「汚名挽回」は誤用ではない~誤用とされてきた歴史まとめ

雨男

『三省堂国語辞典』の編集委員の方が、「汚名挽回」は誤用ではないとツイート

飯間浩明 @IIMA_Hiroaki
国語辞典編纂者。『三省堂国語辞典』編集委員。1967年香川県生まれ。
著書『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』(http://amzn.to/Jdd14J )、『辞書を編む』(http://amzn.to/10WhZHN )など。
NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」講師。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「挽回」は「元に戻す」という意味があるので、「汚名挽回」は「汚名の状態を元に戻す」と考えられ、誤用ではない。これは『三省堂国語辞典』第7版に記述しました。『明鏡国語辞典』もやんわりとですが、誤用と決めつけられないことを記しています。「汚名挽回」の汚名挽回なるか、といったところ。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

この「汚名挽回」誤用説はいつ頃から発生したか。私の知るかぎりでは、1976年の『死にかけた日本語』(英潮社)の指摘が早いです。それまで「汚名挽回」は普通に使われていたのに、これ以降、誤用説が強まり、今は肩身の狭い立場になった。この本はけっこう影響力があり、やっかいな存在です。

「元気回復」と「疲労回復」という言葉を思い浮かべると理解しやすいとのこと

@IIMA_Hiroaki 「疲労回復」と同じ使い方ですね。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「疲労回復」は、「汚名挽回」を理解するためにちょうどいい例だと思います。@in_via:「疲労回復」と同じ使い方ですね。
@IIMA_Hiroaki うーむ、疲労回復かあ、なるほど。でも汚名挽回には、名誉回復が、対でありますが、だから混用と呼ばれますが、疲労回復の対語は?元気回復?

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

対がある必要は必ずしもないですが、おっしゃるとおり、さしずめ「元気回復」でしょうか。5/17(土)の読売テレビ「声」で「汚名挽回」を取り上げていただけるよし、ありがとうございます。@kotobamichiura: うーむ、疲労回復かあ、なるほど。でも汚名挽回には、名誉回復が、対…

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「名誉挽回」「汚名挽回」の両方があることは、前ツイートの「元気回復」「疲労回復」の場合と似ていますね。@officeshambleau: では「名誉挽回」は「名誉のある状態を元の何も評価されていない状態に戻す」という事になるのでしょうか? そういう論理構造ですよね。

Yota@meganekkomegami

@IIMA_Hiroaki 名誉挽回は名誉を取り戻す、汚名挽回は汚名が無い状態を取り戻す、という意味ですか?

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

@meganekkomegami おっしゃるとおりです。いずれにしても、いい状態に戻すということです。

マスコミでは「汚名挽回」やそれに類する「挽回」の使用を誤用と認定してきた歴史が

各紙が衆院選の情勢調査を行っています。毎日新聞でも掲載していますが、その原稿中に「劣勢を挽回したい考え」という表現が。これではよくある誤用の「汚名挽回」と同じで、劣勢に戻してしまうことになります。「劣勢を」を削って「挽回したい考え」と直しました。〔信〕

「汚名挽回」に関しては2013年にも大きな議論に

yunishioさんによる、「汚名挽回」は誤用ではないのではないか、と主張するブログ記事。

ここでは、青空文庫で「挽回」の用例を調べ、「汚名挽回」と言っても間違いではないと結論づけている。

この記事は当時反響を呼び、多くの賛否が分かれることになりました。

yunishioさんによる、上記の記事への批判意見への反論記事。

「汚名返上」は慣用語だから「汚名挽回」は間違い、という意見に対して、青空文庫の検索結果では「汚名返上」という言葉の使用例はなく、慣用ではないと反論しています。

「汚名挽回」の使用例

Hachiさんが、新聞記事検索で調べたところ、「汚名挽回」と「汚名返上」の使用例はゼロ、「名誉挽回」の使用例も1つしかなく、多くは「名誉回復」と書かれていたそうです。

Hachiさんによる、「汚名挽回」の使用例調査記事。

1936年の書籍に「汚名を挽回する」という用例、1942年の書籍に「汚名挽回」というそのものズバリの用例があるとのことです。

新聞検索では「不名誉を挽回」という用例が5件あったそう。

Hachiさんによる、Googleブックスを用いた「汚名挽回」「名誉挽回」「汚名返上」の使用例を調べた記事。

1934年の新聞記事に「名誉挽回」の使用例、1948年の書籍に「汚名返上」の使用例がそれぞれあったそうです。

戦後になってから、「名誉挽回」「汚名返上」は1950年台の時点でよく見られるようになったということです。

http://kokkai.ndl.go.jp/ で国会の議事録を検索してみると、

◆1940~1950年代
汚名挽回…2
汚名を挽回…1
汚名返上…2
汚名を返上…10
名誉挽回…7件(ヒット8件中1件は「不名誉挽回」でした)
名誉を挽回…4件(ヒット6件中2件は「不名誉を挽回」でした)

◆1960年代
汚名挽回…1
汚名を挽回…6
汚名返上…1
汚名を返上…16
名誉挽回…8
名誉を挽回…0件(ヒット4件すべて「不名誉を挽回」でした)
★的を「得る」とか「役不足」を誤用する馬鹿 18★

2ちゃんねるに投稿された、国会議事録での使用例の数字です。

四字熟語として使用されるのは「名誉挽回」が最も多いとのことです。

一方、現在の国(文化庁)は「汚名挽回」を「本来の言い方」でないとする

恒例の文化庁の日本語世論調査で、「汚名挽回」と「汚名返上」のどちらを使用するか、が調べられた。

文化庁は「汚名返上」を「本来の言い方」と定め、報告書を提出しているが、調査の結果、「汚名挽回」を使用する人の方が多かった。

全体として,本来の言い方を使う人よりも,本来の言い方ではないものを使う人が多かったのは,「青田刈り」「汚名挽回」である。

「汚名挽回」を使う人の割合は,20代以下では「汚名返上」よりも9~39ポイント低い。30代で「汚名挽回」が「汚名返上」をやや上回り,40代~60歳以上で10~16ポイント高くなっている。
文化庁 | 国語施策・日本語教育 | 国語に関する世論調査 | 平成16年度

「汚名挽回」と「汚名返上」のどちらを使うか、年齢別回答
次の2つの言い方のどちらを使うか。

(a)前回失敗したので今度は汚名挽回ばんかいしようと誓った
(b)前回失敗したので今度は汚名返上しようと誓った

結果

(a)の方を使う ・・・・・ 44.1%
(b)の方を使う・・・・・38.3%
(a)と(b)の両方とも使う・・・・・7.2%
(a)と(b)のどちらも使わない・・・・・7.5%
分からない・・・・・2.9%

「汚名挽回」の誤用指定はアニメや漫画のせい?

(1985年放送の『機動戦士ガンダム』で「汚名挽回」というセリフが「汚名返上」に書き直される)

脚本のミスのため、第4話において「汚名挽回」と誤ったセリフを発するシーンがある。翌週以降のジェリドのセリフには「名誉挽回」が多く登場した。なお、劇場版や漫画『機動戦士Ζガンダム Define』では「汚名返上」に変更されている。
ジェリド・メサ – Wikipedia

(1987年に1巻が発売された田中芳樹の『創竜伝』では「汚名挽回」が誤用と断言されている)

創竜伝の中では「役不足」も「汚名挽回」も間違った用法はこうだ、と断言しちゃっていますから、作家先生とはえらいものだと思っている中高生の頭のなかにはそれが刷り込まれてしまって今日に至る、という風に考えています。
「汚名挽回」を誤用認定したのは誰か – novtan別館

漫画『アイシールド21』での、「汚名挽回」の誤用認定。

若い世代にも誤用と刷り込まれている。

twitter

θ@yamada_theta

@IIMA_Hiroaki はじめましてこんにちは。確かにそう考えると汚名挽回も自然と感じました。同様の四字熟語で、寒気対策ではなく防寒対策が市民権を得ているので、言葉の流動性を感じました。

野村弘明@officeshambleau

@IIMA_Hiroaki では「名誉挽回」は「名誉のある状態を元の何も評価されていない状態に戻す」という事になるのでしょうか? そういう論理構造ですよね。

野村弘明@officeshambleau

@IIMA_Hiroaki つまり、「挽回」も「回復」も意味は一意ではなく、前に付く言葉によって変わるという理論ですね。汚名挽回の場合は汚名のない状態に戻す、名誉挽回は名誉のない状態ではなく名誉自体を取り戻す、疲労から回復する、元気な状態に回復する。色々考えるのは面白い。
でも、さ、“汚名返上”とか“汚名雪辱”?恨みを雪辱?かなあ、変換したら出てきたから“返上”にして、返上と挽回を入れ替えても同じ意味だ、とするなら、 @IIMA_Hiroaki
“挽回”は“劣勢を挽回する”とか“遅れを挽回する”という風に使うけど、この“挽回”を“返上”には出来ないと思うのね。僕は“汚名挽回”には違和感ありますね、今は。 @tubupoko @IIMA_Hiroaki

「三省堂国語辞典」編集者の飯間氏の追記

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「汚名挽回」は誤用でないという発言に対し質問が多いので、補足します。(1)「汚名挽回」が「汚名を元の状態に戻すこと」なら、「名誉挽回」は「名誉のない元の状態に戻すこと」?→そうではありません。どちらも、いい状態に戻すのです。これは「疲労回復」「元気回復」が参考になりますね。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「汚名挽回」は誤用でない、について(2)「汚名挽回」は「汚名を取り戻すこと」であり、やはり誤用ではないか?→それは従来説の繰り返しです。「挽回」は「ひきかえす」で、ここでは「汚名を着た状態を元通りにすること」です。くわしくは拙著『三省堂国語辞典のひみつ』p.33以下に述べました。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「汚名挽回」は誤用でない、について(3)誤用でないかもしれませんが、私は違和感があって使いたくないのですが?→その意志は尊重されるべきです。好みでないことばを使うことは、誰しも強要されるべきではありません。同様に、他の人のことば遣いに物言いをつけることも慎重であるべきです。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

「汚名挽回」は「機動戦士Zガンダム」のせりふに用例があると、今回知りました。1985.3.23の第4話、ジェリドのせりふ、でいいのかな。84年の「ルパン三世partIII」にもあったとのこと。80年代はまだ「汚名挽回」誤用説が「常識化」していなかったことを示す傍証として興味深い。

gmjtptadgtjgp@gmjtptadgtjgp

@IIMA_Hiroaki 疲労は「疲労スル」と言える為、疲労回復で「疲労した状態を元通りにする」と納得できますが、汚名は「汚名スル」事は無理であり、また汚名という単語に「汚名を着る」という意味は無いため、汚名挽回で「汚名を着た状態を元通りにする」というのは無理ではありませんか?

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

@gmjtptadgtjgp 「疲労する」と動詞にしなくても「疲労を回復」と名詞で解釈できますね。また、「今回の不名誉を挽回する」と「名詞+を+挽回」の類例もあります。したがって「汚名挽回」は意味不明とまでは言えず、あえて批難するに当たらないと考えます。

飯間浩明@IIMA_Hiroaki

お示しの例はいい例ですね。@Kane_U_2G: @IIMA_Hiroaki 「汚名を挽回する」の用例として「一時の汚名を、将来の精進で挽回してくれい」(吉川英治『宮本武蔵』昭和10-14年連載)がありますね。吉川英治は国民文学ですから(笑)、軽視はできませんよね

(2014/6/30)タレントの伊集院光さんがラジオで「汚名挽回って誤用じゃなくない?」と発信

・2014年06月30日放送のTBSラジオ系『伊集院光 深夜の馬鹿力』にて

・飯間浩明さんのツイートを知ってか知らずか、「疲労からの回復をするために、『疲労回復』って言葉をするならば、『汚名回復』って流れも、あって良いはずだ」と話す。

(2014/12/19)フジテレビで「汚名挽回」と答えた映像のテロップが「汚名返上」に差し替え

「汚名挽回」の名誉が挽回される日は来るのだろうか

https://matome.naver.jp/odai/2139899391825390701
2014年12月20日