性同一障害を乗り越えて…。警官を夢見た小さな男の子は24年後「婦警」になった

倫敦弥生

【婦警】になった男の子

イギリス、サウス・シールズに住む29歳のジェイミー・リー・カーティスさんはこの日ずっと憧れていた警察の制服に袖を通しました。

新品のシャツに、黒いネクタイ。腰には手錠や警棒を装備し、胸元にはトランシーバー。物心ついてから抱いていた夢をとうとう叶えた鏡に映る自分の姿を、誇りを持って見つめます。

警察官になることを夢見た5歳の【男の子】は、24年後の今【婦警】として働き始めたのです。この日が来るまでに「彼女」が乗り越えた道のりは、長く、険しいものでした。

お人形遊びが好きな男の子

ジェイミーさんが覚えている一番古い、自分が他の男の子とは違うことを象徴する出来事は、子供の頃のあるクリスマスでした。ワクワクしながらプレゼントのラッピングを破ると、出てきたのはお人形。それを見た途端、彼女の夢は高鳴りました。

実はこのお人形は、ジェイミーさんの叔母が妹のジェマさんに用意したものでした。しかし今まで貰ったどんなものより嬉しいプレゼントにジェイミーさんは大喜び。最終的に本来のプレゼントと交換させられた時には大泣きしてしまったそうです。

この頃から既にジェイミーさんの嗜好は明らかに女の子のもので、バービー人形で遊ぶ妹に嫉妬。ついには一緒にお人形遊びをしたり、妹の服を着たりと心のままに行動し始めます。

家の中でお母さんのハイヒールを履いたり、ハンドバッグを借りて大人の女性を真似てみたりとその姿はまさに小さな女の子。そんな息子を、ご両親は「ジェイミーはこういう子だから」と笑って受け止めてくれていたそうです。

幸運なことに級友達もそんな「彼」を受け入れ、女の子達は快く遊びの仲間に入れてくれました。しかし、思春期にさしかかった辺りからジェイミーさんの苦悩が始まります。

成長する身体 混乱する心

伸び続ける身長、生え始める体毛と髭、そして低くなる声。通常の子供でも戸惑う思春期の身体の変化は、ジェイミーさんにとって地獄の始まりでした。

自分がまるで自分とは違う何者かに変わっていくかの様な感覚。それまでは、いつか自分も女友達の様に胸が膨らみ、女らしい身体つきになるものだと思っていたというジェイミーさんの心は、青年の身体に閉じ込められた若い女性に成長していたのです。

お喋りだった少年は、自分の低い声を忌み嫌い口数が少なくなりました。とうとう自分の性別が男であるという現実に向き合わなければならなくなったジェイミーさんは、失意のまま16歳で学校を卒業後ファストフードで働き始めました。

自分の身体と心の問題を解決したい一心で動き始めた彼女は、まず医師に相談。下された診断結果は、「性同一障害」でした。

性同一性障害(せいどういつせいしょうがい)とは

『生物学的性別(sex)と性の自己意識(gender identity、性自認)とが一致しないために、自らの生物学的性別に持続的な違和感を持ち、自己意識に一致する性を求め、時には生物学的性別を己れの性の自己意識に近づけるために性の適合を望むことさえある状態』をいう医学的な疾患名。
性同一性障害 – Wikipedia

諦めきれない夢

一致しない心と身体を医学的に認定されたジェイミーさんは、ホルモン治療を開始します。ブロンドの長い髪と長い足にはハイヒール。やっと本来の自分として新たな人生を歩み始めたジェイミーさんですが、もう一つ諦めきれない夢がありました。

それは、警察官になること。

“I wanted to become a real woman and then a police officer. I want to help protect people”

「私の夢は本物の女性になって、それから警察官になること。人々の安全を守りたいの。」
Security guard born a man fulfils her dream of joining the police – Mirror Online

18歳になったジェイミーさんはこの年初めて警察の試験に応募しますが、経験不足を理由に書類選考で落とされてしまいます。その後も毎年応募し続けましたが、結果はいつも落選。

それでもめげずに夢を叶える決心をしたジェイミーさんは、経験を積めるかも知れないと考え警備員として働き始めます。その頃には豊胸手術、そして美容整形も受けていた彼女の次の目標は性転換手術でしたが、警備員としての給与だけでは難しいのが現実でした。

そして2013年、初めて応募してから実に十年近くの年月を経て、とうとう警察から面接の通知が届きました。面接官は彼女が「元男性」という事実には特に言及せず、こう質問しました。

「あなたのどんな部分が警察官として向いていると思いますか?」

“I told them I was always fair and that I respect people. I told them that I want to make a difference and protect the vulnerable.”

「その質問に、私はいつも公平で、他人に敬意を持っているって答えたわ。それから、私は物事を良い方向へ変えて行きたい、弱い者達を守りたいって。」
Security guard born a man fulfils her dream of joining the police – Mirror Online

困難を乗り越えて…実現された夢

昨年12月、ジェイミーさんの元に警察から一通のEメールが届きました。結果は「合格」。そして今年、彼女はPolice Community Support Officer(警察の制服を着用し警察官のサポートをする一般市民。警察官と同様の複数の権力を与えられている)としての訓練を開始します。

来年にはその訓練を修了し、実際現場に出て迷惑行為の取り締まりや犯罪現場の警備といった業務に携わる予定のジェイミーさん。性同一障害という困難を乗り越え決して諦めずに夢を叶えた彼女は、同じ問題を抱え差別や偏見に苦しむ人達に希望を与えることができればと願っているそうです。

与えられた試練の意味

イギリスは他の先進国の中でも同性愛や性同一障害に最も理解のある国の一つです。それでも一部の人の中には根深い差別意識が存在し、普段は明るく振舞っているジェイミーさんの様な人々も抑圧され、虐げられた経験をしているのが現実です。

他人と違う。ただそれだけの理由で差別してしまうのは人間の悲しい性なのでしょうか。それでも世間の「普通」とはちょっと違う自分として生まれてしまったジェイミーさんの、決して諦めない、前向きな姿勢に羨望の念を抱かざるを得ません。

「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉が本当ならば、彼女の様な人は私達凡人よりも生まれ持って崇高な人間なのかも知れませんね。

“My journey hasn’t been easy. But it’s shown me, I really am a force to be reckoned with.”

「ここまで辿り着くまでは茨の道だった。でも、その苦労があったからこそ自分が力強く、影響力のある人間だと自信を持つことができるのよ。」
http://www.shieldsgazette.com/news/local-news/i-ll-be-a-sex-swap-cop-male-born-security-guard-set-to-live-the-dream-by-becoming-a-police-officer-1-7136679

https://matome.naver.jp/odai/2142568056553002801
2015年03月07日