吉田豪『男気万字固め』畑正憲インタビュー文字起こし #ムツゴロウ

kikuchigumi
2001年1月頃に雑誌「TVチョップ」に掲載された吉田豪さんの『男気万字固め』のコーナーで書籍化できなかったムツゴロウ(畑正憲)さんへの激しくゆかいなインタビューの文字起こし

吉田豪


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―― おそらく何度も聞かれてきたとは思うんですけど、指の方は大丈夫なんですか?
畑  もう何度も聞かれましたねえ(笑)。ボクの場合はちょっと違って、街を歩くたびに呼び止められて皆さんに聞かれるんですよ。トラックがいきなり止まって、「おい、ムツゴロウさん大丈夫か?」とかね(笑)。
―― 「おい、指はあんのか!」って(笑)。
畑  そのたびに指を見せながら一生懸命「大丈夫ですよぉ~!」ってやってて(笑)。

―― ある意味、かなりの宣伝効果というか。
畑  いや、こういうのホント嫌いだったんですよ。ボクはいままで病気も怪我もたくさんしましたけど、怪我や危険を売り物にするとかいうのは大っ嫌いなんですね。
―― だから確かに今回の件も、ムツさん自身は何事もなかったような感じでしたもんね。
畑  でもブラジルから帰って来たら、テレビ局が「これはロケ中の怪我ですから、いまどういう状況か、治ったらその証明とかがどうしても必要だから医者に行ってくれ」ってきかないわけですよ。私は、自分で抜糸しようと思ったぐらいだったんですけど。
―― 自分で抜糸ですか(笑)。
畑  ボクは盲腸で入院したときも3日で退院しまして。というか逃げ出したの(笑)。それで8日目に自分で抜糸したんですよ。
―― それって麻酔なしでですか?
畑  抜糸なんて麻酔いらないよぉ(キッパリ)!自分でパチパチッって糸切って。今回もそんな調子でやりたかったんですけど、テレビ局の人が「どうしてもダメだ」って言うんですよ。それで病院行ったら、ジャイアンツの選手なども来ているところでして、そこできっと話題になり、マスコミの人もちらほら知るようになったんだと思うんですよ。
―― 「ムツさんがライオンに噛まれたらしいぞ」と。それは話も一気に広がりますね(笑)。
畑  だから2~3社から「是非、話を聞かせてくれ」って電話かかってきたんですよ。会わないで書かれて誤解を生んだ場合、テレビ局のスタッフに迷惑かかると嫌だから記者会見になったわけです。あんなデカイことになるなんて夢にも思わなかった(笑)。とにかく最初っから「こんなの大したことじゃありません」「もう御内密に、御内密に」って感じで記事も2~3行で済めばいいなと思ったら、スポーツ新聞なんかもう活字がボクの目ン玉より大きいぐらいになっちゃってね!いや~っ、ボクも長いことマスコミで仕事してきましたけど、今回は男として一番恥ずかしい思いをしました。


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―― これが人生で一番でしたか(笑)。
畑  はい!もうちょっと激しいことを何回も経験しても伏せておけたのに、今回漏れて大きく扱われちゃったっていうのがね。
―― ムツさんは、前にもライオンに首を噛まれたこともありましたよね。
畑  ありました!チンパンジーに噛まれたりゴリラに噛まれたり。いろんなもんに首を噛まれたんですよ。でもライオンの時は、30分ぐらい何もわかりませんでしたねえ。

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―― 記憶を失っちゃったんですか?
畑  あとでビデオ見せてもらったら、噛まれてすぐに「よしよし、いい子だね~っ。なんで噛んだの?そんなことしないでいいよ」とか言ってんですよ、自分で(笑)。
―― 無意識で対処していたと(笑)。
畑  いやぁ、ビックリしました!(笑)。全く覚えてないんですよ。なんで噛まれて、どうして外してくれたか。ただ、すごい打撃力でビックリしましたよ。ライオンっていうのはパーフェクトな生き物ですね!

―― やられてみて初めてわかりますか(笑)。
畑  やられればわかりますよ(キッパリ)。だって熊に抱きすくめられても動けないことはないんです。でも、ライオンに抱きすくめられると1ミリたりとも動けない!すっごい力ですよ。さすがに「ちょっと間違ったら」と思わんでもなかったですけどね。ボクは熊にも襲われたことあるし、噛まれたこともあるんですけど、それよりも何よりもやっぱりライオンはすごかったですねえ。
―― ちょっと今回の件についても突っ込んで聞かせていただきますけど、まずブラジルの動物保護施設に行ったわけなんですよね。
畑  はい。それは主に交通事故に遭った犬猫の保護施設なんですけど、スタートしたばっかりで彼らはパブリシティが欲しいわけですよ。それでボクのことはもちろん知ってて、「どうか来て下さい」って向こうから依頼があって。だから、エサから何から片っ端からアドバイスをしてたら、サーカスで子供たちと写真を撮るのに使われたけど、大きくなって用なしになったライオンがいるって聞いて。ボクはそういうの好きなもんですから、檻の前に行って話しかけてたんですよ。なかなか人慣れしたいいライオンで、ボクの様々なテストを全部通過して。すぐにボクの言うこと聞いて、ちょっと力を入れるとゴロンしたりするようになって、「あ、これは遊べるな」と思ったの。ただし、ボクは檻越しに付き合うってことは滅多になくて、いつもはいきなり檻に入るんですよ。
―― いきなり入っちゃうんですか!
畑  それでなきゃ逆に危険なんですよ。だから檻越しに付き合うことは1000あって1か2ぐらいなんですね。ただ今回は檻越しにボクがテストするのを、近隣の人とか動物保護関係の人が後ろで見てたわけですよ。そしたら獣医さんが車でやって来て、全員が迎えに動いちゃったんです!それで、ライオンはボクも行くと思っちゃって引き止めようとしたんだろうね。指をガブッとくわえちゃって。


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P04
―― 嫌な引き止め方ですねえ(苦笑)。
畑  中に入ってたら放す方法はいくらでもあるんですけど、外からは放せませんから。それで下手すると全部持ってかれると思ったから、左手を檻に掛けてスパーンと指を引きちぎって、骨だけ残ったんですよ。だから救急病院行って、骨切って縫ってもらいました(キッパリ)。

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―― 壮絶な話を淡々としますねぇ……。
畑  いやいや、そのぐらいの修羅場は覚悟してないとボクの仕事はできませんから(キッパリ)。仕事っていうより生活ですね。
―― だから今回も「大した問題じゃない」と、あっさり言い切ったわけですね(笑)。
畑  大した問題じゃないんだけど、でもいざ怪我すると後が大変ですね(しみじみ)。「指がないのはこんなに不便なのか」って、ビックリしました(笑)。特に、物書きの右腕っていうのは生命線だし、中指って物をかくときにすごい大切な部分なんだよね。「あ、すごいとこなくしたんだな」って、いまになってから気がついた。ザマア見やがれ(笑)。

―― ダハハハハハ!噛まれた直後もニコニコしてたって話を聞いたんですけど。
畑  そりゃそうですよ、カメラマンも気が付きませんでしたから。「ちょっと引っ掻き傷したかな」ぐらいには思ったみたいですけど、ボクは絶対そういうの見せないですから。サッと隠して、感染するから皮膚をギューッとつまんで物陰行って放血だけして。「大したことないから」って病院行っちゃったから、気がつかなかったんでしょうね。
―― 「500回以上噛まれてるから、これは傷のうちに入らない」とも言われてましたね。
畑  500回以上噛まれてますけど、傷のうちに入んないことはないですよ(笑)。でも、そう言わないと伝わんないじゃないですか。
―― ですよねえ(笑)。「あらゆる怪我が勉強の材料になる。こんな面白いことやめてたまるか!」って台詞も抜群でしたけど。
畑  ウフフフフ!面白かったんだろうね(笑)。ボクは怪我をしてから1日も休めなかったんですよ。翌日からロケ続けてるし。
―― いつもロケだと、たとえ骨折しようとも絶対に休まないらしいですね。
畑  はい!(キッパリ)。全く休まない。20年間ロケ行きましたけど、1年間で120日として2500~3000日はロケに出てますよね。その中で病気をしてリタイア、骨折してリタイアしたことは1回もありません!
―― それってすごいハードですよね(笑)。
畑  いや、これは普通だと思うんですよ!
―― 行く前にTV局の人から薬を貰っても、全部ゴミ箱に捨てるらしいじゃないですか。
畑  はい!たとえば、マラリアの猖獗地に行くときも、ちゃんと予防薬をくださるんですよ。でもね、荷物になるだけでしょ?だから、早めに始末するんですよねえ(笑)。


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―― 空港のゴミ箱に捨てちゃって(笑)。
畑  ほとんどそうですね。これは私のような動きをしてますと、いかに免疫を持つかが大事なので、無茶苦茶な衛生環境に耐えられるかどうかが大切なことになるんですね。
―― 体を鍛えてるようなものなんですか?
畑  天性の部分もあると思いますけど、鍛えた部分もあります。たとえば、象と遊んだりしますでしょ。あの連中が遊ぶ所っていうのはドロドロでウンコとオシッコにビチョビチョだから、一緒に遊んで水の中に押し付けられると嫌でも飲みますよ!

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―― 糞尿混じりの泥水をですね。
畑  でも、そういうときに毎回病気になってたんじゃ、体がいくつあっても足りないから。多少下痢しても翌日には治ってるようにならない限り、生き物とは本当の意味で遊べないんですね。そういう面で、「自分の体がどのぐらい耐えられるのかな?」「できたら全部耐えてほしいな」ということでもあるんです。時々、「よう持ってんな」と自分でも思いますよ。

―― 俺も大したもんだ、と(笑)。
畑  時々思います(笑)。たとえばインドなんか旅したとき、私はミネラルウォーターなんかひとつも持っていかないんです。特に向こうの人と付き合うとき、私は生身で飛び込んで行って。向こうのもん食って向こうのもん飲まなきゃいけないわけですよ。
―― ネズミ食べたり下水飲んだりですね。
畑  そうそう!そうすると、それに慣れない限り私のレポートは務まらないんですね。だから、当然のこととしてそれをやってるうちに強くなったというか、大丈夫になったというか。ビックリします、これは。
―― 自分でもビックリしますか(笑)。
畑  だからインドの旅っていうのは非常に制限が多くて、特にテレビ局で行く場合には政府に指定されたちゃんとしたガイドと一緒に行かなきゃいけないんですね。ボクが御一緒したのは世界中の高名な登山家とかと付き合ってる方なんですけどね、私と40日ぐらい付き合って別れるときの言葉が「お前さんほど楽なのいなかった」って(笑)。
―― いちいち手間いらずなんですね(笑)。
畑  アメリカの有名な登山家も、エベレストの上までミネラルウォーター持ってくんだって。でもボクはガイドに「おい、スタッフから外れよう」って、2人でトコトコ行くわけですよ。日が暮れて腹が減っても、そこらは貧民地で食うとこが全然ないんです。そうすると段ボールで出来た家に行って「ちょっと飯食わせろ!」「俺んとこには何もないよ」「ひとっ走りして、アヒルでもなんでも買ってこい」ってお金渡すでしょ。そしたら彼らが農家まで走ってアヒルを買ってきて。カマドもないから、部屋の隅に石を5個ぐらい並べてるんですよ。そこに鍋かけて、川の水をジャーッと入れて、アヒルカレー作ってもらって、手掴みで食ってね。


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―― 川の水自体が、まず汚いわけですよね。
畑  だから「そういうとこ行って、平気でいるのは初めてだ」「こんなことできるのなんて、お前だけだよ」って言われて(笑)。でも、そういうのが大好きなんですよぉ。
―― スタップが引いちゃうぐらい、無茶な行動ばかりやっちゃうって話ですよね。

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畑  はい(キッパリ)。も~う大好きです!だからね、南インドにイルーラっていう家を持たない人たちがいるんですよ。その人たちはネズミが頬袋(リスなどのほおの内側にある、食物を一時ためておく袋状の部分)に溜めた米を巣から取ってくるんですね。私も行きましたよ!そしたらひとつの巣からバケツ一杯ぐらい掘れるでしょ、ボクが行ったときは100匹以上ネズミ捕まえましてね、その米を炊いて。
―― じゃあ、おがずはネズミですか?
畑  ……ホント美味かったですよ!
―― ダハハハハハ!しかしタフですねぇ。

畑  それで、奥さんにこっそりお金を掴ませたんです。喜んだよねえ(しみじみと)。やっぱり現金収入がないから、500円でも彼らの1ヶ月分ぐらいなんですよ。本当に喜んでくれて「食え、食え」って言うんですよ。しょうがないから、ネズミを次から次に食わなきゃなんなかったけど(笑)。
―― 今回の件でもそうですけど、もともと撮影に行くとムツさんは「私が死にかけても、助けに来ないでいいから、カメラを回し続けてくれ」って言ってるらしいですね。
畑  あ、それ言います。しかし、ずーいぶん調べられましたねえ!これはね、実を言えば逆なんですよ。怖いから言うんです。助けに来られると、その足音とかで相手が驚いて余計噛む力が強くなったりするわけですよ。つまり、静かにしてくださることが私にとっては最高なんですよ。だから、ちょっとオーバーなんですけどね(笑)。カッコいいこと言ってますねえ(照れながら)。
―― 挙句の果てには「そうしないと無駄死になりますから」とまで言ってるし(笑)。
畑  ウフフフフ。それほどの決意でやってるわけじゃないんですよ。私も人間ですから。ボクは自分が俗人である部分をすごく愛してるんですね。ホントは震えが止まらなかったり、怖くて唇の色が変わったり、落ち込んだり、悲しんだり、感情の起伏が大好きなんです。ですから、そんな決意ができるわけないんですよ(笑)。それが、たまたまカッコよく聞こえちゃってね(笑)。たとえばボクは何回か象に襲われてるんですけど……。
―― 2~3メートルぐらい吹っ飛ばされたこともあるらしいですよね。
畑  そうそう!あるときなんか吹っ飛ばされたんじゃなくて川に叩き込まれて、上に乗っかられたんですよ、殺すために。


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―― 殺すため!何トンの象なんですか?
畑  それはまだ中象でしたから2トンぐらいなんですけどね(あっさりと)。一瞬「死んだ!」と思ったんですよ。でも川の流れに体を持ってかれて、頭がグッと回って助かったわけですよね。それで安全なとこまで逃げて行ったら、体の震えが止まんないんです。
―― まあ、そりゃそうでしょうね。
畑  自分じゃ「怖くない」とか「怖さを克服しなきゃ動物と遊べない」とか、つまんないこといっぱい言うんですけど、自分が死にかけると肉体的ショックになって、体の震えがいつまでも止まんないわけなんですよ。

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畑  「みっともない、みっともない」と思って一生懸命止めるけど、しばらく止まんない。ビショ濡れだし、惨めなんですよ(笑)。もう、ボクはそういうのすご~く好きで!
―― そういうときに「泥だらけで逃げる自分が好きだ」って言ってましたよね(笑)。
畑  しかし、よく調べてますねぇ!(笑)これは人間の生活じゃ与えてもらえなくなった感情の起伏なわけだね。バカにされて、命まで落としそうになって、震えが止まらなくて、惨めで。ギリギリの命の壁をポーンと越えたようなもんでしょ。その晩はもう眠れないぐらい嬉しかった!(キッパリ)。

―― 「そうやってゴキブリ扱いみたいにされたときにボクは生きてると思う」っていう無茶苦茶な発言にもシビレたんですよ。
畑  ……よく調べたなあ!感激するなぁ、今日は(笑)。こんなことは初めて。そのときに「ハァ~、助かった」と思って川岸に座ってると、空がスッゴイ青くてね!ヤシの葉が1枚、1枚、「どうしてこんなに綺麗に見えるの?」っていうぐらいハッキリ見えるんですよね。ボクの悪い目で。
―― 死にかけたからこそわかる、という。
畑  それはあると思います。たとえば全然人がいない山の中に篭って町に下りてきたとき、女の人がえらい綺麗に見える感覚と近いんじゃないですか?花とか緑とか、そういうものが綺麗に見えるんですね。
―― 当然、女の人も綺麗に見えて(笑)。
畑  そうそう!ボクは非常に衝動的な人間ですから、みんなに抱きつきたくって、それを止めるのが大変ですよ!通る人、全部抱きつきたくなっちゃうから(笑)。
―― ダハハハ!そりゃ衝動的すぎですね。
畑  いや、けっこう衝動的なんですよ!自分が愛しすぎる性質だし、とっても激しいんで自分のコントロールがときどき手に余ることがありますね。ちょっと激情家なんだろうね、見た目より。バカだなぁ(笑)。
―― 用心棒一人しかいないタパチンガの飲み屋で「女を連れて来い」と叫んだっていうエピソードを聞いても、それはわかりますよ。
畑  ……よ~う知ってますねえ!これ面白いんですよ。話しますか?聞きたい?
―― 是非ともお願いします(笑)。


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畑  あのね、タパチンガってとこに一回行きたかったんですよ。これはブラジルとペルーとコロンビアの国境の三角地帯んとこにあって、麻薬取引と動物密輸の巣なの。ボクはピグミー・マーモセットっていう小さな猿を見に行ったんですけど、そこは憧れの地だったんです。っていうのはね、鉄砲の弾が飛んでくるんですよね、いつも。
―― いつもですか(笑)。
畑  はい(キッパリ)。要するに麻薬の取引の余波で。勢力争いとかね。早稲田の学生が死んじゃった、あの近くなんですよ。

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―― そんな所に憧れてたんですか?
畑  うん(キッパリ)。ボクの友人がそこ行ったときも6回ぐらい銃撃されたって。そういうとこなんで、「是非行ってみたい」と。で、タバチンガ行きの飛行機乗ったら、乗客がみんな赤十字の腕章つけてんの。「お前ら、何しに行くんだ」って聞いたらね、「コレラ撲滅のためにタバチンガまで行く」「いま行くと危ないよ」って言うんですね。

―― そんなに物騒な所なんですね(笑)。
畑  もちろんボクはコレラの予防注射なんてしてないですから、「面白い。俺も今度はコレラになれるかもしれないな」とか言いながら行ったわけですよ(笑)。それでホテルのフロントで話してたら、「ボアッチ興味ある?」って言うんです。ボアッチっていうのはナイトクラブと赤線を混ぜたようなところなんですよ。たとえば、気に入った子に「行こう」って言ったら、女の子は「ノー」と言っちゃいけない。でも、雰囲気楽しんでビール飲んで帰ってくることも可能なんです。それを聞いてね、「これは3種類の女が楽しめる」と思ったわけですよ!
―― 「楽しめる」ですか(笑)。
畑  ブラジル、ペルー、コロンビアの女性が集まって来てるから、それを見物しようと!そしたら街が真っ暗なんですよ。田舎町だし、コレラ騒ぎと麻薬の勢力争いで誰も外なんて歩いてないんですけど、一軒だけポツンとネオンがついてるから行ったんです。そしたら、すっごい用心棒が前に立ってるんですよね。片目に黒い眼帯してて。レンジャーの服着て、ライフル持って、両側にはマグナムのでっかい拳銃下げてて、おまけに松葉杖までついてるんですよ!
―― もう完全にマンガですね(笑)。
畑  あれは写真撮らなかったのがホントに残念なんですけど、絵に描いたような男なんですよ。それで中に入ったら、女の子が1人もいないんです!飲み物注文してから、「女の子いねえじゃねえか!どうしたんだ!」って言ったら、「いや、もうちょっとしたらたくさん来ます」ってね。シャクだから待ってたの。そしたら1時間経っても来ないんですよ。夜10時ぐらいだったかな?用心棒に「なんで女の子が来ないんだ!」って言ったら、コレラと手入れで女の子がみんな恐れをなして、よその町に行っちゃったんだって(笑)。「でも、何人かは残ってるから来る」って言うの。それで用心棒が音楽かけやがって、「俺と踊ろうか」とか言うから、「バカ野郎、お前なんかと踊れるか!胸の膨らんだお姉ちゃんのほうがずっといい。お前みたいのと踊ったらオチンチンが腐る!」って言ってやってね(笑)。
―― ズバリ言いますねえ(笑)。


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畑  そしたら11時半ぐらいかな?女の子が1人帰ってきたんですけど、グテングテンに酔っ払ってるんですよ。それで「ジャポネが待ってるよ」って言われたら、「なにがジャポネだ!ジャポネなんてクソ喰らえ!」とか言ってんです(笑)。その子が横に座ったからいろいろ話をしてたんですけど、そのうちに「ウエッ!」て上げちゃって、もう胸から何からゲロだらけですよ!そのまま帰ったんじゃジェントルマンとしてしょうがないから、用心棒と2人で片貸して部屋で、隅っこにシャワーがあるんですよ。そこで裸にして、体洗ってあげて、タオルで拭いてあげて、ベッドに寝かして。あれは、……良かったなぁ(しみじみと)。

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―― ダハハハ! ジェントルマンですよね。
畑  帝王切開の跡がガーッとあって、熱帯の皮膚症で股の辺りがグジュグジュになってるんですよ! こんなんで、よく商売になるなって(笑)。それで棚からパンツとか探し出して履かせて、抱き合って頬っぺたにチュッとして「チャオ!」って別れを告げて帰ったの。・あれは、いい思い出ですね。
―― そういう冒険も大好きみたいですね。
畑  それは、いまでもしてますよ!外国に出ると、どこでもいいから出掛けて。

―― アマゾンで1ヶ月ぐらいお風呂に入れなかったときに、しょうがないから売春宿でトップレスの女子に体を洗ってもらったっていう豪快な話もありましたよね?
畑  あら! そんな話、どこで聞いたの!それは秘虫の秘密で隠してたんだけどなぁ(笑)。いや、これはホ~ントにいい思い出のひとつなんだ!
畑  あれはマッドグリッソっていう緑の秘境でね、いまは少し開発されてきましたけど20年ぐらい前はものすごい不便で大変なとこで(以下しばらく、車をイカダに乗せてみんなでロープを伝って川を渡っただの、「蚊に食われてるとこもお見せしたい、それもドキュメンタリーのうちのひとつ」というマラリアも気にしないポリシーゆえ虫よけスプレーも使わないという旅の過酷さを説明)これはロケとしても非常に激しい、いいロケでしたね(しみじみと)。
―― 「激しい=いい」なんですね(笑)。
畑  はい! オールテントのロケでね。(以下、今度はディレクターのイビキや道に迷ったりという旅の過酷さを、たっぷり説明)。
―― そんな過酷な生活じゃ、もちろん風呂になんか入れるわけもないですね。


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畑  そう。それで朝10時頃、最寄りの街にやっと着いたんですよ。飛行機が発つのが3時ちょっと過ぎなんですけど、ホテルにチェックインして体洗うにもお湯の出るシャワーなんてないでしょ。だからタクシーつかまえて、「このあたりに熱いお湯を使えるとこあるか?」って聞いたんです。そしたら「よく知ってる」「じゃあ連れてけ!」って、スタッフと一緒に行ったら「ローマンバス」って書いてあるんですよ。「俺たちこれだけの人数だけど、貸切りってできんのか?」って聞いたら「できる、できる!」って。ボク、そのときサンパウロの競馬に行って、(手を広げながら)こ~のくらい勝ってたんですよ!

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―― すごい量じゃないですか!
畑  まあ、クルゼーロだから大したことないんですけど、何万円かで。それで貸切りにして、熱帯植物の中を抜けて行ったんですよ。そしたら裸の女の子がい~っぱい(笑)。真ん中にプールがあって、パ~ッと並んでんの!「これ、ボアッチじゃねえか」って(笑)。あれは面白かったですねぇ(しみじみと)。「こんな中に俺みたいな汚いヤツが入っていいのか」って言ったら「いい、いい。洗ってあげる」ってさ、3人ぐらいで洗ってくれるんですけど、これが裸の女の子だからどうしても勃っちゃうんですよね(笑)。

―― ダハハハハハ!男ですからね(笑)。
畑  あれは困りましたねぇ!だから照れ隠しに、横にキッチンがあったから「腹減ってる」って言ったらパスタ作ってくれてね。あれはすごいですよ。バスに浸かって、美女をはべらして、パスタ食って(笑)。
―― 夢のような風景ですよねえ(笑)。
畑  ゴージャスでしたねぇ、ホントに。でもブラジルの人は明るいからいいんですけど、今思えばあそこにいた女性はいくつだったんだろうなって。上は30際ぐらいの胸が垂れてるのから、まだ胸が出てるかどうかっていう女の子も裸になってましたから。ああいう子でも「寝るのか」って言えば「寝る」って答えたかもしれないですよね。
―― 当然、ヤってないわけですよね?
畑  だって、みんないるんだも~ん(笑)。そんなの、どうしますか!
―― ダハハハハハ!ムツだんは南米とかで売春婦が朝まで街に立ってたりすると、その売春婦の子供も連れて一緒にご飯食べに行ったりとかもしいるらしいですね。
畑  あ、それはよくやります(キッパリ)。ボクは実践的な言葉を覚えたかったし、日系人に紹介されたことのないブラジル人と付き合いたかったわけですよね。たとえば、ボクが常宿にしていたとこが危険な地帯にあったんですよ、だから11時になるとフロントがバチャーンと閉まっちゃって、出入りができなくなっちゃうの。でね、12時頃に外の空気を吸いたくなると、お金を番人にあげるんですよ。日本円で300円ぐらい。そうすると「どうぞどうぞ!」って開けてくれるわけ。


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―― お金の効果は絶大ですね(笑)。
畑  そっから忍び出ると、そのぐらいの時間は立ちんぼが多いんですよ。その中すり抜けてパール行くんですね。パールっていうのは24時間営業で、酒やコーヒーから軽食までだしてくれるとこ。そこ座って、パールのお兄ちゃんに大声で言葉を習ってると立ちんぼの女の子が入ってくるんですよ。こちらとしては、「おめえ、食えよ」「俺が払っとくよ」ってサービスするじゃないですか。そのうちに女の子が4人、5人になっちゃって、それが続くと「あのバカんとこ行ってたかろう」って話になっちゃうの。

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―― それで子供にもたかられちゃうと(笑)。
畑  だから話してて夜が明けることあるんですよ。客は1人もいないから何人か一緒にタクシーに乗っけて送ってくわけ、家が見たいって言うんで、寄ってくとこれが大変。小さい家なんですよ。それで、子供がゴロゴロ出てくるの!「お前、こんなに子供おったんか!最初に産んだのいくつだ!」とか言って(笑)。で、子供たちは、すぐなついてくるから、「なんか美味しいもん食いに行く?」ってなっちゃうわけです。

―― しかし面白い体験してますねぇ(笑)。
畑  これはボクの性分ですね。根が活動的だし、そういうアホがすごい好きだし。
―― 風呂がなくて、缶一杯分のお湯で息子だけ洗ったこともあるみたいですよね(笑)。
畑  ど~こでそんなことを!初めてだなあ、そんなこと聞かれるの(笑)。これは、アルナチャルプラビッシュっていうのがインドの東北部にあるんですね。そこは原始宗教を持ってる少数民族がいっぱい住んでる秘境中の秘境ですから、軍隊が全部ケアするんですよ(以下、軍隊絡みの苦労を、たっぷり説明)。朝7時に出て、暗くなるまで山道を歩きっぱなし。そんな旅でしたよ。
―― 当然、風呂なんかあるわけがないと。
畑  もちろん。寝ることもないんですよ。山の上に上がってくと、外国人を全く見たことない人たちがいるわけですよ。その人たちと仲良くなると中年のオバチャンたちが集まってきて、体触りまくるんですよ!
―― 触られまくりましたか!
畑  だってオチンチンまで触ってくるんですよ(笑)。「あった、あった」って。
―― いちいち確認して(笑)。
畑  そこで「今日ご馳走してくれないか」って言って、ご飯を食べ終わったら今度は「村長が御飯を用意したから御飯を食べに来てくれ」って言われて。こっちはクタクタに疲れて一歩も歩きたくないんだけど、しょうがないから「どのくらいだ?」って聞いたら「5分だ」って言うんです。でも、ついてくと1時間半ぐらいで(笑)。そしたら御飯がちゃんと用意してあって、1時間ぐらいしたら踊りが始まって。これが、しつこいんですよ。明け方まで踊るんです。スタッフたちは「ごめんなさい」って帰っちゃったの。こっちは仲良くなるのが商売で、明日ここで撮影があると思うとここで帰っちゃ差し障りがあると思ったから、向こうが「嫌だ」って言うまで一人で踊ってるわけですよ。


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―― いちいち元気ですねぇ(笑)。
畑  それで大抵、ああいうとこは占い師みたいのがいるんですよ。真っ黒い衣装着て、櫛を入れない長い髪で、顔が皺だらけでいくつなのかわからない、鼻毛ぐらい出てそうなね(笑)。その西洋の鬼婆みたいなのが、垢だらけの手に山刀持って踊るんですよ。そこはフリーセックスで結婚してない人は自由に寝ていいんですけど、そしたら何を間違えたか朝の3時半頃、そいつがボクのとこ来て「踊ろうよ」って言うんですよ(笑)。

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―― ダハハハ!フリーですからね(笑)。
畑  自由ですけどね、でもボクは1億円払っても御免被りたいっちゅう人もいるわけですよ(笑)。それが「行こう、行こう」ってきかないわけ。「いいからいいから、私はまだ踊ってるから」って踊ってたら、最後はペニス掴まれちゃったからね(笑)。
―― しかしモテますねえ(笑)。
畑  いやいや、これは参った!逃げるのに必死でしたよぉ~っ!

―― いろんな修羅場くぐってますねぇ(笑)。
畑  (以下、そこでの旅の過酷さについて、たっぷり説明)それで、やっとの思いでフェリーポートに乗りまして、大きな町に着いたんですよ。そしたら客室が100ぐらいありそうなホテルがあったから、そこに泊まって。
―― ようやく風呂だって感じですよね。
畑  フロントで「風呂はあるか?」って聞いたら「もちろん」て言うんですよ。やっと熱いお湯を浴びられると思ってニコニコして部屋に入ったら、水しか出ないの。それで「お前、嘘ばっか言うな!」って言ったら「いや、ボイラーの故障だ」って(笑)。そしたら30~40分してから腐ったようなミルク缶に1杯だけお湯を持ってきて「申し訳ない。これで体を拭いてくれ」っちゅうんですよ(笑)。どうしようもないからね。じゃあ自分の息子を洗ってやろうと思って。
―― 息子だけ風呂に入れたわけですか(笑)。
畑  そうですよぉ(笑)。ズボン脱いでパンツ脱いで、ミルク缶を下に置いてこういうふうに(実演しながら)しゃがんでね、金玉と息子をお湯ん中に入れてこ~う(腰をグラインド)やってるわけですよ(笑)。
―― ダハハハハ!ローリングさせて(笑)。
畑  もう、旅情っていうか、侘しいっていうか、バカバカしいっていうか、おっかしくて(笑)、嬉しかったですね(しみじみと)。
―― そういえばタマに関して聞きたいことがあったんですけど、ブリーフとトランクスで温度差を確かめるために、睾丸の温度を測ったこともあったらしいですね?
畑  ああ、ありますよ!ブリーフで締め付けるのは良くないと思ったんです。犬なんかでも玉がちょっと冷たいときは非常に元気がいいんですけど、やっぱり睾丸ちゅうのは冷えてなきゃいけないんですね。それである日、娘が小学校の2年だったかな?「お前、ちょっと来い!」っつって、金玉の袋の中に体温計を入れてセロテープで固定して、温度変化を調べたんですよ。


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P22
―― それ、娘さんに見せながらですか?
畑  そうそう!自分じゃ見られないから、娘が「いま何度」って教えてくれて(笑)。
―― ダハハハ!最高です!
畑  ブリーフだと体温と同じなんですよ。トランクスのほうが全然いいです。風が吹き抜けると、結構温度が下がるんですね。

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P23
―― しかし体張ってますねぇ(笑)。
畑  いや、だって面白いじゃないですか。ボクは、そういう面白いことはすっごい好きなんですよ。たとえばスタッフが落ち込んだりしてるときに、面白いことを発見してあげれば旅路の思い出深いものになるし、豊かなものになるでしょ?だから、ちょっと悪質な悪戯なんかしたりしてね。
―― 悪質!それなどんなことですか?
畑  一番悪質だったのはね、私はジェルミーってイギリス人とケニア山の裏に行ったことあるんですよ。崖に細い道がひとつあって、車1台しか通れないの(以下、かなり細い崖を車で走る苦労を、たっぷり説明)。

―― そんな物騒なとこで悪質な悪戯を(笑)。
畑  そこのロッジに泊まったら、部屋と部屋が背中合わせになってて間にドアがあったんですよ。ボクがチェックインしたときドアが開いてたからすぐ閉めて、誰が入るのかと思ったら隣にジェルミーが入ったんで、悪戯してやろうと思ってね。ジェルミーが出たときにパッと入って、枕の上にゴミ箱を裏側にして、その上に灰皿も置いて、ドアにこっちからキーして知らん振りしてたんですよ。そしたら彼が戻って来てブツブツ言ってんですけど、すぐ直してまた出て行ったんです。だからまた入って同じことして(笑)。
―― しつこいですねえ(笑)。
畑  それで「ここでは呪い殺すまじないとして、枕の上に普段使ってるものを置く」ってことも話したら、ジェルミーが青くなっちゃってんの(笑)。しばらく考えてフロントまで怒鳴りこんでって、「誰だ!」って。あれは面白かったなぁ(しみじみと)。
―― ダハハハハハ!それに海外じゃ銃を突きつけられることも多かったみたいですね。
畑  銃は結構ありましたねぇ!オチンチン洗いから200キロぐらい離れた町で、ホテルに泊まったんですよ。客が少ないしおかしいと思ったら、町で兵隊が機関銃持って銃口を群集に向けてんですよ!翌日、起きて飯食おうと思ってドアを開けたら銃口が見えて、廊下に軍人がウヨウヨいて「戒厳令だ、一歩も出ちゃいかん」って(笑)。でも、ここで負けたらしょうがないからね。
―― しょうがないですか(笑)。
畑  だから「一応わかった。でも俺は腹減ってんだ。もっと偉いヤツ連れて来い!」と。そしたら、なんやかんや言ってましたけど偉いヤツが来たんですよ。それで「俺はハングリーだ。朝食を食う権利がある!俺が貧血で倒れたらどうしてくれるんだ!」って馬鹿なことばっかり言ってたら、「出ていい」って言うんですよ。


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P24
―― どうにかなるものなんですねえ(笑)。
畑  でもやっぱりスタップは銃口で留められたから、誰も来てないの。ガラーンとした広い食堂で「おい、誰かいないかー!」って叫んでたらコックが一人出て来て、この際だから目の覚めるようなチップはずんで「これでなんか作れ。俺は飯食うんだ!」って言ってたら「ハーッ!」て、30人前ぐらい作ってきましたよぉ(笑)。それで早速兵隊んとこ言って、「お前ら食え!」って。でも食わなかったね。しょうがないから兵隊たちのほう見て一人で食って(笑)。

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P25
―― オマーンでは、発狂した老人に銃を突きつけられたこともあったんですよね?
畑  よ~う知ってますねぇ! そんなの書いたことあったっけ? あのねえ、オマーンに行きまして、オマーンでも激しいこといっぱいあってね(以下、レース用のラクダに乗って死にかけたことについて、たっぷり説明)。
それからオマーンの西側の砂漠っていうのは20世紀の半ば近くなっても地図が空白だったの。要するに、白人であそこに入った人いなかったの。だから入り口だけでも行こうと思ったら、向こうのほうにラクダの群れがいるんですよ。

ボクは動物好きだからスッと入って、寄ってきたラクダたちを吟味してたわけ。そしたら老人が飛び出して来て、ボクにピタッと銃口をつけるんですよ!
―― それは酒落にならないですよね。
畑  それにフッと見たら、引き金に掛かってる指が白いんです。「こりゃいかん!」と思ったんで、アラビア語でとっさに出てくるのが「神のご加護を」って言葉と「ありがとう」しかなかったんで、それを交互に何度も言って(笑)。 でも、なんか叫んでて尋常じゃないんですね。「殺されるのかな?」と思ったんですけど、「まあしょうがねぇか。一発ぐらい見舞われても死ぬだけだ。鉄砲なら瞬時に死ぬからいいや」と思って。
―― 「死ぬぐらい、どうってことねえよ」って感じですか(笑)。
畑  それで体を近づけて「お前、いいじゃねえか、友だちじゃねえか。鉄砲向けることねえよ。下ろせよ」ってニコニコ笑って日本語で言い始めたら、だんだん伝わってきて銃口が下りてきたんですよ。そしたら、白い服着たアラブ人が飛び込んで銃に飛びついてくれて、「お前、危なかったな。実はあれは俺の親父なんだ。あれは狂ってんだ。お前がなんか怪しいことしてたら絶対撃ってた。どうやって助かったんだ?」って(笑)。
―― その息子にまた気に入られちゃったんですよね。「ラクダ一頭食ってけ」って。
畑  よ~う知ってんなあ、チクショー(笑)。


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P26
―― しかも、そこから逃げるためにその男とキスしたっていうのがすごいと思って。
畑  いや~っ、ボクはいろんな人にキスされましたけど、男からもよくされましたね。イタリア人とかアラブ人とか中央アジアの人たちと仲良くなって本当に別れを惜しんだときは、男でも唇にキスするんです。イリっちゅうとこ行って遊牧民の生活が見たいと思ったときも、パオ(テント)が見つかったわけですよ。そこで仲良くなって生活を見せてもらおうと思ったら、家長がすごい不機嫌なんです。「この辺りに他にパオある?」って聞いても知らーん顔して。でもね、金の力ってすごいんですね (しみじみと)。

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P27
―― ダハハハハハ! でしようねえ(笑)。
畑  お金渡したら「いいよ!」って、その晩いろんな人に声かけてくれて、あっと言う間に馬で集まって来て宴会になったんです。でも全然話に乗ってこないんですよ。「困ったなあ」と思ったから、「よし、やったれ!」と思って、いきなり立って馬の鳴き真似したんです。(リアルに実演しながら)女性を指して牝馬やって、男の子を指して牡馬やって、牡馬がペニスをダーッと立たせて牝馬の尻尾んとこシャッシャッとやると陰部が開いてオシッコがピュピュッと出る。それを表現したらみんな喜んだ、喜んだ!

―― そういうネタは万国共通ですか(笑)。
畑  いろんな物真似あるけど、一頭の牡馬と牝馬が結婚するまでをできる人って少ないと思うの。だから、もう大変でしたよ! ボクはいろんな人に拍手もらったけど、割れんばかりの拍手っていうのはあれが初めて! それで態度がガラッと変わっちやって、村長が笑うし、「飲め!」って言うし、家族のこと話してくれるし、すごいんですよ。翌朝起きたら、「これは自分の一番親しい人に贈るものだ」ってスカーフかけてくれて、「一番親しい客を送るのは、我々は馬を引いて行くんだ」って、馬に乗せてくれて、降りたらブチュッて(笑)。ちよっと長かったですけど、あれは嬉しかったですねえ。唇にボジョッてまともに来ましたよ!
―― 舌は入ってくるんですか?
畑  入らない、入らない(笑)。ただ、男に激しくキスされたとき、ボクは「女性は大変だな」と思いました。髭の感覚っていつまでも残るんですね!(カメラマン助手の女子に)残りますよね? こういうこと、いま言うと セクハラになるんだけど(笑)。
―― いや、一切問題ないですよ(笑)。
畑  ボクは髭処女だったから。イタリア人なんかでも、仲良くなるとまず唇にきますね。でも、慣れてくると嬉しいもんですよ。
―― 動物にキスするのとは違うんですか?
畑  あっ、これは全く違います! 人間の場合は親愛の情とか挨拶とかですけど、生き物の場合は味覚確認なんですよ。たとえば熊と付き合うでしょ。そのときには熊の名前を呼ぶと、こっちを認識する。次に熊が近寄って来たら手を出して、肌の匂いを存分に嗅ぐ。そのうち乱めて初めて安心するわけです。そうしてるうちに口の匂いも嗅ぐでしょ。そして舌でベロベロ~ッと唇を乱めてくるわけですね。それが深入りするとホントのキスになります。愛の表現に。


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P28
―― ムツさんの場合、動物にホントに惚れられちゃうことも多々あったわけですよね。
畑  ああ、それは山のようにあります!
―― ヒグマのどんべえとか、かなりすごかったみたいですけど。
畑  これはメスだったもんですから、私と交尾したくて交尾したくて毎晩大変でした。ホントに昼も夜も狂ったようでしたよ!

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P29
―― ムツさんも欲情を感じたっていう。
畑  でも勃たなかったですね(キッパリ)。
―― ああ、さすがのムツさんでも(笑)。
畑  さすがにね。うしろから抱くでしよ。どんべえがお尻で押してくるわけ。こっちも一生懸命抱くわけですけど、……本物じゃなかったのかなあ、ボクが(しんみりと)。

―― ダハハハ! 勃ったら本物ですか(笑)。
畑  すごい感激してんですよ。熊とこういう関係になれて幸せだなって。同時に「お前が好きだよ、愛してるよ」と思って抱いてるんますけどね(笑)。
―― そこで勃っちゃったら引っ込みつかないような気もしますけどね(笑)。
畑  そういえば、ボクは動物に対して勃ったことないなあ……。いきなり勃つようなことはありますけど、やっばり人類ですね。たとえば、ボクがサンパの取材でブラジルに行ったとき、大きな町では劇場とかナイトクラブとかを開放するんですよね。若い人たちが立錐の余地もないぐらい開演を待ってるんですよ。そしたら、向こうのほうでですけど、タバコ売りとか、マリファナ売りとか、コカイン売りとかがいっばい来るんです。ボクがやってないことと言ったら麻薬だけなんですけど。
―― あっ、麻薬だけでしたか (笑)。
畑  インディオのコカの葉は別ですけどね。それはいいとして、そこにボディペインテイング屋がいたの。それ見てたら描きたくなっちゃって。あの人たちが稼ぐのは大したお金じゃないんですよ。一晩で2000円ぐらいだと思ったから、「おい、売れ。100ドル!」つったらね「売る、売る、売る!」って(笑)。それで道具ごと買って、「タダだよ」ってやってたら行列ができちゃって。そのうち劇場が開いたんだけど、「俺はもうちょっとこれやってるんだ」って。 それで夜が更けてきたら、若い女の子が全部ペロン、ペロンと出すわけですよ!
―― それはたまらないですよね!
畑  はい! それで乳首を動物の目に見立てたり、猫を描いたり、星描いたりすると、すっごい喜ぶんです! 乳首を揶子の実に見立てて、そこから揶子の葉をスーッと描いたりして、筆先でシューッとやってるとだんだん勃起してくるの(キッパリ)。ある女性に描いてるときなんか、その子の肌に筆先が吸い込まれるの。もうボクね、筆先で性を感じたっていうのは初めて! なんかグウーッて塗ってると、この世で一番大切なセクシーなものに触ってる感じしたね。そのときは下のほうにも影響あった(笑)。


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P30
―― ダハハハ!  気持ちはわかります(笑)。
畑  ちょっと話長かったね(笑)。でも、その夜はすっごい楽しかった。私の取材旅行の中でも、非常にいい思い出のひとつです。
―― ブラジルの女子に大人気だった、と。海外でモテるっていう意味では『子猫物語 を作ったのも大きいらしいですね。

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畑  これはすごいんですよ! アメリカなんかは特に! 人口1000人ぐらいの村に行きますよね。ブランチに行くと、日本人だから珍しくて「どっから来た?」から会話が始るでしょ。「私は動物好きなんだよ、『子猫物 語』作ったんだよ」って言うと、「とにかく名刺見せろ」ってね。見せると飛んで帰るんですよ。それで「MASANORI HATA」ってビデオに書いてあるから、「同じだ! サインしてくれー!」って飛んで帰って来るんです(笑)。オーストラリアなんかは、どんな飲み屋に行っても女の子が知ってますよ。すごいモテるんです(笑)。
―― 「オー、マサノリ!」って感じで(笑)。

畑  アルゼンチンのバルデス半島のロッジに泊まってたときも、ロケやってたらジェントルマンと息子がずっとこっちのほう見てんですよ。「なんで立ってんですか?」って聞いたら、「お前さんは『子猫物語』の監督だって聞いたから、今日は団体行動だったけど息子と残ったんだ。サインくれ」って言うんで、大きな絵を描いてあげましたよ。アルゼンチンは興行成績1位だったから。オーストラリアなんかも1位だったから、結構覚えててくれますね。この前も、7月の終わりにサンディエゴの近くでロケしてて、その話が漏れたらみんな挨拶に来ましたよ。
―― 「世界のマサノリ・ハタだ!」って。
畑  そんなことないですよぉ~! 珍しがって挨拶してくれましたねえ(笑)。
―― それでムツさん本人の話もちょっと伺いたいんですけど、もともと東大の大学院にまで行って学生結婚されたんですよね。その頃、生活費をパチンコと麻雀で稼いでたりとか、奥さんが妊娠したら放浪生活を始めたりとか聞くと、本当に無頼派だと思うんですよ。
畑  はい! 私は結構ギャンブルで稼いでたんです。女房が病気をしなきゃ、私は結婚早くなかったんですよ。サナトリウムに長いこと入りまして、出てきたと同時に「一緒に暮 らそう、そのほうが病気もチェックできるから」ってなったんでね。そしたら妊娠しちゃったんですよ。そのときふと、「こんな不安定な生活をしてて、子供が育てられるか?」と考えてね。「こりゃいかん。自分の人生を根本的に変えなきゃ、やっていけない」と思って、「とにかくお前、帰れ。俺に考える時間をくれ」って言ったんだけどね、結局行くとこないんですよ。お金もないし。


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―― それで山谷にまで流れ着いたっていう。
畑  山谷で暮らしてたんですよ。最初は60円のベッドに寝てたんですけど、そこは狭くて、ボクに合わないんです。で、ブラついてたら400円の個室っていうのがあって。でもボクに払える額じゃないんですね。山谷では天井が100円なんですよ。だけどエビは小っちゃいのを楊枝でつなぎ合わせてて(笑)。要するにレストランの余りものですよ。
―― いわばリサイクルですね(笑)。

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畑  10円の飯もあって、これもリサイクルで食ってると冷たいのがあったり温かいのがあったりで(笑)。ボクはそこでも鍛えられたと思うんですけど、そういうものをいくら食っても平気なんです。それに山谷には朝から労務者が一杯集まってる麻雀屋もあるんですけど、そこでも負けなかったですねえ。1000点10円のキャッシュ麻雀で、1日最後までやったら、いいときで2000円、悪いときでも1000円は稼げたんですよ。
―― それで個室に住めたわけですか?
畑  はい! これで400円のドヤ代払って生きていけるもんですから、そこで麻雀打って暇なときは映画見る生活してましたね。

―― いい生活ですねえ(笑)。
畑  そしたら、また立ちんぼと随分仲良くなったんですよ。
―― またですか(笑)。
畑  400円の部屋っちゅうのは、要するに連れ込みなんですね。だから両側に女が連れ込まれるわけですよ。これが独身には辛いんですよね。「あんた、それダメよ!」「ちよっと長い。もう終って」とか「酔っ払って勃たないじゃない」とか、そういうやり取りが全部聞こえてくるの(笑)。それで、こっちも遅くまで麻雀やってるから、帰るときに会いますでしょ。そのうち、差し入れもらったりする仲になってきたんです。1回飲んだら身の上話を聞かれちゃって、大学の話したら急に真顔になって、「あんた、何やってんの!ダメよ、ここに1年以上いたらみんな腐ってくのよ。だから、とにかく早く出なさい!」って怒られましてね。それが山谷を出るきっかけになって、どこに行こうかと思ったんですけど、ボクはまず就職するというアイディアがなかったんですよ!
―― ないんですか(笑)。
畑  ボクは勤めて月給もらって暮らすなんてことを、夢にも思ったことがないんです。ボクはやりたいことをやることは得意だったんですけどね。会社に勤めて、毎月月給をもらうっていうことがこの世の中にあるということすら、あまり知らなかった。
―― ダハハハハハ! 他に細かい話も聞いておきたいんですけど、なぜか加納典明さんが動物王国にいたことがあるんですよね?


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畑  そうそうそう! あれ、加納典明がボクの収材に来たの。そしたら電話かかってきて「行っていい? 一緒に住みたい」とか言っててね。「写真の方、どうすんだよ?」って聞いたら、「別のことやりたい」って(笑)。ボクは加納典明という男をあまりよく知らなかったけれど、その頃は若い人たちが集まり始めてたから、他でちゃんと活躍をしてる人が一緒の空間に住むのはいいことだろうし、彼みたいに何やるか分からない人間を見るのも楽しいと思ったから「いいよ」って言ったんです。で、彼は飛んできたんですよ。
―― 王国の国民になったんですね。
http://www.youtube.com/watch?v=R05kB8rlI2Q

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P35
畑  それでね、これは私が作家としてだらしないところなんだけど、普通だったら加納典明と彼が取り組んでる写真と、それから彼の人生とを書くでしょう。でもボクの場合、中に入りすぎちゃった。だから、面白おかしく何行かなら書きますけど、やっぱり彼らのプライバシーは侵せないのね。
―― 知りすぎちゃったってことですか?
畑  だから本格的に彼については書いてないでしょ。書けないんです。だから時々、作家としてはダメな男だったかなと思います。取材対象にのめり込んじゃうんですね。

―― そこでも、飛び込んじゃうわけですか。
畑  だから、競馬の騎手のことを書きたいと思って取材してたときも、一日をずっと追ったり、一緒に麻雀やったりしてたのね。でもその内、どう聞いても分からないことがある。コーナーを回る時の馬の傾斜度とか首の使い方とかを知りたいと思うんですよ。それで、自分が馬に乗るでしょ。乗った方が面白くなるでしょ。何回も草競馬に乗るようになって、馬が好きになっちゃって、騎手がぼやけちゃう(笑)。そっちの面白さにどんどん惹かれていって、自分が何してたか忘れてしまうところが私にはありますね。
―― つまり、書くことの面白さより人生の面白さを実践してるような感じなんですかね。
畑  はい! そっちに対しての熱望がすごくありすぎる。だから、たとえばこういうインタビューで絶対話せないようなことをボクはいっぱい持っていて、それを背負って生きてるわけですよ。そういう面では作家として失格の部分もあるんで、年とってきて愕然としたのはそこですよね。65歳が区切りで、65歳になったら文章を書きたいと思ってたんです。売れなくてもいいから書くんだ。ずうっと長い間、そう思ってきた。
―― 昔からそう公言してきましたよね。
畑  ただ、65歳に実際になってみたら、そこでボクの肩にのっかってる別のものは、動物王国というへんてこりんなものであり、数百の動物の命であり、人間だったんですよ。これか、と思いましたね。いまでは、どうにかしてこれをボクの経済活動の範囲から除外する。そして王国の彼らのものにしてしまおうと、真剣に考えています。彼らが動物について喋ったり書いたりして暮らせるようになってほしいわけですよ。


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―― ムツさんが「作家として後悔している」というのは、動物の専門家として見られてしまうこともひとつの理由ではあるわけですか?
畑  ボクは専門家に見られてもけっこうなんですけど、この15年ぐらい動物王国ものを書いてくれって依頼が出版社からたくさんあっても、ボクは全部断るわけです。そういうレッテルに対しては、反抗した部分がありますね。たとえば熊の冬眠なんかに関して、ボクが最初に「熊は冬眠する」という証拠を掴んだと思ってます。でも、それを論文にして科学雑誌に発表はしないんですよ。「学問は他の人がやってくれよ」ということで、一切論文も書いてないんですね。

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畑  学問という評価によって、自分の書くものを裏打ちされたくない。その点は非常に頑固なんです。だから動物学者みたいな紹介をされるなら、「学者じゃありません。道化師です!」と。
―― 動物道化師ですか(笑)。 それと個人的にすごく聞きたかったのが、前にアントニオ猪木対モハメド・アリ戦に対して「寝転がってるだけで何もしない猪木。あれは売春婦のポーズだ」とか原稿で書いてましたよね。

畑  はい。ずいぶんいろんなこと知ってますねえ(笑)。昨日もスカイパーフェクTVでアメリカのルール無しの格闘技をやってましたけど、あの試合がパンクラスとかそういう格闘技の草分けになったことは確かに認めます。でも、お金を取る興行としてやった以上、やっぱり闘ってもらいたかった。闘いを放棄したところをボクは怒ったんですね。
―― 指がなくなったムツさんが言うと、有無も言わせない説得力がありますね(笑)。
畑  いえいえいえ。その点、この前の小川の試合(PRIDE12での佐竹雅昭戦)みたい に正面からぶつかっていって白黒つけていく、あれが本当の闘いだと思いますよ! 勝っても負けても人々の胸の中に残っていく。白黒をつけないのは非常に良くないですね。
―― 結果的に、猪木×アリ戦はやることに意義があったという試合でしたからね。
畑  う~ん。でも、あれで勝敗をつけたら、どれだけすばらしいことになったか。ボクね、あれ猪木が本気でやったら勝ったと思う。絶対あれは猪木の方が強かったと思う。でも、それをやらなかったっていうのは、ボクは格闘技における汚点の一つだと思う。
―― しかし、ムツさんは格闘技方面にもかなり造詣が深いんですねえ。
畑  ものすごい好き!ボクの目は普通の人と違うんですよ。仕事柄フィルムをたくさん見てきたから、たとえばプロ野球の打撃フォームでも1コマが残るんです。イチローに会って話した時なんか、「えっ!? そこまで見てるんですか!?」と言ってましたよ。分析しちゃうんですね、目が勝手に(キッパリ)。その点は映画をたくさんやってきてラッシュを長ーい時間見てる、その修練だと思う。
―― ぜひPRIDEにも絡んでほしいですけどね、フジテレビ繋がりで。できれば格闘技の技術解説とかもやっていただきたいですよ!
畑  いや~~~、PRIDEは面白いですね~。ほんと面白いですね~っ!
―― 百戦錬磨のムツさんがリングサイドにいるだけで、爆発的に盛り上がりますよ!


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P38
畑  だからね、平仲が世界戦やった時にも観戦記を書いたんですけど、「やめなさい。このまま続けていったら死ぬ。だから悪いこと言わないから、この試合を契機に足を洗って、後進の指導をしなさい」と書いたのは私だけなんですよ。パンチドランカーであることが見て分かったんです。でも、ボクシングの評論家はそこまで書きませんよね。
―― そこまでは書けないでしょうしね。

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畑  というのと同時に、ボクなんかは運動生理やってて脳の中なんかも詳しく知ってますから、見えちゃうんですよ。あれは普通のパンチで倒れたんじゃない。パンチドランカーのせいなんです。この前の畑山の試合なんかも片方(坂本)が終ってるんです。片方(畑山)はいまが盛りなんです。だから結論が1ラウンドでわかりました。1分で。
―― 見る目がありますね(笑)。

畑  あれはハッキリ言ってミスマッチです。「いい試合だ、いい試合だ」「今年のベストマッチだ」というけど、とんでもなく残酷な試合だったと思います。もう違うんですもん。いつノックアウトするかが問題で、始まった時に勝負がついてた試合ですね。
―― 格闘技といえば、以前共演されたニカウさんになぜかブルース・リーが憑依して暴れ回る映画があるのは御存知ですか?
畑  へ~っ、ホントですか?去年、ニカウに会いたいと思ってボクも南アフリカで連絡をとったんだけど、ガードがきつくて全然ダメでした。やっとたどり着いたプロダクションに、「ニカウに会うなら金払え」って言わ れて。えらい高かったですよ。3000万円ですから! 法外な額ふっかけますよ!
―― うわ! それって、金になる仕事でなければ会わせないってことなんでしようね。
畑  まだ、あいつを食い物にして稼いでるのがいるのかって。間に立ってくれた人から「絶対会いたい。すぐ来てくれ」ってニカウが言ってるとは聞きましたけどね。でも、ニカウっちゅうのは面白い男でしたよ。
―― ニカウさんと共演した回はボクも脳裏に焼き付いてますよ。たしか『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』の視聴率では、あの回が一番良かったんですよね。
畑  そうですね。やっぱりボクがドキュメンタリーをやる手法として、ディレクターが「まかせたよ」って言ってくれる部分が非常に多かったのは、いまでもすごく感謝してます。前もってロケハンして決めてきた人と付き合わなきゃっていう風になると、ボクの力はすっごい落ちるんですよ。たとえば、あの時は3日前にいきなり電話がかかってきて、「ブッシュマンに会いに行って下さい」って言うんですよ(笑)。その時、私はブッシュマンを知らなかったんですね。それで本屋に飛び込んで本を買い漁ったんです。スタッフも全然知らないし、だけどとにかく行ってみたくて仕方ないんですよ!
―― とりあえず中に飛び込もう、と(笑)。


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P40
畑  やっぱり、明日がわからんちゅうのがいいんです。明日のスケジュールが決まってて、「どっからどこまでが乗馬」とかっちゅうと、心が奏えちゃう。予定がないほど嬉しいし、困難なほど嬉しいんです。
―― だけど、最近のテレビはものすごく細かい部分まで決めてるじゃないですか。

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畑  決めてますね~っ! だから、決めないことを我慢してくれたディレクターの勇気にとても感謝してます。作る側が非常に勇気いると思うんですよ。決めないとすごい不安だと思うし。決めると、出来上がりが想像できるところがありますから。
―― ただ、決めておくとやっぱり想像の域を越えられないと思うんですよね。
畑  そうなの!! そこなんです!!(激しく同意) いい事おっしゃいますねえ~っ! ボクは絶対、あなたの名前を忘れない!
―― あっ、ありがとうございます(笑)。

畑  いやあ、やっぱり普通のインタビュアーとは違うわ。俺、こんなに感激したインタビューは初めてだよ! 書くもん売れるわ。売れないかもしれないけど、非常にいいものが出てくるに違いない!
―― いや、ボクこそムツさんの資料を調べてて本当にシビレちゃいましたからね。
畑  いやいやいや。ボクぐらいだらしがなくて、いい加減で、突拍子もない人間も少ないですよ。それが世の中に出て行かないだけで。ただ、何かやろうと思った時はとても辛抱強いし、長期間ねばりますよ。ですけど、日常生活の私ってのはホントにもうだらしがなくて、ホントに非道徳でね。
―― そうなんですか(笑)。
畑  ホントです(笑)。あきれると思います。
―― まあ、そこを含めての魅力ですからね。 麻雀やって、過酷な旅して、売春婦と仲良くなって。本当に羨ましい限りですよ!
畑  いやぁ、かつて麻雀は強かったですもん! 非合法の麻雀だったらねぇ。非合法なものが歴史に残るとしたら、たぶんその歴史に大きな活字で残ったでしょうね。
―― 非合法の歴史に残るほどですか!
畑  でも、やっぱり何か言うんだったら自分の強さを実際に打って実証しなきゃ。引退してからだったら、何だって言えるもの。ボクはいま麻雀から引退したみたいになってて自分が打たないから、麻雀のことについては言わない。引退してからなら「俺は足が速くて100メートル9秒2で走ってた」とか言えるけど、坂道だったりしてね(笑)。
―― それなら誰でも走れますよね(笑)。
畑  やっばり、その世界でものを言うんだったら現役であることが条件ですよ。
―― 現役でライオンと闘っているムツさんの発言は、やっぱり説得力ありますねえ。
畑  いや、ボクは打ちのめされ、バカにされ、ホントみじめなもんですよ(笑)。
―― いや、素晴らしいです。男の憧れです。
畑  いやいやいや。ボクは気にいっちゃいるんですけどね、そういう自分が(笑)。
―― その行動力にもシビレますよ!今後もたっぶり見習わさせていただきます!
畑  とんでもないですよぉ、もうほんとに。そんなに大したヤツじゃないんですから。
―― 今日はどうもありがとうございました。
畑  (急に) 指がなくなってから力が落ちちゃったんだけど、最後に腕相撲でもやろうよ!
(結果はムツさんの圧勝でした……)


https://matome.naver.jp/odai/2142203708705101801/2142272018649498203
P42
※サインのプレゼントは2001/1/22頃に締め切られています

感謝
TVチョップ「男気万字固め」吉田豪
2001年1月頃?掲載号は不明

掲載号の未確認情報
月刊TVチョップ 2月号 関西版 2000年12月21日発売
https://www.enterbrain.co.jp/product/mook/mook_entame/214_tv/00258601
サラブレ1月号増刊TVチョップ関東版1月号 2000年11月24日発売
https://www.enterbrain.co.jp/product/magazine/sarabre/00258301

2007/4/19

2008
聞き手・構成:村山 陽 デザイン:東美 協力:畑正憲事務所

2015/1/22

徳川龍之介@binbinstory

ロック画面をムツゴロウさんにチェンジ pic.twitter.com/eeuxvcuNo2
動物愛 ふっと消え今は小説書きたい
2016.01.29 毎日新聞より

大秦王安敦@greatantonio

ムツゴロウさんに動物愛が無くなったというインタビューが話題だそうですが、動物愛の定義が世間で言われているようなものであるなら、氏にそんなものはハナっからないのだという事は吉田豪氏のコラムやラジオのリスナーなら共通認識のはず

吉田光雄@WORLDJAPAN

吉田豪『男気万字固め』畑正憲インタビュー文字起こし #ムツゴロウ – NAVER まとめ matome.naver.jp/odai/214220370…
ツイートありがとうございます ―――まとめ投稿者
http://www.youtube.com/watch?v=M7SLuEhFyAQ
2016.02.05放送 公式 http://www.tbsradio.jp/tama954/2016/02/post-1437.html

書き起こし

2016.02.09 掲載「本当に困っているんです。毎日新聞にあんなこと書かれちゃって!」(ムツゴロウさんの女性スタッフ談)

https://matome.naver.jp/odai/2142203708705101801
2016年02月10日