庵野監督が「エヴァ」休止してまで向き合う「特撮」とはいったい何か?「ゴジラ」を撮る“意味”

kesomi
製作が滞っている「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の庵野秀明監督が、樋口真嗣特技監督とともに「ゴジラ」最新作を監督することが発表された。「エヴァ」を後回しにしてまで庵野氏を取り組ませる「特撮」とは、一体何なのか…?

まさかの人選で驚きを呼んだ新作「ゴジラ」スタッフ発表

東宝は31日、2016年夏に公開予定の映画「ゴジラ」最新作の総監督に人気アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明さん、監督に「ガメラ 大怪獣空中決戦」で特技監督を務めた樋口真嗣さんが決まったと発表した。
ゴジラ新作 総監督に庵野氏(2015年4月1日(水)掲載) – Yahoo!ニュース

4月1日の発表だったため半信半疑という人も。
また、庵野監督、樋口特技監督の人選もさることながら、国産「ゴジラ」が復活すること自体に驚く声も多かった。2004年の「ゴジラ FINAL WARS」で国産ゴジラは終了し、2014年にハリウッド版が公開されたからだ。

“庵野ゴジラ”発表までの経緯を、振り返ってみよう。

2014年のハリウッド版「ゴジラ」は世界的ヒット! 続編も決定

大ヒットしたハリウッド版「ゴジラ」
2004年の「ゴジラ FINAL WARS」以来10年ぶりの新作だった。
渡辺謙も出演し話題に。

1998年のハリウッド版(トライスター版)が日本国内どころかアメリカでも大不評だったため、今作も心配されていたが、予想外の大ヒットとなった。

63の国と地域で公開されたハリウッド版が、日本国内だけで32億円、全世界では570億円以上という驚異的な興行収入を記録。
日本版『ゴジラ』復活!12年ぶり完全新作映画が公開決定! – シネマトゥデイ

ハリウッド版特撮怪獣映画「GODZILLA(ゴジラ)」の“想定外”の大ヒットを受け、早くも続編の製作が決定的となった。
映画会社救う、想定外の大ヒット ハリウッド版ゴジラ続編へ(1/2ページ) – 産経ニュース

早くも続編の製作が決定
しかも、ラドン、モスラ、キングギドラが登場すると発表された。
2018年6月8日に全米公開予定。

“ハリウッド版がシリーズ化”の中、国産「ゴジラ」新作が発表!

国産「ゴジラ」まさかの復活宣言
ハリウッド版がシリーズ化というニュースから半年あまり後、国産「ゴジラ」も復活することが発表された。

日本版『ゴジラ』復活!12年ぶり完全新作映画が公開決定!
日本版『ゴジラ』復活!12年ぶり完全新作映画が公開決定! – シネマトゥデイ

ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』の世界的ヒットで高まったファンの声援に応える形で、日本を代表する伝説的シリーズが復活を遂げる。
日本版『ゴジラ』復活!12年ぶり完全新作映画が公開決定! – シネマトゥデイ

ハリウッド版とは関連がない、全く新しい『ゴジラ』映画になるという。
日本版『ゴジラ』復活!12年ぶり完全新作映画が公開決定! – シネマトゥデイ

国産「ゴジラ」まさかの復活宣言
公開予定は2016年夏。
2018年にはハリウッド版続編が公開予定なので、日米のゴジラシリーズが並行して同時に存在することになる。

12月の時点では誰が監督するのかは発表されなかったが、2015年4月1日に、庵野・樋口両監督であることが発表された。

庵野監督・樋口特技監督のプロフィール

特撮好きで知られる庵野秀明監督
「トップをねらえ!」監督
「ふしぎの海のナディア」総監督
「新世紀エヴァンゲリオン」監督
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」(製作中)総監督

東京都現代美術館企画展「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」プロデュース

特撮が「創作活動の原点」と公言する庵野監督。

作品中でも特撮オマージュは多く、構図、デザインといった根源的な部分はもちろん、名称や効果音など枝葉にまで特撮ネタを盛り込むことも多い。

平成を代表する特撮マン・樋口真嗣氏
「平成ガメラシリーズ」特技監督
「さくや妖怪伝」特技監督
「巨神兵東京に現わる」監督
「進撃の巨人」(2015年公開予定)監督

東京都現代美術館企画展「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」副館長

「平成ガメラ」の特撮で注目を浴びた樋口特技監督。

特に“人間の目から見た視点”で撮ることにこだわったという。

撮りたい映像のために、既存の慣習やノウハウを徹底的に見直し、試行錯誤しながら撮影された。

天候に左右され、作業時間も制限される屋外での撮影を多く取り入れ、効果を生んだ。

「ベストスタッフ」この人選に称賛の声も多数

海野♨温泉@dai_myo_jin

庵野秀明の実写特撮を知る人間には異論もあるだろうが(俺は好きだよ、『ラブ&ポップ』)、正直誰がやっても新ゴジラの監督はそしりを免れないであろう中、庵野&樋口ペアは間違いなくベストなスタッフィングと言えるだろう。これだけでも東宝が真面目に作ろうという気迫が伝わってくる。
でも本当なら今まで別の分野で活躍してきたゴジラ好きのクリエイターが、東宝から直々にゴジラ作ってくれって頼まれるってなんか感動的よね

特撮を自らの“原点”と慕い真剣に愛する庵野監督

“特撮の衰退”を憂う悲痛な叫び
庵野秀明監督は、2012年に東京都現代美術館で行われた企画展「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」を自ら企画・プロデュースした。

この企画展は、CGをはじめとするデジタル技術の発展により近年失われつつあるアナログ特撮の“技術と魂”を後世に残す目的で開催された。

庵野監督は特撮という技術が“消える”ことをなんとか食い止めたいと願い、文化庁の委託事業で「日本特撮に関する調査報告書」を監修している。

その報告書に記されたメッセージで、庵野監督の特撮への愛の深さがうかがい知れる。

どうか、助けて下さい。

特撮、という技術体系が終わろうとしています。
日本が世界に誇るコンテンツ産業が失せようとしています。
それは世間の流れというものなので、仕方ないとも感じます。

だがしかし、その技術と魂を制作現場で続ける為に抗い、その技術と文化遺産を後世に残す為に保存したいと切に想います。

ぼくらがもらった夢を次世代にも伝え、残したいと切に考えます。
「日本特撮に関する調査報告書」日本特撮の過去・現在、そして未来を俯瞰して【庵野秀明監督 メッセージ】

庵野監督がそれほど愛する「特撮」って何?

「特撮=ヒーローもの」ではない
「特撮」というと、日曜の朝に放送しているような“ヒーロー番組”のことだと思っている人が多い。

だが、その認識は間違っている。

「特撮」とは「特殊撮影」の略語である。
「日本特撮に関する調査報告書」第1章 はじめに 1.1.「特撮」の定義【執筆:氷川竜介】

実写のカメラと実景、あるいは通常サイズの室内セットでは撮影不可能な映像を、さまざまな工夫の組み合わせによって実現可能とする総合的な「技術」を指す。
「日本特撮に関する調査報告書」第1章 はじめに 1.1.「特撮」の定義【執筆:氷川竜介】

「特撮」とは、特殊な“撮影技術”
「ウルトラマンが好き」と公言している庵野監督だが、決してヒーローが好きなのではない。

「特撮」で創られた映像、
それを成り立たせる「特撮」という
「技術」に惹かれているのだ。

樋口特技監督もまた、ヒーローや怪獣よりも、それによって起きる破壊描写に心惹かれたと公言している。

二人の奇才を育んだ「特撮」とはどんなものだったのか。

庵野・樋口両監督が憧れた「特撮技術」の世界

特撮技術の代表的なものがミニチュア撮影である。

ミニチュア特撮というと、おもちゃの街並みの中で着ぐるみの怪獣が暴れる、という認識をされがちだが、それは“怪獣もの”という、ごく一部のジャンルに過ぎない。

戦争、災害、天変地異…
通常の撮影では実現不可能なものをミニチュアで実現する。それが特撮である。

1942年「ハワイ・マレー沖海戦」の撮影風景。

真珠湾の空撮映像を、広大なミニチュアで撮影。

1976年「大空のサムライ」の撮影風景。

スタジオにミニチュア飛行機を吊って撮影。

近くには大きなミニチュア、遠くには小さなミニチュアを配置することで、広い空間を表現している。

1973年「日本沈没」の準備風景。

スタジオに組まれた富士山のミニチュアセット。
火薬を仕込んで噴火シーンを撮影。

スモークを焚き、スタジオの外から望遠レンズで撮ることで、厚い空気ごしに見た遠景に見えるよう工夫した。

1968年「連合艦隊司令長官 山本五十六」の撮影風景。

この場所は港ではなく、東宝スタジオに建造された「大プール」。
面積は4000m²、幅が92mもあった。
奥の空は、壁に描かれた絵である。

世界最大の大きさを誇った東宝の大プールは、さまざまな特撮作品に活用された。

1963年「太平洋の翼」の撮影風景。

全長13mの巨大ミニチュアの戦艦大和を湖に浮かべ、ヘリコプターから空撮している。

山中湖で自然に起きるさざ波がミニチュアのスケールに合う、との理由からロケが行われた。

核戦争を描いた1961年「世界大戦争」より。

核爆発によって燃え溶ける東京を表現するため、製鉄工場の中にミニチュアセットを組み、溶けた鉄を流した。

求める映像を撮影するために、知恵と工夫で撮り方を模索するのが特撮の真骨頂だ。

誤解と見栄から“軽視”されるミニチュア特撮

近年はCGが発達し、作り物を用意することは減りつつある。

CGとは、コンピュータで創られた映像のことである。

背景に実写映像を合成したものまで「CG」と呼ぶ人がいるが、これは間違いである。

「CG」=「最新で高価」=「最高」というたぐいの表現が映画やテレビの宣伝文句として定着するにつれ、従来型の特撮的手法で描かれた作品は「古臭い」、あるいは「ミニチュア=怪獣映画」=「子供向だまし」=「ちゃちい」というレッテルを貼られ
「日本特撮に関する調査報告書」第4章 現状 4.1.特撮を取り巻く現状【執筆:尾上克郎】

ミニチュアであると言う理由だけで、その手法は出資者や製作者から敬遠されてしまう事がある。
「日本特撮に関する調査報告書」第4章 現状 4.1.特撮を取り巻く現状【執筆:尾上克郎】

ミニチュアによって表現された画面そのものの出来栄えではなく、前述したように手法の“新旧”という理由だけで良し悪しを判断しているのである。
「日本特撮に関する調査報告書」第4章 現状 4.1.特撮を取り巻く現状【執筆:尾上克郎】

「ハリウッドはCG」という誤解
1993年「ジュラシック・パーク」がきっかけで「これからはCGの時代。ミニチュアは時代遅れ」という風潮が始まった。

しかし、実は「ジュラシック・パーク」でCGが使われているのはわずか7分間。

多くのシーンが実物大のアニマトロニクス(電子制御ロボット)やミニチュアといった旧来の手法で撮影され、一部のカットでは日本特撮のような着ぐるみも使用されている。

しかし、こうした事実は一般にあまり知られておらず、とにかく「ミニチュア特撮は古い」という認識だけが一人歩きしているのが現状である。

事実、ハリウッドではCGに併せ、よりリアルな存在感を求めてミニチュアを使用する動きが盛んになってもいる。

実は現在も効果的に使われているミニチュア特撮

近年の日本映画においても、すべてCGと思われる映像に、実はミニチュア特撮が効果的に使われている例がわずかながら存在する。

2008年「ハッピーフライト」の撮影風景。

ジャンボ旅客機の飛行シーンの多くが、ミニチュアで撮影された。

2005年「ALWAYS 三丁目の夕日」のミニチュア。

昭和の街並みを、最新のVFX技術で再現したことで知られる本作だが、多くのカットでミニチュアを使用している。

2011年「GANTZ」の撮影風景。

二宮和也が吉高由里子を背負って、屋根から屋根を飛び移るシーンで使用された。

まさか背景の家がミニチュアとは、完成画面ではまず分からない。

2008年「山のあなた 徳市の恋」のミニチュア。

昭和の温泉街を舞台とする映画だが、条件を満たすロケ地もなく、温泉街をまるごとオープンセットで組むと大変な予算がかかる。

そこで実物大セットでなくミニチュアで撮影し、そこに草彅剛ら俳優を合成する手法をとった。

「山のあなた 徳市の恋」のミニチュアは1/5という巨大スケール。

通常の特撮映画では1/25で作られることが多いので、その5倍の大きさ。スケールが大きい分、細部まで作り込むことができる。

これだけの情報量を3DCGで再現するとなると時間も予算も膨大になる。

“絶滅”の危機に瀕している特撮技術

特撮技術はマニュアル化が難しい職人芸の集積によって成り立ってきた。それぞれの技は個人個人が長い時間をかけて修行を積み、多くの経験に基づいて培われてきたものである。
「日本特撮に関する調査報告書」第4章 現状 4.1.特撮を取り巻く現状【執筆:尾上克郎】

職人芸の一例“背景画”
島倉二千六(しまくら ふちむ)

背景の空を専門に描く絵師。

1959年から、東宝特撮映画を始め黒澤明作品や伊丹十三作品などに参加。
いまだ現役で、映画やイベント会場のために空を描き続けている。

このような技術は一度途切れてしまうと最早それを継承することが如何に困難であるかは想像に難くない。
「日本特撮に関する調査報告書」第4章 現状 4.1.特撮を取り巻く現状【執筆:尾上克郎】

技術の“絶滅”を食い止めるべく製作された「巨神兵」

今なお映像製作に有用な「特撮」の技術が途絶えることに危機感を覚えていた庵野秀明監督は、技術継承の必要性を訴え、2012年に企画展「特撮博物館」を開催した。

過去の作品で実際に使われたミニチュアが展示され、特撮の歴史を学ぶことができた。
中に入って自由に撮影ができるミニチュアセットが目玉だった。

会場では、短編映画「巨神兵東京に現わる」が上映された。

http://www.youtube.com/watch?v=YOQarwIpIPU
この作品は「風の谷のナウシカ」の巨神兵を実写化しようという企画ではない。

特撮技術の実例として、アナログ特撮だけでどんなことができるかというサンプル映像として製作された。
そのため「CG完全不使用」を謳い、すべてをアナログ技術で撮影している。

しかし決してノスタルジーに訴える懐古趣味的な映像ではなく、新たな試みが多数盛り込まれている。

新たな試みの一つがビル破壊の新手法。

長年、石膏でできたビルを爆破していた従来のやり方を見直し、強化ガラスでビルを作り、ガラスを割ることで崩れるようなリアルな破壊を実現した。

21世紀になってアナログ特撮の新技術が開発されているのだ。

もう一つの試みはまったく新しい怪獣の動かし方だ。

巨神兵というキャラクターは、プロポーションが人間の形とかけ離れているため、人の入る着ぐるみで再現できない。

CG以外で、人の入れないキャラクターを動かすには、人形アニメ(コマ撮り)という手法があるが、それでは生き物の微妙な動きを出しづらい。
また演出する上で、芝居がその場で確認できず、演技指導も困難になる。

そこで、人の入らない造形物を、数人のスタッフが外から操るという方法をとった。
このやり方なら、演技者の筋肉の動きがダイレクトにキャラクターの動きとなり、きめ細かい芝居ができる。

人形浄瑠璃にヒントを得た手法である。

会場ではこれらの詳細な舞台裏を解説したメイキング映像も上映された。
あまりの驚きに、メイキングを見た後でもう一度完成映像を見た観客も多い。

巨神兵東京に現るのメイキング、すごすぎてずっと口ポカーンって開けてたw

こすも@cosmo_dx

巨神兵東京に現るのでかい爆発のとこCGじゃなくて爆発の模型動かしてたんや

そんなこんな@osakana_oyg

庵野さんの特撮博物館行ってきましたが、巨神兵の短編CG全く使ってないなんてすごいすぎる…ビルの壊し方とか人によって色んなアイデアが出されてどちらも使われていましたが、両方ともスゴかったです!なんであんなに皆さん壊すのが上手いのか…やはり熟練の技と知恵なんですかね…素晴らしい

Otuka Tadashi@OtukaW

『巨神兵東京に現わる』を観ていて感じたんだけれど、アナログにはまだまだ可能性があるように感じる。安易にCGに頼ると馬鹿になるというか、アイディアが枯渇するような気がしてしまう。

新作「ゴジラ」で特撮“再生”に意気込みを見せる庵野・樋口両監督

◇脚本・総監督:庵野秀明氏のコメント(一部)

過去の継続等だけでなく空想科学映像再生の祈り、特撮博物館に込めた願い、思想を具現化してこそ先達の制作者や過去作品への恩返しであり、その意思と責任の完結である、という想いに至り、引き受ける事にしました。
2016年新作『ゴジラ』 脚本・総監督:庵野秀明氏&監督:樋口真嗣氏からメッセージ | ORICON STYLE

◇監督/特技監督(兼任)樋口真嗣氏のコメント(一部)

この偉大なる神を生んだこの国に生まれたこと、特撮という仕事に巡り合え、続けてこれたこと、そしてこの機会が巡ってきた運命に感謝しつつ、来年、最高で最悪の悪夢を皆様にお届けします。
2016年新作『ゴジラ』 脚本・総監督:庵野秀明氏&監督:樋口真嗣氏からメッセージ | ORICON STYLE

国産「ゴジラ」に久々の本格的な“特撮大作”を期待する声

まちるだ@unkindKarvan

巨神兵東京に現るすごかったから、ゴジラ楽しみだな。その時みたいにCG使わずにすべて特撮技術でやるのかな。

“技術継承&新技術開発の場”として庵野ゴジラに期待の声も

壬蔓艦長@captainT326

新作ゴジラの特撮はどうなるのだろう? 特撮博物館や「巨神兵東京に現わる」の庵野、樋口両氏だからミニチュアにも期待したい。「巨神兵~」はミニチュアの「埋もれていた技術」を掘り起こし「まだやってない技術」を更新した。ミニチュアはハリウッドでも現役だし決して過去の技術ではない。

■参考資料

https://matome.naver.jp/odai/2142789072192460901
2015年06月03日