はじめに
芥川龍之介賞(あくたがわりゅうのすけしょう)、通称芥川賞は、純文学の新人に与えられる文学賞である。文藝春秋社内の日本文学振興会によって選考が行われ、賞が授与される。
芥川龍之介賞 – Wikipedia
芥川賞は日本の文学賞の最高峰。毎年二回ニュースになるので、普段はあまり文学作品を読まないという方も名前くらいは聞いたことがあるかと思います。ですが、純文学なんてなんだか敷居が高そう……とか、どれから読んでいいのかわからない……といった方も多いのではないでしょうか。
ここでは、いま読む価値がある作品ということを基準にこれまでの芥川賞からベスト12作品を選んでみました。独断と偏見ですが、何かの参考になれば幸いです。
第12位
村上 龍(むらかみ りゅう、1952年2月19日 – )は、日本の小説家、映画監督、脚本家。長崎県佐世保市出身。血液型はO型。
村上龍 – Wikipedia
武蔵野美術大学在学中の1976年、麻薬とセックスに溺れる自堕落な若者たちを描いた『限りなく透明に近いブルー』で群像新人文学賞、及び芥川龍之介賞を受賞。
村上龍 – Wikipedia
【新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)/村上 龍】生々しさじゃ優勝。さすが芥川賞。リアルすぎて気持ち悪くなるレベルだけど時々読み返したくなるふしぎ。 →https://t.co/g6a7h6biW5 #bookmeter
— (((ゆうちょん))) (@yuh_chon) March 14, 2017
世間は村上春樹の新作読んでるけど俺は村上龍の旧作を読み返した。限りなく透明に近いブルー。チバユウスケはこの作品にインスパイアされてリリィの歌詞を書いたって都市伝説があるけど多分それ都市伝説じゃなくて本当と思う。読み返す度に思う。夢も希望もなく荒廃して空がずっと曇ってる灰色の世界。 pic.twitter.com/30lt4K6MRS
— ベッキー (@guitar_becky) February 24, 2017
今や大御所となった村上龍のデビュー作にして芥川賞受賞作。苛立ちに満ちた初々しい初期衝動が感じられて、改めて読むとポテンシャルのある新人だったのだなと感じます。これが気に入った方には『海の向こうで戦争がはじまる』を、もっと爽やかなのが良いと思った方には『69』をお勧めします。
第11位
第111回(1994上期)
内容(「BOOK」データベースより)
海芝浦に向かう「私」を待ち受けるのは浦島太郎、レプリカント、マグロの目玉…。たどり着いた先はオキナワか?時間と空間はとめどなく歪み崩れていく。言葉が言葉を生み、現実と妄想が交錯する。哄笑とイメージの氾濫の中に、現代の、そして「私」の実相が浮び上がる。
笙野 頼子(しょうの よりこ、1956年3月16日 – )は日本の小説家。本姓・市川。三重県出身、立命館大学法学部卒。
笙野頼子 – Wikipedia
USBを探す傲慢不遜院源丸居士@SHARP__5
笙野頼子「タイムスリップコンビナート」を久々に再読して、改めて素晴らしい作品。このときの芥川賞講評(検索するとすぐ出てきます)も、評者の資質をあらわしていて面白い。
— 和田尚久 (蕩尽) (@naonao200170) January 1, 2014
なにがなんだかさっぱりわからんけど、とにかくパワーを感じる作品。言葉の過剰の中で海芝浦から幻想へとトリップしてゆきます。存命の作家のなかではおそらく文学に対して一番意識的な人ということでランク入りです。
第10位
第28回(1952下期)
内容紹介
「松本清張傑作短編集」は、現代小説、歴史小説、推理小説各2巻の全6巻よりなる。本書は現代小説の第1集。身体が不自由で孤独な一青年が小倉在住時代の鴎外を追究する芥川賞受賞作『或る「小倉日記」伝』。旧石器時代の人骨を発見し、その研究に生涯をかけた中学教師が業績を横取りされる「石の骨」。功なり名とげた大学教授が悪女にひっかかって学界から顛落する「笛壺」。他に9編を収める。
松本 清張(まつもと せいちょう、1909年(明治42年)12月21日 – 1992年(平成4年)8月4日)は、日本の小説家。
松本清張 – Wikipedia
1953年に『或る「小倉日記」伝』で芥川賞を受賞。以降しばらく、歴史小説・現代小説の短編を中心に執筆した。
松本清張 – Wikipedia
1958年には『点と線』『眼の壁』を発表。これらの作品がベストセラーになり松本清張ブーム、社会派推理小説ブームを起こす。
松本清張 – Wikipedia
鯉@sawadaban
おい井川3/27Miwちゃん@デジカフェ@twinballs1
何故だかよくわからない。風呂入ってから読もう。
大推理作家のイメージの松本清張ですが、デビュー当時は本作のような社会派の現代小説を書いていました。とはいえこの作品も鴎外の謎を中心とした一種のミステリとしてワクワクしながら読み進めることができます。大作家の原点ということでランクイン。
第9位
第4回(1936下期)
内容(「BOOK」データベースより)
中世フランスの女流詩人の伝記を書く主人公「わたし」、友人庵文蔵、非合法の運動をする文蔵の妹ユカリ―日常の様々な事件に捲込まれ、その只中に身を置く「わたし」の現実を、饒舌自在に描く芥川賞受賞作「普賢」
石川 淳(いしかわ じゅん、1899年(明治32年)3月7日 – 1987年(昭和62年)12月29日)は、日本の小説家、文芸評論家、翻訳家。東京府浅草区生まれ。
石川淳 – Wikipedia
無頼派、独自孤高の作家とも呼ばれ、エッセイでは夷斎先生の名で親しまれた。
石川淳 – Wikipedia
石川淳の「普賢」に出てくるキャラクターは、揃いも揃ってアウトサイダーであって、人殺しやキチガイ、病気持ち、ニート、詐欺師に宗教狂いなどその筋の百貨店を眺めているかのように壮観です。
— ナカムラ (@n_uyuu) November 28, 2016
芥川賞はほとんど読んでるけど、石川淳の普賢以上の作品はないよ。
— 書肆CAVE・武田 (@CAVE1919) April 2, 2015
社会不適合者が家を飛び出して何かやらかし、死にたいと思いつつ戻ってくる的な話で、個人的には現代的ダメ男小説の元祖という認識。戦前の作品ですが、面白くて読みやすいと感じると思います。併録の「佳人」もおすすめ。
第8位
第6回(1937下期)
内容(「BOOK」データベースより)
出征前日まで書き継がれ、前線の玉井(火野)伍長に芥川賞の栄誉をもたらすと共に、国家の命による従軍報道、戦後の追放という、苛酷な道を強いた運命の一冊「糞尿譚」。
火野 葦平(ひの あしへい、1907年(明治40年)1月25日 – 1960年(昭和35年)1月24日)は、昭和戦前・戦後期の小説家。本名玉井 勝則。
火野葦平 – Wikipedia
もう一冊となるとこれしかない…
「糞尿譚」火野葦平大先生(新潮文庫)(北九州市立文学館文庫)。
第6回芥川賞受賞作。ざっくり言うとうんことしっこの話。芥川賞作品でどれが好きかと聞かれるとこれと答えがち。ラストが爽快。 pic.twitter.com/D66Wj5n0AS— サル太 (@inohiro_oita) October 30, 2016
読書ひと@edonosinjin
いや、兵隊三部作の火野葦平の芥川賞、それも戦時下の作であるから、どんなに戦争についてが刻々と書かれているものかと半ば恐れ、半ば興味で読み始めた訳だが、いや〜、汚い
俺が過去読んできた作でもとりわけ汚い、生活の貧窮がよくよく書かれている、「糞尿汲取人」のだが
これも戦前の作品。戦争の愚かしさとそれに振り回される人々をユーモラスに(かつ汚く)書き上げています。いまこそ読むべき名品。
第7位
第70回(1973下期)
内容紹介
出羽の霊山・月山を背景に、閉ざされた山村で村人と暮しをともにする一人の男が知った比の世ならぬ幽冥の世界…芥川賞の表題作ほか姉妹篇「天沼」など七作を収録
森 敦(もり あつし、1912年(明治45年)1月22日 – 1989年(平成元年)7月29日)は、日本の小説家。
森敦 – Wikipedia
ゆーい’ち@nyaposhine
森敦の『月山』はルルフォの『ペドロ・パラモ』に似る。バスに乗って男は山懐の破れ寺を訪れる。大量のたカメ虫が多雪を予示し男は雪に閉ざされた村にとどまるが、そこで出会う人々ははかない存在であり、春に友人と共に幽冥を脱して現実世界へと戻る。何が作者にこうした眩惑的な物語を書かせるのか?
— 奥野 克巳 (@berayung) November 24, 2016
幻想的で幽玄な作品ですが、ちょっとしたサスペンス的な手法も仕組まれており、引用させていただいた方がおっしゃっているようにどこかマジックリアリズム的な趣も感じさせます。佳品ですが今はあまり読まれていないようなのでこの位置に。
第6位
第110回(1993下期)
内容紹介
レイテで戦友から聞かされた言葉によって岩石に魅せられた男に訪れる苦難。夢と現が交錯する中で妻は狂気に誘われ、子は死に奔る
奥泉 光(おくいずみ ひかる、1956年2月6日 – )は、日本の小説家。近畿大学文芸学部教授。
奥泉光 – Wikipedia
奥泉光『石の来歴』読了。芥川賞受賞作。戦争経験から石の蒐集に取り憑かれた男の家族小説。緻密な設定から繰り広げられるストーリーはまさに圧巻。石というちっぽけな物体と同じくちっぽけな人間を重ねては、時間移動や殺人を巧みに入れ込んでいる。 pic.twitter.com/hNDUx6I2ZF
— つかっちゃん読書垢@文学ユーチューバー (@book_tsukatsu) May 29, 2016
奥泉光さんの『石の来歴』、もう一度読みたい。そして、芥川賞受賞作だったのを今まで知らなかった…
— エミリー (@emilyandtommy) May 11, 2015
これは入れるか迷ったのですが、いまをときめく作家さんの原点ということで、敢えてお勧めさせていただきます。いささか高踏的なので馴染めない方もいるかもしれませんが、ミステリ要素も絡めつつ石に宇宙を読み込む味わい深い作品です。
第5位
第32回(1954下期)
平凡なサラリーマンである主人公はふとした出来心から会社を首になり、持て余した時間で二人の息子をプールに連れてゆく。日常生活のスケッチを通して、ささやかで脆い小市民の生活を描き出してゆく。
庄野 潤三(しょうの じゅんぞう、1921年(大正10年)2月9日 – 2009年(平成21年)9月21日)は、日本の小説家。
庄野潤三 – Wikipedia
山形県東田川郡三川町出身。埼玉県立川越高等学校、国際基督教大学 (ICU) 教養学部人文科学科卒。同大学院修士課程修了(博士課程中退)。
奥泉光 – Wikipedia
【プールサイド小景・静物 (新潮文庫)/庄野 潤三】ありふれた日常。そこに在る危うさ。その断片を手繰り寄せるように、文章を紡ぐこと。なおかつ、文学としてそれを成立させるためには、どれほどの推敲が必要だ… →https://t.co/UqegrVSB5f #bookmeter
— ましろ (@massirona) November 8, 2016
全体に流れるシンとした空気感が好きで、何回も読み返したくなる。どの短編も、水の張ったプールのような静けさ…『プールサイド小景・静物 (新潮文庫)』庄野 潤三 ☆4 https://t.co/iWmMBtKo4Z #booklog
— メガさわ (@terra_91) July 21, 2016
何気ない日常を描かせたらピカイチの作家。そしてこの作品では、その日常に忍び込んだわずかなヒビが少しずつ割れ目を広げてゆくような不穏さを冷静な筆致で描き出しています。名品。
第4位
第39回(1958上期)
黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇の物語。“閉ざされた壁のなかに生きている状態”を論理的な骨格と動的なうねりをもつ文体で描いた、芥川賞受賞作品。
大江 健三郎(おおえ けんざぶろう、1935年1月31日 – )は、日本の小説家。
大江健三郎 – Wikipedia
愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)出身。東京大学文学部フランス文学科卒。大学在学中の1958年、「飼育」により当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。
大江健三郎 – Wikipedia
陰毛担当大臣おはくろくん@hakulo765
モリシ@mori_shi_
初期から中期にかけての大江は本当に素晴らしい。この作品が読めたら、ぜひ『万延元年のフットボール』に挑戦してみてください。日本文学史上最高傑作の一つだと思います。
大阪府堺市出身。1981年、バンド「INU」のボーカリストとしてアルバム『メシ喰うな!』で歌手デビュー。(中略)1996年には処女小説「くっすん大黒」で文壇デビュー、2000年に小説「きれぎれ」で第123回芥川賞受賞。
町田康 – Wikipedia
第3位
第74回(1975下期)
作家の郷里・紀州の小都市を舞台に、のがれがたい血のしがらみに閉じ込められた青年の、癒せぬ渇望、愛と憎しみ、生命の模索を鮮烈な文体でえがく。著者独自の哀切な主題旋律を初めて文学として定着させた記念碑的作品として、広く感動を呼んだ。芥川賞受賞作『岬』
中上 健次(なかがみ けんじ、本名同じ、結婚前までは「なかうえ」、1946年8月2日 – 1992年8月12日)は、日本の小説家。和歌山県新宮市生まれ。和歌山県立新宮高等学校卒業。
中上健次 – Wikipedia
被差別部落の出身であり、部落のことを「路地」と表現する。羽田空港などで肉体労働に従事したのち、執筆に専念する。
中上健次 – Wikipedia
ちこ@pony__1982
中上健次の「岬」を読んでるけど親戚ばっかり沢山でてきてガルシアマルケス状態やで。
— まつだ (@MTsDYM) October 4, 2016
これは文句なしでしょう。中上健次はこの作品を皮切りに、フォークナーやガルシア=マルケスにも比肩するような、のちに「紀州サーガ」と呼ばれる一大叙事詩を紡いでゆくことになります。圧倒的。
第2位
第123回(2000上期)
内容(「BOOK」データベースより)
絵描きの「俺」の趣味はランパブ通い。高校を中途で廃し、浪費家で夢見がちな性格のうえ、労働が大嫌い。金に困り、自分より劣る絵なのに認められ成功し、自分が好きな女と結婚している吉原に借りにいってしまうが…。現実と想像が交錯し、時空間を超える世界を描いた芥川賞受賞の表題作と他一篇を収録。
町田 康(まちだ こう、1962年1月15日 – )は、日本の小説家、ミュージシャン。旧芸名は、町田 町蔵(まちだ まちぞう)。本名は同じ漢字で「まちだ やすし」である。
町田康 – Wikipedia
norinori368@368hoshi
町田さんと太宰の共通点が言われたりするが、詩人の資質のあるという点もある気がしている。と、『きれぎれ』を詩集かのように携帯して思う。
— 願人坊 (@guanninbou) February 28, 2017
芥川賞は良くも悪くも秀才的な書き手に対して与えられてきた賞。町田康はそんな芥川賞の歴史のなかでは数少ない天才の一人。現代の無頼派、天性のパンクロッカー、偉大です。
第1位
第25回(1951上期)
内容紹介
ある朝、突然自分の名前を喪失してしまった男。以来彼は慣習に塗り固められた現実での存在権を失った。自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の眼には、現実が奇怪な不条理の塊とうつる。他人との接触に支障を来たし、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱く。そして……。独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、その底に価値逆転の方向を探った芥川賞受賞の野心作。
安部 公房(あべ こうぼう、1924年(大正13年)3月7日 – 1993年(平成5年)1月22日)は、日本の小説家、劇作家、演出家。本名は公房(きみふさ)。
安部公房 – Wikipedia
limたくや→∞@kenritumugen
久し振りに安部公房『壁』を再読している。やはり面白い。シュールリアリズム的で、しかもエンターテインメント性にすぐれている。『箱男』の幻想的な世界とはまた違う。ダリの絵を見ているような感じがある。
— blue (@blue191214) February 4, 2017
予想通りだった方も多いでしょうが、一位は阿部公房の「壁」。日本のカフカ、グレッグ・イーガン的SFを50年前に書き上げていた男、しかも受賞時27歳。すべてにおいて完璧な芥川賞受賞作です。
おわりに
いかがだったでしょうか。かなり個人的な見解が入っていますので、納得だという方も俺ならこれを入れるという方も全然ダメだという方もいらっしゃるかとは思いますが、いずれにしてもなにか議論のたたき台になれば幸いです。そして、もしみなさまが一つでも関心を惹くような作品を見つけて頂けたならなによりです。それでは、これからも素晴らしい芥川賞ライフを!
その他の芥川賞受賞作はこちらからご覧ください
第75回(1976上期)
内容紹介
福生の米軍基地に近い原色の街。いわゆるハウスを舞台に、日常的にくり返される麻薬とセックスの宴。陶酔を求めてうごめく若者、黒人、女たちの、もろくて哀しいきずな。スキャンダラスにみえる青春の、奥にひそむ深い亀裂を醒めた感性と詩的イメージとでみごとに描く鮮烈な文学。群像新人賞、芥川賞受賞。