。21日には共同研究機関の先端医療センター病院(神戸市)の倫理委でも審議が予定され、承認されれば年内にも厚生労働省の委員会に計画が申請される。国が承認すれば、iPS細胞を使った世界初の臨床応用が実現する見通し。
臨床研究は、理研発生・再生科学総合研究センター(同市)の高橋政代プロジェクトリーダーらが計画。高齢者に多い目の病気「加齢黄斑変性」のうち、網膜の裏側に余分な血管が生えて視力が落ちる「滲出型(しんしゅつがた)」の患者6人前後を対象としている。患者の皮膚細胞から作製したiPS細胞を、網膜の一部「網膜色素上皮細胞」に変化させ、シート状にして移植する。
理研の倫理委は、法律の専門家や臨床医ら9人で構成し、非公開で審査。倫理的観点や科学的な視点から議論したとみられる。iPS細胞は、移植後のがん化が最大の課題だが、目の細胞の組織はがんになりにくいとされる。今回の計画は「臨床研究の初期段階」と位置づけ、安全性の確認を主な目的にしている。【須田桃子】
ことば:iPS細胞(人工多能性幹細胞) 毎日新聞 2012年10月21日 大阪朝刊
成熟した体細胞に特定の遺伝子を導入し、体のさまざまな組織に分化する能力を持たせた細胞。06年8月、山中伸弥教授らのグループがマウス実験での成果を世界で初めて発表し、翌07年11月にはヒトの皮膚細胞で成功したことを科学誌に公表した。
成熟した体細胞を未成熟細胞に戻す「初期化」の手法確立は、共同受賞が決まった英国のジョン・ガードン氏によるアフリカツメガエルのクローン作製(62年)以来、世界の研究者の夢だった。
山中教授は、わずか4種類の遺伝子を導入する簡便な方法で成功。このうち1種類ががんに関わる遺伝子のため安全性が課題とされたが、現在はより安全で安定した方法に改善している。
患者本人の細胞から作るため拒絶反応が少なく「再生医療の切り札」とされ、臨床応用や創薬などに向け、各国で研究、開発、特許取得のし烈な競争が繰り広げられている。ES細胞(胚性幹細胞)もさまざまな組織に分化する能力を持つが、受精卵を壊して作ることから生命倫理上の問題がある。