解説
当初クリス・トーマスとレコーディングを行っていたが、バンドは結果に満足できず、急遽スティーブ・リリーホワイトに再登板願った。他にもジャックナイフ・リー、ネリー・フーパー、フラッド、ダニエル・ラノワ、ブライアン・イーノとスタープロデューサーたちが勢揃いしてようやく完成。前作で自ら作ったロックンロールリバイバル・ブームを踏襲したBoyを意識した作品で、前回同様900万枚のセールスを上げ、グラミー賞を多数授賞し、名実ともにU2は世界一のロックバンドになった……ということでこのアルバムは成功作として語られることが多い。
けれども私のように古臭いロックソングが並んでいるなあと肩を落としたファンも少なからずいたことだろう。ジョン・ウォーターズという人物の「How to Dismantle an Atomic Bombは20年近くトップの座にいて、そこから転げ落ちたくないと必死になっているバンドが、これといった特徴のないものを寄せ集めたアルバムだ。U2は成功に捕らえられ自由を奪われている。今、誰に勝たなくてはならないか、どうやって勝つべきかを彼らは心得ている。しかし自分たちをここまで偉大にした無謀さはもはや彼らにはない」というアルバム評に思わず膝を打ったものである。
またボノの政治活動によりアルバム制作が滞るようになったのもこの頃からで、次のアルバムが出るまでなんと5年の期間を要することになる。今振り返ればU2のキャリアのピークはこのアルバ
ムだった。
収録曲
1. Vertigo
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785626703
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:スティーブ・リリーホワイト
・チャート:IRE1位、UK1位、US31位
最初はFull Metal Jacketというタイトルで、その後、Native Sonというタイトルになった。歌詞はレナード・ペルティエという人物にインスパイされた自由のために祖国と戦う人物をテーマにしたものだった。
けれどもプロデューサーがリリーホワイトに代わった後、リリーホワイトがボノに「この歌詞を観客の前で歌えるか?」と尋ねた。ボノの答えはノー……ということで大幅に歌詞が書き換えられ、タイトルもVertigoとなった。ちなみにタイトルの由来はヒッチコックの有名な映画「めまい(Vertigo)」。アダムはエコバニ風とこの曲を評している。
現在Native Sonはファンクラブ会員向けにリリースされ Medium, Rare & Remasteredに収録されている。
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497885630203
また “Hello, hello” という歌詞はBoy収録のStories for Boysにも登場している。
2. Miracle Drug
クリストファー・ノーランというマウントテンプルで同窓の小説家をテーマにした曲。モデルを限定したためにやや曲のイマジネーションが損なわれたような気がする。
Numbについでラリーのバックコーラスがフィーチャーされているが、例によってまったく聞こえない。
3. Sometimes You Can’t Make it On Your Own
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785626803
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:クリス・トーマス、スティーブ・リリーホワイト、ネリー・フーパー
・チャート:IR3位、UK1位、US97位
2001年に亡くなったボノの父親ボブ・ヒューソンに捧げた曲。彼の葬式で初めて披露された。
元のタイトルはToughといって、これはボノの父親の印象なのだという。「タフな昔気質の男で、ダブリナーで、世界のあらゆることにシニカルでありつつ、とても魅力的で愉快な男性」。
4. Love and Peace or Else
恋人同士の言い争いの曲。
5. City of Blinding Lights
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785626903
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:フラッド、クリス・トーマス、ジャックナイフ・リー
・チャート:IRE8位、UK2位
Where the Streets Have No Nameに曲調が似ており、U2の新たな代表曲となった。
元々はPopのアウトテイクで、 All That You Can’t Leave Behindのレコーディングでも持ち出されたが完成せず、 How to Dismantle an Atomic Bombでやっと日の目を見た。
失ったものを再認識することをテーマとした曲。
インスパイアされたものは三つ。
一つ目はレコード会社に売り込むためにアリと一緒に行ったロンドンの思い出。ボノはここで大都会が提供するものと奪うものを思い知ったのだという。
二つ目はElevationツアーの際、ニューヨークのマディソン・スクエアで行った公演でWhere the Streets Have No Nameを演奏している際、客電に照らされたオーディエンスが子供のように飛び跳ねているのを見たこと。この光景は””Oh you look so beautiful tonight”というコーラスを生むきっかけともなった。
三つ目は2000年にオランダで開かれたアントン・コービンの写真展でNew Year’s DayのPV撮影時の自分の写真を見て、自分が失ったものを大きさを思い知ったことである。
2009年1月18日のバラク・オバマ大統領の就任を祝賀して行われたコンサート『ウィ・アー・ワン:オバマ就任祝典』では、U2はPrideとCity Of Blinding Lightsを歌った。曲の最後、ボノは観客にキングの夢を問いかけた。その夢をイスラエル・パレスチナ問題に結びつけて、「イスラエル人の夢でもあり、パレスチナ人の夢でもある」と言った後、「アメリカ人だけの夢ではない。アイルランド人の夢でもあり、ヨーロッパ人の夢でもあり、アフリカ人の夢でもある」と言い、最後に「自由の鐘を鳴らせ! 自由の鐘を鳴らせ! 自由の鐘を鳴らせ! すべての村に、すべての部落に、すべての国に、すべての町に。自由の鐘を鳴らせ!」という有名なキングの「I Have a Dream」の演説の一節で締めくくった。
ちなみにバラク・オバマは退任記者会見でもこの曲に乗って登場した。よほどこの曲を気に入っているらしい。
4000人のファンを集めて撮影された。
6. All Because of You
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785627003
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:スティーブ・リリーホワイト
・チャート:IRE4位、UK4位
若い頃はニューヨークやロンドンのような大都会でライブをやることを夢見ていたが、夢が実現してしまうと、その時の興奮や無垢は消えてしまったという曲。
エッジはU2唯一の本物のロックナンバーと述べており、ライブでは演奏前に「The Whoへのラブソングだ」と紹介された。
条例違反のパフォーマンスだったが、9.11テロ後初めてニューヨークで大規模なライブを開いたのがU2ということで、U2に恩のあるニューヨーク市民およびニューヨーク市警は多めに見てくれた。
7. A Man and A Woman
女性に対する忠誠がテーマ。
ボノはThin Lizzyのフィル・ライノットの歌い方の影響を受けており、The Clashとマービン・ゲイを一つの曲にしたかったと述べている。
8. Crumbs From Your Table
世界の豊かな国々が貧しい国々対してわずかな援助しかしないことを批判した曲。
9. One Step Closer
ボノがノエル・ギャラガーに「自分の父親は信仰心を失っていたんだろうか?」と尋ねた時、彼は「(死んだことによって)知るのに一歩近づいたよね」と言ったというエピソードを元に作った曲。ライナーノーツにノエル・ギャラガーに対する謝辞が述べられている。
10. Original of the Species
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785627103
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:スティーブ・リリーホワイト
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497885630303
映像作品DVD Vertigo 2005: Live From Chicagoのこの曲のパフォーマンスはiPodのCMに使われ、2015年までミュージックアプリ「アーティスト」の人物型シルエットはこの曲のPVのボノが使われた。
ボノが本作のベストソングに挙げている。
デジタルリリースのみされた。
撮影の際、ボノは「(CGの)彼女と一つになりたい。彼女の世界の一部になって、彼女に僕の世界を見せてやりたい」とリクエストしたのだという。なお音源はジャックナイフ・リーがリミックスしたものを使っている。
11. Yahweh
アルバム制作中、目まぐるしくプロデューサーが代わったが、これは最初のクリス・トーマスのヴァージョンがそのまま残っているのだという。
直接的にはエルサレムをテーマにしているが、いかようにも解釈できる曲ではある。
B面曲
Fast Cars
アルバムのボーナストラック。
レコーディングの最後の二日間で出来た曲。
Are You Gonna Wait Forever?
VertigoのシングルのB面に収録。
Neon Lights
VertigoのシングルのB面に収録。
Kraftwerkのカバー。
Ave Maria
Sometimes You Can’t Make It on Your OwnのシングルのB面に収録。
アルバム未収録シングル
Electrical Storm
https://matome.naver.jp/odai/2153597896035750501/2153698497785627203
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:ウィリアム・オービット
・チャート:IRE2位、UK5位、US77位
The Best of 1990–2000のリードシングルとして作られた曲で、9.11以降のアメリカの不穏な雰囲気を恋人たちの関係に置き換えて歌っている。
Band VersionとWilliam Orbit Mixの二種類ある。
ラリーとサマンサ・モートンの共演が話題になった。ラリーが役者開眼したのはこのPVがきっかけと思われる。アントン・コービンが手がけた数多のPVの中でも評価が高く、ようやく面目躍如したと言えよう。
ドラムキットの後ろにいないのは妙な気分だった。時には人は自分に向いていないことをやるものだけど、心臓が飛び出るかと思った。ボノに「やってみるか?」と聞かれて何も考えずに「はい」と言ってしまったんだ。アントンは何をやるのかきちんと教えてくれなかったから、(撮影は)少しショックだった。でも承諾したからには責任を取らないと。ドラムキットの後ろにいるほうがずっと快適だ。それが僕の仕事で情熱を傾けてきたことだ。いつもと違うことをするのは面白かったけど、ビデオを見返すのは苦痛だね。ただ想像するだけ……でも見返したらきっと面白いんだろうね(ラリー)
u2songs | Electrical Storm (Anton Corbijn Video) – U2 (04:26) |
Vertigoツアー
リミックス
■Vertigo
2004 Jacknife Lee mix – Jacknife Lee
2004 Redanka Power mix – Redanka
2004 Trent Reznor Remix – Trent Reznor
■City Of Blinding Lights
2005 Paradise Soul Vocal Mix – Pete Tong
2010 Hot Chip 2006 Remix
■All Because of You
2005 Killahurtz Fly mix – Killahurtz
■Fast Cars
2005 Jacknife Lee mix – Jacknife Lee
■Ave Maria
2005 Jacknife Lee mix – Jacknife Lee
アウトアピアランス
■Vertigo
・Live 8: One Day One Concert One World (2005) – Vertigo (Live from London, Jul. 2, 2005 – Live 8)収録。
・nrj Music Awards 2005 (2005)
・The 25th Anniversary Rock & Roll Hall of Fame Concerts (2010) – Vertigo (Live from New York, NY, Oct. 30, 2009)収録。
・Rock and Roll Hall of Fame Live Vol. 8 (2011) – Vertigo (Live from New York, NY, Mar. 14, 2005)収録。
■City of Blinding Lights
・Pete Tong Essential Selection 2005 (2005) – City of Blinding Lights (Paradise Soul Vocal Mix Edit)収録。
・Grammy Nominees 2006 (2006)
・The Official Inaugural Celebration (2010) – City Of Blinding Lights (Live from Washington, DC, Jan. 19, 2009)収録。
■Original of the Species
・Every Mother Counts 2012 (2012) – ボノとエッジがアコギヴァージョンを提供。
評価
■アルバム
・2004年ローリングストーン誌年間ベストアルバム第7位
・2004年ローリングストーン誌読者が選ぶ年間ベストアルバム第1位
・2004年NME年間ベストアルバム50第18位
・2004年Qマガジン・レコード・オブ・ジ・イヤー第4位
・2004年スピン誌・エンド・オブ・イヤー第29位
・2004年モジョ年間ベストアルバム第17位
・2004年モジョ読者が選ぶ年間ベストアルバム第9位
・2004年ワード年間ベストアルバム第9位
・2004年アンカット年間ベストアルバム第35位
・2004年ヒューモ(ベルギー)年間ベストアルバム第6位
・2004年イグアナ(スペイン)年間ベストアルバム第29位
・2006年グラミー賞年間最優秀アルバム賞
・2006年グラミー賞年間最優秀ロックアルバム賞
・2006年メトロミュージックアワード最優秀アイリッシュアルバム賞
・2006年BBC Radio 2トップ100アルバム第63位
・2010年Qマガジン21世紀のアーチストとアルバム第33位
・2016年Qマガジンが選ぶ過去30年間の偉大なアルバム(2004年)
■Vertigo
・2004年ローリングストーン誌年間ベストシングル第8位
・2004年ローリングストーン誌年間ベストシングル第1位
・2004年トリップルJリスト第38位
・2004年アイウィークリー年間ベストシングル第12位
・2005年グラミー賞年間最優秀ロック・パフォーマンス デュオ/グループ
・2005年グラミー賞年間最優秀ロックソング賞
・2005年グラミー賞年間最優秀短編音楽ビデオ賞
・2005年Qマガジン読者が選ぶ2005年の偉大な曲100第34位
・2005年アイヴァー・ノヴェロ賞年間インターナショナルヒット賞
・2005年Qマガジン偉大なギターソング100第58位
・2010年XFMが選ぶオールタイムトップ1000
■Miracle Drug
・2004年イグアナ(スペイン)年間ベストシングル第35位
■Sometimes You Can’t Make It On Your Own
・2005年Qマガジン読者が選ぶ2005年の偉大な曲100第36位
・2006年グラミー賞年間最優秀楽曲賞
・2006年グラミー賞年間最優秀ロック・パフォーマンス デュオ/グループ
■City of Blinding Lights
・2005年Qマガジン読者が選ぶ2005年の偉大な曲100第42位
・2006年グラミー賞年間最優秀ロックソング賞
・2010年XFMが選ぶオールタイムトップ1000
■All Because Of You
・2005年Qマガジン読者が選ぶ2005年の偉大な曲100第97位
■Original Of The Species
・2004年Qマガジンの2004年に聴くべき曲
■The Saints are Coming
・2006年ローリングストーン誌年間ベストシングル第86位
・2007年MTVミュージックアワードジャパン・ベストコラボ賞
・2007年MVPA賞年間最優秀ロック映像賞
・レーベル:アイランド
・プロデューサー:スティーブ・リリーホワイト、クリス・トーマス、ジャックナイフ・リー、ネリー・フーパー、フラッド、ダニエル・ラノワ、ブライアン・イーノ
・チャート:IRE1位、UK1位、US1位