空間の気持ち悪さ
最近は全くそういう経験はしてないんだけど、
上京したての頃に友人と2人で住んでいたアパートがやばかった。…らしい。
住み始めてまもなく仲良くなった女の子グループの中に、
見えたり除霊だのができると噂のSがいた。
しかし、
このSがとにかく俺たちのことを
口汚く罵るように遠ざけようとする。
曰く、
「こいつらの後ろにいるモノがヤバい。近づくな」
と。
しかし、オカルトを信じていなかった俺たちと、
Sの制止を聞き入れなかったグループの数人は、
Sに隠れ、二ヶ月ほどの間に
毎日うちに遊びに来るぐらいに仲良くなっていた。
ほどなくして、
ブチ切れたSがうちに乗り込んでくるわけだが、
その日まで一切怪しげな事は何もなかった。
突然の訪問者を招くために玄関を開ける。
その時、部屋の中の空気がまさしく一変した。
ついさっきまで居た部屋とは信じられないほどに生臭く、うすら寒く、
何かどんよりとしたモノで埋め尽くされたような空間に吐き気を覚えた。
何が起きたのか理解できなかったが、
この時初めてオカルトらしきモノを体験したことだけは分かった。
そして、玄関を開けた俺は
残念ながらその現場を見ていなかったので後日談になるのだが、
壁、天井、窓、部屋の扉と、部屋を覆い尽くすかのように
手形がびっしりと浮き上がったのだそうだ。
白昼に響き渡る悲鳴。
部屋にいた全員が突然の出来事に圧倒され、
必死の思いで部屋から這い出た。
Sは一人部屋の中に入り、冷たい口調で
「終わったら連絡するから、どっかで時間潰してなさい」
それだけ言うと、扉を静かに閉め、鍵を掛けた。
部屋の中で
その後何が繰り広げられたのかは分からない。
誰が言うともなく駅前のマックに足を運び、
無言のまま5時間ほどが過ぎた頃、
俺の携帯が鳴り響いた。
番号を見るとうちの固定電話からだった。
恐る恐る電話に出ると、
さっきの冷たい口調とは打って変わった。
出会ってからこれまで一度も聞いたことのない
優しい口調のSだった。
「もう終わったから帰ってきて良いよ」
女の子達は当然のようにうちに戻るのを拒否したが、
Sから電話を替わるように言われ話をさせると、
そのまま帰らせるのも良くないからとかで、
彼女たちはマックで待機することになった。
足取り重く同居人と2人で戻ると、
部屋の中は信じられないほど
空気が澄み切っているように感じた。
手形が浮き上がった現場を見た同居人は、
手形が一切無いことにもっと驚いていたようだった。
俺は俺で、玄関で迎えたときとは
別人のようにゲッソリとしたSにも驚いていた。
部屋は何事もなかったかのように、静まりかえり、
逃げ出すときにひっくり返したテーブルなどは、
Sが片付けてくれたらしく、
こざっぱりと綺麗にもなっていた。
呆然としている俺たちに、
Sが色々と話しかけてきたが、
全く耳には入らなかった。
その様子を見て取ったSは、
俺たちの背中に手を当て
なにやら呪文のようなモノを呟くと、
「これであんた達は大丈夫。
わたしはM(マックに残った女の子)達の所に行くから帰るね」
とあっさり言い放つ。
いやいやいや!待ってよ!と、
どっちが男なのか分からない怯え口調で呼び止めようとするも、
「わたしが大丈夫って言ったら大丈夫なんだよ!」
と男らしく突き放され、
いや、蹴飛ばされ、
今度詳しく話すからとSは帰っていった。
部屋の空気が変わったように感じるせいか、
段々と怖さも薄れ、
その夜は(手形の浮いた部屋で)ぐっすりと眠った。
翌朝の目覚めはとても心地よく、
昨日の騒動が嘘のようだった。
Sの連絡先を知らなかったのでMに電話をすると、
マックで合流をした後に同じようにお祓い?を受け、
M達も無事に帰宅したことを知り、
ひとまず胸をなで下ろした。
この頃はまだ携帯電話の所持率が低く、
聞き出したSの連絡先は自宅の電話番号だった。
早速電話をすると、
Sの母親が出た。
「ああ、○○さんね?
あの子から伝言を頼まれてるの」
と話しだした。
話を聞くと、
昨夜の騒動の後に一度帰宅したが、
帰宅するなりぶっ倒れ、
病院に運び込まれたんだそうだ。
伝言は
「話があるから来い」
とのことで、
それじゃSさんが退院したら…と言おうとすると、
「もう回復してるだろうから大丈夫よ。
○○病院の○○号室。よろしくね」
と、明るい声で、
しかし一方的に切られてしまった。
しかたなく病院に向かい、
Sの病室を訪ねると、
点滴を受けながらも週刊少年誌を読み、
ケラケラと笑うSの姿があった。
色んな事を話した。
ぶっ倒れるのはよくあることだけど、
父親はオカルト的なことは全く信じていないとかで、
救急車を呼んだのは父親だったこと。
母親だけでなく、祖母も、曾祖母も、
そのまた前から同じ力があり、
一日寝れば回復するんだけどねーなんてこと。
M達と隠れて会ってることは、
M達の○○(よく聞き取れなかった。背後霊的なモノ?)が
変化してたから知ってたこと。
その変化がSとして鬱陶しく限界だったから、
ブチ切れて乗り込んだこと。
そして肝心のうちのアパートのこと。
アパートが建っている周辺がパワースポットみたいなモノで、
まさに俺の部屋の立地がその中心だったらしく、
区画整理やらなんやらで、流れがおかしくなり、
濁った力が吹き出すようになった。
その濁った力に引き寄せられて、
色んな”モノ”が集まり、
さらにはその内の何体かが俺たちに憑きまとい、
知らずに色んな悪影響を振りまいていたらしい。
これも後日談になるが、
M達はその色んな”モノ”に影響を受け、
色欲が抑えられない状態になっていたらしい。
この点は、思い起こせば、
かなり思い当たる節はあるw
俺たちを閉め出した後で、
方法は分からないが力の流れを直し、
そのうえで色んなモノを追い払ったんだそうだ。
結局のところ、
俺は何も見ていないので話半分って感じなんだけど、
一瞬で変わったあの空間の気持ち悪さは今でも忘れられない。
その後、Sとは3年ほど親しく過ごし、
その間も色々変な騒動はあったが、
結局俺にはそういった力が全くないのか、
いつも何かを感じるだけで終わった。
今ではすっかり会わなくなったが、
どこかに旅行に行こうかと計画したりする時には、
たまに怖い連絡が来る。
「○○に行くのは勝手だけど、
××には何があっても絶対に近づくな」
みたいな連絡が。
あんた、なんで知ってるの…orz
降りちゃいけない
仕事が終わって帰路に着いた。
22時前後のこと。
途中で高速の高架下を通るんだけど、
そこ、ちょっと変な作りで、
低い天井と緩いカーブの見通しの悪いトンネルになってるの。
眠かったからスピードは出していなかったと思う。
でも、『それ』、カーブを抜けたすぐ、
しかも地面に転がっていたから、
ブレーキが間に合わなくて轢いちゃったのね。
人間をすっぽり包んだ形状の毛布。
厳重に巻かれたロープ。
勘だけど、左が頭、右が足みたいだった。
左のタイヤがモロに乗った感触があった。
「頭潰した」
って瞬間に思ったんだよね。
ゆっくり乗り上げたから、
形まではっきりと感じちゃって…。
すぐに停まったんだけど、
びびって車降りられなかった。
(あれ、人間?本当に人間?)
って何回も自問した。
ちょっとだけ前に進んで、
バックミラー越しに確認したら、
そのままの形で転がってる。
5分ぐらい、
そのままだったと思う。
救命措置をしなきゃって覚悟を決めて車から出ようとしたとき、
全身が総毛だった。
出たらヤバイって本能的に警戒した。
…で、逃げました。
っていうのは嘘で、交番に直行した。
半泣きになりながら駐在さんに説明したら、
パトカーに乗って同行してくださいとのこと。
現場に着くまで、
どういう心理だか駐在さんに謝りまくってた。
ところが、現場には何もないの。血の跡もない。
サイレンを鳴らしてきたので
すぐに野次馬でいっぱいになったんだけど、
怪しげな騒ぎもまったくなかったっていう話。
何がなんだかわからなくて混乱してたら、
駐在さんが、またパトカーに乗せて交番まで戻ってくれた。
私は知らなかったけど、
市内ではときどき同じようなことが起こってたんだって。
人通りのない田舎道に人間っぽいものを置いておいて、
轢いた車の所有者が慌てて車から飛び出したところを強盗するって犯罪。
被害額が少なかったので、
新聞の地方版にしか載ってなかったのね。
でも、なんだか不思議。
私はなぜ車から降りなかった(正確に言えば降りられなかった)んだろう…。
そんな犯罪のために轢かれ続けた人形が、
なんかの信号を発してくれたのかな。
貸切列車
関東地方の地方鉄道に乗って通勤していた人から聞いた話です。
その人はN市という始発駅から通勤しているのですが、営業区間が短い私鉄で乗車時間は20分ほどもないのです。珍しく車内で座れたため、そのままウトウト寝てしまいました。
目が覚めると、乗っている車両は同じであたりは見知らぬ田園風景のなかでした。その人はボンヤリしながら、
「知らないうちに支線ができて、間違って乗ってしまったのかなぁ・・」
と、余り深く考えないで乗り続けました。となりに座っていた老夫婦の話しを何気なく聞いていると、
「・・・そういえば、おまえにもずいぶん苦労かけたよなあ」
「いえいえ、そんな気にしないで」
となにやら、会話をしています。
目の前にたってる女子高生たちも、
「そういえば、もう少しいろいろな所いきたかったよねー」
「なんか残念よね」
と、話しています。
しばらく走っていくと、旧字体の漢字が7~8文字くらいあるような難しい名前(本人いわく覚えていないそうです)の駅に停まりました。
そこで3~4人降ります。田舎の無人駅で車掌が切符を受け取ると、電車は再び発車。降りた客は田圃の一本道をずっと遠くまで歩いていきます。
「朝に仕事もしないで、どこに行くのだろう・・・?」
不思議におもいながら電車から眺めていました。同じようにしばらく走っていくと不思議な駅名の駅が現れ、そこで数人づつ降りていきます。
やがて、電車は日暮れになり、すっかり夕方になってきました。
(その人の記憶では、電車は明かりも付けずに夕日の中を走っていたそうです)
そのころには、隣の老夫婦もいなくなり、目の前の女子高生もいなくなり、満員電車も2~3人しかいなくなりました。
まるで地方のローカル線のように暮れゆく田園の景色の中を走っていきます。
(夢うつつとはいえ、)その人もさすがに「会社にいかなくちゃ」とどこかでおもったのでしょう。車掌に聞きに行きました。
「あのーM駅には、いつ着くの?」
車掌はこう答えました、
「お客さん、切符みせてください」
(彼は定期券だったのですが)なぜか切符を探してしまいました。
しかしいくら切符を探してもみつかりません。すると、車掌が激怒しました。
「お客さん!!切符無しに乗り込まれちゃこまるんだよ!
この電車は貸切りなんだから!早く降りてくれよ!!降りろ!」
彼は車掌に襟首を捕まれ、車内をひきずられます。
車掌は走行中のドアをガラガラっとあけると、その人を車外に放り出しました。彼は列車からほおり出されると、丁度そこは川をまたぐ鉄橋で真っ暗の中を落下して行きました。
・・・・・・・「おや?ここは」
それが第一声だったそうです。気が付いたときその人は、ある市立病院の病棟で鼻や気管に何本も管を差し込まれた状態で、時刻はもう夜の9時頃だったそうです。
その人が乗った列車は、駅の停車場に激突して多数の死傷者を出した列車だったのです。彼は朝から意識不明で、危篤状態からようやっと生還したのです。
いまから10年ほどまえ、関東近郊のある鉄道で実際にあった事故からの生還者の貴重な話でした