本当にただの “時代遅れ” なのか?
「最近の音楽はダメだ」なんて言っている年配の人を見ると、「時代遅れだなあ」とか、「世の中の流れについていけてないな」とか、「ノスタルジーに浸っているだけだ」なんていう風に思ったりするでしょうか?
彼らは本当に「過去を懐かしんでいるだけ」なのでしょうか?
実を言うと、彼らは全くの的外れではないのです。彼らの意見を支持するような研究結果が幾つもあります。科学が証明してくれているわけです。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
最近の音楽は確かに「ダメ」になってきている
1. 最近の音楽から、多様性が失われつつある
Spanish National Research Councilは2012年に、1955年から2010年までに発売された、ありとあらゆるジャンルの46万曲のデータを使って、時代と共に音楽がどのように変化したのかを調べました。
研究の結果、音色の豊かさ(Timbral Diversity)が、1960年代にピークに達してからは、急速に失われつつあることが分かりました。
Measuring the Evolution of Contemporary Western Popular Music | Scientific Reports
つまり、どの音楽も「同じように聞こえる」ようになってきたことが、科学的に証明されたのです。
Science Proves: Pop Music Has Actually Gotten Worse | Smart News | Smithsonian
新しいレコーディング技術や、新しい楽器(音色)を試すよりも、全く同じドラム、キーボード、サンプラー、ソフトウェアを使って音楽が作られている、つまり、「創造性(Creativity)」や「オリジナリティー」が失われているのです。
ビートルズ(The Beatles)の「A Day In The Life」(1967年)と、ロビン・シック(Robin Thicke)の「Blurred Lines」(2013年)を比べてみましょう(極端な例ですが)。前者は、メンバーの4人の他、たった1曲のポップ音楽のために、40人のオーケストラも演奏に参加していますが、後者では、使われている楽器は基本的にドラムセットのみ。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
メロディーライン、リズム、歌声までもが、互いに似通ってきているのです。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
2. 最近の音楽では、「Millennial Whoop」が濫用されている
「Millennial Whoop」とは、Patrick Metzger(音楽家)によって名付けられた、一種のパターンである。2010年代の有名なポップミュージックに度々出現する、長調の3度と5度を交互に繰り返す歌い方。「Wa-Oh-Wa-Oh」のように聞こえる。
Millennial whoop – Wikipedia
例を挙げると、
Kings of Leon – Use Somebody (2008年)
Justin Bieber – Baby (2010年)
Katy Perry – California Gurls (2010年)
Owl City & Carly Rae Jepsen – Good Time (2012年)
Chris Brown – Turn Up The Music (2012年)
Chvrches – The Mother We Share (2013年)
Demi Lovato – Really Don’t Care (2013年)
The Lonely Island – F**k Off (2016年)
Frank Ocean – Ivy (2016年)
Pitbull – Bad Man (2017年)…などなど
The “millennial whoop” is taking over pop music – YouTube
ここまで広まったのは、私たちの脳が、「以前に聞いたことがあるようなメロディー」をより好む傾向にあるから。新しい曲であっても、「Millennial Whoop」のような「既に何度も触れて慣れ親しんだパターン」が含まれていれば、何となく安心だし、好きにもなりやすい。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
これは心理学的には「単純接触効果(Mere-exposure effect)」と言われる。最初は好みではなかったとしても、繰り返し聞かされると、次第にその曲への好感度が増していく。
単純接触効果 – Wikipedia
新しいアーティストのプロモーションに掛かる費用は増すばかりなのに、レコード会社が頑張って宣伝してもそのアーティストが本当に売れるかどうかは分からない。
レコード会社は、このリスクを避けて、確実に新しいアーティストが売れるようにしたい。そこで、才能の有無ではなくて、例えばテレビに出演している普通の若いタレントなどを選んでアーティストに仕立て上げ、人々がそれを好むように「強制」する。
テレビ番組、スーパーマーケット、駅など至る場所で同じ曲を宣伝し、人々にそれを何度も何度も繰り返し聞かせれば、無意識のうちに大抵の人々はそれを好きになっている。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
3. 最近の音楽は、歌詞もどんどん薄っぺらになってきている
米SeatSmart社のAndrew Powell-Morse氏の調査で、2005年から2014年の10年にわたって、「Lyrics Intelligence」という指標(歌詞に含まれる単語の豊かさ)が減少し続けていることが分かった。
Analysis: Intelligence Levels of Popular Music Lyrics
最近の歌詞に用いられる単語の多くは「アメリカの小学生」レベル
Hip-hop ain’t top: new study reveals reading levels behind music lyrics | Music | The Guardian
ボブ・ディランの「Like A Rolling Stone」ような詩的な歌詞が減って、代わりにビヨンセの「Run The World (Girls)」やDuck Sauceの「Barbra Streisand」のような、同じようなことを繰り返すだけの、深みのない単調な歌詞が増えた。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
4. たった2人の作詞家が数多くのヒット曲を生み出している
Max MartinとLukasz Gottwaldという2人のプロデューサーは、20年近くの間に数え切れないほど多くのヒット曲を作ってきた。
Max Martinは、Katy Perryの「I Kissed a Girl」(2008年)、「Teenage Dream」(2010年)、「California Gurls」(2010年)、Britney Spearsの「…Baby One More Time」(1998年)などを含めて、20以上のチャート1位の曲を世に送り出している。
マックス・マーティン – Wikipedia
同じ作曲家が提供した曲を様々なポップシンガーが歌っているだけなので、「全ての音楽が同じに聞こえる」のも無理はないはず
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
5. 印象的なフレーズ(フック)が頻繁に挿入される
iPodなどのデバイスや、Spotifyなどのストリーミング配信サービスが普及し、誰もが数え切れないほど多くの曲に気軽にアクセスできるようになった結果、最初の部分だけ聞いてみて好みではなかったら別の曲を再生する、といったこと(つまみ食い)が頻繁に起こるようになった。
音楽の制作側としては、少しでも人々を惹きつけられるように、「キャッチーなフレーズ」を短い楽曲の中により多く挿入するようになった。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube
6. 曲全体が均一に聞こえてしまう
最大音量と最小音量の差を縮めるダイナミックレンジ圧縮(Dynamic-Range Compression)を施すと、ボリュームを変えなくとも、音が大きくなったように感じられる。
Dynamic range compression – Wikipedia
音が大きく聞こえるように加工すれば、似たような音楽で氾濫している中で、自分の曲だけを目立たせることができる(=売れる)というわけ。
Why is modern music so loud? – BBC News
CDに関しては、1980年代中頃から音が大きくなってきているという。
Why is modern music so loud? – BBC News
音を大きくしようとするこの傾向には「Loudness war」という名前まで付けられている。曲全体を通して音量が均一になるので単調に聞こえ、微妙な音色の違いは区別できなくなり、音質は低下し、編集の過程で音が歪んでしまう、などの問題が指摘されている。
Loudness war – Wikipedia
最後に
音楽の好みは人それぞれなので、最近の音楽が好きなら、誰が何と言おうとそれを楽しめばいいと思います。
ただし、最近の音楽からは創造性、オリジナリティーが失われつつあるかもしれないのです。
工場生産されたような、全くメッセージ性のない単純な歌詞で、楽器が少なく、音に深みが無く均一的で、リズムも単調で面白くなく、レコード会社が人々に押し付けたような音楽で良いのでしょうか?
芸術としての音楽から、ただ売るためだけの音楽へと変貌してしまうのは何としても避けたいことです。
Why Is Modern Pop Music So Terrible? – YouTube