The Whoの名曲Baba O’Riley(ババ・オライリィ)

BonoReed
https://www.youtube.com/watch?v=KHwHs9RwXYw
1971年にリリースされたThe Whoの5thアルバムWho’s Nextのオープニング曲です。ヨーロッパのいくつかの国ではシングルカットされましたが、アメリカやイギリスではシングルカットされず、それでもローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500では349位にランク・インし、数々の有名アーチストにカバーされるなどクラシック・ロックソングの一つになっています。印象的な長いイントロがどことなくU2のWhere the Streets Have No Nameを思い出させます。

Spotifyで偶然見つけたこんなプレイリストにもBaba O’Rileyは入っていました。同じことを考えた人もいたんですね。

Lifehouse


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681091603
この曲は元々商業的にも批評的にも大成功を収めた1969年のロックオペラアルバムTommyの続編にあたる同じくロックオペラLifehouseのために書かれた曲です。

Tommyツアーの際、The Whoのギタリスト兼ソングライターであるピート・タウンゼントは、ライブでヴァイブレーションが純粋なものになり、世界が止まって、物事全体が融合するという感覚に襲われました。その時、聴衆は人事不省になるまで踊り狂い、その魂は肉体を抜け出て、エクスタシーが半永久的に持続する一緒の天国へ行くのです。

そしてThe Whoのライブでそういうことが起こらないのは”知識”が邪魔しているせいだと考えました。


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681091703
ピートのこのアイデアはスーフィー思想家兼音楽家でもあったイナヤット・カーン(Inayat Khan:1882~1927)の思想に元にしていると言われています。カーンは人間の精神をヴァイブレーションとサウンドに結びつけた作品を発表していました。

そのような音楽は生命に力をみなぎらせ、その目的を高いレベルに昇華させれば、音楽は回復への道しるべ、または完全なる宇宙の旋律の探索となり、一度奏でれば、世界全体に調和をもたらすのです。

そしてLifehouseはこんなストーリーです。

舞台は21世紀のイギリス。土地は汚染され、人々は”ライフスーツ”と呼ばれるスーツを着用しています。そのライフスーツはJumboという男にコントロールされているthe Gridという今日のインターネットに似たものに接続され、人々は家にいながらにしてすべての日常生活を”経験”することができます。それも短時間の間に何万人分の人生を経験するのです。さらにライフスーツにはチューブも接続されていて、人々はそこから食べ物を接取したり、睡眠ガスを吸ったり、エンターテイメントを享受したりします。もちろん、Jumboのコントロール下にあるエンターテイメントだけですが。

すべてがプログラムされた世界――そしてロックンロールが存在しない世界です。
Jumboのコントロールを受けないエンターテイメントを提供する人々は社会の敵と見做され、そういう人々は森の中に逃げ、夜な夜なロックンロールのライブを行っていると噂されています。

そんな時、The Hackerと呼ばれる人物が「20世紀のロックンロールを再発見し、人々にロックンロールに触れさせてそのエゴを解放し、このプログラムされた世界を破壊するためにロンドンのLifehouseでロックコンサートを開催するので、ライフスーツを脱いでそれに参加して欲しいと人々に呼びかけます。

ここで物語の主人公であるスコットランドの農民一家が登場します。レイとサリー、そして二人の間には二人の子供がいます……が、そのうちの一人・娘のマリーがロックコンサートに参加するために家出してしまい、残された一家は娘を追ってエアコン付きのキャンピングカーでロンドンを目指します。デモ段階ではTeenage Wastelandと呼ばれていたBaba O’Rileyは汚染して荒廃しきった土地(Teenage Wasteland)を一家が行く時に流れる予定だったそうです。

そしてファシスト政府による数多の妨害を乗り越えてLifehouseのコンサートは実現します。人々はライフスーツを脱いでコンサートに参加し、会場に入りきれなかった人々もライフスーツを身にまとったまま会場の外からコンサートを見守ります。そのコンサートは参加者の個人データを音楽の中に取り込み、文字通り”自分たちの音楽”を探すというもので、ステージでは延々と実験的な音楽が繰り広げられます。そして警察が会場に突入して、まさにThe Hackerを撃たんとした時、人々の歌が合わさって完全なる旋律が四度鳴り響き、一種の音楽の涅槃が出現してみんな消え失せ、同時にライフスーツを着てコンサートを見守っていた人々も消え失せたのでした――。

読んでいるだけでゾクゾクするような脚本です。この荒唐無稽でありながら魅力的なストーリーに心を奪われたピートは詳細な人物表まで作って無我夢中で脚本を書き続けたそうです。


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681091803
しかもLifehouseの企画は単なるミュージックアルバムでも映画でもなく、今風の言葉で言えばメディアミックス作品と呼ばれるものでした。

ピートはロンドンのヤング・ヴィク(Young Vic)劇場に招待客だけのコンサートを開催し、ステージ上でバンドが新曲を作り、観客がその素材を作るという構想を練りました。観客の中から「個人」が現れ、音楽と映画の中に自分の役割を見出すのです。そしてコンサートが盛り上がった時に、劇場の周辺で行われている諸々の活動と一緒に撮影すれば、フィクションとノンフィクションが合わさった画期的な作品ができると考えました。

けれどもあまりにもコンセプトもストーリーが難解だったために誰にも理解されず。ピートの最大の理解者であるジョン・エントウィッスルでさえ、ヤング・ヴィク劇場に観客と一緒にコミューンを作ると勘違いしたほどでした。Tommyの映画化に夢中だったマネージャーのキット・ランバートも非協力的で、Tommyの映画を配給する予定だったユニバーサルもピートの企画に首を横に振りました。

孤立無援のピート・タウンゼント……けれどもMuseのようなSF的世界観はともかく、ビョークの先を行くAI的ともいえるメディアミックス作品を当時の人々が理解しなかったのは仕方がないと思われ、仮に実行すれば惨憺たる結果に終わったことでしょう。よく言われるように彼は早すぎた天才だったのです。

https://www.youtube.com/watch?v=wd8Q0-RJPmk
それでもピートは1970年の年末から1971年の年始にかけてLihehouseの企画に沿った新曲を何曲か書き上げ、71年の4月25日・26日にはヤング・ヴィク劇場でのコンサートを実現しました……が、観客はただ音楽を楽しむだけで何も起きず、これにてLifehouseの企画は頓挫しました。ショックでピートは神経衰弱になったそうです。

https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681092103
ということで方針転換してLifehouseのために作った曲で二枚組のコンセプトアルバムを作ろうとしましたが、プロデューサーのグリフ・ジョーンズの発案で結局一枚のアルバムにまとめられました。

それが1971年のWho’s Nextです。コンセプトから解放されたバンドは伸び伸びとレコーディングを行ったそうで、それが功を奏したのか、皮肉にも後年本作はバンドの最高傑作と呼ばれるようになりました。


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681092203
その後もピートはLifehouseの構想を温め続け、1993年のソロアルバムPsychoderelictは、孤高のロックスター・レイ・ハイが、彼のマネージャーとゴシップ記者との間で交わされた偽のファンレターをきっかけに隠遁生活から復帰して、ライフハウスのクライマックスシーンそっくりにヴァーチャルリアリティーのコンサートをやるという内容でした。

が、このアルバムは商業的に大失敗に終わり、以後、ピートはソロ作品を発表していません。


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681092303
また1999年12月5日にはBBCラジオ3で2時間のラジオドラマとして放送されました。

https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681093003
2000年にはピートのウェブサイトとライブ会場でLifehouseセッションのデモ曲などを収録した6枚組Boxセット・Lifehouse Chroniclesがリリースされました。

https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681092403
さらにLifehouseの構想は会員登録すればアプリを使って各々が作曲できるというウェブサイトlifehouse-method.com.に引き継がれました。ここで作られた曲を使ってコンサートを行う予定でしたが結局実現せず、サイトも2008年に閉鎖されました。

タイトル

Baba O’Rileyというタイトルはピート・タウンゼントの心の師であるインド人神秘家メヘル・バーバー(Meher Baba)と音楽の師でありミニマム・ミュージックの第一人者であるアメリカ人作曲家テリー・ライリー(Terry Riley)の二人のファミリーネームを足したものです。

この曲のタイトルはその印象深いフレーズからTeenage Wastelandであると英語圏でも勘違いされています。ただデモ段階では実際にTeenage Wastelandというタイトルだったそうです。


https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301/2153272059681093403
このメヘル・バーバーという方、どなたか知りませんが、日本語版Wikiにもかなり詳細な記述が載っています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC

そしてここにあるようにピートは彼に心酔していて、彼のためにHappy Birthday、I am、Who Came First、With Loveといった作品を作っており、Baba O’RileyのデモはI amにも収録されています。

Baba O’Rileyは二つのデモ曲を合わせて作った曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=v-layDeazY8
https://www.youtube.com/watch?v=tmbaWtQoLM0

Baba O’Rileyのバックトラックは”人間のヴァイブレーションを音楽に導入する”というLifehouseのコンセプトに沿ったものでした。ここでピートはメヘル・バーバーの生命兆候(脈拍、体温、呼吸etc)と人格をシンセサイザーにインプットしようと試みたのです……が、結局これは失敗に終わり(ピートが公式に否定しています)、そのかわり Lowrey Berkshire Deluxe TBO-1 オルガンを使って、マリンバがリピートする音をバックトラックとしてレコーディングしますた。これはもちろんテリー・ライリーにインスパイアされたもので、”未来のエレクトロサウンド”を作る意気込みで作ったのだそうです。

この曲は元々9:48のデモ曲で、それを作り直して約30分の曲(!)になったのですが、Who’s Nextに収録するために5:01に縮められました。残りの部分はLifehouse ChroniclesにBaba M1 (O’Riley 1st Movement 1971)やBaba M2 (2nd Movement Part 1 1971)のタイトルで収録されています。

https://www.youtube.com/watch?v=vGP0sxABITs

曲が出来上がるとピートはプロデューサーのグリン・ジョーンズのところに持って行って、手を加えてもらおうと思ったのだが、グリン曰く「完璧な出来」だったためそのまま採用されました。キーボードまたはシンセサイザーがリード楽器としてではなくロックソングのリズムを刻んだ初めての例と言われています。

ただしライブで演奏する際、このオルガンのイントロ部分はライブでは再現不能のため打ち込みが使われています。

この曲はWhere the Streets Have No Nameみたくイントロが長く1分40秒経つまでギターの音が入りませんが、その間、ピートは以下のようなことを考えているそうです。

ただそこに立ち尽くして、音楽に耳を澄まし、観客を見つめながら、「まるで王様のようだ。俺がこの曲を書いたんだ・なんて考えている……死の床で「ギターを渡してくれないか?」とか「Baba O’Rileyのバッキングテープを回してくれないか?」なんて誰かに頼みたくない。ただもう一回この曲をやりたいと思うだけだ。(ピート・タウンゼント)

https://www.youtube.com/watch?v=baIMbA7Mcok
有名なヴァイオリンのパートは East of Edenのデイブ・アーバスによるものです。彼はEOEはJig a Jigという曲で初めてのケルティック・ロックソングと思われるものを作った人物で、Rolling Stone magazine’s 500 Greatest Songs Of All Timeによれば、これはキース・ムーンのアイデアなのだとか。ライブではこのパートをロジャー・ダルトリーがハーモニカで演奏しています。

歌詞

英語
https://www.azlyrics.com/lyrics/who/babaoriley.html

和訳

俺は野に出て
食う物を得るために戦う
全力で生きるんだ
戦う必要なんかない
自分の正しさを示すのには
許される必要もない

泣くんじゃない
目を上げるな
ただの10代の荒野じゃないか

サリー 俺の手を取れ
南へ旅しよう 土地を超えて
火を消して
肩越しに過去を振り返る事もなく
脱出の時だ
幸せは近い
一緒に行こう
歳を食いすぎる前に

10代の荒野
ただの10代の荒野じゃないか
10代の荒野
10代の荒野
何もかも荒れ果てている

(出典:https://yaplog.jp/asbury/archive/113

前述したとおり、Baba O’Rileyは元々Lifehouseのために作られた曲で、汚染して荒廃しきった土地(Teenage Wasteland)を一家が行く時に流れる予定の曲でした。

が、Lifehouseの企画が頓挫したことにより、この曲はそのバックグラウンドを失い、様々な解釈が可能になっています。ちなみに当のピート・タウンゼントはあまり難しいことを考えていないようです。

Baba O’Rileyはウッドストックのティーンエージャーたちの絶対的な荒廃についての曲だ。アシッドをやって、20人の若者が脳に障害を負った。皮肉なことにこの曲をティーンエージャーの賛歌だと考えているリスナーもいる……Teenage Wasteland(10代の荒廃)。そうとも! 俺たちはみんな荒廃しているんだ!(ピート・タウンゼント)

Baba O’Rileyには「we’re all wasted」という一節があるけど、それはただ「we’re all wasted」という意味だ。そこには現在あるような重要なものなど何もない。俺たちが恐れているのは、厳然たる事実として俺たちが機会を逸しているということだ。俺が思うに俺が聴衆に向かって何かを言う時は「ただそうしたい」と言っているだけなんだ。(ピート・タウンゼント)

ちなみに私が胸を打たれた一般の方の解釈は以下のものです。

今20代になってみると、この曲はある種の感慨をもって振り返るべきものになっています。10代の荒野は確かに過去のものになった。けれども、今でもこの曲が胸をいっぱいにし、コンサート会場では年齢を問わず合唱を引き起こし、The Who自身が歌い続けるのは、あれほど辛く荒れ果てていた10代の荒野を生き抜いてきた自分達を讃えるためなのです。
The Who “Baba O’Riley” | 遠い家への道のり

Baba O’Riley

ヨーロッパ以外ではシングルカットもされていないこの曲はThe Whoの代表曲となり、いつの時代もライブで歌われています。

https://www.youtube.com/watch?v=6ZBhgZBjiLE
https://www.youtube.com/watch?v=oMR8SNsDtls
https://www.youtube.com/watch?v=_KX05v4dpss
https://www.youtube.com/watch?v=v0J85ydsb_w
https://www.youtube.com/watch?v=Ml4X7QeA7Ng
https://www.youtube.com/watch?v=ScA2FqJn9ic
https://www.youtube.com/watch?v=rsGQ8C64WlQ

カバー&サンプリング

The Whoの代表曲だけあって、実に様々なミュージシャンにカバーされており、やはりイントロが印象的だからか多くのミュージシャンにサンプリングもされています。ここでその一部紹介します。個人的にはNirvanaが一番意外でした。

https://www.youtube.com/watch?v=2iVA7hm2ivE
https://www.youtube.com/watch?v=BE4ov8dgSd8
https://www.youtube.com/watch?v=proSI9Cyvjg
https://www.youtube.com/watch?v=reV0f9zW0W8
https://www.youtube.com/watch?v=316HQ3769-s
https://www.youtube.com/watch?v=n5XgJ7Rv–8
https://www.youtube.com/watch?v=KSalc_3PfHI
https://www.youtube.com/watch?v=sXMhGADyMxE
https://www.youtube.com/watch?v=HsDBVtL1vDk

まさにエバーグリーンの名曲です。

■参考■
・第82回 Baba O’Riley(1971/全米、全英共にシングル・カットなし)/ ザ・フー(1964-)
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/yogaku82

・Who’s Next – Baba O’Riley
https://thewhojp.wordpress.com/2016/11/03/whos-next-baba-oriley/

・Songfacts:BABA O’RILEY by THE WHO
http://www.songfacts.com/detail.php?id=1529

・The Who 『Who’s Next』(1971)
http://blog.livedoor.jp/larry4/archives/9589861.html

https://matome.naver.jp/odai/2153261422839977301
2018年07月28日