かつての日本の育児を知る本7選

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まとめてみたら、みごとに岩波文庫にかたよってしまった。古典のラインナップが素晴らしいということですね。かつての日本の子育てを知ることで、今日のそれを相対的に眺められるようになるのではないかと思う。
新井白石「折たく柴の記」
江戸幕府の六代将軍家宣の下で幕政に関わった儒学者・新井白石の自伝。
幼少期の記録で、いかに教育されたかが書かれていて興味深い。

印象的だったのは、「貨と色をつつしめ」という父の教えである。「貨と色」とはすなわち、「金と女」である。この二つでトラブルを起こすと、取り返しのつかないことになりやすいという。
こういうことを語り合えた父子関係というのも、すばらしいことだと思う。

貝原益軒「和俗童子訓」
江戸時代の武士の教育書。
おもしろいと思ったのは「みだりに褒めたり、そしったりするな」という教え。「人のほめ、そしりには道理に違えること多し。ことごとく信ずべからず」とある。
たしかに、人を評価するのは難しいのである。自分を過信して他人を論評するのは、若い時分には特に慎まなけれけばならない。
つまり、へたに人を批評するような言動をすると、それを子供が真似るぞ、という戒めなのだ。
こういう基本的なことは、いつの時代も変わらないに違いない。
三遊亭円朝「塩原多助一代記」
初代円朝の創作した人情物語。実在した商人・塩原太助をモデルに、苦心の果てに身を立てる姿を描く。

親子関係をめぐる描写が興味深い。
主人公の多助は、その日会ったばかりの男の元に、父親の意向で養子に出される。またラスト近くで、多助は妻の不義で生まれた子を我が子として引き取るのである。
もちろん本作はフィクションだが、当時の観客にもこうした内容が受け入れられたというのが興味をそそる。

家族をめぐる倫理観が、こうまで違っていたということは、今日の子育てを考える上でも非常に大事な視点になると思う。

渡辺京二「逝きし世の面影」
江戸時代から近代にかけて、日本を訪れた外国人の見聞録を元に、当時の日本人の姿を生き生きと描き出す。
第十章「子供の楽園」では、日本人がいかに子供達を大切にし、また愛したかが強調される。
大人たちは子供の世話を焼くだけでなく、一緒に遊んだり、玩具をやったりして可愛がる。激しく叱ったり、打擲することはない。それでいて、日本の子供達は礼儀正しく育つ、という。

抽象論でななく、かつての日本人が子供に対してどのように振舞っていたかを、具体的に知ることができる。

山住正己編「福沢諭吉教育論集」
子育てに必要なことは、すべてこの本に出尽くしていると言っても過言ではないのではないか。
自ら学ぶことの大切さや、道徳教育の可否、はては嫁姑問題についても語られ、福翁の知識と考察の広さに圧倒される。

すべてに優れてなんでも出来る子を育てようとする考えに対して、「あたかも稲の穂に牡丹の花を咲かせんとするに異ならず、無益の骨折りにこそあれ」と難じている。
福翁の視点は今なお新しい。

宮本常一「家郷の訓」
明治末から大正にかけて、幼少期の筆者が故郷の山口県で体験した教育の記録。

一カ所引用する。
「われわれの子供の折までは、理にかなわぬこと、村の生活にそむくことをすれば、独り自分の親のみならず村人のだれでも子供をたしなめかつ叱責して怪しまなかった。しかるにいつか他家の子を叱れば、その親がかえって怒るようにまで変ってきた。」
戦前の日本ですでに、他人に子を叱られるのを嫌う雰囲気があったとは!

広田照幸「日本人のしつけは衰退したか」
明治以降の日本の教育観の変遷をさぐる。
今日の育児アドバイスと言えば、階層差や地域差をまったく無視した「単一の処方箋」を施そうとするものになっている、という指摘は、まさに的を射ていると思う。
子供は一人一人違う存在なのに、育児方法は単一化されてしまっているのだ。

あとがきで筆者は自身の育児観を述べている。
その中で筆者は「親として必要なことだと私が心がけているのは、『完璧な親をめざさない』とうことである」と語っている。至言だと思う。

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2016年11月02日