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【目次】
01 : 自転車に乗っている夢
02 : リンフォン
03 : ざわつき声
04 : 当世話(とうぜわ)
05 : 作り話
06 : 不動産査定
07 : うたて沼
08 : 運動会?
09 : ベンチに一人おばさんが座ってた
10 : 堤防で夜釣り
■01 : 自転車に乗っている夢■
上記動画の【0:18:40】から再生して下さい
中学の自習時間に先生がしてくれた実体験談?です。
先生から聞いただけの話だけど、
臨場感を出すため語り手を先生(俺)として書きました。
十年くらい前、俺がまだ大学生だった時の話。
同じサークルでよくつるんでた友達が二人いた。名前はKとH。
俺とHは学生寮に住んでいて、Kだけが安アパートで独り暮らしだった。
どいつも親は別に金持ちじゃないから、
仕送りも衣食住でかつかつ程度だったし大学は最後の自由時間って感じで、
講義もそこそこにバイトしては遊ぶ毎日だったよ。
彼女もいない野郎三人。
つるんでゲーセンやカラオケ行ったり、独り暮らしのKの家で夜通しゲームしたり、
今思えば、受験戦争から解放されて精神年齢が逆戻りしたようなアホな大学生活だった。
そんなある日、いつものように三人で馬鹿話してると、
Kが「最近おもしろい夢を見る」と言い出した。
連続する夢、夢の続きをまた夢で見るのだと言う。
それも毎晩見るのではなく、数日あいてまた同じような夢を見るらしい。
俺とHがどんな夢か尋ねると、Kは「自転車に乗っている夢」と答えた。
自転車に乗って走ってる夢で、
夢の中のKは『どこか』に行かないといけないと思っていて、
その『どこか』を探しているらしい。
ストーリー性のある夢かと思ってたから、正直つまらねー話だと思ったよ。
それのどこがおもしろいのか尋ねたら、
Kは「ペダルを踏む感覚や景色がすごいリアルで、夢と思えない夢だ」と興奮していた。
それからなんとなく、Kに会ったら夢の話を聞くのが俺とHの日課になった。
どっちか片方が聞いたらもう片方にも伝える。
それでKに会ったらもう一度直接聞いたりして、
なんだかんだでKの夢の内容は、三人で共有する形になっていた。
「昨夜は残念ながら見なかったな」とか、「昨夜は海辺を走った」とか、
「薄暗くて山道みたいだった」とか。
Kの夢に共通してるのは、それがK本人の行動として描かれることと、
必ず自転車に乗っていることだった。
俺たちはおもしろがって、Kの夢をあれこれ診断しようとしたりした。
占いや精神分析とかを本で調べてみたり、Kの過去や思い出を聞いてみたり。
夢が現実にある場所かもしれないと、Kに心当たりがないか尋ねてみたが、
景色を「リアルだ」と思うのはあくまで夢の中のKであって、
目覚めた時に夢の景色をリアルに記憶しているわけじゃない、ということだった。
『実体験のような夢』を見てるだけで、目が覚めれば『夢は所詮夢』ってことらしい。
Kの夢に異変が起きたのは、Kから夢の話を聞くようになって一ヶ月近く経ってからだった。
奴はその頃、街中を走る夢を何度か見ていて、最初に聞いた時はその延長だと思ったよ。
K「昨夜は線路の横を走った」
H「昨夜も?」
K「そう、昨夜も。二夜連続!」
俺「すげえ!連夜は初めてだな」
Kは二晩続けて『線路の横を走る』夢を見ていた。
街中を横断する線路で、上下二本の線路の両側は細い道路を挟んで住宅地になっているらしい。
その線路横の細い道路を自転車で走る夢だった。
二晩の夢の線路は続いていて、
Kは線路伝いに『どこか』へ向かっている途中だと言う。
その時のKは「ようやく目的地が見えてきた気がする」と、
現実の話でもないのにやけに張り切っていた。
それから一週間くらい、
俺は課題だバイトだと忙しくてKともHとも話す機会がなかった。
大学で久しぶりにHに会ったら、Kの様子がおかしいと言う。
講義を欠席してサークルにも来なくなり、電話で遊びに誘っても生返事。
新しい夢について尋ねても「うーん、まぁそれなりに」としか言わなかったらしい。
後で考えると本当に直感だったんだが、
俺はHからKのことを聞いたその時、ものすごく嫌な予感がした。
「とにかくKに会おう」ということになり、
電話して居場所を尋ねたら友達の家にいると言う。
外出したくないと言うKを説得して、
Kの居場所から一番近かったファミレスに呼び出した。
俺とHは先にそこへ行ってKが来るのを待ってたんだけど、
店に入ってきた奴を見て、俺は自分の直感が正しかったことがわかった。
Kは異様なくらいやつれていた。
目の下にすごい隈を作って痩せて、ろくに寝ても食べてもいないようだった。
俺とHはしぶるKを一生懸命説得して、この一週間に何があったのか話すようにうながした。
Kは前置きに「お前らに話をすると本当になりそうで怖い」と何度も繰り返しながら、
ぽつぽつと話した。
それはやっぱり、例の夢の話だった。
Kが二晩続けて線路横を走る夢を見た後のこと。
二日間は夢を見なかったらしい。
ところが次の日から、夢は毎晩やってきてKの睡眠を脅かした。
その日。自転車で線路横を走る。前方には踏み切りが見えてくる。
次の日。踏み切り前で電車が通り過ぎるのを待っている。自転車にまたがって、一番前で。
次の日。自転車で踏み切りを渡る。何度も何度も繰り返し渡る。
次の日。どこかの路地で自転車を降りて、踏み切りへ歩いていく。
次の日。踏み切りを歩いて渡る途中、線路の真ん中で立ち止まる。
次の日。線路の上を歩いている。踏み切りを後にして。線路をまっすぐ。
夢が進むにつれて、Kにはこの夢が何を意味するのかわかったのだろう。
夢のことを知る俺とHには相談できなかったと語った。
口に出せば、正夢になりそうだったから。
Kは眠るのが怖くなった。
場所を変えれば夢を見ないかもしれない。アパートを出て友達の家に転がり込んだ。
しかし、夢は毎日容赦なくやってきた。ほんのちょっとのうたた寝の隙にも。
昼夜問わず一日一回必ず。正確にリアルに・・・
「俺は自殺の夢を見ている!」
Kは真っ青になって震えていた。
「この後は何を見せられるんだ?最後まで見たら俺はどうなるんだ?」
もちろん俺とHには、返事のしようがなかった。
Kによると、夢の中のKは『明確な意志を持って』そこへ向かっているのだと言う。
現実のKに自殺願望はないのだが、
夢の中のKの自我は淡々と目的を果たそうとしているのだと。
俺とHはとにかく、半狂乱のKを必死でなだめた。
「現実でお前はちゃんと生きていて、自殺なんか絶対にしない。
俺たちが絶対にさせないから!」
その日の夜、Kは友達の家を出て、俺たちと一緒にアパートのKの部屋へ戻った。
当面は、俺とHでできる限りKから目を離さないことにしたからだ。
俺はその日、バイトが夜のシフトでどうしても代わりが見つからず、
仕方なくKをHに任せて出かけた。
HはKのアパートで、Kを見張りながら一晩すごすことになった。
二人には何かあったらすぐ連絡するよう念押ししていた。
バイト終わっても終電過ぎてKのアパートには戻れず、
特に連絡もなかったから俺は寮で寝ることにした。
翌朝7時頃。Hから電話があった時、俺は疲れてすっかり熟睡していた。
Hは『Kは無事だけど、大変なことになった。とにかく早く来てくれ!』と言う。
電話で事情を聞こうとしたが、Kをなだめるのに手こずっているようだった。
Kの声もしていたが、何を言っているのかよく聞き取れなかった。
俺は急いでKのアパートへ向かった。
Kは多少落ち着いたのか、泣き腫らした目でぐったり座り込んでいた。
しゃべる元気もないようで、俺はほとんどの説明をHから聞くことになった。
Kは明け方に、またあの夢を見てしまったらしい。
夢の中で。Kの目には、一面の、青い空が広がっていた。
線路の上に、仰向けに、寝転がって。
体の下に、近付いて来る、振動を聞きながら。
俺たちは全員、もう時間がないとわかった。
次の夢を見てしまったら、何か恐ろしいことが起きると思った。
Kは今確かに生きているが、これは明らかにおかしい。
正夢じゃなくても、この夢は絶対に異常だ。
それで、Kをどこかの神社で御祓いしてもらおうとか、精神科で深層心理調べるとか、
催眠術?みたいなのでKの知らない記憶が見えないかとか、いろいろ話したけど、
俺もHもKもそういうのに詳しくなかったし、詳しい知り合いもいなかったから、
とりあえず自分たちで原因を探ることにした。
まだ朝で、そういう頼れるかもしれない場所がどこも開いてなかったのと、
俺たち自身が焦っていて、とにかく何かして動いてないと不安だった。
今度は俺が憔悴したKを見ることにして、
昨夜寝ずの番をしたHは調査に出ることになった。
眠りたくないKは俺と一緒に、Kの部屋やアパート周辺を調べる。
HはKの生活圏周辺の、線路への飛び込み自殺者情報を調べる。
当時はネット普及前で、調べると言っても駅周辺で聞き込みするか、
図書館で新聞あさるしかない。
警察にこんなオカルトめいた話して、何か情報が得られるとも思えなかった。
そもそも「いつ?どこで?死んだ奴?がKに悪夢を見せているのか?」当てのない話だしな。
でも事件が解明したのは、結果的には新聞を調べたHと警察のおかげ?みたいな感じになった。
俺とKはアパート周辺をうろうろ歩き回っていた。
Kの住むアパートは、駅や線路からは離れた場所にあった。
古い安アパートで外観も中もオンボロだったけど、
二年住んでるKは霊障なんて聞いたことがなかった。
Kの部屋は一階で、裏の駐輪場に自転車を置いていた。
自転車にも特に変わった所はなかった。
俺の役割は調査よりKの監視だった。
フラフラするKを支えて、眠らせないよう歩かせる。
とりとめないことを延々と話しかけ、返事をうながし、
Kの意識が夢に沈まないように注意した。
9時に図書館へ飛び込んだHは、新聞で直近の人身事故情報を探した。
Hから連絡があったのは昼頃。
最近二ヶ月の事故情報は、死亡・重傷あわせて5件。
路線名や地名や地図を確認しながら、Kの記憶に残るものがないか調べた。
1件にKが反応した。二週間前に隣県で起きた死亡事故。女性の飛び込み自殺だった。
その日、Kは自転車で隣県へサイクリングに行ったと言うんだ。
見るようになった夢に触発されて、急に自転車で遠出したくなったらしい。
隣県に着いて駅前に自転車を停めて、そのまま歩いて街の散策と食事に出かけた。
事故はその間に起きていたのだが、数時間後に戻って自転車で帰ったKは気付かなかった。
事故を見たのはKではなく、Kの自転車だったんだ。
俺とKは図書館から戻ったHと合流して、もう一度Kの自転車を丹念に調べた。
そうしたら、サドルの真下に黒っぽい物がへばりついていた。
俺たちはすぐに最寄の警察に行って、
その日Kの自転車が事故現場の近くにあったこと、
遺体の一部が付着しているかもしれないことを話した。
一応、簡単にだけど、妙な夢の話もした。
信憑性が増すのか減るのか、判断迷ったけど一応ね。
もちろんその日のうちに警察から連絡なんか来なかったが、
その晩からKの夢はピタリと止んだ。
俺とHはその夜もKの部屋にいて、
怯えるKをなだめつつ、結局朝には全員つぶれてた。
目が覚めて、Kは夢を見なかったことを泣いて喜んだ。
数日後、警察から連絡あった。
Kの自転車に付いていたのは、被害者の目玉だったんだ・・・
本当の話かは知りません。
先生の体験談ってことなので。
ただ、女性の事故死とKの夢の始まりが同時じゃないので、女性の自殺願望が生霊?みたいな感じでKに夢を見せたのか、不思議だと先生は言ってました。
■02 : リンフォン■
上記動画の【1:02:33】から再生して下さい
先日、アンティーク好きな彼女とドライブがてら、
骨董店やリサイクルショップを回る事になった。
俺もレゲーとか古着など好きで、
掘り出し物のファミコンソフトや古着などを集めていた。
買うものは違えども、そのような物が売ってる店は同じなので楽しく店を巡っていた。
お互い掘り出し物も数点買う事ができ、
テンション上がったまま車を走らせていると、
一軒のボロッちい店が目に付いた。
「うほっ!意外とこんな寂れた店に、
オバケのQ太郎ゴールドバージョンが眠ってたりすんだよな」
浮かれる俺を冷めた目で見る彼女と共に俺は店に入った。
コンビニ程度の広さの、チンケな店だった。
主に古本が多く、家具や古着の類はあまり置いていない様だった。
ファミコンソフトなど、「究極ハリキリスタジアム」が嫌がらせのように1本だけ埃を被って棚に置いてあるだけだった。
もう出ようか、と言いかけた時、
「あっ」
と彼女が驚嘆の声を上げた。
俺が駆け寄ると、ぬいぐるみや置物などが詰め込まれた、
バスケットケースの前で彼女が立っていた。
「何か掘り出し物あった?」
「これ、凄い」
そう言うと彼女は、バスケットケースの1番底に押し込まれる様にあった、
正20面体の置物を、ぬいぐるみや他の置物を掻き分けて手に取った。
今思えば、なぜバスケットケースの1番底にあって外からは見えないはずの物が彼女に見えたのか、不思議な出来事はここから既に始まっていたのかもしれない。
「何これ?プレミアもん?」
「いや、見たことないけど…この置物買おうかな」
まぁ、確かに何とも言えない落ち着いた色合いのこの置物、
オブジェクトとしては悪くないかもしれない。
俺は、安かったら買っちゃえば、と言った。
レジにその正20面体を持って行く。
しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。
「すいません、これいくらですか?」
その時、俺は見逃さなかった。
ジイさんが古本から目線を上げ、正20面体を見た時の表情を。
驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、
すぐさま普通のジイさんの表情になった。
「あっ、あぁ…これね…えーっと、いくらだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」
そう言うとジイさんは、奥の部屋(おそらく自宅兼)に入っていった。
奥さんらしき老女と何か言い争っているのが断片的に聞こえた。
やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。
「それはね、いわゆる玩具の1つでね、リンフォンって名前で。
この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」
ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。随分と古いものらしい。
紙には例の正20面体の絵に「RINFONE(リンフォン)」と書かれており、
それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。
わけの分からない言語も添えてあった。
ジイさんが言うにはラテン語と英語で書かれているらしい。
「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。
まず、リンフォンを両手で包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」
彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。
すると、「カチッ」と言う音がして、正20面体の面の1部が隆起したのだ。
「わっ、すご~い」
「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」
ジイさんに言われるとおりに彼女がすると、今度は別の1面が陥没した。
「すご~い!パズルみたいなもんですね!ユウ(←俺の敬称)もやってみたら」
この仕組みを言葉で説明するのは凄く難しいのだが、
「トランスフォーマー」と言う玩具をご存知だろうか?
カセットテープがロボットに変形したり、
拳銃やトラックがロボットに…と言う昔流行った玩具だ。
このリンフォンも、正20面体のどこかを押したり回したりすると、
熊や鷹、魚などの色々な動物に変形する、と想像してもらいたい。
もはや、彼女はリンフォンに興味深々だった。俺でさえ凄い玩具だと思った。
「あの…それでおいくらなんでしょうか?」彼女がおそるおそる聞くと、
「それねぇ、結構古いものなんだよね…
でも、私らも置いてある事すら忘れてた物だし…よし、特別に1万でどうだろう?
ネットなんかに出したら好きな人は 数十万でも買うと思うんだけど」
そこは値切り上手の彼女の事だ。
結局は6500円にまでまけてもらい、ホクホク顔で店を出た。
次の日は月曜日だったので、
一緒にレストランで晩飯を食べ終わったら、お互いすぐ帰宅した。
月曜日。仕事が終わって家に帰り着いたら、彼女から電話があった。
「ユウくん、あれ凄いよ、リンフォン。
ほんとパズルって感じで、動物の形になってくの。
仕事中もそればっかり頭にあって、手につかない感じで。
マジで下手なTVゲームより面白い」
と一方的に興奮しながら彼女は喋っていた。電話を切った後、写メールが来た。
リンフォンを握っている彼女の両手が移り、
リンフォンから突き出ている、熊の頭部のような物と足が2本見えた。
俺は、良く出来てるなぁと感心し、その様な感想をメールで送り、やがてその日は寝た。
次の日、仕事の帰り道を車で移動していると、彼女からメールが。
「マジで面白い。昨日徹夜でリンフォンいじってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ」
と言う風な内容だった。
俺は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向けた。
「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事には行ったの?」
着くなり俺がそう聞くと、
「行った行った。でも、おかげでコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど」
と彼女が答えた。
テーブルの上には、4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンがあった。
「おぉっ、マジ凄くないこれ?仕組みはどうやって出来てんだろ」
「凄いでしょう?ほんとハマるこれ。次はこの熊から鷹になるはずなんだよね。
早速やろうかなと思って」
「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日でいいじゃん」
「それもそうだね」
と彼女は良い、簡単な手料理を2人で食べて、
1回SEXして(←書く必要あるのか?寒かったらスマソ)
その日は帰った。
ちなみに、言い忘れたが、リンフォンは大体ソフトボールくらいの大きさだ。
水曜日。
通勤帰りに、今度は俺からメールした。
「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ~だこ~だ…」すると
「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」と返事が返ってきた。
そして夜の11時くらいだったか。俺がPS2に夢中になっていると、写メールが来た。
「鷹が出来たよ~!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」
写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが移してあった。
素人の俺から見ても精巧な造りだ。今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。
もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。それでも良く出来ていた。
「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな~」と返信し、
やがて眠った。
木曜の夜。
俺が風呂を上がると、携帯が鳴った。彼女だ。
「ユウくん、さっき電話した?」
「いいや。どうした?」
「5分ほど前から、30秒感覚くらいで着信くるの。通話押しても、
何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。
着信見たら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね?
でもその着信見たら(彼方(かなた))って出るの。
こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて」
「そうか…そっち行ったほうがいいか?」
「いや、今日は電源切って寝る」
「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、所でリンフォンどうなった?魚は」
「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらユウくんにも貸してあげようか」
「うん、楽しみにしてるよ」
金曜日。
奇妙な電話の事も気になった俺は、彼女に電話して、家に行く事になった。
リンフォンはほぼ魚の形をしており、
あとは背びれや尾びれを付け足すと、完成という風に見えた。
「昼にまた変な電話があったって?」
「うん。昼休みにパン食べてたら携帯がなって、今度は普通に(非通知)だったんで出たの。
それで通話押してみると、(出して)って大勢の男女の声が聞こえて、それで切れた」
「やっぱ混線かイタズラかなぁ?明日ド0モ一緒に行ってみる??」
「そうだね、そうしようか」
その後、リンフォンってほんと凄い玩具だよな、
って話をしながら魚を完成させるために色々いじくってたが、
なかなか尾びれと背びれの出し方が分からない。
やっぱり最後の最後だから難しくしてんのかなぁ、とか言い合いながら四苦八苦していた。
やがて眠くなってきたので、次の日が土曜だし、
着替えも持ってきた俺は彼女の家に泊まる事にした。
嫌な夢を見た。暗い谷底から、大勢の裸の男女が這い登ってくる。
俺は必死に崖を登って逃げる。後少し、後少しで頂上だ。助かる。
頂上に手をかけたその時、女に足を捕まれた。
「連 れ て っ て よ ぉ ! ! 」
汗だくで目覚めた。まだ午前5時過ぎだった。
再び眠れそうになかった俺は、ボーっとしながら、
彼女が置きだすまで布団に寝転がっていた。
土曜日。
携帯ショップに行ったが大した原因は分からずじまいだった。
そして、話の流れで気分転換に「占いでもしてもらおうか」って事になった。
市内でも「当たる」と有名な「猫おばさん」と呼ばれる占いのおばさんがいる。
自宅に何匹も猫を飼っており、占いも自宅でするのだ。
ところが予約がいるらしく、電話すると、運よく翌日の日曜にアポが取れた。
その日は適当に買い物などして、外泊した。
日曜日。
昼過ぎに猫おばさんの家についた。チャイムを押す。
「はい」
「予約したた00ですが」
「開いてます、どうぞ」
玄関を開けると廊下に猫がいた。俺たちを見るとギャッと威嚇をし奥へ逃げていった。
廊下を進むと、洋間に猫おばさんがいた。文字通り猫に囲まれている。
俺たちが入った瞬間、一斉に「ギャーォ!」と親の敵でも見たような声で威嚇し、
散り散りに逃げていった。流石に感じが悪い。
彼女と困ったように顔を見合わせていると、
「すみませんが、帰って下さい」
と猫おばさんがいった。
ちょっとムッとした俺は、どういう事か聞くと、
「私が猫をたくさん飼ってるのはね、そういうモノに敏感に反応してるからです。
猫たちがね、占って良い人と悪い人を選り分けてくれてるんですよ。
こんな反応をしたのは始めてです」
俺は何故か閃くものがあって、彼女への妙な電話、俺の見た悪夢をおばさんに話した。
すると・・・・・
「彼女さんの後ろに、、動物のオブジェの様な物が見えます。今すぐ捨てなさい」
と渋々おばさんは答えた。
それがどうかしたのか、と聞くと
「お願いですから帰って下さい、それ以上は言いたくもないし見たくもありません」
とそっぽを向いた。
彼女も顔が蒼白になってきている。俺が執拗に食い下がり、
「あれは何なんですか?呪われてるとか、良くアンティークにありがちなヤツですか?」
おばさんが答えるまで、何度も何度も聞き続けた。するとおばさんは立ち上がり、
「あれは凝縮された極小サイズの地獄です!!地獄の門です、捨てなさい!!帰りなさい!!」
「あのお金は…」
「入 り ま せ ん ! !」
この時の絶叫したおばさんの顔が、何より怖かった。
その日彼女の家に帰った俺たちは、
すぐさまリンフォンと黄ばんだ説明書を新聞紙に包み、
ガムテープでぐるぐる巻きにしてゴミ置き場に投げ捨てた。
やがてゴミは回収され、それ以来これといった怪異は起きていない。
数週間後、彼女の家に行った時、アナグラム好きでもある彼女が、
紙とペンを持ち、こういい始めた。
「あの、リンフォンってRINFONEの綴りだよね。
偶然と言うか、こじ付けかもしれないけど、
これを並べ替えるとINFERNO(地 獄)とも読めるんだけど…」
「魚、完成してたら一体どうなってたんだろうね」
「ハハハ…」
俺は乾いた笑いしか出来なかった。
あれがゴミ処理場で処分されていること、
そして2つ目がないことを、
俺は無意識に祈っていた。
■03 : ざわつき声■
上記動画の【1:58:35】から再生して下さい
高校を卒業し、進学して一人暮らしを始めたばかりの頃の話。
ある夜部屋で1人ゲームをしていると、
下の方から大勢の人がザワザワと騒ぐような声が聞こえてきた。
俺は「下の階の人のところに客が一杯来ているのかな?」とも思ったが、
耳を澄まして良く聞いてみると、声の感じから数人という事はなさそうだ。
もっと大勢の人の声のように聞こえる。
気のせいかもしれないが、まるで大きな駅とかなどの雑踏のざわつきのような感じだ。
その時は「そういう映画かテレビ番組でも見ているのかな?」と考えながら、
それ以上気にせずにいた。
が、寝る頃になっても一向に「ざわつき声」がなくなることは無く、
そこまで大きな音では無いのだが、深夜3時頃まで聞こえていたせいで、
結局気になってその日は殆ど寝る事ができなかった。
それから数日間、毎日ではないが夜10時頃から深夜3時頃まで、
頻繁に「ざわつき声」が聞こえてくるので俺はろくに眠る事ができず、
いい加減苦情を言おうと階下の人のところへ行く事にした。
呼び鈴を押して暫らくすると住人が出てきた。
歳は俺より2つか3つ上くらいだろうか、見た感じ学生っぽく見える。
俺が上の階の住人である事を話し苦情を言おうとすると、
その人はいきなり不機嫌になり
「あんた毎日毎日真夜中に何やってんだ、煩くて仕方が無いんだが」
と逆に言われてしまった。
(ややこしくなるので、ここからは下の階の人を仮にサトウさんとしておきます)
意味が解らない俺は、事情を最初から話して、
下の方から殆ど毎日のように大勢の人のざわつき声のようなものが聞こえてくると話すと、
サトウさんは「ざわつき声」が夜になると“上から”聞こえてきて、
そろそろ大家か不動産屋に苦情を言おうと思っていたと話し出した。
その話を聞いて、俺は理由は良く解らないが何かいやな感じがしてきた。
あれは明らかに人の声だ。何度も聞いているから聞き間違いは無い。
それにサトウさんも「大勢の人のざわめき」である事は間違いないという。
暫らくの沈黙の後「…天井裏に何かあるのかな?」とサトウさんが言ってきた。
「天井裏行ってみる?」
サトウさんがそう切り出してきて、俺の返事も待たずに懐中電灯を持ち出してきた。
が、俺は勝手に解決しようとして万が一にも天井踏み抜いたり、
そうでなくとも何か壊してしまったら後々色々問題になるかもしれない、
ここは管理している不動産屋に事情を話して来てもらったほうが良いんじゃないかと提案し、
行く気満々のサトウさんを説得した。
そして俺は「ざわつき声がする」と言うと不信に思われるので、
その辺りははぐらかし「床下から何か異音がする」
と不動産屋に白々しく電話を入れた。
すると不動産屋はどうやら天井裏にネズミか何かが入り込んだと思ったのだろうか、
数日以内に業者を連れてそちらに向かうと言ってきた。
俺はなにか結果的に騙しているような感じになってしまってちょっと引け目を感じたが、
その事をサトウさんに話すと
「まあ、異音がするのは事実だしとにかく来てもらおうよ」という事で、
特に問題ないだろうとの事だった。
当日、結構早い時間にサトウさんが俺の部屋にやってきた。
不動産屋と約束した時間にはまだかなり余裕がある。
彼が言うには、どうも急な用事が入ってしまって今日は立ち会えないとの事で、
不動産屋が来たら
”問題ないから合鍵で勝手に部屋に入ってしまってかまわない”
と伝えてほしいとの事だった。
「そんな事自分で電話しろよ…」俺はそう思ったが、
まあ仕方が無いので了解し、不動産屋との待ち合わせの時間まで待機する事にした。
昼少し前くらいに不動産屋が駆除業者と一緒にやってきた。
不動産屋がサトウさんと連絡が取れないが何か聞いていないかと言うので、
今日の早朝にあったことを話すと、
少し困った顔をしたが一応サトウさんの部屋へ行く事にした。
話を聞くと、1階と2階の間を調べるには、
サトウさんの部屋のバスルームの天井から入るしか無いらしい。
サトウさんの部屋に行くと、合鍵で開けてほしいとの事だったが、
なぜか部屋のカギは開いていた。
流石に俺が入るのは問題があると思うので、
業者と不動産屋に任せて外で待っていると、
突然中から「うわ!大丈夫ですか!?」という声が聞こえてきた。
何事かと玄関のドアを開けてみると、
不動産屋と業者が真っ青な顔をして出てきて「警察に電話を…」と言ってきた。
その間色々あったのだが長くなるので結論から書くと、
サトウさんがバスルームで死んでいたらしい。
それから色々大変だった。
パトカーや救急車がやってきて大騒ぎになり、俺も警察から色々と事情を聞かれた。
朝にサトウさんと話したときは、
不審な様子は少なくとも俺の見た感じでは一切なかった事を話し、
一応天井裏の事を警察に話すとそれも含めて調べていたようだが、
何か見つかったのかとかそういう事はなにも教えてもらえなかった。
結局俺としては天井裏の「ざわめき声」も含め、
サトウさんの死因も何もかもあやふやなままになってしまった。
その日の夜。
色々ありすぎたので疲れてしまい、さっさと寝てしまおうと早めに布団に入ると、
「例のざわめき声」がいきなり聞こえてきた。
が、何かがいつもと様子が違う、良く解らないが違和感を感じる…
暫らくして違和感が何なのかに気がついた。
今までは下から聞こえてきていた声が、明らかに横から聞こえる。
しかも今までは床越しに聞いていたので多少くぐもって聞こえていたのだが、
今回はまるで「同じ部屋の中」から聞こえてくるように鮮明だ。
そう考えたとたんに急に背筋が寒くなってきた。
目を開けて声のほうを見てみたい気持ちもあるがぶっちゃけ怖い。
そうは言ってもやはり声の正体は気になる、
俺は意を決してベッドから起き上がり、声のする方向を見た。
そしてとんでもないものをみた。
そこにはスーツ姿の男が1人立っていた。
ただ、厳密には「立っていた」というのとは少し状態が違う。
まるで水面から上半身だけを出しているかのように、
床から人の上半身が生えているような状態だ。
それだけでもかなり異様な状況なのだが、
そのスーツ姿の男は眼球を上下左右に激しく動かし、
口もまるで早口言葉を喋っているかのように激しく動いている。
そして、その口から例の大勢の人のざわめき声が聞こえてきていた。
俺はあまりの事に体が動かせず、
訳も解らずそのスーツ姿の男を凝視していると、
暗がりに目が慣れてきてもう一つ異様なものをみつけた。
サトウさんだ。
サトウさんが床から顔だけを出し、めいっぱい目を見開いて天井を見つめ、
まるで魚のようにゆっくりと口をパクパクさせている。
それをみた時、なぜか直感的に「あれは何かとてつもなくヤバイものだ」と感じた。
俺は完全に思考が停止してしまい、
わけも解らないまま着の身着のままで携帯と財布だけを持って部屋から逃げ出した。
その夜はひとまずマンガ喫茶で夜を明かすと、朝一番で不動産屋へと向かった。
あんな場所にはもう住んでいられないので、引越し手続きをするためだ。
不動産屋につくと、担当の人を出してもらいすぐに引越しの話を切り出したのだが、
突然の事にしてもやけに担当の人の様子がおかしい。
なぜかどうしても引越しをさせたくないように見える。
不信に思ってしつこく追求してみると、
どうも俺はサトウさんの死に関係があるのではと疑われているらしい、
だから安易な引越しはさせれないようだった。
言われてみれば当たり前の事だ。
サトウさんと最後に会っていたのは俺だし何より「騒音トラブル」もあった。
朝の出来事も俺がそう言っているだけで客観的な証明など何一つない。
何よりサトウさんの死因はまだ不明のままだ、
俺が殺したと疑われても仕方が無い状況だ。
そこに来ていきなり俺が引越しをしたいと言って来れば、
不動産屋としても当然疑うだろうし、
当然不動産屋だけではなく警察も疑っているだろう。
かと言って、あの部屋に戻るのだけは絶対にいやだ。
あんな得体の知れない不気味な物が現れた場所でまた過ごすなどありえない。
そもそもあのスーツ姿の男がサトウさんの死に何らかの形で関わっているのは明白だ。
もしかしたら次のターゲットは自分かもしれない。
そんな事情が事情だけに、俺としても絶対あの場所に戻るのはいやだ。
そこで信じてもらえるかどうかは解らないが、
今までの経緯や昨晩の事を正直に不動産屋に話した。
すると、不動産屋はこの話を信じたのかどうなのか解らなかったが、
とりあえず自分の裁量ではどうにも判断できないので警察と相談してほしいと言って来た。
仕方が無く、俺は昨日警察から貰った名刺の番号に電話をして、
警察署で事情を話すことにした。
警察署につき、担当の人に不動産屋で話したことと同じ事を話したのだが、
当たり前といえば当たり前だが当然話は信じてもらえなかった。
むしろ「こいつは何を言っているんだ」みたいな態度を取られ、
連日の寝不足の事もありイライラしていた俺は、
発作的に「だったらてめーもあそこで一晩いてみろよ!」と、
大声で怒鳴って担当の警察官に自分の部屋のカギを投げつけた。
後から考えれば、理不尽で無茶な要求をしていたのは俺のほうなのだが、
警官は俺を落ち着かせると、引越し先はあまり遠くにしない事と、
引越し先の住所を報告し警察からの電話には必ず出る事を約束すると、
引越しを許可してくれた。
その後俺はなんとか別の場所に引っ越す事ができ、
事件の方はどうやらサトウさんの自殺のようだという事も解り、
俺への疑いもなんとか晴れた。
自殺である事が判明してから暫らくして、俺はまた警察に呼ばれた。
どうもサトウさんのPCから日記が見つかっていたのだが、
そこに書かれている内容の一部に、
俺が警察で話した例のスーツ姿の男と酷似した人物のことが書かれていたそうで、
その辺りの事情をもう一度詳しく聞きたいということだった。
結局あのスーツ姿の男の正体は今でも不明のままだが、
警察から聞いた話でいくつかわかったこともある。
日記の内容から、
どうも俺が最初にサトウさんの所へ苦情に行った時点より前に
彼は「スーツ姿の男」に出会っており、
「ざわつき声」の正体がその男である事も知っていたようだった。
そして、日記にはスーツ姿の男が明らかに悪意のある相手である事が繰り返し書かれていて、
サトウさんは身の危険を感じていたらしい。
彼はあんなさも何も知らないかのような態度を取ったのだろうか。
警察は何も言っていなかったが、もしかしたら天井裏には何かがあったのではないだろうか。
サトウさんはそこまで知っていて、何らかの理由で俺を巻き込もうとしていたのではないだろうか。
今となっては何も解らない。
■04 : 当世話(とうぜわ)■
【0:46:45】05 : 作り話
【1:51:50】06 : 不動産査定
【2:16:15】07 : うたて沼
上記動画の【0:12:05】から再生して下さい
俺の実家のある地区では「当世話(とうぜわ)」と呼ばれるシステムがあって、
それに当たった家は一年間、地区の管理を任される。
その当世話が今年はうちで、
祭事につかう御社の掃除を夏に一度しなければならないので、
祖母ちゃんと俺で山に登って掃除に行った
(掃除道具を担いだ祖母ちゃんを俺が背負って登った)。
御社に来るのは十年ぶりだった(地区の行事をサボる子どもだったので)。
懐かしくて御社の周りをうろうろしていると、幹が妙に括れた大木があった。
俺「祖母ちゃん、そういやこの木ってどうしてこんななの?」
昔からこんなだった記憶が残っている。
ば「あぁ・・・そういえば話したことなかったな。掃除しながら話してやろうか」
俺「面白い話?」
祖母ちゃんが担いでいたカゴから掃除道具を出しながら聞くと、
祖母ちゃんは口を横に広げてニヤリと笑った。「さぁな」
ば「ずーっと昔、このへんを治めてた殿様の名前は知ってるだろ」
もちろん知っている。誰でも知ってるような有名な人だ。
ば「あるときな、その殿様の家来だって言う男がこの村に来た。
村人は当然のようにその家来を持て成して、村で一番高い位置にある
この社に泊めてやったんだ。だけどな、そのうち気付いた。その家来が
偽者だってな。殿様との戦に破れた国の兵だったんだ」
俺「落ち武者ってやつ?」
ば「殿様の敵兵を持て成したなんてぇのが知られたらどうなるか、と村人は
怯えてな、その敵兵を殺すことにした。酒をたくさん飲ませてよ、
酔っ払わせてな、あの木の前で殺したんだ」
例の幹が括れた大木を指差す。
ば「敵の残党をやっつけたことを上に褒めてもらえるかもしれねぇって
首だけ残すことになってよ、よく研いだカマで首を切ったが、
どうしても切れなくてよ、
それで今度は鉈を持ってきて一気に振り下ろしてな、首を切ったんだ。
そしたらその首はどうしてかポーンと宙を舞って、
あの木の幹が二股に分かれたところに乗っかった。
これはいけねぇってよ、男衆が木によじ登ろうとしたんだが、
首から垂れた血ですべって登れない。
なら長い棒で突いて落とそうとしたんだがどういうわけか落ちやしねぇ。
うまく嵌っちまったなら仕方ねぇって
村人は胴体だけ処分して首はそのまま、ほかしといたんだわ」
俺「え・・・気持ち悪くね?」顔を引き攣らせる俺を、祖母ちゃんは笑う。
ば「滅多に登ってこねぇ御社だから、目にもつかなかったんだろ。
そんでな、それから少したったら、
今まで元気だった男が突然倒れてそのまま死んだ。
もちろん、あの敵兵の首を切った男だ。このときは気にも留めなかったが、
その年の作物がまったく育たなくなって、妙な病気が流行り出して、
あの首の呪いだと思い始めたんだ。
それでお祓いしたんだが、効き目はねぇ。
困り果てた村人はな、その木の幹に注連縄かけてお札貼り付けて、
首切られた男をその木に閉じ込めてやったんだわ」
俺「祓っても駄目だったのに?」
ば「何でか知らんけどよ、そうしたら災いがぴたっと止んだんだ。人間は怖ぇよ。
祓って駄目なら閉じ込めちまえってな。
そんでな、毎年交代で札を新しく貼ったり、
注連縄が古くなったらかけ換えたりってな、それでどうにかやってきたんだ。
でもな、段々段々、その習慣も薄くなってな、注連縄も札もそのままになった。
木は生長するからよ、注連縄の巻かれたとこだけ、ああやって括れてんだ」
俺「じゃあ、もう呪いは解けたって?」
ば「いや。たまーに変なことが起こるわ。
○○の家のせがれ、頭がおかしいだろ。昔は何でもなかったのによ」
俺「何であの家だけ・・・?(おいおい、うちはどうなんだよ)」
ば「あの家だけじゃねぇ。下の○×の家もだ」
そういえば、○×の家は奥さんと娘がおかしくなり、数年前に引っ越したのだった。
ば「それから●△(他にも三軒くらい。忘れてたがいずれも変な家)」
俺「他の家は? てか、うちは?」
ば「あとの家はもともとここらに住んでた奴らじゃねぇ。言ったことなかったな。
うちの家はもともと商家でな、それなりに歴史もあったが、
続けらんねぇことになってな、
俺とお祖父さんが今の家に養子で貰われてきて結婚して継いだんだわ」
今、俺の家はごく普通の一般家庭。
曽祖父の代で商家はすっぱりやめたようだが、
今でも屋号が残ってて、祖父母世代の人は未だにその屋号でうちを呼ぶ。
屋号ってどの家にも当たり前にあるものだと思ってたから知らなかった。
ば「その家の血が絶えれば何も起こらねぇみたいでな」
俺「祖父ちゃんと祖母ちゃんてどこの人?」
ば(ニヤリと笑って)「ずぅーっと遠くだ」
なんで親戚が少ないのかわかったような・・・。
ば「義母から聞いた話だ。本当か知らねぇよ」
俺「今さらそんなw」
ば「まぁ、何にしても、うちは大丈夫だ。心配いらねぇ。けどわざわざ近付くなよ」
あれの中身はまさか・・・とも思ったが、話自体の真偽も謎。
その家には悪いけど、実家がある地区にある家のうち数軒が変なのは事実。
■05 : 作り話■
上記動画の【0:46:45】から再生して下さい
これは去年の夏の話。
男友達の企画で、合コンをやる事になった。
当時俺達は30歳手前で、男3人。
集まった女性も20代後半で、皆落ち着いた感じ。
初めまして~などと挨拶しながら近くの居酒屋へ入る。
会話もそこそこに盛り上がり、というかかなり当たりの合コンだったと思う。
10時過ぎになり、友達の家で全員で飲み直そうという話になる。
俺はというと、その中の一人を結構気に入っていた。
エスニック風なロングヘアーの、いい雰囲気を持った子だった。
なので、もう少し話したいのもあり、
友人宅への移動に大いに喜んだ。
材料等を買い集め、支度が整ったのが11時前。
2次会が始まった。
友人宅は、1LDKという広さで、
多少であれば夜中でも話していて迷惑にならない立地だったので、
飲み屋でのテンションを維持しつつ、
時刻が1時にさしかかろうという時間帯だった。
友人(家主ではない)が、
「丑三つ時まで、百物語風で怖い話を話さない?」
と言い出した。
夏の定番と言えば怖い話。
気後れしながらも、全員でやる事になった。
蝋燭なんて何で買ったのか疑問だったが、
つまりはこういう事だったのか。
と、一人納得していた。
俺は怖い話というのは、9割が作り話だと思っている。
残りの1割は、どうにも説明がつかないが、
実は別に心霊現象ではなく、雰囲気に呑まれ、
心霊現象だと勘違いしてしまう例。
だが、その中でも多分だけど、本当に説明のつかない事例があると思う。
一つ、また一つと話す友人達、女性達の話は、
まさしく前者の話だったと思う。
そうして、俺の番が回ってきた。
俺には、小学生の低学年の頃、とても仲の良い二人の友人がいた。
一人を「ヤッちゃん」
一人を「ヨシ君」と言い、
ヤッちゃんは同い年で、ヨシ君は2歳年上だった。
家も近所で、毎日のヨシ君の家で遊び、
ヨシ君の家の人は仕事で出ている事が多く、
毎回お菓子を貰って帰っては、親に怒られた。
だけど当時の3人は本当に仲良しで、
外に出れば、子供特有の感覚で、新しい遊びを探し出した。
あえて地名を出すが、
千葉県市川市の某所に、さびれた神社がある。
その神社を中央にして、500mくらいの直線の出入り口があり、
ヨシ君宅から遠い出口付近に、
廃屋となった建物があった。
当時の少年達の間では、その家の話は禁忌とされていて、
「近づくと呪われる」
「白い服を着た女の霊が出る」
などと、今思うとバカらしい噂がたっていた。
でも実際そこに足を踏み入れたつわものも数多く、
勇気を示す場としても、有名な場所だった。
誰が言い出したか覚えてないが、いつのまにか、
俺達はその廃屋へ行って、勇気を示さなければならない。
という話になっていた。
もちろん3人の間だけでの話だ。
そして某日、そこに俺達は足を運んだ。
恐怖と、子供特有の高揚があったと思う。
とにかくドキドキしていた。
その廃屋は、周囲が全て雑草で覆われていて、
整理されていればかなりの広さの庭があったのではないかと思う。
そして、その庭の周りは、大きな木で囲われていた。
誰から入ったかは覚えていない。
何しろドアがついていなかった。
覚えているのは、ヤッちゃんがやたらと怖がって泣いていたのと、
異常に古そうな新聞紙が散乱している一部屋があった事。
そしてヨシ君が蒼白な顔で、
「もう帰ろう」と言い出した事。
ヨシ君は年長者だったので、3人のリーダーだった。
そうして初めての探検は終わり、
泣き止まぬヤッちゃんの手を引いて、俺達は家へと帰った。
その時泣きじゃくっていたヤッちゃんを、
俺達は「弱虫」というレッテルを貼ってからかった。
だからだと思う。
ヤッちゃんはもう一度あの廃屋へ行きたいと言い出したのだ。
俺はその日に限って従兄弟が家に来ていて、
参加する事が出来なかった。
怖かったのもあったので、参加出来ない事を喜んでいたと思う。
事件が起きたのは、その日だった。
その廃屋で、ヤッちゃんの母親が自殺した。
首吊り自殺だった。
目撃したのはヤッちゃんとヨシくんの二人。
俺が参加していれば、3人になっていただろう。
とにかく、どうやって対応したのかは分からないが、
警察やらが集まり、結構な大騒ぎになった。
正直、その話を聞いたのは翌々日くらいだったと思う。
その廃屋と俺の家が少し離れていたのもあって、
パトカーのサイレンが鳴り響いていた記憶が無い。
夏休みという事もあり、噂話が届かなかった。
それ以来、当然というか、ヤッちゃんと顔を合わせなくなった。
俺はヨシ君と二人で遊んでいたが、
段々気まずくなり、少しずつ遊ぶ回数が減っていた。
夏休みが終わり、学校が始まったが、
ヤッちゃんは登校してこなかった。
その頃にはもう噂は広まりきっていて、
ヤッちゃんが登校しない理由は、
暗黙の了解で誰も触れる事をしないようになっていた。
俺は毎朝ヨシ君とヤッちゃんと3人で登校していたので、
それからはヨシ君と2人で登校する事になった。
取り除けないしこりを持ちながらも、
俺達は精一杯楽しくなるよう、登校していたと思う。
だが、ある日突然、ヨシ君が変わった。
登校の待ち合わせ場所に行くと、
下を向いて俺を待つヨシ君。
「おはよう」と言っても、返事は無く、
「どうしたの?」と言っても、返事は無い。
だが、以前と同じように登校する。
変わったのは、口数が異常に減った事。
先の事件が関係しているのではないか。
と思うのは、子供でも間違いなく感づく。
俺はしつこく彼に詰め寄った。
何があったのか
ヤッちゃんが関係しているのか
あの廃屋が関係しているのか
しまいには、話してくれないなら絶交する。などと、
なんとも惨い事も言った。
するとしばらくして、彼がぽつりぽつりと話し始めた。
ここから先は俺にも真実のほどは分からない。
だが、ヨシ君がこう語った。
先日彼は、ヤッちゃんの姉と同行した。
姉はヨシ君と同い年で、彼女からの願いで、
あの廃屋へ連れて行ったのだという。
だが、彼女は少し知恵遅れ的な様子で、
事の重大さは分かっていなかったのではないかと思うが、
とにかく2人で廃屋へ行ったのだと言う。
そして扉の無い玄関をくぐると、ヤッちゃんがいたらしい。
天井を見上げたまま、
「アーーーーーーーーーーーーーーー」
と気の抜けた声を出し、
その視線の先には、ヤッちゃんの母親がいたと言う。
当然すでに現場にヤッちゃんの母親の遺体があるわけもなく、
今起きている状況の異常さに、ヨシ君は逃げ出そうとした。
だが、後ろにいたヤッちゃんの姉がヨシ君の手を引っ張り、
「誰にも言っちゃ駄目だよ」
と言ったらしい。
誰にも言ってはいけない話を俺にしてしまった。
俺が絶交するなどと言ったばかりに。
そして全て話したヨシ君は泣きじゃくって、
「どうしよう どうしよう」と喚いた。
俺はどうする事も出来ず、
ひどい事をしたと思うが、家へと逃げ帰った。
登校拒否児となってしまったヤッちゃんは、
どこかへ転校してしまい、それ以来会っていない。
そうしてヨシ君とヤッちゃんとの関係は、
一気に疎遠になってしまった。
それから数年がたち、俺が高校生になってしばらくした頃だった。
久しぶりに、ヨシ君から電話があったのだ。
小学校低学年の時から数えて、
もう何年も話していないので、何を話していいか分からない相手だ。
久しぶり。と挨拶して以降、会話が続かない。
そうこうしていると、ヨシ君が切り出した。
「この間さ。マリちゃんから電話があったんだ。」
俺は何のことか全く分からなかったが、
記憶を総動員し、マリちゃんがヤッちゃんの姉だという事を思い出した。
そしてヨシ君は続ける。
「前話した空き家の事を覚えてる?
マリちゃんが○○ちゃん(俺の名前)にあの事を話したのを怒ってるんだ」
という。
つまり、彼女は何故か、ヨシ君が俺に、
廃屋で体験した話をした事を知っていて、
誰にも言っちゃ駄目だと言ったのに話したのを怒っていると言う。
「どうしたらいいかな?マリちゃんが怒っているんだ。
俺、マリちゃんに言わないでって言われたのに。
どうしたらいいかな?」
何度も何度も、壊れたテープレコーダーのように繰り返すヨシ君。
俺は怖くなって電話を切った。
二度とヨシ君からは電話はかかってくる事は無くなった。
何故かと言うと、その後しばらくして、
ヨシ君は猟銃で頭を撃って自殺したからだ。
何故猟銃を所持したいたかは分からないが、
うちの親の話によると、ヨシ君の親が趣味で猟をしていて、
それでその猟銃を使ったのだと言う。
そうして、俺の中での○○神社廃屋事件は幕を閉じた。
話し終えて蝋燭の火を消すと、
2時を回っていて、1週して友人が新しい怖い話を始めた。
そうやって10個程度の怖い話を終え、
百物語風の怪談肝試しは終わり、
最後の蝋燭が消された。
だからと言って、漆黒の部屋で何かが起きたわけでもなく、
男女3人ずつの部屋でエロスな出来事が起きたわけでもない。
全員が節度を守り、理性を保って、
明け方まで眠い目をこすって起き続け、
俺はお目当ての子をどうにか送るという状況に漕ぎ着けた。
2人でタクシーに乗り、彼女の家の近くまで到着し、タクシーを降りる。
すると彼女が、
「少し話したい事があるから」
と言い出した。
俺は大きな期待で胸が跳ねたが、
彼女の話したい事は、俺が意図する事とは全く別だった。
しばらく押し黙ったままでいた彼女は、
「さっきの怖い話の事だけど・・・」
と切り出した。
俺は怖い話の事などすっかり忘れていたので、
拍子抜けして、
「ああ、それがどうしたの?」
などと聞き返した。
すると彼女は、
「あの話、嘘でしょ?」
と言ってきた。
実はさっきまで書き込んでいた話は、
9割が作り話だ。
ヤッちゃんの両親は健在だし、
お姉さんはちょっと変だけど元気だ。
廃屋があったのは本当だが、
そこで何かが起きたわけじゃない。
新聞紙の散乱する部屋があったが、
結局何も起きず、
現在は取り壊され、ただの空き家になっている。
だが、唯一つ本当のことがある。
それはヨシ君が猟銃で自殺したという事だ。
そして問題なのは、
何故彼女がその話が嘘だと見抜いたのかという事だ。
俺は動揺にながらも、
「なんで分かったの?
俺嘘つくの下手だからかなぁ?」
などと笑うと、彼女は真面目な顔で、
「あの話、二度としない方がいいよ」
と言う。
何か気迫のようなものに気圧されたのかも知れない。
俺が何も言えずにいると彼女は続ける。
気づかなかった? ちょっと太めで天然パーマの子。あれがヨシ君でしょ? 彼、怒ってたからもう二度と話さない方がいいよ」
■06 : 不動産査定■
上記動画の【1:51:50】から再生して下さい
つい昨日の出来事なんだけど聞いてくれ。
先日父が亡くなって家を一軒相続したんだが、
立地は悪くないものの大分ガタが来てるし、無駄に広すぎるんで、
妻と相談した結果売り払うことにしたんだ。
幸い、遺品の整理をしてる最中にも、
度々不動産屋の広告やら名刺が入ってたんで、そこに電話し、
結局4社で委託、及び買取の査定をして貰う事になった。
で、そのうちの3社目。
結構今風の感じの、垢抜けた30代前半位の青年が査定にやって来た。
ハキハキと喋るし、感じも悪くない。
しかも査定額が、前2社に比べると1千万近く高い。
俺も妻もほぼここに決めかけてて、その旨を告げると、
各室内の写真を撮らせて欲しいと言ってきたんで、
快諾し、俺が付き添って改めて各部屋を案内して廻った。
で、仏間の隣にある8畳程の小部屋の扉を開け、中に青年を入れた瞬間、
扉に手を掛けたままの状態で突然の金縛り。
金縛り自体は何度も経験があったんだが、こんなに唐突に、
しかも立ったまんまっていうのは初めてだったんで、
一瞬何か重篤な病気でも出たんじゃ無いかと思ってパニクってると、
すぐ耳元で女の声がした。
くぐもった感じで、大きさの割に凄く聞き取り辛いんだが、
「苦しい」とか何とか言ってる様に聞こえる。
どうやら眼球だけはかろうじで動かせそうだったんだが、
声のする方を見たらヤヴァいと判断し、視線を逸らして室内を見ると、
こっちに背を向け、何やらメモに描き込んでいる青年の背中に、
茶色っぽいソバージュの髪と、
妙にゴテゴテした感じの黒っぽい服を着た女が張付いていた…
それだけでも十分怖かったんだが、
その女は異様に首が長く(40cm位はあった)、
背中を向けてるのに顔だけはこっちを向いてて、
目玉がカメレオンみたいにギョロギョロと忙しなく動き回ってた。
あまりに現実感が無くて、怖いというより呆然とそいつを見てたんだが、
青年がこっちを向いた瞬間に見えなくなって、ほぼ同時に金縛りも解けた。
当然査定どころではなく、
「少し体調が優れないので」と苦しい言い訳をしてお引き取り願った。
その後、思うところがあって、
その青年の務めている会社の事を調べてみると、
出るわ出るわ悪評だらけ。
当然今朝一で、丁寧に断りの電話を入れた。
多分あの青年、もしくは会社ぐるみで色々やらかしてたんだと思う。
そう思いつつも、結局今の今まで一睡も出来なかったんで、これ投下したら眠剤飲んで寝る。
■07 : うたて沼■
上記動画の【2:16:15】から再生して下さい
もう10年くらい前、俺がまだ学生だった頃の出来事。
当時友人Aが中古の安い軽を買ったので、
よくつるむ仲間内とあちこちドライブへ行っていた。
その時に起きた不気味な出来事を書こうと思う。
ある3連休、俺たちは特にすることもなく、当然女っけもあるわけもなく、
意味も無く俺、A、Bで集まってAのアパートでだらだらとしていた。
そしてこれもいつものパターンだったのだが、
誰と無くドライブへ行こうと言い出して、
目的地もろくに決めず出発する事になった。
適当に高速へと乗ると、なんとなく今まで行った事の無い方面へと向かう事になり、
3~4時間ほど高速を乗りそこから適当に一般道へと降りた。
そこから更に山のほうへと国道を進んでいったのだが、
長時間の運転でAが疲れていたこともあり、
どこかで一端休憩して運転手を交代しようという事になった。
暫らく進むと、車が数台駐車できそうなちょっとした広場のような場所が見付かった。
場所的に冬場チェーンなどを巻いたりするためのスペースだろうか?
とりあえずそこへ入り、全員降りて伸びなどをしていると、
Bが「なんかこの上に城跡」があるらしいぞ、行ってみようぜ」と言ってきた。
Bが指差した方をみると、
ボロボロで長い事放置されていただろう木製の看板があり、
そこに『○○城跡 徒歩30分』と書かれ、腐食して消えかかっていたが、
手書きの地図のようなものも一緒に描かれている。
どうも途中に城跡以外に何かあるらしいのだが、消えかかっていて良く判らない。
時間はたしか午後3時前後くらい、
徒歩30分なら暗くなる前に余裕で戻ってこれるだろう。
俺たちはなんとなくその城跡まで上ってみる事にした。
20分くらい細い山道を登った頃だろうか、途中で道が二手に分かれていた。
看板でもあれば良いのだが、あいにくそういう気の効いたものはなさそうで、
仕方なくカンで左の方へと進んでみる事にした。
すると、先の方を一人で進んでいたAが上の方から俺たちに、
「おい、なんかすげーぞ、早く来てみろ!」と言ってきた。
俺とBはなんだなんだと早足にAのところまで行ってみると、
途中から石の階段が現れ、更にその先には、
城跡ではなく恐らく長い事放置されていたであろう廃寺があった。
山門や塀、鐘などは撤去されたのだろうか、
そういうものは何も無く、本殿は形をとどめているが、
鐘楼やいくつかの建物は完全に崩壊し崩れ落ちている。
本殿へと続く石畳の間からは雑草が生え、
砂利が敷き詰められていただろう場所は一部ほとんど茂みのような状態になっていた。
ただ不思議なのは、
山門などは明らかに人の手で撤去された様な跡があったにも関わらず、
残りの部分は撤去もされず朽ちていて、かなり中途半端な状態だった事だ。
時間を確認すると、まだまだ日没までは余裕がありそうだ。
俺たちはなんとなくその廃寺を探索することにした。
が、周囲を歩き回っても特に目に付くようなものはなく、
ここから更に続くような道も見当たらず、
Aと「多分さっきの分かれ道を右に行くのが正解なんだろうなー」と話していると、
本殿の中を覗き込んでいたBが「うおっ!」と声を挙げた。
Bの方をみると本殿の扉が開いている。
話を聞いてみると、だめもとで開けてみたらすんなり開いてしまったという。
中は板敷きで何も無くガランとしている。
見た感じけっこうきれいな状態で、中に入っていけそうだ。
中に入ってみると、床はかなりホコリだらけで、
恐らくだいぶ長い事人が入っていないのが判る。
なんとなくあちこちを見回していると、床に何か落ちているのが見えた。
近付いてみると、それはほこりにまみれ黄ばんでしわくちゃになった和紙のようで、
そこにはかなり達筆な筆書きで『うたて沼』と書かれていた。
なんだなんだとAとBも寄って来たので、
俺は2人に紙を見せながら「うたてって何?」と聞いたのだが、
2人とも知らないようだ。
そもそもこの寺には池や沼のような物も見当たらない。
本殿の中にはそれ以外なにもなく、『うたて沼』の意味も解らなかった俺たちは、
紙を元あった場所へ戻すと、城跡へ向かうために廃寺を後にした。
元来た道を戻り、さっきの分かれ道を右の方へと進むと、
すぐに山の頂上へとたどり着いた。
ここには朽ちた感じの案内板があり、『○○城跡 本丸』と書かれている。
どうやらここが目的地のようだった。
山頂はかなり開けた広場になっており、
下のほうに市街地が見えるかなり景観のいい場所だ。
と、なんとなく下のほうを見るとさっきの廃寺も見えた。
3人でさっきの廃寺って結構広い敷地なんだなーなどと話していると、
ある事に気がついた。
寺の庭を回った時に一切見かけなかったはずだが、
庭の端の方に直径数mくらい、大きな黒い穴のようなものが見える。
「あんなものあったっけ?」と話していると、
寺の庭に何か小さな動物が出て来ていた。
そしてその動物が庭の中を走り出した瞬間、
その穴のようなものが動いて、
まるで動物が穴の中に消えてしまったように見えた…
わけが解らない現象を目の当たりにした俺たちは、
「…今あの穴動いたよな?なんだあれ…」と唖然としていると、
更にとんでもない事が起きた。
その物体が突然宙に浮くと、かなり高い距離まで上りそのまま移動し始めた。
その時になって、俺たちはあれが穴などでは無く、
真っ黒で平面の、なんだか良く解らない物体である事に気がついた。
その平面状の物体は結構な高さを浮いて、
俺たちが来た道の上を山頂へと向かって進みだした。
その時、恐らく移動する物体にびっくりしたのだろう、
木の間から大きめの鳥が飛び出し、宙を浮く平面状の物体とぶつかった。
が、鳥はそのまま落ちる事も物体を通り抜ける事も無く消えてしまった…
何がなんだか解らないが、とにかくあれは何かヤバそうなものだ。
そしてそのヤバそうなものは、明らかに俺たちの方へと向かってやってきている。
その事だけは理解できた。
とりあえずここからすぐに退散した方が良さそうだ。
3人でそう話して気がついた。
あの物体は俺たちが登ってきた道沿いにやってきている、ということは、
来た道を戻れば確実に鉢合わせしてしまうという事だ。
とりあえず逃げようと言ったは良いがどうしたら良いのか解らない。
すると、Bが「ここ通れそうだぞ!」と茂みの方を指差した。
そこへ行ってみると、
近くまで行かないと解らないであろうくらい細い獣道のようなものが下へと続いている。
ただし、この道がどこへ続いているか全く解らないうえに、
俺たちが登ってきた道とは完全に反対方向だ。
当たり前の事だが、逃げれるには逃げれるが車からは遠ざかる事になる。
その事はAもBも解っていたのだろう。
この獣道を下るかどうか躊躇していると、突然耳に違和感を感じた。
感覚としては、車で山を登っていて気圧差で耳がおかしくなる感じが一番近いだろう。
AもBも同じ違和感を感じたらしく戸惑っている。
その時俺はふと下のほうを見た。
すると、例の物体はもうすぐそこ、
恐らく二の丸であろう平地の部分までやってきていた。
もう迷っていられるような余裕も無い。
俺は2人にもうあれが凄くそこまで来ている事を伝えると、
おもいきって獣道のある茂みを下る事にした。
2人もそれに続き、殆ど茂みを掻き分けるように道を下っていくと、
後ろの方からAが「ヤバイ、もうすぐそこまで来てる!急げ!」と言ってきた。
俺が後ろを振り返ると、
例の黒い物体がもうあと10mくらいのところまで近付いてきている。
俺たち3人は最早草や木の枝をかき分けることすらやめ、
がむしゃらに獣道を駆け下りた。
どれくらい走っただろうか、
暫らくすると木の間から舗装された道路が見えてきた。
俺たちは泥だらけになりながらも必死で殆ど転がるように道を下り、
なんとか舗装された所までたどり付くことが出来た。
その時、突然金属質の耳鳴りのような音が聞こえ、
次いで後ろから「バチンッ!」と何かが弾けるような音が聞こえてきた。
びっくりして後ろを振り向くと、そこには例の黒い物体はなく、
爆竹か何かを破裂させたような、そんな感じの煙が漂っているだけで、
俺たちは呆然としてしまった。
結局その後もあれが何だったのかはわからない。
そもそもあんな体験をしてまた同じ場所へ戻る勇気などなかったし、そんな事をしても俺たちに何の得も無かったからだ。
【0:25:45】09 : ベンチに一人おばさんが座ってた
【1:15:25】10 : 堤防で夜釣り
■08 : 運動会?■
上記動画の【0:08:35】から再生して下さい
昔、母ちゃんと車で出かけた時に、
「今日はどこかで運動会でもやってるのかねぇ」て唐突に話しかけてきたんよ。
俺は、何いってんだ?て思いつつ、
適当に「どうだろうね~」なんて答えてたんだ。
その日の夜は親戚が集まってばあちゃんの家でワイワイやってたんだけど、
「今日ここに来るときに『ワーッ」て大勢の人が騒いでる声を聞いたんだけど、
どこかで運動会でもあったのかね?」
て母ちゃんがみんなに聞いたんだ。
つっても今は夏休みだし、
運動会をやるような場所は近くに小学校があるくらいで、
もちろんそこで運動会もやってない。
(というか俺が通ってる学校だったから、何か行事があれば親も知ってるはず)
母ちゃんは相当気になってるのか
「おかしいねぇ、おかしいねぇ」て繰り返すもんだから、
詳しく話を聞いてみたんだ。
母ちゃんが言うには、婆ちゃんちに向かってる途中、
少し小高い丘になってる所の横を通った時に、
大勢の人が「ワァーッ!」て騒いでる声が聞こえて、
その日は人が集まるような行事があるなんて聞いてないし、
声もただならない感じの叫び声だったから、
ずっとおかしいと思ってたらしい。
親戚の人達も行事があるなんて心当たりもなかったから首をひねってたら、
普段無口な婆ちゃんがポツリポツリ語り出した。
「昔あの辺に汽車が通っちょってね。
そん頃にそがぁし人が乗って走った時があったんよ。
も人も一杯で窓から乗り出したり、
色んな所に掴まったんまま乗っちょったから、
坂道ん時に汽車が登れんごなってね。
途中で逆に下り始めて、
そん時人が騒いで飛び降りたり押されて落ちたいして、
人が何人かけ死んだのよ」
婆ちゃんが言うには、戦前、母ちゃんが声を聞いた場所のあたりで、
汽車が乗客の重さに耐えられなくて山を逆走して、
その時パニックになった乗客の何人かが落ちて亡くなったらしい。
母ちゃんが聞いたのは、多分その時パニックになった乗客の声だろうってさ。
これ見てる人もうすうすわかってると思うけど、その日はお盆だったからさ。
婆ちゃんはそれ以上何も言わなかったし、
そこにいた親戚もちょっと引いちゃってその日はお開きになったんだ。
親はみんな家に帰って、
俺は従妹たちと次の日みんなで遊ぶ予定だったから婆ちゃんちに泊まったんだ。
そんで布団に入って少ししたら、
玄関にドンドンッ!て何かぶつかる音がして、
俺は、何だろう?誰か忘れ物でもしたのかな?て思って玄関に向かおうとしたら、
婆ちゃんが、
「猪がきたねぇ…噛まれたら危ないから絶対に出たらいかんよ。
そのうちどこか行くから、出たらいかんよ」
て見に行くのも止められてさ。
猪が鼻とか前足で押して砂がついただけなんだろうって思うようにしたけど、それ、母ちゃんが帰るときに通った玄関にだけしかついてなくて、
他の場所には一切ついてなかった。
婆ちゃんはもういないし、今となっては本当なのかどうかわからないんだけど、あの時外に出てたら何が起こってたんだろうって今でもぞっとする…
■09 : ベンチに一人おばさんが座ってた■
上記動画の【0:25:45】から再生して下さい
正直ほかの人の心霊現象とか恐怖体験とかと比べればたいしたことないかもしれんが、
生まれてはじめての心霊現象(?)なんだ……
昨日って言うか、時間的に見れば今日あった話なんだ。
自分は飲食業に勤めてて、帰宅時間が午前になることもよくある。
んで昨日は今日が自分が休みであることと、
団体客の予約が入ってたから、ちょっと一人残って仕込みをしてた。
んで午前1時半ごろを過ぎたあたりで、さすがに帰ろうと思い帰ったんだ。
んで問題はその帰宅中に起こった。
自分の帰宅路なんだけど、
駅の中を通り抜けて帰ると少しだけ近道になるんだけど、
そこのベンチに一人おばさんが座ってたんだ。
50~60歳くらいで、ペットボトルのお茶を飲んでた。
その時点では、
普段も一人二人は人が座ってたこともあったからなんとも思わなかったんだ。
でも近くに行くにつれ、おばさんがこっちをガン見してることに気づいた。
しかもペットボトルを口から一切放さない。
とりあえずかかわらないようにしようと足早に目の前を通り過ぎたんだけど、
俺が目の前を通ったあと立ち上がって後ろをついてきた。
内心勘弁してくれって思いながらも、単なる自意識過剰化と思い、
歩く速度を落として追い越してもらおうと思った。
でもペースを落としても追い越されない。
しかも後ろのほうからは「ガリッ……ガリッ…」って、なんかを噛む音がする。
そこで、さっきのおばさんがペットボトルを噛みながら後ろからついてきてると思い、
完全に変質者に目をつけられたと思った。
しばらく進んだ先にコンビニがあるから、そこまでの我慢だと思い、
いつでも走れる準備をしつつペースを一定に保ち歩いた。
んで3分ほど歩いてあと少しでコンビニだってとこで、
後ろのおばさんがペースを上げたことに気付いた。
そこで俺は全速力でコンビニに逃げ込んで、これで助かったと思ったら、
おばさんまでコンビニの中に入ってきた。
もう警察覚悟したほうがいいかなって思ったらおばさんが一言、
「大丈夫!?なんかされなかった!?」
……?何を言ってるんだと思ったね。
あんたのせいでこっちはビビリまくりだよって感じだった。
んで話を聞くと、
俺の後ろにコンビニに入るまでずっと
後ろから張り付くように人がいたらしいのよ。
おばさんいわく、駅のそばで迎えを待ってたら、
あなたと後ろから一人、髪の長い白と黒の服?を着た人が歩いてきた。
そばまで来たら何かおかしい。
前のほうの人は後ろをまったく気にかけないし、
後ろの女性?
(おばさんがおそらく女と言っていた。服の種類も言っていたが、なんて言ってたかわからなかった) は、
後ろをぴったりとつけて歩いてるうえに、声もかけない。
もしかして変質者につけられてるんじゃないかと思い、後をつけてたらしいんだ。
コンビニの前でペースを上げたのは、
俺を引っ張ってコンビニに避難させようとしてたらしい。
でも俺が突然走り出し、後ろの女性はそのまま歩いてく。
とりあえず俺のほうが心配になってコンビニに入ってきたらしい。
でもおかしいんだよ。
俺、おばさんから後ろつけられてたとき
チラッと後ろを何回か振り向いてるけど、
そんな人絶対にいなかったんだよ。
どうも釈然としないけど、かかわりたくなかったから、
とりあえず大丈夫だということと、お礼を言ったんだ。
そしたらすぐにおばさんは駅のほうに向かって帰ってった。
少し怖かったからコンビニで少し時間をつぶし、早足で家に帰宅したんだ。
んでシャワー浴びてすぐ寝ようって思って服を脱いだら、そこで背筋が凍った。
背中のほうに長い髪の毛ついてんの。ぱっと見て10本はあったと思う。
一人暮らしだから家族もいないし、職場にも髪の長い人はいない。
もちろんおれ自身の髪でもない。
もう気持ち悪くて服を捨ててシャワー浴びた。
朝一のゴミ収集に速攻で捨てきた。そして眠れない。
誰か助けてくれ…マジで怖いんだ……
■10 : 堤防で夜釣り■
上記動画の【1:15:25】から再生して下さい
夜釣りやってたんだけど、普通4、5人はいる堤防で一人だった。
「やったラッキー!仕掛けが横に流れても気にしなくていい」
と思って、ご機嫌で釣ってたんだわ。
満月の大潮で条件的に申し分なかったんだけど、
その時は月が丁度真正面に来てた。
月が煌々と明るいのだけはいただけない。
なぜかわかんないけど魚が食い渋る。
と思っていたら頻繁に強い当たりが来る。
しかし上げてみると魚が乗って来ない。餌もついたままの場合が多い。
釣り師は当たりの特徴から何の魚かを推理するのが好きだが、
このパターンは初めてだ。
変だな・・・
何度か肩透かしを食らいながらも、めげずに仕掛けを振り込んだ。
今度は仕掛けが沈んで電気浮きがすーっと立つと、
すぐ横にポコンと丸いものが浮かんだ。
海は正面にある月の光を反射して揺らめいていたので、
こちらからはその物体は逆光で真っ黒だった。
大きさにしてボーリング球ぐらい。
ん?係留用のブイか?
しかしその球体はすぐにスっと沈んだ。
え?スナメリ?いやスナメリなら止まったりしないし、頭を出したら潮を吹く。
アザラシ?こんな南にいるのかな、ウなら首がついてるし・・・
その時は、何らかの動物が仕掛けにイタズラしていたのだろう、
という事で納得した。
それ以来ピタリと当たりが止まり、少し苛立っていた。
俺は竿を置いて、座っていたクーラーの小口からカップ酒を取り出した。
風が止まって、海が鏡のように凪いでいる。
スルメをモグモグと噛みながらカップ酒を飲み干した。
俺は落ち着きを取り戻し、「ふぅっと」息をして気を取り直した。
クーラーの上で座ったまま体を90度捻ってヘッドランプを点け、
クーラーの右隣に置いてあった道具箱を開けると、
ベタ凪ぎなら辛うじて見える小さい浮きを取り出した。
どんな小さな当たりも見逃さない作戦だ。
そしておもむろに体を起こしながら、
元の体勢に戻る目線の軌道上で何か見えた。
堤防の際から顔の上半分だけ出して女がこっちを見てる。
俺の体は正中線にタイソンのパンチを食らったような衝撃が走った。
少し濡れた黒く長い髪を真ん中で分けて、
鋭い目つきでこちらを見ている。
俺との距離約1m。
心臓と耳と鼻が連動して拍動するほど驚いた俺だが、悲鳴は上げなかった。
女の顔の質感等は普通に人間だった。
どれぐらいの間見詰め合っていたかわからないが、
段々冷静に見れるようになってきた。
こちらを睨みつけてはいるが結構美人だ。
俺は声を振り絞った。
「myはhにゅあんでゃすきや」
多分そんな感じ。
相変わらず黙ってこちらを見ている女に、もう一度息を整えて言った。
「なななんですきゃ」
女はまるで反応しない。
俺は強引に釣りを再開する事にした。
俺は目を逸らして体を完全に元の位置に戻すと、
震える手で浮きの交換に取り掛かかる。
何度もしくじって最終的にちゃんと結べてたかどうかもわからないが、
一応出来た。
女のいるであろう方向を照らさないように気をつけながら、
もう一度横に体を折り曲げて餌を取って針に付けた。
そしてヘッドランプを消して仕掛けを振り込む。
もう微妙な当たりになんか集中できるはずがない。
女は俺の少し右斜め前にいるはずだが、
その方向の背景は複雑な形をしたテトラポッドであるため、
横目で女の頭を確認する事はできない。
ここはガン無視でやり過ごすしかない。
しばらくして浮きがスポンと完全に沈んだ。
おぼつかない手でアワセを入れると、またもや仕掛けがすっぽ抜けて来た。
俺はヘッドランプを点けると、
空中でブラブラする仕掛けを掴み餌箱が置いてある方を照らした。
しかし俺はここで女が気になって、
恐る恐る地面を照らすヘッドランプの光を女のいた方向に這わせて行った。
居ない・・・
しかし俺は背後に気配を感じてギクリとした。
本当に小さい音だが、ピタッピタッと二回音がした。
俺は前だけを見て慌てて道具をあらかた片付けると、堤防の先端に移動した。
後に俺は自分で突っ込んだ。
「移動するんかい!帰る所やろ!」
しかし長年通っていて行動がパターン化していた俺は、
この異常事態でも帰るという発想が出てこなかった。
一体なんなんだアレ、頭がオカシな人?
それにしても、
動く気配も感じさせずにあの体勢で堤防にぶら下がったり上がってくるなんて、
信じたくないけど幽霊?俺取り付かれたの?
俺は大分落ち着いたものの気持ちがブレていたため、
道具箱から意味のない物を取り出しては仕舞ったり、
竿を持ったり置いたり餌箱を開けたり閉めたりした。
そして何とか準備して餌をつけ、
仕掛けを振り込もうと手元から海に目線を移すと、
女が居た。
やはり顔を半分だけ出して睨んでいる。
「キターーーーーーーー!」
本当にそう叫んでしまった。
俺は少し泣きが入った。
「・・・・もう・・・やめてよ・・・グスっ・・・うぅ・・うっ」
女は全く反応がない。
「なんか用?グスッ、この世に未練あるの?グスッ、俺何も出来ないよ・・・グスッ」
俺はクーラーボックスの取り出し小口からカップ酒を取り出した。
「飲む?」
相変わらずただこちらを睨みつけているだけの女の顔の前に、
恐る恐るカップ酒を置くとビクッと手を下げた。
「スルメも食べる?」
スルメの袋の開いた方を差し向けて、
同じようにカップ酒の横に置いた。
「俺霊感とか無いし・・・こんなの初めてだし・・・なんで出てくるの?お願いだから帰って」
俺が泣きながら懇願すると、女はすーっと下がって見えなくなった。
俺はしばらく硬直していたが、
恐る恐る腰を浮かせて海を覗き込んだ。
何もない。
堤防に当たる波がちゃぷちゃぷと音を立てている。
俺は目の前に置いてあるカップ酒をひったくると、
蓋を開けてズビズビと勢いよく飲んだが、
違和感に咽て酒を吐き出した。
味が無い。
確かにアルコールではあるのだが、日本酒の味がしない。
ちなみにスルメを噛んでみたが、こちらもあまり味がしない。
俺はもう一つクーラーからカップ酒を取り出すと、慌てて飲んだ。
ズビズビ音を立てながら一気飲みした
その後、突然魚が釣れ始めた。
釣れに釣れた。
しかし心ここにあらずの俺はゾンビのように黙々と作業して、
翌朝帰る頃にクーラーの本体蓋開けた俺は二度見した。
「誰が食うんだよこれ」
浮きの横に波紋が立ち、しばらくすると近くに来る。
俺は用意しておいたカップ酒とスルメを差し出す。
そういう日は魚がよく釣れた。
結局女の正体はわからないままだった
【1:02:33】02 : リンフォン
【1:58:35】03 : ざわつき声