガキだな」と言ってきた。
わしはもう足がガクガク震えて、涙でぐちゃぐちゃで、隣で寛治が何か喋ってるがそれも耳に届かないような状態で、

「ごめんなさい…。ごめんなさい…」と目をつぶって謝った。
すると、女はわしの目と鼻の先でガクガクと全身を震わせて、元の人の佇まいに戻り、ニターっと楽しそうに笑って、
「お前、今夜迎えに行くから待っとれ」と、わしの左手を撫でながら言ってきたのだ。
そしてゆらーっと踵を返すと、鳥居の方に戻って行ってしまった。
わしは大ベソかきながら急いで寛治と山を下り、畑で作業している家族にこのことを話した。
父と母は、わしの話を聞くそばからみるみる顔が青くなっていき、すぐに神社の神主様が家に呼ばれた。

神主さんに先刻見たものを詳しく話したところ、やはりたちまち険しい顔になって、
「左手を貸してごらん」と、怒るような口調で言われた。
例の女に撫でられた左手を神主さんに渡すと、五指を1本ずつつまんだり引っ張ったりして、丹念に調べられた。
「…小指の先を持ってかれとる」
神主さんは険しい表情を崩さず、そう言って手を離した。
えっ?と思って、自分でも触ってみると、確かに小指の第一関節から上がぐにゃりと柔らかい。
言われるまで気づかなかった。
「坊やが見たのは、間違いなく朽縄様ですね。
ここ十数年、その姿を見たという人間はいなかったもんで、油断しておりました。
どうやらこの子は…朽縄様に気に入られたみたいです」
『気に入られる』という言い回しに、幼いながらも違和感を感じたが、その思いを父が代弁してくれた。
「気に入られたって、どういうことですか?!
朽縄様の怒りに触れたら、カカシ(←先述のくねくね?)にされるんじゃないんですか?!」
神主は静かに、しかしよく通る声で答える。

「いや、今回は体の一部を持ってかれとりますから…。カカシにはされんでしょうが…いや、しかしやはり厄介ですな。
朽縄様は、小指の骨を抜いて、この子に目印を残したんでしょう。恐らく、今夜にでも迎えに来るつもりで…」
神主さんの声を父のしゃがれた声が遮る。
「迎えに来るって…息子はどうなるんです?」
神主さんがためらいながら続ける。
「要は…朽縄様の一部になるということです。簡単に言うと…食われてしまうんですよ。
自分の姿を見られる者には、相応の力があるし、また波長も合う。
その力を取り込んで、より一層強力になるおつもりでしょう」
わしは、あの蛇の目をした女に、自分が頭からバリバリ食われることを想像した。
それだけで恐ろしくなって声をあげて泣いた。
「いや、しかし気を落とすのはまだ早いですよ。
私が朽縄様と直接お話してみますから。
…ですから、ご主人たちは今から言うことをよく聞いて下さい」
それからわしは、ずっと母親の膝につっぷして泣いていた。
神主さんはわしの左手小指に、何か麻紐と小さなお札のようなものをグルグル巻いて帰っていった。

夕方になり、続々とわしの家に大勢の人が集まった。
大勢の人と言っても、専ら、わしと同年代の子供たちと、その親がほとんどだ。もちろん寛治も来た。
そして父と母の手で、その子供たちの左手小指に、わしと同じような麻紐とお札が巻き付けられた。
神主さん曰く、「朽縄様の目をごまかすため」だそうだ。
麻紐を巻き付けると、両親はその子らの親に何か話しながら頭を下げて、家に帰していた。
後になって、「何の話をしていたの?」と聞くと、
「あんたがすぐ見つからないように、協力をお願いしたのよ。
今晩、みんなの家を朽縄様が訪ねるそうだけど…ほとんどの人には、それが見えないみたい」
と母が答えてくれた。
「みんな食べられちゃうの?!」と、わしがまたベソかいて聞くと、

「ううん。小指の骨がある子供は大丈夫だって。
でも麻紐をしておくと、骨があるのか無いのか、分からなくなるそうよ。
だから、あれを明日の朝まで絶対に外さないようお願いしたの。
もしも正夫をわざと隠していることがバレたら…朽縄様が怒ってしまうんだって」
母は安心させるために、包み隠さず言ってくれたのだろうが、わしは余計に不安になった。
誰かが紐を外したら、そいつ、カカシになるんかな?わしの紐、間違って外れんやろか…?とな。

そして夜が訪れた。
朽縄様はいつどこに、どんな姿で現れるのか見当もつかないと言う。
わしは少しの物音で緊張の糸が張ったり弛んだりしていた。
夕飯もあまり食べられんかった。
飯の後、父親と一緒に風呂に入った。
―――風呂の戸を開けた瞬間…心臓が一瞬で凍りついた。
…風呂釜の中に女がいた。

こちらに後ろを向けて湯に浸かり、長い髪が湯船にユラユラと、海草のように漂っている。
昼間見た白い浴衣を着たまま入っている。
間違いない。朽縄様が目の前にいる。
わしはとっさに風呂の戸を閉め、ガタガタ震えだした。
父はすぐに察してくれた。
「逃げたらバレてしまうぞ。
…絶対に目を合わすなよ。見えてることを悟られるな。
父ちゃんが守ってやるから、普通にしとけ」
小声で耳打ちし、父親に抱き抱えられて風呂に入った。
再び風呂の戸を開けたとき、わしの顔の真正面、文字通り目と鼻の先に女の顔が来ていた。湯船から上がっていたのだ。
ずぶ濡れの女の、爬虫類のような小さな目がわしの顔をジッと見据える。
間近で女の声が耳に響く。

「お前、見えてるだろ?」
昼間と違い、女の顔は笑っていない。既に何軒か巡ってイライラしていたのだろう。
わしは聞こえないふりをして父に目を向ける。
普段あまり笑わない父がニッコリ笑顔を作り、
「おいおい、小便したくなったからって、裸で出ていく奴があるか。出すならここで出したらええぞ」
と、必要以上に大きな声で喋りかけてくれた。
わしも泣きそうな顔のまま笑顔を無理矢理作り、コクコクと父ちゃんに頷いた。
汚い話だが…本当に父の腕の中で失禁していた。
それから、わしは極力普段通りに体を洗ったり、湯船に浸かったりしたが、
その間も女は「おい、見えてるだろ?本当は見えてるんだろ?」と執拗に、わしの顔にその不気味な顔を近づけてきた。
最後に、女はわしの左手をゆっくり撫でて、(ここでまた漏らした)
不満そうに「チッ…」と舌打ちして消えた。
わしは汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが、幸いにも風呂場だったため、全て流れてごまかせたようだ。
女が消えてからも、わしはガタガタ震えており、その日は始終、父と母に交代で抱いてもらった。

翌朝、協力してくれた村人たちと全員で山を上り、神社を訪れた。
朽縄様の姿を見たという者は、結局わし以外にはおらんかった。
神主さんは疲れはてた様子だったが、
笑顔で「もう大丈夫です。朽縄様の、坊やへの執着は失せました。小指の紐とお札を外しても構いません」と言ってくれた。
これまでも何十年かおきに同様の事件が起こっており、この方法で切り抜けてきたという。
しかし、中には目眩ましの子供が紐を外してしまったり、当人が見えていることを見抜かれて、神隠しに遭う者もいたらしい。
ちなみに、朽縄様に食われるときは、大蛇の姿で丸のみにされるらしい。
(神社には、その様子が描かれた絵巻物も残っている)
村人たちから歓声が上がり、寛治は泣きながら「よかったー!よかったなー!」と喜んでくれた。
(しかし、子供だけで神社に近づいたことで、わしらは後日げんこつを食らった)

「あれから五十年…わしの左手小指は、成長してからもずっとぐにゃぐにゃのままだ。
朽縄様の姿も、それから見ることはなかった。
大人になってから病院で検査したが、医者は首を捻るばかりで…まぁ生活に支障はほとんどないから良いけどな」
そう言って、祖父は幼い私に、
「だから絶対に、あの神社に子供だけで近づいたらいかんぞ」と、怖い顔を作って言い聞かせてくれました。
あのとき小指に巻かれた麻紐とお札は、御守り袋に入れて今も大切に保管しているそうです。

祖父は今も元気に村(今は郡)の老人会などに出かけては、新しく入った女性会員さんに、
「ありゃー。わし、あんたに骨抜きにされてしもたわー!」と、小指を披露しているそうです。
祖父曰く、鉄板ネタだそうです。
朽縄(くちなー)様

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2019年03月14日