イセエビ戦争って知ってる?空母も巡洋艦も出動した知られざる戦争とは

memoto114
日本ではまったく知られていないフランスとブラジルの対立、通称ロブスター戦争(英語だと伊勢海老はスパイニーロブスター)。イセエビを巡って発生した謎めいた戦争についてまとめてみました。

ぜんぶ伊勢海老のせいだ。

アメリカイセエビ
大西洋に生息するイセエビの仲間。
こいつが戦争の原因になりました。

従来、フランス漁船は、西アフリカ(ナイジェリア、カメル-ン、ガーナ)の漁場で、刺し網漁をしていた
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

しかし採れる量が減っていた
乱獲によって資源が枯渇してしまったようです。
そこでフランスの漁師たちが目をつけたのは、イセエビが豊富に生息しているブラジル沖でした。

ブラジル東北伯(フォルタレーザからレシーフェにかけての沖)に着眼
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

ブラジル東北伯(ノルデスチ)
ノルデスチとはポルトガル語で北東部という意味で、ブラジル国土の北東部を指します。
地図の黄色い部分です。

1961年3月ブラジル政府はフランス漁船3隻の領海内での調査漁業の許可を180日間与えた。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

地元の漁師たちは反発したようですが、ブラジル政府は入漁料など金銭の支払いもありフランス側に押し切られたようです。

フランス漁船による違法操業の増加
ブラジル政府の与えた許可を無視して漁をするフランスの漁船が後を絶ちませんでした。

1962年1月(調査期間は期限切れ)ブラジルの哨戒艇イピランガは海岸より、10海里の沖合で、違法操業中のフランス漁船カシオペアを拿捕し、フォルタレーザに連行した。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

違法操業の一例です。

ブラジル海軍の哨戒艇イピランガ
1954年就役で満載排水量は1.025トン。
76mm砲1門、20mm機関砲4門を備えていました。

1963年2月8日ブラジルのゴラール大統領は6隻のフランス漁船に限り、特別に操漁の許可を与える旨発表した。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

違法操業が増えていてもフランスの圧力によってブラジル政府はフランス漁船に操業の許可を与えました。

漁民、州政府は当然、猛烈な反対運動を開始した。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

漁民が操業していた筏、ジャンガーダがフランス漁船と接触し、壊されたと云う抗議もあった。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

ジャンガーダ
このような小さな船に遠洋漁業の巨大な漁船がぶつかったらひとたまりもないですね。

ブラジル政府は、フランス漁船6隻を許可した特別操漁許可を取り消す事を決定した。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

あまりにも違反が続いて批判も高まったため、ブラジル政府は許可を取り上げることにしました。

軍艦の派遣

フランスは漁船を守るために軍艦を派遣
フランスはブラジル政府の決定に抗議して、自国の漁船を守るために駆逐艦を派遣しました。

French Government dispatched on 21 February the 2750-ton T 53 class destroyer Tartu to watch over the fishing boats
Lobster War – Wikipedia, the free encyclopedia

フランス海軍はデュプレ級駆逐艦(T-53型)の一隻タルテュを出動させました。

デュプレ級駆逐艦
タルテュは1958年就役で満載排水量は3.740トン。
127mm連装砲3基、57mm連装砲3基、20mm機関砲2門、375mm対潜ロケット砲1基、3連装550mm魚雷発射管2基を装備しています。
通報艦ポール・ゴフィニ
フランスで使用されている通報艦とは海外の領土など離れた地域の警備を行う軍艦です。
この通報艦の一隻であるポール・ゴフィニも漁船団の護衛にあたりました。
105mm砲1門、40mm機関砲2門、20mm機関砲4門を装備していました。

but it was promptly repelled by a Brazilian cruiser and an aircraft carrier.
Lobster War – Wikipedia, the free encyclopedia

しかし、護衛の軍艦と漁船団はブラジル海軍によって追い返されてしまいました。

デュプレを警戒するブラジル空軍のB-17
B-17は第二次世界大戦で活躍したアメリカの爆撃機です。
1962年当時はもう時代遅れになっていました。

ブラジルへ向かうフランスの艦隊

ブラジル沖にタルテュが到達した頃、フランスの艦隊が大西洋をブラジルへ向けて航行中でした。
空母1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦2隻、フリゲート5隻、給油艦1隻という大艦隊です。
空母クレマンソー
クレマンソーは1961年に就役したばかりの新鋭艦で、ジェット戦闘機シーベノムなどを40機以上搭載していました。
巡洋艦ド・グラース
ド・グラースは1956年に就役した防空巡洋艦です。
127mm連装砲8基、57mm連装砲10基という強力な武装を有していました。
シュルクーフ級駆逐艦
シュルクーフ級は1955年から就役を始めた駆逐艦で満載排水量は3.740トン。
127mm連装砲3基、57mm連装砲3基、20mm機関砲2門、375mm対潜ロケット砲1基、3連装550mm魚雷発射管2基を装備しています。
艦隊にはシュルクーフ級のカサールとデュプレ級のジョーレギベリが随伴していました。
ル・ノルマン級フリゲート
ル・ノルマン級は1956年から就役を始めたフリゲートで満載排水量は1.702トン。
57mm連装砲3基、20mm機関砲2門、375mm対潜ロケット砲1基、爆雷投射機2基、爆雷投下軌条1条、3連装550mm魚雷発射管4基を備えていました。
艦隊には5隻のル・ノルマン級フリゲートがいました。
シーベノム
イギリスで開発されたジェット戦闘機ベノムの艦載機型。
航空爆弾やロケット弾を搭載できるので、敵艦を攻撃する攻撃機としても使用できました。
空母クレマンソーに配備されていました。

ブラジル海軍

ブラジルの海空軍の装備は殆ど第二次大戦時の米軍の貸与品
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

艦船も装備もオンボロであった
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

新鋭艦ばかりのフランス艦隊と対照的に、ブラジル側は旧式兵器ばかりでした。

空母ミナス・ジェライス
ミナミ・ジェライスは元々は1945年に就役したイギリスの空母ヴェンジャンスです。
1956年に改修された後、ブラジルに売却されました。
当時は戦闘機や攻撃機を搭載せず、対潜哨戒機S-2トラッカーのみ配備されていました。
軽巡洋艦バローゾ
バローゾは1937年に就役したアメリカのブルックリン級軽巡洋艦の一隻で1951年にブラジル軍に売却されました。
152mm三連装砲5基、127mm砲8門、40mm機関砲28門、20mm機関砲18門という武装こそ強力ですが、1963年の段階では老朽化していて速力も11ノットしか出せました。(就役時は最高33.6ノット)
軽巡洋艦タマンダーレ
タマンダーレも1939年に就役したアメリカのセントルイス級軽巡洋艦の一隻で、バローゾ同様に1951年にブラジル軍に売却されました。
152mm三連装砲5基、127mm連装砲8基、40mm機関砲28門、20mm機関砲18門を装備。
イセエビ戦争時は機関が不調でドック入りしていたところを無理に出撃しました。
フレッチャー級駆逐艦
1942年から1944年にかけて建造されたアメリカのフレッチャー級駆逐艦は7隻がブラジル海軍に貸与されました。
満載排水量は2.500トン。127mm砲5門、40mm機関砲10門、20mm機関砲10門、爆雷投射機6基、爆雷投下軌条2基を装備していましたが、第二次世界大戦時の駆逐艦ということもありフランスの駆逐艦と比べて劣っていました。
イセエビ戦争には2隻が出動しました。
キャノン級護衛駆逐艦
キャノン級護衛駆逐艦も第二次世界大戦時のアメリカの護衛駆逐艦でブラジル海軍には8隻が供与されました。
満載排水量は1.620トン。76mm砲3門、40mm機関砲2門、20mm機関砲8門、533mm三連装魚雷発射管1基、爆雷投射機8基、爆雷投下軌条1基を備えていました。
イセエビ戦争には1隻が出動しました。
アクレ級駆逐艦とマルシリオ・ディアス級駆逐艦
どちらもブラジルで建造された第二次世界大戦型の駆逐艦です。
イセエビ戦争には3隻が出動しました。
ガトー級潜水艦・バラオ級潜水艦・テンチ級潜水艦
ガトー級潜水艦とバラオ級潜水艦、テンチ級潜水艦は第二次世界大戦時に就役して日本海軍と戦いを繰り広げたアメリカの潜水艦です。
どの級も533mm魚雷発射管10基を主兵装としていて、ブラジル海軍には改修されたものが三種類合わせて9隻が供与されました。
イセエビ戦争に出動した2隻をフランス海軍は非常に警戒していました。

この改修が行われた潜水艦がブラジル海軍に貸与されました。

ブラジル空軍
艦隊の他にもブラジル空軍のB-17爆撃機、P-2対潜哨戒機、S-2対潜哨戒機が派遣されました。

艦のメインテナンスが行き届かず、戦闘行動が満足に出来ない
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

弾薬が不足しており、開戦30分以内に弾丸が尽きるストックが実情だった。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

海戦ができる状態ではなかった
ブラジル海軍は数では勝っていましたが、メンテナンス不足で艦はボロボロ、おまけに弾薬は足りずとても海戦ができる状態ではありませんでした。

この実情はブラジル海軍省の首脳部は熟知しており、毎日、脂汗を流しながら,やせ我慢をし、早く紛争が終わらないかと、神に祈る気持ちだったと推察する。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

イセエビのために死ぬのか?
少なからぬ兵士がこのような苦悩を抱えていたかもしれません。

イセエビ戦争の終結

アメリカの懸念
ここでフランス・ブラジル双方の友好国であるアメリカが介入してきます。
当時は冷戦時代であり、資本主義陣営の国同士が戦争になることをアメリカは望んでいませんでした。

すったもんだの外交交渉の末、フランス艦隊と漁船の引き揚げが下され
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

フランスは国際裁判でブラジルと争うことになり、両国に強いメッセージを送ったアメリカの意図の通り、両国の軍事衝突は回避された。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

平和裏に解決
国際裁判ではブラジルにやや有利な形で判決が下りました。
フランスと戦争をしても勝ち目がない状況だったので、ブラジルにとっては充分な勝利ではないでしょうか。

Extension of Brazil’s territorial waters to a 200-mile zone
Lobster War – Wikipedia, the free encyclopedia

ブラジルには200マイルの領海が認められました。

Fishing authorization granted to French Lobster fishing boats for 5 years, providing a portion be given to Brazilian Lobster fishermen
Lobster War – Wikipedia, the free encyclopedia

フランスにも5年間に限ってブラジル近海でのイセエビ漁が認められました。

ブラジル艦隊の実情は海戦をやれる状況では全くなかったし、フランスはブラジル艦隊の実力を買い被り、警戒しすぎたのが実情で、これが、結果的に戦火を遠ざけた。
私たちの40年!! あるぜんちな丸同船者寄稿集

イセエビ戦争では幸運なことに一発の銃弾も発射されず、死傷者が出ることもありませんでした。
一番の被害者?
一番の被害者といえばブラジルとフランスの双方の漁師から狙われることになったイセエビでしょうね。
https://matome.naver.jp/odai/2145344932132607801
2016年01月26日